機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~   作:Pledge

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ついに最終回です。

紆余曲折もありご都合主義の小説ではありますが、ここまで来ることが出来ました。
読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます。

もうちょっと早く更新できるはずだったのですが、所々に手直しを入れていたら遅くなりました。

最終回ではありますが、小説としては最後にエピローグを入れて完結とさせて頂きます。
エピローグも恐らく、今月中には更新できるはずです。



最終話 未来をその手に

「フォードさん」

「ウェーガー。準備はどうだ?」

「【プラント】に住居と新たな身分も用意しました」

 

ゼファーとレオハルトが出会ってから数ヶ月後。

ハルフォードとウェーガーは密かに会い、小声で話し合っていた。

 

「脱出の準備も今日の夜には完了します」

「よし。ならば、深夜に脱出しよう」

「はい」

 

二人が話し合っているのは、【GARM R&D社】から逃亡することである。

彼らはもう嫌になったのだ。こんな研究を続けることに。

 

キラが生まれたことにより、【人工子宮】は【GARM R&D社】から大きく評価されユーレンの功績は非常に大きなものとなった。

 

ユーレンは単純に喜んでいたが、ヒュバート夫妻やリベラント夫妻は喜ぶことなど出来るはずもなかった。自分たちの研究は、数え切れないほどの犠牲の上に成り立っている。

 

無論、彼らもこうなることは覚悟していた。していたのだ、ゼファーに出会うまでは。

 

ゼファーに出会って親の情を抱いてしまったこと。このことが、彼らの罪の意識をより増すスパイスになってしまった。

 

そして、ユーレンの口から聞かされた決定的な一言。

 

「キラは【最高のコーディネイター】となるだろう。ようやく完成した。だから、二人目の作製に取り掛かる。いや、二人目とはいわず、さらなるコーディネイターの作製に取り掛かるのだ」

 

たった一人のコーディネイターを生み出すために、彼らは数えきれないほどの命を犠牲にしてここまで来た。だというのに、ユーレンはさらなるコーディネイター作製に着手しようというのだ。

 

生まれてきた唯一の完成体キラ・ヤマト。彼以上のものを望むとなれば、これまで積み上げてきた以上の犠牲を生み出しかねない。

 

だから、ハルフォードはこの研究から逃げることに決めた。リベラント夫妻と共に逃げるのだ。

 

「ヒビキ主任は、どうされるのですか?」

「……あいつはもう、どうにもならん。だが、データだけでも消去する。完全にな。この研究を続けさせるわけにはいかん」

 

ウェーガーはその言葉に力強く頷くと、その場を後にする。

 

「もう少しだ。ここを離れることが出来れば、ゼファーにも普通の子どもの暮らしを」

 

だが、ハルフォードの願いが叶うことは無かった。

 

 

 

 

 

C.E.55年5月30日。

 

この日、【メンデル】をコーディネイター排斥を掲げる【ブルーコスモス】が襲撃した。襲撃したのは、その中でもさらに過激な人間たちだった。

 

逃亡の準備を終え最後の日誌をつけていたハルフォードは、遠くから聞こえてくる音に気付いた。

 

「何の音だ。こんな時間に」

 

時間はすでに二十二時を過ぎており、普段なら静かになっている時間だった。音は徐々に近付きハルフォードも危機感を抱き始めた時、ウェーガーとその妻が部屋に飛び込んできた。

 

「フォードさん!!」

「ウェーガー、何事だ。それに、この音は」

「【ブルーコスモス】です!【ブルーコスモス】が襲撃してきました!!」

「何だと!?クソッ!空気の読めん奴らだ!!」

 

ハルフォードはウェーガーたちの言葉に悪態を吐きリレイナとゼファーを起こそうと立ち上がった瞬間、部屋に乱入者が現れる。

 

「ここにも居たぞ!青き正常なる世界のために!!」

 

入ってきた男は、【ブルーコスモス】お決まりの謳い文句を口にしながら銃口をハルフォードに向ける。突然のことに反応できず、発射された弾丸はハルフォードの左肩に命中。

 

「ぐっ!!」

「フォードさん!!」

 

撃たれた衝撃ハルフォードは倒れ込むと、痛みに顔をしかめ傷口を右手で抑えながら男に視線を向けた。

 

「コーディネイターに死を!!」

 

男は笑みを浮かべながらそう叫ぶと銃口を向け引き金をしようとした瞬間、男は絶命。ハルフォードとウェーガーは、男の喉から血が噴水のように噴き出す男を呆然と見つめる。

 

男がゆっくりと倒れると、その後ろにはまだ小さいゼファーの姿があった。その右手にはハサミが握られていた。

 

持ち前の身体能力で後ろから男に飛びつき、ハサミで素早く男の喉をかき切ったのだ。飛び散った鮮血が、ハルフォードの日誌を血で濡らした。

 

「博士、おじさん。大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

今まで実感したことのなかった、ゼファーの能力。右手には血に濡れたハサミを携えながらも、二人の無事を知りいつも通りの純粋無垢な笑顔を見せるゼファー。

 

