はちゃめちゃ赤龍帝   作:...

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怒りの少年

 

 ――ヒーローって、いいなぁ……。

 

 そう思っていた時期が、少年には誰しもあるだろう。

ヒロインのピンチに駆けつけ、悪人をなぎ倒し、大団円で終える。そんな英雄譚は、今の時代何処を探しても転がっている。

 そして彼、兵藤一誠も似たようなことを思っていた。

だが、その思いは一般的ではないのは確かだ。

 

 だって、彼はドラゴンなのだから。

ドラゴンは――

 

「にゃ? 何書いてるの、オーフィス?」

「……内緒」

「ん~、そう言われるときになっちゃうにゃ~」

「……内緒、見ちゃ、ダメ」

「え~」

 

 黒髪和服の美女と、肌面積多めのゴスロリ美少女が戯れている。

傍から見れば仲睦まじい姉妹に見えない事もないが、その実体はかなり違う。

方や龍神、方や賞金首(トップランカー)の猫魈。見つかればひと騒動どころかとんでもない騒ぎになるだろう。

 

「でも、オーフィス楽しそうにしてたにゃー」

「……」

 

 基本無表情なオーフィスという少女が楽しそうにしているのは中々、というか彼女からすれば初めて見た。

全力で気にしてる彼女の視線からそっぽを向き、改めて書いていたノートを大事にしまう。

ただ引き出しに入れるなどではなく、特別な異空間を作り出し、そこに厳重に保管するほどの警戒っぷり。

 

「……本気で何書いてたのか気になるんだけど」

「ないしょー」

 

 オーフィスは彼女をあしらいながら、一人の少年を思い出し微笑んだ。

 

(……イッセー、たのしみ)

 

 ドラゴンとして覚醒し始めた彼とその周辺は、今まで以上に騒がしくなるだろう。

静寂を好むオーフィスだが、何故だか彼の騒がしさは嫌いになれなかった。

寧ろ、彼の近くにいると楽しいと思えることがあり、何故か目が離せなくなっていた。

 そしてもうすぐ、彼はこれ以上に楽しいことを仕出かしてくれるだろう。

ワクワクしながら出かける準備をする。力を隠しつつ、姿を隠せるようなアイテムはあるが、龍神の彼女を隠せるようなものはまず無い。

だが、こんな日の為に自分の力で創り上げたアイテムがある。

 

「にゃ?どこかいくのかにゃ?」

「……うん」

「私も行きたいにゃー?」

「……」

 

 彼女は変わり始めているオーフィスを気にかけている。

何か、きっと何かあると確信めいた何かを予感していた。意地でもついて行こうと思っていたのだが。

 

 

「――な・い・しょ♪」

 

 

 振り返りながら人差し指を口元に当て、微笑んだオーフィスを見て、ピタリと動きが止まった。

変わり始めている、ではなかった。オーフィスは、彼女の知らない間に何かが変容している。なにが、何故、どうして――そう疑問がわいた瞬間、ハッと気づいた。

 

「…………あ、逃げられ、ちゃった」

 

 本気で身を隠して行動したらしく、彼女には呆然と少女のいた場所を見つめることしかできなかった。

 

 

――

 

 

 アーシア・アルジェントの朝は早い。

手早く身支度を済ませると、共に住む皆の朝食を作り上げる。

アーシアより早く起きて鍛錬しているドーナシークや、何か怪しい物を弄っているフリードは匂いにつられて来るのだが、カラワーナとミッテルトの二人はそうはいかない。

 

「朝ですよー、朝ご飯出来てますよ~」

 

 コンコンと扉をノックしてアーシアが起こしに行く。

こうしてようやく二人が起きてくるのだ。中々起きてこないときは、朝食をラップで包んで冷蔵庫へ入れるのだが、五人暮らしとなると冷蔵庫は圧迫されモノが入りにくくなる。出来るだけ起こすのが彼女の役目なのだ。

 

