はちゃめちゃ赤龍帝   作:...

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約束!

「いってきまーっす!」

「いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

 兵藤姉弟が家を出るタイミングは大体同じである。

理由は単純明快、一誠がちゃんと学校に行くのを見届ける為だ。

まぁ彼の場合学校に行っても、サボってフラフラ出かけてしまうからあまり意味はないかもしれないが。

 

「……? 姉ちゃん、その痣どうしたんだ?」

「え?」

 

 一誠の視線を辿り、首元に手を当てる。

鞄から手鏡を取り出し確認をしてみると、首元に赤い痣の様なモノが浮かんでいた。

 

(何かしら……?)

 

 首元、正確には鎖骨あたりだろうか。左側にあるそれは下に、つまり服の中に続いていた。

制服を少しひっぱって確認すると……そこには、一誠の籠手にもあった龍紋が描かれていた。

 

(んん!?)

 

 籠手の水晶に描かれていたのとは違って赤い色をしているが、それは紛れもない龍紋だった。見えていたのはその一端らしい。

 

「ん?なに??」

「……うぅん、何でもないわ、大丈夫よ」

「???」

 

 思わず一誠を凝視してしまったが、ついこの間神器を発現したばかりのこの子が何かを知っているとは思えなかった。

今の所少し見えている程度なら隠すことも……。

 

(……取りあえず、体育の授業は少し休まないと)

 

 力を使って隠蔽することは可能だが、出来るだけ使いたくないというのが本音だ。

何がきっかけでバレるか分かったモノじゃない。

 

「そんじゃーねー!」

「はーい、気を付けなさいよ?」

 

 元気に駆けていく一誠に手を振り、駒王学園へと歩を進めた。

自分の身に起こったこともそうだが、何か起こりそうだと漠然とした不安を感じながら今日も過ぎていく。

 

 

――

 

 

 さて、あまり学校に通わない一誠だが、彼にも友人というモノは存在する。

そう、対等な(・・・)友人というモノが。

 

「よ、はよーフィー」

「ん……おはよ、イッセー」

 

 立ち上がれば足元まで伸びている超長髪の美少女、フィー・オース。

何ともやる気のない小学女子に見える、というか実際やる気のない彼女は一誠と渡り合える……否、それ以上に何時も一誠を越えてくる、今一番一誠が打倒したい友人である。

 

「……今日は、来たんだ?」

「おう、今日は体育があるからな!今日こそお前を越してやる!」

「ふふ、楽しみにしてる」

 

 フンス!とやる気満々の一誠に対し、余裕の表情の彼女。

一誠は彼女と出会うまで、正直学校には飽きていた。座学は退屈だし、宿題は億劫だし、なにより自分と遊べる(・・・)存在が居なかった。

そんな彼が学校に段々来なくなるのは当たり前で、必然だった。

 フィーと出会ったのも、そんな退屈な日々のことだ。

 

―「ド…イ…?」

 

 コンビニでたむろっていた中学生に絡まれ、その彼らをボコボコにしていた一誠を見つけた彼女が、誰かと一誠を間違えたのだ。

誰だったのかはわからない。不良の泣き声(断末魔)で良く聞こえなかったし、そのすぐ後に名前を訂正したからだ。

 彼女を見て一誠が思ったことは一つ。

 

 ―コイツ、退屈そう。

 

 覇気どころか生気がないんじゃないかと勘違いするほどに気力の無い瞳や、無表情で淡泊な態度がそう感じさせたのかもしれない。

ただ、一誠は自分と同じような奴が居て、どこか嬉しかったのはよく憶えている。

 

―「なぁ、お前暇なら遊ぼうぜ!」

 

 そう言って半ば無理やり手を引いたあの日から、彼女と一誠の付き合いが始まった。

散々遊びつくし、結果全戦全敗という類をみない結果に、一誠は生まれて初めて悔しがり、そして愉しんだ。

彼女は段々スコアが良くなっていく一誠を見て、何か感じたのかその後も遊びに付き合ってくれた。

 

 そして、彼女は唐突に一誠の小学校に転入してきたのだ。

 

「おーっし、今日は新記録叩きだしてやるからな!」

「ん、がんばって」

「いや、フィーもやる気だせよなー」

「……イッセーが、ちゃんと本気を出したら、そうする」

「俺は何時も本気だっての!」

 

 兵藤一誠の日常は、意外と充実していた。

 

 

――

 

 

 もう誰も居なくなった夕暮れの公園にて、一人の女性が座り込んでいた。

この公園は緑豊かで、休日になればカップルで賑わっているのだが、平日となると意外と人は居ない。

 

「……はぁ」

 

 誰もいないことを確認して、ため息を一つ溢した。

彼女の名前は、リアス・グレモリー。真紅の長髪が特徴的な、〝悪魔〟である。

 嘗て三大種族による戦争によって大きく数を減らした悪魔は、純血がとても少なく希少であり、更に彼女は現魔王でもあるサーゼクス・ルシファーを実の兄に持つ、超エリート悪魔なのだ。

そしてそんな彼女には相応の悩みがあった。

いや、もう悩みと言えるモノではないのかもしれない。

 

「結婚、か」

 

