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……
………
…………
―――Emil
―――Chronicle
「……この恋心は本物なんです、作られた、そうあるべきだから持った恋心じゃなく、本当に、好きなんです」
「たとえ、何度忘れられたって……何度でも……思い出させて……差し上げます、と約束しましてよ?」
after
――― of
another
エミル世界の中心、アクロポリスのアップタウンにひしめき合っていた人々は急激にその数を減らしていた。
もちろん、行き交う人々の家が壊れただの、ソラから巨大なクジラが降ってきて昼飯の代わりに街を食ったというわけではなく、普段町中に置かれていたゴーレムや、周りに商品を広げて看板を出したまま眠ったり近くの友人と談笑したりしていた少年少女達が、居ないのだ。
いや、居ない、と言う言い方は少々違うかもしれない。
彼らは何時も、どこかに居なくなってしまう事があった、姿を消す、ハイディングやクローキングを使ったかのように、ふっと姿がなくなって、そこにいた事さえなくなってしまうような消え方をすることがあったのだ。
それが、数日前に唐突に、一斉に起きた。 当然、彼らが常に連れていた、おそらくは冒険のパートナーである人々(およそ人とは呼べないような機械や動物を連れている者も多かったが)は、取り残されるのだ。
普段は別れを惜しみつつも、しょうが無い、という雰囲気で送り出していたのだが、彼らが一斉に居なくなる数日ほど前からは、その様子が違っていたのだ。
まるで、ここで送り出してしまったら、今生の別れになるかのような、そんな雰囲気であったり、どこか、いつもの姿を真似た空元気かのような……。
そんな人々の生活、嘗て共に在った者たちが、目の前に在るカタチとして存在しなくなった人々の行動、一部分、それも極々限られた例でしか無いが、それをここに、記していこうと思う。
例えば、そう、あの黒く長い癖っ毛の、丈が短い赤色の着物を着た少女。
彼女は―――
「分かってます、分かってましたよ、私なんかに止められるわけが無いって」
清姫は、何時も自分を側に置いてくれた主人が、目の前で居なくなってしまった事に、深い悲しみを覚えていた。
彼女の行動原理は主人が自分を好いているかどうか、主人に嫌われないかが第一であり、その他の理由は二番三番、主人が、惚れた相手の事こそだけが気がかりで、それを元にして行動をしていたのだ。
ソレほどまでに自分の主人を慕っていた彼女が、避けられぬ運命と知っていても、どうしても行って欲しくなかったのだ。
嘗て彼女は、これと同じような悲しみを味わった事があった。
愛する者に騙され、裏切られ、愛する者を焼き殺し、自らの命さえ断ってしまった
そんな物語から彼女は救われた。
物語のレールを飛び出し、その時を生きていた。
そして自らの愛する者の側に居ることがどれほど幸せかを知ってしまっていた。
「分かってますよ、分かってます……私達が忘れなければ、憶えていれば、あなたの記録は残り続ける」
「分かっていますけど、それでも、それだけじゃ」
「……寂しいですよぉ……お尻も、痛いです……冷たいです……」
何時もは硬い地面に座っているのがしんどくなって、主人に甘え、主人がそっと小さなクッションを敷いてその上に清姫を座らせていた、南稼働橋と呼ばれるアップタウンの入り口に一人座った清姫は、何時も側に在った暖かく、そして何より大切に思っていた者の座っていた一つ隣の床に座ると、膝を抱えて涙を流し始めた。
涙がこぼれ落ちないように必死で唇を噛んでいた清姫に一つの影が落ちる。
「こんな所で、何をしていますの、清姫」
多分に心配するような、しかし少し呆れたような声色で話しかけたその少女は、葡萄酒のように深い紅色をした髪をツインテールにし、コウモリの翼を思わせるようなマント、夜空のように暗く、美しい黒色をしたワンピースを着ていた。
名はアルカードと言った。
「アルカ……どうしてここに……」
慌てて涙を拭い、アルカードを見上げる清姫は、どこか現実感を感じていないぼんやりした顔でその姿を見つめ続ける。
「どうして、って、自分の友人が一人で地面に座り込んで泣きじゃくっていたら心配して声をかけるのは当たり前でしょう?」
「まぁ、理由は大体想像はつきますけれど、ね」
少し落ち込んだような、困ったような表情をしながら、アルカードは清姫の悲しみを『分かる』、と言い、清姫も、その言葉からアルカードにも、自分と同じような事態が降り掛かったのだろう、となんとなく、雰囲気で察した。 察したが故、何も答えられなかった。 なぜ、そんなに毅然としているのか、なぜいつもの調子でいられるのか、不思議でたまらなかったのだ。
清姫には、アルカードが何も感じていない、等とは思っていない、友人として永く付き合ってきたからこそ、彼女の性格をよく知っているからこそ、なぜそんなに平然としていられるかがわからなかった。
どれほど強い精神を持っている彼女でも、大事にしていた主人を失えば、多少なりとも動揺し、取り乱しているかと思っていたのだ。
「私は約束しましたもの、例え何度忘れたって必ず思い出させる、と」
震える声で、泣きそうになりながら、笑顔を無理やり作り、それでも信じたものを手放さぬように毅然とした態度で、清姫に語りかける。
嘗て、彼女が約束した言葉、その言葉を、何度でも繰り返し、何度でも思い出し、絶対に忘れられない、永久に消えることのない絆が彼女を前に進ませるのだ。
その言葉と無理矢理に笑うアルカードの姿に清姫は立ち上がると、アルカードの手を取り、涙が溢れ続けるのを手で拭いながら、同じように笑顔を作った。
「そうよねアルカ、私達は何度だって思い出させてあげなきゃ、私達が暗いままだとあの人も困っちゃうものね」
二人の少女が手を取り合い、今度は二人揃って歩いて行く。 二人で揃って、門をくぐり、階段を登り、中央の噴水で待っているのだ。
彼女たち二人が、彼女たちの、友人同士だった主人二人が、離れてしまったその場所で、二人揃って待ち続けるのだ。
―――
「ただいま」
きっと、今も生きている。
Real