はちゃめちゃ赤龍帝   作:...

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喧嘩は楽しい!

「オォォラァアアアアアア!!!」

「ウゥォァアアアアアアア!!!」

 

 真正面から力と力がぶつかり合う。

余波で吹き飛ばされたミッテルトは、同じくぶつかり合う前に離れていたアーシアによって介抱されていた。

 

「うっ、アンタ、なにして」

「喋っちゃダメです、大人しくしてください」

「……お人好し、っスねぇ」

 

 神器でミッテルトの傷をみるみる癒していく。

治りはするが、体力が戻るわけではない。そして戻ったところで、あの戦いに入っていける実力は、彼女達にはなかった。

 

「大丈夫でしょうか……」

「イッセーなら大丈夫っすよ。問題は、こっちっスね」

 

 教会を見上げ、ミッテルトが呟く。

今の二人の攻防は凄まじいモノだ。普通なら、この地域を納めている悪魔にバレてしまっている。

だが、それが無いのはミッテルトたちが張った結界による効果により、力が遮断されているためである。

だが、遮断されている(・・・・・・・)ということは、力が溜まっている(・・・・・・・・)ということでもあるのだ。

今のままでは、龍と悪魔の力によって結界が内側から破壊され、外にこの件が露見しかねない。

 

(アーシアを匿って、人間と交友をもって、この場所を維持するために陰でこそこそしてたっスからねぇ)

 

 悪魔にも人間にも堕天使にも、この事がばれたくはない。

いや、既にあの悪魔が来た時点でバレバレなのかもしれないが、表だった干渉が無いのなら未だ、問題ないはずだ。

 

「アーシア、ウチを教会の祭壇まで頼むッス」

「え」

「時間が無いッスから、早く!」

「は、はい!!」

 

 アーシアに肩を貸してもらい、教会へと入っていく。

教会は簡易結界ではなく、一誠と出会ってから大規模な術式を埋め込む形の自律結界へと変更しておいた。

一誠やドーナシーク達が暴れても大丈夫なように、かなり頑丈にしていたのだが、この調子では崩れてしまう。

 

(大丈夫、完全に壊れたわけじゃない。回路が焼けて来てるだけ。まだもつ、ウチの力で補強して――あと、数分は)

 

 外の光景がどうなっているかは分からない。

だからこそ、堕天使である彼女は皮肉にも祈るしかなかった。

 

「頼んだっスよ、イッセー」

 

 ただ、祈りは神などではなく、あの小さな少年に捧げた。

皮肉でも何でも、あの規格外の少年に託すしかないのだ。

 

 

――

 

 

 身体が熱かった、にも拘らず調子はすこぶる良かった。

上空を飛翔する悪魔の攻撃がまるでスローモーションのように迫ってくる。

これなら簡単だ、と薄笑いを浮かべて魔力弾を弾き飛ばす。

 

「オラァ!」

「チィッ!!」

 

 だが、こっちの攻撃は届かない。

力を弾丸や砲撃に変えたことなんて無いのだ。出来ることはジャンプして一気に近づいて殴ることくらい。

そんな直線的な暴力はあっさり避けられてしまう。

 

「だぁあああ!!こんにゃろぉー!!」

 

 何度も同じことをすれば流石に苛立ってしまう。

こっちは少なからず小さな傷を負っているというのに、相手に攻撃が通らないなんて、なんてイライラする(愉しい)のだろう。

 

「あぁくそ、こんな状況で、すげぇ頭に来てるってのに――」

「?」

 

 内側から溢れる衝動が納まらない。

どんどん熱が上がっていく。

熱は溢れ出し、遂には小さな少年の身体から噴き出した。

 

「おっッもしれぇぞこの野郎!!!」

「なっグバァ!?」 

 

 背中から翡翠色の龍の力が吹荒れ、翼となってその小さな身体を空へと押し上げた。

跳躍する以上の力を持って近づき、避けられても直ぐに方向転換、悪魔の顔面を一発ぶん殴ることに成功した。

 

「くそ、お前本当に人間か?!」

「ハッハァー!それ以外の何に見えるよ悪魔野郎ぉ! とっとと、ぶっ飛べぇ!!」

「この、調子にィ乗るなァ!!!」

 

 再度放たれた一誠の拳を一枚の魔壁で防ぎ、魔力砲をゼロ距離で叩き込もうとする。

 

「ハハッ」

 

 目の前で高まっていく力を感じ、一誠は口元が釣り上がるのを他人事のように感じていた。

愉しい、楽しい、タノシイ!!

