かなりの亀更新ですし、気休め程度に視てください。
できるだけ、出来るだけはやくあげますから...!
「あ、れ…?わたし…」
目を覚ませばそこは赤いわけではなく、むしろ深いアオ。見上げる先は空の青というより海の色であった。
いや、まて。まってほしい。そもそも目を開けるといった動作自体が出来るのがおかしいのだ。予想外のことが起きたが、予想外すぎてむしろ冷静になりつつある。
とにかく現状を確認しなければ。
横たわったままの身体を起こす。未だに身体に力はが旨く入らず動きがぎこちない事が自身でも分かる。だが思い通りにならない苛立ちより、自身の足で地を歩いているという事実から得られる安心感が強い。
その安心感こそが、私が殺されかけたことが事実だと、明確に私に告げている。
「ぅぇ…!っぐぅ……おぇ…!!」
レフの表情や、迫る死の恐怖、何よりこれまで私が行ってきたことが無になる喪失感が一度に襲ってくる。ダメだ、考えてしまえば頭から離れてくれない。
ふらふらと未だ自身のいる場所すら分からず、本当は知りたくなんてないけれど、だけど前には進まないといけない気がして動かしていた足が止まり座り込む。
口を抑えていた手に吐いたものが付着する感覚がある。
この吐いたものはいつのご飯だろうか。そもそもまともなご飯を食べたのはいつだったのか思い出せない。手に付着した嫌悪感よりもそんなことを考えている。
あれだけ魔道一辺倒であった生活をしておきながら、こんなときに普通の日常を脳裏に思い浮かべようとしている。
どこかでまだ死んではいない、と生に縋っているようでひどく滑稽に思えてしまった。
「ほんと、今更になって思い返して無い物ねだりをするなんて...どうしてこう失ってから気づくのかしら、私は」
そう自嘲するように吐き捨てたことを皮切りに、今まで見ようとしなかったものが浮いては沈んでを繰り返す。そんな思考を切り捨て、今こうして意識があるうちに何かしなければならないと思うのだけど、どうにも一度とまった足は動いてくれない。
そんな私はついに体育座りに顔を伏せ止ってしまった。
「ふむ、お目覚めかと思ったのだが。もう足掻くのはやめかね」
「---っ!!だれっ!」
私が視界を塞ぎ、現実から目を逸らそうとしたのと同時。
ふらふらと彷徨っていた道は何処か無機質さを持つ一本道であった。
そこに私以外いなかった事位はしっかりと確認したはずだ。それは覚えている。
伏せていた顔を上げあたりを確認する。
が、しかし声の主は見当たらず、見えるのはひび割れたステンドガラス。
「うそ、さっきまでただの一本道だったはずなのに・・・こんな大きなステンドガラスなんてなかったし、そもそもこんな広くなかった」
姿の見えない声に、空間の変質。
立て続けに起こる変化に軽くパニックになる。
「メンタル面に難ありと。いや、失敬、何分こちらはメンタル面が色々と可笑しい人物との付き合いが長くてね。彼と比べるのも酷な話ではあるが、君は選ばれてしまった。あの場にいた中で一番適正が高かった人物が君であったというのもあるが。」
「しかし、我が主殿の御眼鏡に適ったのは幸運であったと思うがね、私は。でいなければ君の魂は間違いなく燃やし尽くされ、存在ごと消されていたのだから。」
こちらの様子などお構いなし、
いや、口ぶりから知っていてなお声の主は語る。
なんとなくこちらの様子を愉しんでいることだけは分かるが、今の私に抗議するほどの余裕なんてない。
「私が選ばれた?適正が高いって、何の適正よっ!それに声だけが響いている状態でさえ混乱しそうなのに、"我が主殿"っていった!?まだ誰かいるって言うの!?」
入ってくる情報が多すぎる。
姿が見えずに声が響くのは何かしらの魔術だとしても、空間変質までも声の主の仕業だとしたら既に相手の術中に嵌っているとも言える。
さらに声の主が言うには、私を連れてきた主とやらがバックに待機しているときた。
必死に状況を掴もうとしたら、悪い未来しか視えない。
また血の気が引いていくのがわかる。
「...死んだと思ったら生きていて、生きていると思ったら既に囚われの身ってどんな虐めよ...どうすればいいのよぉ」
もう泣きそうだ。というか泣いてる。
「君はどうも落ち着きがないな。---ん?何かね我が主殿?愉しんでないで仕事をしろ、だと?私はただ事実を述べているだけだが、ふむ。口元が歪んでいると、これは失敬。参照元の人格に引っ張られすぎたな。以後気をつけよう。いや、本当だとも。」
どうやら声の主は主殿とやらに叱られたらしい。
声の主は咳払いをすると私に再度語りかけてきた。
