機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~ 作:Pledge
あと二話ぐらい閑話になるかもしれません。
そのあと、本編を進めようかなと思っています。
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。
シーゲルへの報告を終えたレオハルトは、そのままマイウス市に向かうことにした。開発の途中だった、
【特別開発区】では入る人間を厳しく制限しているため、レオハルトが以前使った許可証はすでにただのゴミになっている。そのため、レオハルトは新しい許可証を受け取りマイウス市【特別開発区】に向かった。
事前にハインラインに連絡し【特別開発区】に到着すると、ハインラインが入り口で待っていた。ハインラインはレオハルトに気付くと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「噂は聞いているよ。地球で連合の基地を壊滅させたそうじゃないか」
「耳聡いな」
ハインラインとそう会話しながら二人は通路を進んでいき、ハインラインがいくつもの認証を済ませ中へと足を踏み入れる。
中には、前回よりも完成している
「間もなくか」
「一週間以内にはな。後はリベラント隊長の開発したOSを搭載して、データを収集すればこの機体は用済みだ」
「用済み?ロールアウトするんじゃないのか?」
「ああ、しない。この機体は、データ収集のためだけに開発された機体だ。充分なデータを得た後は、解体して廃棄処分するそうだ」
「つまり、この機体と同じ。あるいは同等の機密を持った機体を開発する予定があるということか?……あるいは、すでに?」
レオハルトが横に立つハインラインにそう問いかけると、ハインラインの眼光鋭い瞳にレオハルトが映る。しばしの沈黙。だが、ハインラインはレオハルトから目をそらす。
「……噂通り、嫌になるほど鋭い男だな」
ハインラインは小さくそう呟き
だが、ハインラインのあの呟きこそ答え。レオハルトの問いを、肯定したことになる。
「……どんな機密を持っているんだか、こいつは」
レオハルトは
それから二日後。ついに
それからさらに六日後の2月28日。ついに
テストパイロットとして搭乗するのは、コートニー・ヒエロニムス。あくまでも所属は民間人だが、【ZAFT】では何度かテストパイロットとして働いた経験を持つ。
完成後、初の稼働実験を明日に控え、レオハルトはハインラインと共に
「ついに明日か」
「そうだな。明日の稼働実験、リベラント隊長は立ち会えないからな」
「機密を持った機体だからな。その機密のテストもするのだろう」
「すまんな。だが、君も近いうちに知ることになる。……失言だった。忘れてくれ」
「残念なことに、一度聞いたことでも簡単に忘れるような頭はしていないのでな」
「……やれやれ。そこは嘘でも、忘れると言うところだろう」
レオハルトのチクリと刺さる皮肉に、ハインラインは笑顔交じりに答える。その笑みに、レオハルトもわずかな笑みを浮かべた。
「さて、私はそろそろ失礼する」
「何だ、完成祝いに一杯飲もうではないか」
「遠慮する。酒は飲まないんだ。いつ何時、何があるか分からないからな」
「私は根っからの技術屋だが、君は根っからの軍人というわけか」
歩き去っていくレオハルトの背にハインラインはそう言葉を投げかけると、レオハルトは何も言わずにその場を後にした。
レオハルトがハインラインらと共に
それは、戦争の継続か停戦か。
この議題で議員たちは二分されていた。戦争継続を訴えるパトリック・ザラを筆頭とした強硬派。停戦を訴えるシーゲル・クラインを筆頭とした穏健派。
二つの派閥が、評議会の場で真っ向からぶつかっていた。
だが、最終的には強硬派が穏健派を上回り、パトリック・ザラの提唱する【オペレーション・スピットブレイク】が可決された。
【オペレーション・スピットブレイク】。この作戦は、戦争に終止符を打つべく立案された。概要としては、宇宙から大部隊を地球の連合軍基地に降下させるという強襲作戦。目標は、連合軍最後のマスドライバー施設を持つ、パナマ基地。