 

(今の一撃は今までにない力だった。それを、防がれて、なんだこれ!なァんだこれぇ!!!)

 

 負けなしの一誠だったからこそ、ここまで高揚した喧嘩(・・)は初めてだった。

全力を出せば殺してしまう。そんな無意識の自制が、今、完全に――。

 

「死ぬんじゃねぇぞ悪魔野郎ォォオオオオオ!!!!!」

「死ねよこのゴミ屑野郎がァアアアアアアア!!!!!」

 

 ――解き放たれた。

 

 魔壁の向こう側から魔力砲が迫る。

直撃すればタダじゃすまないその一撃に対し、一誠はシンプルに、一直線に、左拳を振り下ろした。

 翡翠の力を纏ったその拳は、魔力砲を叩き消しそのまま魔壁を貫通した。

 

「は?」

 

 目の前で自分の渾身の一撃を文字通り叩き潰された上級悪魔は、現実を受け入れきれずに間抜けな顔を晒して――。

 

「ラァアアアアアア!!!!!」

「ゴパァ!?」

 

 眼前に迫ってきた拳に、そのまま地面まで殴り飛ばされた。

 

「おっし、勝ち!」 

 

 ニッと良い笑顔で一誠は顔面を地面にめり込ませた悪魔を見下ろしていた。

 

――

 

 

「はー、呆れた人ッスよホント」

 

 ミッテルトは目の前の光景を半信半疑で見つめていた。

人間が、上級悪魔に勝利した。

禁手にも至っていないはずの、只の人間のはずなのに。

しかも勝利した上に……。

 

「ほら、ごめんなさいしろ、ゴメンナサイ」

「ぐ、何で僕が」

「あ?何だ、もう一発行くか?」

「……ご、ご……ごめんなさい」

「声がちっせぇ!!!」

「ご、ごめんなさぁい!!」

……(オロオロ)!」

 

 シスターに対し悪魔に謝らせるなんて、もう意味が分からない。

しかも土下座だ、土下座。あのプライドの高そうだった悪魔が、どげざ……。

 

…………(も、もういいですから)

「お、おいもういいって言って」

「あぁ?お前が心底から謝んなきゃ意味ねぇだろぉが! ちょっとねとり?おとす?とか俺にはよく分かんなかったけど、そうとうやっちゃいけねぇことしたんだろ?つーかしてきたんだろ?」

「そう、です」

「じゃぁちゃんと心底謝って、反省しないとな! アーシアお姉さんに謝ったら、ちゃんと他の人にも謝るんだぞー?」

「な、なんで!?」

「ちゃんと俺も見張りついでに付いてくからなー」

「く、くそぉ」

 

 あの戦闘の後、一誠はあの上級悪魔を殺さなかった。

その代りというか、隷属の証として一誠の力で首に特殊な隷属紋を付けられて、あの悪魔はこれから一生、一誠の下僕となった。これを無意識でやったらしい一誠はやっぱりおかしいと思う。

まぁ人間の一生なんて短いはずだし、悪魔には丁度いいのではないかとも思う。

 

(……ところで、ウチとアーシアにも刻まれちゃってるこの龍紋は、なんなんすかね?)

 

 戦闘後、汚れた服を着替える時に気付いたのだが、ミッテルトとアーシアの胸元辺りに龍の様な紋章があったのだ。

あの悪魔と違って拘束のような効果はなく、そもそも悪魔は首輪を模しており龍の紋様なんて一部も一部なのだが、ミッテルトたちのは大きな龍紋ときた。

これが何を意味するのか、今は未だよく分かっていない。

 

「まぁ、いいか」

 

 これが誰とも知らない他人からの印しならともかく、一誠からのだと思えば、まぁ悪い気はしない。寧ろ……。

 

「………さーて、アーシアが困ってるッスけど、何か面白いからもうちょっと見てるッスかね」

 

 ニヤニヤと悪魔がそろそろ本当に泣き出しそうになっている光景を眺めながら、久方ぶりに自分で紅茶を入れるミッテルトであった。

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