「んー、もぉ朝っすかぁ」

「……眠いぞ」

「じゃぁコーヒー入れますね」

「ウチは甘めでよろしくっス」

「私はそのままでいい」

「はい!」

 

 元気よく返事をして、二人にコーヒーを出す。

先に来た男性二人は食べ始めており、少し遅れる形で女性三人が食べ始める。

こうやって意外とのんびりした朝食の時間が毎日繰り返されていた。

 

「~~♪」

 

 

 朝食が片付くと、次は掃除洗濯である。

洗濯物を洗ってる間に朝食の片づけを済ませる。五人分の片づけを終える頃には洗濯機も丁度よく終わりの報せを鳴らし、アーシアは洗濯物を持って外に干していく。

それが終われば外を掃き、少し休憩してから昼食の準備を始める。

 昼食には用事で来れない人が時折いる為、あらかじめ確認できるように冷蔵庫に予定表をつくってある。

今日はフリードとドーナシークが任務とやらで帰るのは明日になるらしく、昼食は三人分となった。

 

「今日はイッセーくんは何時に来るんですか、ミッテルト様?」

「さぁ?そんなのウチが知るわけないじゃん」

「……いや、お前以外に誰が分かるんだ」

「なぁにか言ったッスか、カラワーナ?」

「別に……ごちそうさま」

 

 カラワーナは半ば呆れたような視線でミッテルトを一瞥し、昼食を食べ終える。

彼女は部屋に戻っていくが、直ぐに出かけてしまった。最近は教会に居てもやることが無いらしく、皆外に出かけていくことが多い。

アーシアは日本語を未だ上手く喋れないため、一人でどこかへ出かけることはしない。

 だがミッテルトは違う。彼女は暫くコンビニで買ってきた雑誌を読んでは、時折時計を気にする。

 

「ふふ」

 

 そんなそわそわした様子が可愛らしくて、思わず笑みをこぼしてしまう。

ミッテルト本人は認めないが、彼女は一誠のことを気に入っている。

いっそ好いている、というと大声で否定するので誰も言わないが、相当楽しいのだろうということは確かだ。

 

(イッセーくん、か)

 

 不思議な少年だとアーシアは思う。

この街に来るまでは鬱々しかったのに、あの少年と出会ってから……いや、ミッテルトがあの少年と遊ぶようになってから、どこか教会内の雰囲気が変わっていったように思う。

ミッテルトを通じて徐々に変化し始め、教会に訪れてからはガラッと変わってしまった。

今となっては、懐かしいとすら思ってしまう程に。

 

「ふふっ」

 

 楽しい、平穏な日々を堪能できる幸せ。

それを実感し、浸りながら外に出る。掃いた塵を捨てる為だ。

袋を持って指定の場所に行き、置いて戻る。

 

「……あら?」

 

 教会の前に誰かが居る。

糸目で、煌びやかな黒服を着た男性だ。

 

「えぇと、何かご用でしょうか?って、ぁ」

 

 話しかけて思わず口元に手を当てる。自分は英語しか喋れないのだ。

黒髪で一見すれば日系だし、もしかしたらわからないかも……と思ったが、彼の言葉はアーシアにも理解できた。

 

「これは、こんにちはアーシアさん」

「ぁ、分かる……え、私の名前?」

 

 だが次に出た自分の名前を聴いて、思わず警戒した。

名乗っていないのに知っているなんて、一体……そう思っていると、彼はアーシアの足元に跪くと、彼女の手を取った。そして――。

 

「憶えていませんか?僕は貴女に命を救われた者です。貴女を――」

「ぁ」

 

 静かに、彼女の手に口付けを落とした。

 

「迎えに来ました」

「…………ぇ?」

 

 ポカーンと固まってしまうアーシア。

命を救われた、というがアーシアはその身に宿している神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で数多の命を助けてきた。正直、彼を覚えてはいなかった。

しかも、迎えとは?そもそも何者なのだろうか?