連合の最後のマスドライバーを奪うことで、連合の地上と宇宙の戦力を分断させ、連合地上軍を地球に封じ込めるという目的に、パナマ基地に照準が定められた。
【オペレーション・スピットブレイク】は当然、レオハルトの耳にも入っていた。とはいえ、だからといってレオハルトに何かすることがあるわけでもなく、与えられた休息を取っていた。
そのはずだったが、染みついた習慣は変えることは出来ない。休暇であっても、レオハルトは日々の訓練を欠かすことは無かった。
早朝に起きるとアプリリウス市内を一周するジョギングに始まり、腕立て・腹筋・スクワットに一〇〇回。さらには体幹トレーニングを一時間行う。そして汗を流して、ようやく朝食である。
果たしてこれで休暇と言えるのかは疑問ではあるが、前述したように染みついた習慣を変えることは難しい。むしろ、やらないと体調が悪くなるほどである。
適当な物をパンに挟んだサンドイッチとコーヒーを朝食にしながら、レオハルトは考える。どうやって休暇を過ごすかと。
クルーゼは最近まで【プラント】にいたのだが、先日ジブラルタル基地に降りてしまった。クルーゼ隊のアスランとニコルも一緒にである。
そのため、現在【プラント】にはレオハルトの友人と呼べる存在がいない状況である。そのため、レオハルトにとって休暇というのはある意味苦痛である。
「さて、どうしたものか……」
悩みに悩んだ結果、レオハルトはいつもの軍服に袖を通し、議事堂内の一角に設置されているMSシミュレータへと足を向けた。
「(やれやれ。休暇をこれほど苦痛に感じるようになるとはな……)」
使用している人間は誰も居らず、レオハルトは適当なシミュレータ台に入ると早速開始する。
二時間ほど経ちシミュレータコックピットを出ると、レオハルトは昼食を取るため歩き出した。すると、背後から声を掛けられるレオハルトが振り向くと、そこには銀髪でショートボブの少女が立っていた。
驚くべきは、彼女の服装である。まだ幼い外見の彼女が、隊長である白服を身に纏っていたのだ。だが、レオハルトにそんなことは眼中になかった。
「初めまして、レオハルト・リベラント隊長。オリンベル隊隊長ラミリア・オリンベルと申します」
「特務隊レオハルト・リベラントだ」
レオハルトは簡潔に名乗ると、背を向け歩き出す。空腹である今レオハルトに、彼女に対して微塵も興味が湧かなかったのである。
だが、歩き出したレオハルトの行く手をラミリア・オリンベルと名乗った少女が遮る。
「まだ何か用なのか」
「はい。シミュレータで結構ですので、私と勝負してください」
「断る」
「えっ!?」
予想外のレオハルトの返答に、ラミリアは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。ラミリアが驚きで固まっている間に、レオハルトは昼食のためにスタスタと議事堂を後にする。
適当なオープンカフェに入ると、空いている席に座り店員が持ってきたメニューに目を通す。メニューから目を上げ、わずかに正面へと目を向ける。
「…………」
そこには、レオハルトをじっと睨むラミリアの姿が。レオハルトは小さく溜め息を吐くと、メニューをラミリアに渡す。
「何か食べないのか?」
「結構です」
ラミリアはレオハルトを睨みながらそう答えるが、絶妙なタイミングでラミリアの腹が鳴る。沈黙が流れ、レオハルトはどう声を掛けたものかと思案する。
対して、ラミリアは恥ずかしさから顔どころか耳まで真っ赤に染める。
「……頂きます」
ラミリアは渋々メニューを手にすると、レオハルトはラミリアの注文が決まったのを見計らい店員を呼んだ。レオハルトは海鮮のリゾットを、ラミリアはサンドイッチセットを注文する。
先に運ばれてきたコーヒーを飲みながら、レオハルトはラミリアへと視線を移す。同様に運ばれてきたオレンジジュースを飲みながら、ラミリアは笑顔を浮かべていた。