「何を勘違いをしているのか、私たちは君を今すぐ始末するつもりなど無い。でなければ、死の直前から魂を無理やり救い上げるなどという無茶をするはずなど無いだろう。他のものに気取られること無くとなると、相当苦労するのだよ。たまたま君たちのシステムが此方のやり方の下位互換であったから無理やりにでもパスを繋げ、霊子化の強制実行を掛けられたのだ。欠損無くこちらに引っ張れたことに感謝すらしてもらいたいものだ。私たちは君の願いを叶えただけなのだから。まあ、実行したのは我が主殿なのだが。」
「...私の願い?」
「言っただろう『この手は一度も自分の意思で闘ってすらいない。だからまだ終わりたくなんてない』と。」
「あ...」
最後。あの燃え盛る球体に吸い込まれる直前私が口にした言葉。
誰に届くことも無く消える叶うはずのない言葉だったソレを、彼らは形はどうあれ、すくってくれていた。
その事実に気づく。
「君を救い上げることは、身動きの取れない私たちにとって分の悪い賭けだと思っていた。無駄にリソースを食う必要はないと。しかし我が主殿は違ったらしい。君のソレを叶えるに足る願いとして入力し『奇跡』を起こした。お陰でこちらはさらに魔力を失い、窮地に立たされている。」
状況を語る声に私がこうしてまだ活動できていることが、どれほどの奇跡であるか痛感する。
「そう、そうよ...魂の転移って言っていたけど、あの崩壊寸前の空間をこじ開けて引っ張ってきたって事でしょう?いや、空間だけじゃないのかも、きっと時間軸も変わってる。それに転移させたものにダメージを与えずに、ソレを意図的にやった。もうソレって魔法の領域なんじゃ...それほどのことを、そっちの状況を悪くしてまで行っていったい何を考えているの...?」
さっきまで悪い方向にしか考えられなかった頭が再起する。
陰で泣こうと、歯を食いしばりながら培ってきた魔術師としての私が帰りつつある。
分からないことは怖いことだから、自身の身を守るために情報を集め一人で生きてきたソレが、どうにか自身の命を繋ごうと必死で考える。
だって彼らは少なくとも今は始末しないといった。形はどうアレ私の存在が保証されているということだ。
「魂の空間転移をやってのけた力はあったけれど、それより前から立場は怪しかった...なら元々その力だけでは事態は解決しないということ。それに私を救い上げた所で身動きの取れない状況が完全な詰みになるのなら、それこそ無駄。何かしらの手段がまだあるということで、きっと私が何かをすることでそれが完成するということをみこしていたとしたら...」
お先が真っ暗であった未来が微かに光を見せる。
問題はきっと私にそれが勤まりきるか、ということ。
これが彼らの言う分の悪い賭けなのだろう。
「等価交換...魔術の大原則ね...私は何をすれば...ううん、違う。何を成功させる必要があるの...?」
俯いていた顔をあげ問いかける。
ここでしくじれば私の道は消える。
彼らの都合もあるのだろうが、我が主様とやらは私に機会をくれたのだ。
いつも奪われてばかりであった私に、再起する機会を。
「ほう?先ほどまでの泣き顔とは違いずいぶん頭が回るようになったようだ。等価交換、おおむね正解だ。我が主としては苦笑いモノだろうがね」
くくっと喉を鳴らし嗤う声が聞こえる。
利害関係を優先する魔術師としては交渉ごとはやりやすいが、個人的には好きになれない。
というか、嫌いだ、この声の主。
...ん?彼の言葉に引っかかりを覚える。彼の言葉通りならあの回答だと声の主の主様は微妙なところだったということだろうか。
「まあいいだろう。時間はそれ程残されていないのでね。」
私の思考は未だ姿の見せない声の主にさえぎられる。
「まず此方の状況だが、私たちは君たちの世界で起きた事象の影響を多大に受けている。人理が破壊され書き換えられたことで此方のリソースの大部分が変質し、ロックが掛けられている。何とか死守している領域がここだ。」
彼の声を合図にひび割れたステンドグラスしかなかった空間に、ぼうっ...と8つの扉が出現する。
どれも私の身長よりも2周りも大きいが、その中でもより大きい扉が1つ。
ちょうどステンドグラスの対面に位置している。
「それらの扉の先は『特異点』と呼ばれる時代から派生する、人類の記録世界。現在の地上は2017年より先が無いだけでなく、過去の人類史が変質してしまっている。過去が変われば、未来も保証はされない。君が最後にいた世界と同様に魔術的な改変により本来の人類史から逸脱した世界であり、人類史において大きな転換点となる時代が変質してしまっている為だ。故に私たちの記録していたものと変質した過去の世界が現在競合してしまい、扉の先の記憶領域も変質し非常に不安定になっている。」