 

「さぁ、行きましょう」

「え、あ、いや、わたしは――きゃ!?」

 

 彼はアーシアの手を引いてどこかへ連れて行こうとする。

戸惑いと、その強引さに少し恐怖を抱いていると、彼の手を掴んだ者が居た。

 

「ウチのシスターに何の御用っすか、悪魔さん?」

「み、ミッテルト様」

「………」

 

 ジッと睨み付けるミッテルト。

そして、その彼女が言った単語から、彼の正体を知る。

 

「あ、くま?」

「そうっすよ。いけ好かない魔力がプンプンするッス。さぁ、その手を離してもらうっスよ」

「……ろ」

「あ?」

「離れろと言ったんだ、この濁った鴉がッ!」

「アグッ!?」

「ミッテルト様!!」

 

 強い魔力の波動によってミッテルトが吹き飛ばされた。

彼はさっきまで違い、荒々しい感情を露わにしていた。

 

「あぁくそ、何で堕天使ごときがこんなッ!! そもそも、計画ではとっくに死んでるはずだろうが!」

「ア、ガッ!?」

「や、止めてください!!」

 

 アーシアの手を握り締めたまま、片手でミッテルトに魔力を撃ち放つ。

その強い力に耐えることしかできないミッテルトは、どんどん傷付いていき、見て居られなくなったアーシアが止めるように言う。

だが、止めることは無い。彼の荒々しい感情が収まるまで、彼はミッテルトを嬲り続けた。

 

「大体、こんな場所にあのガキが都合よく現れなければ! そうだ、元は貴様があの餓鬼を連れてきたせいだろうが!!その上、邪魔しやがってくそ、クソクソクソ!!!」

「ま、ダメ!!」

「死ねぇええええええ!!!」

 

 極大の魔力砲。

アーシアには分からないだろうが、それは上級悪魔にしか扱えないであろう出力だった。

 

(――あぁ、これ、死んだッスね)

 

 なぁんで突っかかったんだろうな、と自分の行いを反省する。

まずは相手の力量を把握して、その場その場を生きるために思考し続ける。

きっと昔の自分なら上級の力を持つ者だと察して、近寄らなかっただろう。

そしてきっと、アーシアを連れていかれていた。

 

(まぁ……)

 

 フッと今までのことが脳裏に浮かんでは消えていく。

走馬灯というやつなのかもしれない。初体験だ、なんて薄ら笑う。

 

(後悔は、ないっスね)

 

 下らない日々だったが、ここ最近は楽しかった。

そう、あの少年と会ってから、凄く――。

 

「ダメェぇええええええ!!!」

 

 アーシアの悲鳴が聞こえた様な気がして……魔力砲がミッテルトを襲った。

 

「――オイ」

 

 来るであろう衝撃に目を瞑ったが、痛みも何も感じなかった。

そのかわりに暖かな温もりと、激しい熱の籠った呟きを聴いた。

 

「俺の友達(ダチ)に何してんだ、テメェ」

 

 只の人間でありながら、赤き竜の帝王をその身に宿す、只の少年。

怒りで真っ赤になった思考とは違い、その眼は翡翠の輝きを放っていた。

 

「あぁ君か。キミのせいで僕は、」

「いや、誰でもいいや」

「ア?」

 

 左腕に籠手が顕現する。

真紅の籠手からは、翡翠の力が湧き出し、一誠の身を包んだ。

魔力砲を掻き消した時とは比べ物にならない、龍の力が周囲の空間を圧迫する。

黒服の青年は其れに恐怖を感じながらも、怒りと所詮はたかが人間だと一誠を嘲り新たに魔力を練り上げはじめた。

 

「取りあえず、ミッテが受けた傷の100倍ぶっ飛ばす!!!」

「たかが人間のガキが、何ができるつもりだよ!?」

 

 怒気と共に、上級悪魔の力と龍の力がぶつかろうとしていた。

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