我思う、故に我有り   作:黒山羊

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虎の口へ手を入れる

 オセローから飛び出し、オーバー・ザ・レインボーに降り立った二機のエヴァ。

 

 その内部には現在、チルドレン四人が男女で別れて搭乗していた。四号機にカヲルとシンジ、弐号機にアスカとレイである。

 

「カヲル君が予備のプラグスーツを持ってて助かったよ……」

「ははは、確かに女子用のプラグスーツは着づらいね」

『ちょっと男子、お喋りも良いけど真面目に計画考えるわよ』

『……艦隊が沈めば私達も危険』

 

「分かってるさ。じゃあ、一応それぞれのシンクロ率を把握しとこうか。……僕の最大シンクロ率は99パーセント。で、シンジ君の最大シンクロ率はさっき聞いたけど90パーセントだったよね」

「え、うん。そうだよ」

『はぁっ!? 99ぅ!? ……ファーストは?』

『私は63パーセント』

『普通、そんなもんよね。私は66パーセントよ。……男子の方がシンクロし易いのかしら?』

 

 そんな事を言いながら弐号機の中で首を傾げるアスカ。そんな彼女の考えを遮るようにカヲルはテキパキと話を進める。

 

 

「まぁ、それはネルフで調べて貰うとして、シンクロ率が高い僕達男子組が敵の攪乱、君たち女子組が使徒の観察、及び作戦立案で良いかな? 取り敢えず敵の観察をしなきゃ、倒しようがないからね」

『……まぁ、妥当な所ね。こっちの指示には従いなさいよ?』

「じゃあ、隊長はラングレーさん、副隊長は綾波さんに任せよう。……シンジ君もそれで良いかい?」

「うん。惣流さんはしっかりしてそうだし僕もそれで良いよ」

『よし、決まりね。……じゃあ早速始めましょう。使徒観察作戦、作戦開始よ!!』

「「了解!!」」

 

 

 

 その掛け声と共にカヲルが駆る四号機は軽々と跳躍し、空母を足場に今も艦隊の一番外側で巡洋艦に突撃している使徒へと接近する。

 

「シンジ君、四号機とはシンクロ出来そうかい?」

「うーん、無理、かな。……初号機と違ってエヴァの心が分からないっていうか…………ごめん」

「そうか。じゃあ、僕が操縦するからシンジ君は通信手として弐号機やオーバー・ザ・レインボーとの通信を頼むよ」

「わかったよ、カヲル君」

 

 そう言って申し訳無さそうに誤るシンジにカヲルは笑顔で気にするなと返すが、その内心は穏やかではない。

 

 

 

 『エヴァの心』。シンジが何気なく言ったその言葉は、カヲルを動揺させるには充分過ぎたのだから。

 

 だが、そんな心境であるにも関わらず、カヲルと四号機のシンクロに揺らぎはない。

 

 時にATフィールドで使徒の突進を受け流し、時にプログレッシブナイフで使徒のヒレを切り裂いて挑発する四号機は舞い踊るかのような動きで船から船へと飛び移りながら使徒の注意を一身に引きつけているのだ。そのおかげで空母以外の巡洋艦などは既に待避しており、遠距離からの艦砲射撃でカヲルの戦闘をアシストしている。

 

 

 そんな中で、カヲルの後方でちんまりと座っていたシンジは、あることに気が付いた。

 

「あれ? ……この使徒、コアがないよ?」

 

 シンジのその呟きは、無線に乗って弐号機にも聞こえている。

 

 それを聞いたアスカは、この使徒が一筋縄では行かない事を理解し、顔をしかめるのだった。

 

 

--------

 

 

「……ファースト、ミサトに無線繋いで!」

「分かったわ。……こちら弐号機。葛城一尉、聞こえますか」

『聞こえてるわ。ついでにさっきの無線もね』

「なら話が早いわ。ねぇミサト、コアの無い使徒って居るの?」

 

『あぁそれね。私も疑問だったから今専門家に通信してた所よ。……そっちとも回線繋ぐわ』

「専門家ねぇ……。本部の赤木博士以外に使徒の専門家なんて思い浮かばないんだけど……その専門家って信用出来るの?」

『あ、リツコより詳しい、というか使徒について知らないことはほぼ無いってヤツだから大丈夫よ』

「そんなに!?」

 

 

 リツコよりも詳しいとの言葉に、思わずインテリアから身を乗り出すアスカ。ヨーロッパにすらその名を轟かせる『赤木リツコ博士』よりも優れた知識人、それも『使徒』の専門家といわれる程の人物など想像も付かないのだから当たり前と言えば当たり前の反応だ。

 

『そんなに驚かなくても良いじゃない。……じゃ通信変わるわよ』

「え、ちょっとまってミサト、せめてもうちょっと説明して……」

 