「しかし、その記録こそ私たちの力の源、それをなんとしても奪還する必要がある」
「ちょ、ちょっと待って...!!」
『特異点』については分かる。未来が消失したのは分かっていた。だが、過去の時代変質?それが8つも?それでは未来どころか現在も危ない。
「ああ、なぜ、現在私たちが存在を保っていられるのか言うことかね。簡単なことだ、ここは時間軸に縛られない。意図的に固定することは可能だが、基本的にそういうものだ、でなければIFの世界を含む人類史の記録観測など不可能だ。」
「カルデアと同じ...いや、そうよ、そもそも此処はどういうものなの...?さっきから記録だとか観測だとか言っていたけれど」
「どう?言葉変わらず観測し記録する、それがここの本来の機能だ。」
「でも、記録世界や時間軸に縛られないって言うのは明らかにその範疇を超えているわ。」
「本来の機能といったがそれがすべてではない。観測し記録する。君は『経験則』というのを聞いたことはないかね。それと同じだ。度重なる観測と記録の反復は現象の発生理由やパターン、結末そういったものを含む。『歴史は繰り返す』とは言いえて妙で、実際そのとおりなのだ。」
「此処は記録から未来を演算する。そしてそれは1つとは限らない。幾重の可能性をもはじき出す。そして多くのIFの中から適切解をはじき出すことが可能なのだ。『望む未来への道筋を得られる』、それはいつしか人の中でこう呼ばれるようになった」
「『セブンスヘブン・アートグラフ』...『七天の聖杯』と」
「聖杯...」
私が最後にいた燃えた街で相対したサーヴァントも聖杯を手にしていた。
だが、此方のは違う。願えば叶う。そしてそれは結果のみでなく過程までが保証されている。
もはや未来構築を自由に行える。それがどれだけ恐ろしいものであるか、想像にたやすい。
「しかし現在は願望器としての機能は制限されている。かつてはこの機能の所有を求めた魔術師たちが多くいたが、所有者が決まり、その所有者が争いを望まなかったことから、求められた機能自体を封じ、魔術師同士の争いの場は開かれることはなくなったのだが、まあその詳細は今はいい。後々分かることだ。」
「話を戻すが、ここの力の源が、これまでの"記録"であることは理解できたであろう。故に此方の機能を回復するにはロックの掛けられたこの扉の先を開放する必要がある。」
「で、それを私にやれと...」
「そうだ」
「8つとも?」
「無論。ただし8つ目に関しては他の7つが開放条件であるため。まずは7つだが」
「んぐ...うぅ....」
無理だ、そういいたい。
特異点と呼んだということは、あれら全てが冬木の街と同じ規模で同じような惨状なのだろう。
そもそも達成条件は?此処は彼らの言葉が本当なら『聖杯』なのだろう。冬木では原因が聖杯であったからその回収ですんだ...はずだ。
だが、『聖杯』の中で「聖杯」が存在するの?記録世界であるのなら、此方を開放したところで私たちの世界が変わらなければまた元に戻ってしまうのではないか。
それとも記録が世界を書き換える、とでも言うのだろうか。
だめだ。まだ状況が整理しきれない。
こんな何も分からない状況で突っ込んだ所で、自殺に等しい。
それは、もう私の身体で既に体験済みだ。
二度は無いだろう。
それに私には選択肢など無い。
たぶんこれは私たちの世界がどうとか言うより、ただ機械がダウンしたときに自動復旧するときと同じでそういう機能を実行しているだけなのだろう。たぶんそこに理由なんて無い。
やらなければ、私に未来が無いことには変わりは無いのだから。
だから少しでも自身の身を守るために情報を、ここで"生き残る"術を引きださなければならない。
生き残る。ただそれだけを今は求めて行動するしかない。
「臆したかね。まあ無理も無いが、それでは困る。しかし、何も君一人とは-----む?これは...!!」
「ん、な、なに?」
私の困惑顔をみて愉しんでいたのか、声に喜色が混じっていたモノが急に切羽詰ったものに変化する。
そして急に鳴り出すアラート音。
『警告。警告。第一の扉、「邪竜百年戦争オルレアン」の記憶領域に異常発生。「人理継続保証機関フェニス・カルデア」所属の魔術師による「特異点」の修復を確認。これより記憶領域の更新に入ります。』
「うそ、カルデアの!?」
先ほどまで私に対していた声の主とは違う、無機質な音声が思わぬ朗報を告げる。
既にカルデアのメンバーが活動していたのは驚いたが、ここまで活動が進んでいるとは思っていなかった。
だが何か変だ。あの声の主の慌てようはこの内容とはかみ合わない。
その疑問を裏付けるように新たなアラート音が響く。