 親や相手に推され続けた婚約者が彼女にはいた。

元々、学業を卒業するまでは自由にするという約束だったのだが、つい最近それは破られ、彼女は結婚することとなってしまった。所詮は口約束という事なのだろう。

 レーティングゲームと呼ばれる、殺し合いではない悪魔の決闘のようなそれに負けた彼女とその眷属。

結果、無理やり結婚の時期を縮められた彼女は、もう残り少ない一人の時間をこうして過ごしていた。

眷属たちの前で泣き落ち込むわけにもいかず、かといって家の問題、それも決闘で負けたことを親友に縋る事も出来ず、どうにかこうして一人の時間を作って心の整理をしようとしていた。

 

「…………」

 

 此処でこうして何かが変わるわけでもないし、彼女に何かを変えられる力はないことは証明されてしまった。

結婚が嫌だというわけではなく、自分にはまだ早いと思っている。

別に家庭を築きたくないわけではなく、ただ相手の男性が自分の好みではないのもある。

純血という一点だけで本人の合意を無理やり行われたこの結婚に、納得したくないのもある。

 

 でも、なによりも、そんな自分の想いを貫き通すだけの力が無いことを悔やんでいた。

 

 眷属……仲間と特訓して、ゲームでは結果皆傷つけてしまった。

命は賭けないが、それでも怪我はするし、何より決闘だ。痛い思いは皆覚悟の上だった……としても、やはり大事な仲間たちが傷つくのを良しとは出来なかった。

仲間の奮闘を……傷つき倒れていく姿を静観するのを我慢できずに、〝王〟の自分が呼び出されるままに相手の〝王〟の元に一騎打ちに行った上で、負けた。

あの一騎打ちで勝てれば、もっと眷属たちに上手く指示が出来ていれば……もっと、もっと自分に力があれば、と。

 

「……っ」

 

 座り込んだ自分の膝に透明な雫が落ちていく。

悔しくて、悲しくて、申し訳なくて、何も出来なかった自分が恨めしくて。

あぁ、泣いている。こんな姿は誰にも見せられない。

だからこんな時間にこんな場所に来たのだ。誰にも、見られない為に。

 

 まだ自由で居たかった、色んなことに何時かは縛られてしまう立場だとしても、自分のことは自分で決めたかった。

はしたなく叫ぶことはしないし、彼女のプライドがそれを許さなかった。

只々肩を震わせ、泣き続ける彼女。

 

 もう出来るだけのことはやった、あとはもう受け入れるだけ。

もう決まってしまった現実を、今の自分を救える者なんていないのだから。

そう、親兄弟すら勧めたことなのだ。味方なんていない……――。

 

 

「お姉さん、どうしたんだ?」

 

 

 いない、はずだった。

 

 

 

「…………ぇ」

「どっか痛いのか?大丈夫?」

 

 誰もいないと思っていたのに、目の前には一人の子供がいた。

茶髪の癖っ毛が似合っている男の子。将来は格好良くなるか可愛くなるか、まだ分からない幼い子。

そんな子供が彼女を心配そうに見つめていた。

 

「怪我とかは、してないね」

「え、えぇ……大丈夫よ、ありがとう」

 

 心配かけない様にと、今更笑顔を向けて見せると彼はムッと頬を膨らませた。

 

「さっきまで泣いてたのに何言ってんのさ。そういうのよくないんだって、姉ちゃん言ってたぞ」

「そう、ね……でもね、大人になるとね、頑張らなきゃいけないことがあるのよ」

「大人って、お姉さんこーこーせいだろ?姉ちゃんと同じ制服着てんだから」

 

 そう言えば学校が終わった後、着替えていなかったことを思い出した。

あぁ、ダメだなぁと自嘲すると、少年は何を想ったのか両掌で彼女の頬を包み込んで。

 

「えい」

 

 ギュッと軽く力を入れて押した。

 

「な、なにかしら……?」

「おまじない。姉ちゃんが昔よくやってくれたんだ。こうすると、落ち着くんだ」

「……良い人なのね、貴方のお姉ちゃん」

「まぁな!」

 

 ニシシと悪戯っ子の様な笑い方をする少年を見て、少し肩の力が抜けるのを感じた。

あぁ、癒されるってこういう事なのかもしれないと彼女は初めて自覚した。

 

「んー、お姉さんがなんで泣いてたのか分かんないけどさ、そういうの我慢するの、俺は良くないと思うぞ」

「……そうね。でもね、どうしようもないってことも、あるのよ?」

「んなこと、まぁあるかもだけどさ!」

 

 少年も幼いながらに何か経験してきたのだろう。

思いの外彼女の言う事も正しいと頷いて見せた。

 

「でもさ、それでも、こうやって独りで泣くより最後まで、自分の思うままにやっていいと思うぞ!」

「………それは、もう」

「もうじゃない!出来ることぜってぇあるって! あれだ、何か怖いってんなら俺も力になるからさ!」

「……貴方が?」

「おう!俺強いからな!怖い奴らも嫌なことする奴らも、ぜーんぶぶっ飛ばしてやるよ!」

「ふふっ。じゃぁお願いしようかしら?」

 

 冗談のつもりで微笑みながらそう言うと、少年は笑顔で返した。

 

「おう!何かあったら呼べよな、絶対力になっからさ!」

 

 

 ――約束な!

 

 

 もう遅い時間だからと帰っていく少年は去り際にそう言い残した。

小さくなっていく背中を見送り、自分も帰ろうとして……ふと、左手に違和感を覚えた。

 

「痣……紋様?」

 

 左掌には、翡翠色の龍紋が浮かんでいた。

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