 そうアスカが言い終わる前に通信画面からミサトが消え、代わりに『Sound only』の表示が現れる。

 

 

『……あー、もしもし。残念ながら私はミナト君ではないよ。……というか、ミサコ君、さては私に丸投げしたな?』

「え? あ、もしもし? えーっと、私はエヴァ弐号機パイロットの惣流・アスカ・ラングレー大尉です」

『あ、これはご丁寧にどうも。私は……まぁ、サッキーと呼んでくれ。敬語も無しで構わない』

「サッキー、ですか…?」

 

 いきなりあだ名で呼べと言われて困惑するアスカ。だが、その後ろでプラグ内を漂っていたレイは臆することなく口を開く。……まぁ、臆する方が難しいが。

 

 

「……サッキー、コアがない使徒は居るの?」

『ん? その声はレイ君か。コアがない使徒か……。まぁ、居ないだろうな。……しかし、成る程。君達は交戦中と言うわけか。いま見えているだろう使徒に外見上コアが見当たらないなら、コアは恐らく体内にある』

「そう。……惣流さん、コアは体内よ」

 

 そんな風に断言するレイに、アスカは流石に疑いの目を向ける。

 

「……ファースト、サッキーって、あんたの知り合いなの?」

「お友達よ」

「……信用できる?」

「サッキーは冗談以外の嘘を言ったことがないわ」

「信じるわよ?」

「ええ。大丈夫」

 

 

 そういって微笑むレイの顔を、アスカはしばらく見据えてから大きく息を吐き出し、自身も『サッキー』へと問い掛ける。

 

「ねぇサッキー、使徒の口から体内に入ったら死ぬかしら?」

『意外とチャレンジャーだねアスカ君。……まぁ、使徒に接近し、なおかつその体内に入ることが可能だとして、死ぬことは無いだろうね。使徒には人間でいう消化器が無い。丸呑みなら大丈夫だよ』

「……そう、ありがと」

『どういたしまして。健闘を祈るよ』

 

 そんな声と共に通信はプツリと途絶え、代わりにまたミサトの顔が表示される。

 

『どうだった?』

「作戦を建てたわ。……ミサト、艦長に伝えて」

 

 そういって、アスカが語ったのはまぁ、荒唐無稽ではないものの難しいとしか言えない作戦。

 

 だが、その作戦を聞いた艦長はすぐさまゴーサインを出し、アスカが要求したモノの使用許可を出した。

 

 その結果、弐号機、四号機による使徒観察作戦は、比較的素早く使徒討伐作戦へとシフトチェンジしたのだった。

 

 

--------

 

 

 オーバー・ザ・レインボー。弐号機からの帰還命令を受け、四号機はその甲板にひらりと舞い戻った。

 

 

 そのエントリープラグから、カヲルはアスカに確認の言葉を投げかける。

 

『ラングレーさん、もう攪乱は良いのかい?』

「ええ、もう攪乱は充分よ。今までの使徒の動きで気になったこととかない?」

『うーん、僕が気付いたのは、遠距離攻撃をして来ない事だね。……シンジ君は何かあるかい?』

『あの使徒、ATフィールド張ってないのに滅茶苦茶固い。……ヒレを切った時、表面がちょっと削れただけだったよ』

「……成る程ね。突進の威力はどうなの?」

 

『踏ん張れば耐えられるけど、一分が限界だろうね。それに、突進と同時に噛みついてくるから危険だよ』

「そ、分かったわ。……じゃあ、私の作戦でも大丈夫そうね。……次、使徒が突っ込んできたら私が弐号機で受け止めるわ。……で、あんたの四号機は腰にこれ巻き付けなさい」

 

 そういって弐号機が渡してきたのは、太い鎖。その先端にはいわゆる船の錨がくっついている。これが先程アスカが使用許可を貰っていたものの一つ。中破し、先程自沈処理された重巡洋艦キーロフの錨とその鎖である。

 

 

『錨を腰にくくりつけてどうするんだい? ……まさかこのまま海に飛び込めというのかな?』

「あんたバカ? それだったらむしろウキを括り付けるわよ。今回の作戦は、そんなんじゃないわ。…………大体、その作戦だと私がファーストに殺されるわよ」

「ええ。……シン君は私が守るもの」

『あー、そう言えばそうだね。じゃあ、今回の作戦は何なんだい?』

 

 そう問い掛けるカヲルに、アスカはニヤリと笑って高らかに宣言する。

 

 

「あの魚野郎を釣るわよ!!」

 

 

 

 その宣言に、シンジとカヲルが「えぇぇっ!?」と奇声を上げてエヴァごとのけぞったのは、まぁ、仕方ないことだったと言うしかないだろう。

 


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