『警告警告。重ねて警告いたします。「特異点」より不正アクセスを確認。「特異点」の起因物を解してのアクセスのため、残存防衛プログラムでは対処しきれません。防衛ラインAを突破、アクセス者を敵対個体として認識。緊急ファイアウォール構築。構築に失敗。---敵、防衛ラインBを突破。続けてCを突破。あと30秒で接敵いたします。直ちに封印指定プログラム"SS"を解除し"例外処理"の実行をしてください』
明らかに危険が迫っていた。
あと30秒?それだけの時間でその危険の原型がこちらに来るってこと?
「っ!!ちょっとっ!!いきなりすぎじゃない!!私はどうすればいいか、まだ聞いていないんだけど!!!」
声の主に向かって問いかける。
急激に迫る危機に冷や汗がでる。
「まて、此方にくるだと...!---ザ、ざ--く、聖杯カ。チり際に無理やりに発動させ---か!!これだから結果のみの願望器は!!」
だが返ってくる声はノイズまみれで聞き取りにくい。
あの声の主のこれまでの会話からは想像しにくい、余裕のない声であった。
「君に掛ける時がきてしまったようだ...」
「ま、まって。まってよ!!待ってってば!!」
次第に小さくなっていく声。
それにあわせて私の身体は不安に震える。
「君は選ばれた...のだ。魔術師として、担い--手と----て----よ---のだ-------」
「まって!!!ちゃんと教えて!じゃないとわた、わたしまた---」
扉が破壊される音と、激しく鳴り響くアラート音に私の叫びは掻き消える。
そう、"敵"がきたのだ。
そして私はこの気配を、この圧力を知っている。
「サーヴァント...!!」
砕けた扉の破片をはね姿を現したのは濃密な魔力をまとう黒い英霊。
その手には不釣合いな輝きを見せる黄金の杯がある。
怖い、怖い、怖い----!!!
冬木でのセイバーのサーヴァントを思い出す。
あの圧倒的な力と同じ存在が目の前にいる。
あの時との違いは、今は私一人しかいないということ。
守ってくれる人はいない、周りには誰もいないのだ。
「い、いや...!もう、独りはいやなのに...こんなのっ、どうすれば...!!」
「Aaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
「きゃっ------っぐ!!」
扉を破壊してから静止していたサーヴァントの視線が私を捕らえた瞬間黒い暴風が吹き荒れ、私は背後のステンドグラスに叩きつけられる。
「はぁはぁ...んっぐ、うぇ...んぁ」
叩き付けられた衝撃で一瞬息が詰まる。
乱れた呼吸を整えようとするが、衝撃による嘔吐感がそれの邪魔をする。
朦朧とする意識を何とか繋ぎ、視線を前方へ。
サーヴァントとの距離は開いたが、元々広くない上に遮蔽物の無い円形状のこの場所では、きっと直ぐに距離をつめられてしまう。
「ジャ....んぬぅ」
しかし、その距離をつめてこない。ボソボソと何かをつぶやき続けている。
恐らく手で顔を覆っているのだろう。殆ど聞き取れないが唯一聞こえた単語が
「『ジャンヌ・ダルク』...?」
であった。しかし思わず呟いしまったそれが引き金になってしまった。
「じゃんぬぅ...ジャンヌ、ジャンヌジャンヌじゃ、じゃんジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌ...!!」
頭を掻き毟り、今度は此方に聞こえる声で叫ぶ。
そして振り向きざまに腕を振るうと、おぞましい姿を生物が姿を現し此方に触手を伸ばし迫ってきた。
「こ、こないでっ!!」
咄嗟にガンドを発動する。
ありったけの呪いを込めて放ったソレは黒い弾丸となり、伸びてくる触手に飛来する。
だが仕留められた触手は僅かでまだ数本残っている。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔力残量なんて気にしない、そんな余裕なんて微塵も無い。
今は迫る死の恐怖を払うように無我夢中にガンドを放つ。
黒い弾丸と触手の接触により煙が上がる。
姿が見えない敵になお、攻撃を続ける。
やがて煙が晴れると身体を穴だらけにした生物が見て取れた。
「はぁはぁはぁ...」
何とか凌いだ。今のは恐らく海魔の一種だろう。
比較的もろい種類なのか、なんとかなったが本命はそうは行かない。
「ううぅ、んぐ、ぇぐ...」
確実に迫っている死の恐怖に涙があふれてとまらない。
サーヴァントが戦っていたのを背後でみていた時とは比べ物にならない恐怖。
「うううぁあああ、んぐ、ぅっぅう...」
涙は止まらない。身体に力は入らない。
だけど。
だけど、だけど...!