だが、レオハルトの視線に気付くと、再びレオハルトをじっと睨み付ける。睨み付けると言っても、まったく怖いものではなく小動物に見られているようにしか見えない。
「俺に勝負を挑む理由は?」
「私の実力が知りたいのです。前線で戦うために」
「何故だ」
「ナチュラルを滅ぼすために」
「…………」
ナチュラルを滅ぼす。はっきりとそう告げるラミリアの瞳には、確かな憎しみがあった。レオハルトの奥底にもある、憎しみが。
「……なるほど」
「ナチュラルに家族を殺されました。だから、奴らに!」
「(何を言っても無駄か)そうか。まぁ、頑張れ」
「ですから、私と勝負してください」
「……いいだろう」
ラミリアの固い決意を受け、レオハルトは承諾した。何より、ここで断ればしつこく付きまといそうというのも理由の一つだが。
二人は無言で食事を取り休憩した後、二人は先ほどのシミュレータルームにいた。
「使用機体は公平にジン。時間は無制限。何か質問は?」
「ありません。やりましょう」
ラミリアは先にシミュレータ台に座ると、レオハルトも無言で隣のシミュレータ台に座る。
ランダムで選択された戦場はデブリ帯。使用機体は両者共に標準装備のジン。モニターにカウントダウンが表示され、0になった瞬間にラミリアは動くのだった。
時は遡り数日前。パトリックは新たな案件で動いていた。
【プラント】に存在する主な設計局である、【ハインライン設計局】【クラーク設計局】【アジモフ設計局】。これら三つの設計局を統合し、統合三局として新たに設立。
三つの局の知識と技術を集結させることで、さらなるMSの開発に尽力させることが目的である。
そして、奪取した五機のMS。さらには【ZAFT】の技術をも導入した新型MSの開発を統合三局に指示。それらのMSには、現在データ収集機として稼働中の
すべては、【プラント】とコーディネイターの勝利のために。
「開発するMSは四機だ。多数殲滅型、近接戦闘型、近遠戦闘型。残り一機のコンセプトは任せるが、ただ強いMSを造れ」
そう指示するパトリックの目の前には、旧設計局の局長たち三人がいる。
ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークの三人である。
統合される前は、それぞれ以前は設計局の局長を務めていた腕利きである。
「わかりました。すぐに取り掛かります」
「……待て」
急いで開発に取り掛かろうと立ち去ろうとする三人を、パトリックが呼び止める。三人は立ち止まり振り返ると、パトリックの言葉を待つ。
「奴も開発メンバーに加えろ。レオハルト・リベラントを。奴も自らの機体を設計したのだ。役に立つかもしれん」
「よろしいのですか?“アレ”を知ることになってしまいますが」
「構わん。いずれ知ることだ。本人には私から通達しておく」
「わかりました。では」
ハインラインは
ハインラインは了承の言葉を返すと、足早にパトリックの元を後にする。これからしばらくは、研究室に缶詰になることだろう。
三人が出て行ったのを確認すると、パトリックは両手を組み険しい顔つきへと変わっていく。
「貴様は甘いのだ、シーゲル。今更停戦など、出来るはずも無い。敵が銃を向けているというのに、銃を下ろすことなど出来んのだ。戦争は、勝って終わらねば意味が無いのだ」
パトリックは自分に言い聞かせるかのようにそう呟くと、次の仕事に取り掛かるのだった。
パトリックの部屋を後にした三人は開発場所のマイウス市に向かう道中、パトリックが口にした言葉を考えていた。
「いずれ知ることになる、か。どう思う、ハインライン」
「開発に関わらなくても、知ることに変わりは無いということだろう。……ふむ、これは意外だ」
「つまり、これから開発する四機のうちのどれかのパイロットに、彼が内定しているということだろう。……まぁ、実力は申し分無いから文句は無いがね」
クラークから問いかけられ、ハインラインは推理小説へと視線を落としながら答える。ストーリーに進展があったのか、ハインラインは小さく驚きの声を上げる。