「か、かんがえ、考えなきゃ...まだ、何か、きっと何か、んぐ...っ..」
諦めたくない。まだ自分を諦めたくない。
だってやっと知ったから。この恐怖を。彼女が必死に盾を振るい戦っていたときの心をやっと知ったから。
「こんなに。泣くほどつらいのに、それでも戦ってくれて。ごめんね、マシュ...ごめん。わたし、やっと知ったよ。だから、謝らなきゃ、『ごめんね』って。『ありがとう』って伝えなきゃ。だから。あきらめたら、ダメだよ」
一度死んで、死に際に他人を知りたいと思った。
ここで下を向いたままはダメだ。また、闘わないで終わるのはダメだ。
「前を見なさい、私っ!!怖くても、前を!!」
俯いた顔を上げる、まだ身体は動かない。
だけど、この心は、魂はまだ死んでいないと。
眼前に迫る敵を見る。
考えろ、考えろ、考えろ!!
手段、手段があるはず。それも私が、私にしか出来ないものが!!
何か、これまでの会話の中にあったはずだ、ヒントが。
だって、私とこの場所の未来を話していたのだから無いはずがない!
思い出せ、思い出せ、思い出せ!!
此処は願望器だ----既に所有者がいる、魔術同士の争いで決まった所有者が。
所有者なしで、今出来る機能は何だ----"例外処理"を実行すること。
その名前とは----封印指定プログラム"SS"
ソレを実行して今倒す敵は----サーヴァント
「---っ!!サーヴァントシステム!!」
魔術師同士の争いは"聖杯戦争"。
それに声の主は『担い手』と最後に言った。
もし仮に"SS"がサーヴァントシステムだとしたら、『担い手』とはマスターのこと。
保証なんかない。
封印されたシステムが解除されているか分からない。
だけど、はなから使うつもりであった、手段がこれだとしたら可能性はまだある。
カルデアではマスター適正は無かった。
でも身体が死んだことでレイシフト適正を得た事実がある。
なら------!!!
「----きいて!!!七天の聖杯の守り手よ!!」
目は逸らさない。
敵が迫る。直ぐそこまで来ている。
涙で視界がにじむけど、想いは止めない!
響く敵の声より大きく、絶対に届けて見せると叫ぶ。
私の願いを救ってくれた者にもう一度。
「私は、いま、やっと前に進み始められたの!とっても小さいけれど、それでも先を見たいと前を向けたの!!」
「まだ怖いし、身体も動かない。弱音を吐くかもしれない。」
「だけど、進むことを諦めないから!何度立ち止まろうと、決してっ!!」
迫る黒い影は既に目の前。
止めとばかりに手を振り上げる。
だけど、とめない、止められてたまるか。
「だから!」
「だから、私と一緒に闘って!!!」
「来てっ!!お願い!!!」
力の限り叫ぶ。
振り下ろされる腕の気配がするのと同時に海魔の叫びが呼応する。
うごめく触手。
あと僅かでそれらは私を串刺しにする。その瞬間。
響く雷鳴と、炸裂音。
目の前には濃密な黒はかすみ、
変わりに青いきらめきが辺りを覆う。
青から現れたのは、私を守る用に立つ白い衣を纏った男性の姿であった。
尻切れトンボ感....