ハインラインに続き言葉を発したのは、腕を組みながら目を閉じているアジモフだった。リアクションがイマイチ薄い二人に、一番真面目な人物と言えるクラークは密かに溜め息を吐くのだった。
「そんな……」
シミュレータコックピットで、ラミリアは呆然と呟く。
モニターには大破の文字が表示され、彼女がシミュレータで操っていたジンが大破判定を受けたことが理解出来る。
だが、ラミリアが驚愕しているのはそこではない。彼女とて、最終的には勝てないということは承知していた。だが、こんな結果は彼女としても予想外だった。
最初はラミリアが優勢だった。だからこそ、ラミリアは自分が押していると思い込んでしまった。ラミリアが苛烈な攻撃を加えながらも、決定打を与えることは出来なかった。すべての攻撃を、レオハルトは紙一重で回避していった。
目の前の敵に集中しすぎて、ラミリアは自らが追いつめられていることに気付いていなかった。わずかな隙を狙ってカウンターを仕掛けるだけレオハルト。だが、それも厳しい攻撃ではなく、ラミリアは余裕だった。
レオハルトが動いたのは突然だった。それまでの戦闘でレオハルトが攻撃していたのは、ラミリアではなかった。その後ろにあるデブリだったのである。
大きなデブリを攻撃して小さくするとこで移動範囲を狭めたのだ。レオハルトがラミリアの隙を見てデブリの陰に隠れると、周囲を見渡してラミリアは初めて気づいた。
自分の周囲がデブリで埋め尽くされていることに。
デブリには熱を持つものも多いため、レーダーは頼りにならない。完全な目視。あとは、経験と勘である。
ここで失敗だったのは、ラミリアは冷静さをわずかでも失ってしまったことにある。
ラミリアは一瞬とはいえ冷静さを失い、慌ててしまった。そのせいで、レオハルトの攻撃への反応が一秒、あるいはコンマ何秒遅れてしまった。
ジンの重突撃銃で右腕を失い、逃げようと試みてもデブリが邪魔をする。レオハルトは即座に距離を詰め、重斬刀でラミリアのジンを両断した。
これが、二人の戦いの一連の流れである。
シミュレータコックピットで、ラミリアは血が出るほどに唇を噛み締める。何たる醜態だと。
ラミリアの敗因はデブリ帯での戦闘に不慣れだったということも挙げられる。だが、そんな言い訳は通用しない。
これから先、ラミリアがデブリ帯で戦闘をしない保証など無い。戦争で、戦場を指定出来るわけが無いのだから。
だが、一番の原因は油断だろう。自らが有利に進めていると勘違いしてしまったことにある。それに気付かせなかったレオハルトも巧みではあったが、それも言い訳にしかならない。
不慣れな場所だったから負けましたで済まされる話ではないのだ。いついかなる時でも、どんな戦場でもあっても冷静さは失わず、周囲の状況確認も怠らず、自らの置かれた状況を冷静に理解する。
それが、戦場に身を置く者に必要なこと。戦場で冷静さを失うことと油断は、そのまま自らの死に直結する。
レオハルトに遅れてラミリアもシミュレータコックピットを出ると、待っていたレオハルトと向き合う。
「ありがとうございました、リベラント隊長。勉強になりました」
「いや、良い訓練になった。……すごい汗だな。これを使え」
「あっ、はい。ありがとうございます」
シミュレータコックピットは決して広いとはいえず、熱気もこもりやすい。そのため、備え付けのシャワールームがあったり、自由に使えるタオルが置いてあったりするのだ。
そのタオルを一枚掴むと、レオハルトはラミリアに投げて渡した。
「リベラント隊長も……」
「何だ?」
「……いえ、何でもありません」
「俺はそろそろ行く。じゃあな」
「はい」
受け取ったタオルで流れ出る汗を拭きながら何かを言い掛けるラミリア。だが、すぐに言葉を引っ込める。
レオハルトはやや疑問に感じつつも、それほど重要ではないと考えそのまま立ち去った。
遠ざかっていくレオハルトの背中を見送りながら、ラミリアはあまりの悔しさから叫びたい衝動に駆られていた。
「(私がこれほど汗をかいているのに、あの人は……!リベラント隊長は、汗一つかいていない!これが、私との差!!目的を果たすためにも、いつかは!)」