その姿に、ハルフォードとウェーガーは心の底から恐怖した。同時に、猛烈な罪悪感に襲われる。

 

自分たちを助けるためとはいえ躊躇いなく人間の命を奪い、恐らくはそのことに対して何の疑問も持っていないということに。

 

だが、それも当然だった。男を殺した技術も考え方も、すべてはユーレンの指示によって徹底的に叩き込まれている。自衛のためだと黙認していたが、ハルフォードとウェーガーは強い罪悪感と後悔に襲われていた。

 

「……は、早く逃げましょう!予定は狂いましたが、混乱に紛れて脱出しましょう」

「あ、ああ。そうだな」

 

一足先に我に返ったウェーガーがそう言葉を掛けると、ハルフォードは立ち上がりリレイナの元に向かった。ゼファーに言われたのか、物陰に隠れていたリレイナを連れ出し用意していた脱出艇へと走る。

 

ウェーガーは未だ呆然としている妻を強引に立ち上がらせると、その後を追った。

 

男が持っていた銃を密かに奪い武装したゼファーを、リレイナがその手を引っ張り走り続ける。

 

だが、そこまで誰とも会わずに行けることなど出来るはずも無く、前方の曲がり角から銃を構えた男が飛び出してくる。

 

「いた……!」

 

男は最後まで口にすることが出来ず、額を銃で撃ち抜かれゆっくり後ろ向きに倒れ込む。突然のことに驚く四人。だが、彼らの視線はすぐにゼファーへと向けられた。

 

ゼファーはリレイナの手を振りほどき、先ほど奪った銃で男を射殺したのだ。

 

「ゼファー、お前……」

 

ハルフォードが声を掛けようとした瞬間、ゼファーは床を蹴り駆けだした。ゼファーの聴覚が、新たな敵の接近を感じ取ったのである。

 

「おい、大丈夫か!お前ら……!」

 

ゼファーが曲がり角付近に到着したのと同じく、別の男が姿を現した。男は転がる男に声を掛けるが死んでいると確認すると、すぐにハルフォードらに気付く。

 

だが、その時にはすでに遅かった。男の懐に入ったゼファーが、銃口を男の顎下に押し当て引き金を引いたのだ。

 

至近距離から銃弾を撃ち込まれたことにより、銃弾は男の頭部を貫通し天井にめり込む。ゼファーは一つ前の男が持っていた拳銃を拾うと、両手の銃を左右に向ける。

 

ゼファーは連続で引き金を引き続け、左右の通路の先にある曲がり角から出てくる【ブルーコスモス】を次々と射殺していく。

 

拳銃から次々と排莢されていく空薬莢(やっきょう)が床に落ちていき、銃の弾薬が尽きたころには周辺は硝煙で白くなっていた。

 

ゼファーはそれが当然であるかのように右手の銃を投げ捨て、男の懐を探り持っていた弾倉を交換しスライドを引く。

 

「終わったよ。急ごう」

「……ああ」

 

ハルフォードは様々な感情で入り混じった表情を浮かべつつ、ゼファーの言葉に頷き再び走り出すのだった。

 

そこからは誰にも会うことなく、ゼファーたちは無事に港へと辿り着いた。港には強引に【ブルーコスモス】たちの小型艇が横付けされていた。

 

これほど簡単に侵入を許したのも、ただの会社だからと考え粗末な防犯システムしかなかったからに他ならない。コーディネイターを造っている会社なのだから、【ブルーコスモス】が来ることも予知できたかもしれないというのに。

 

そんなことを考えつつ、ハルフォードは管制室で脱出艇を発進させるためコンソールをいじっていた。その間にウェーガーたちもコンソールキーを叩き、港に続く防火扉を下ろしていく。

 

「時間稼ぎくらいにはなるだろう。フォードさん、どうです?」

「ちょっと待て。こういうのは専門外なんだ」

「私が手伝うわ。あなたたちは先に乗って」

 

専門分野以外はあまり得意ではないハルフォードに協力する形で、リレイナが共に残り他の三人は脱出艇へと乗り込む。

 

「システムが書き換えられてる?【ブルーコスモス】の仕業かしら」

「まったく、余計なことを!」

 

書き換えられたシステムを再構築しつつ、二人は脱出するための工程を進めていく。だが、その間も【ブルーコスモス】は迫っていた。

 

突然鳴り響く銃声に、二人は身をすくませる。

 

「気付かれたか!」

「急ぎましょう!」

 

防火扉を壊そうと【ブルーコスモス】は、しゃかりきになって銃弾を叩き込んでいた。だが、中々壊れないことに業を煮やし、ついには爆弾を持ち出してきた。

 

「フォードさん、リレイナさん!急いでください!!」

「急かすな、ウェーガー!」

 

近付いて来る【ブルーコスモス】に気付き、ウェーガーは二人に急ぐように呼びかける。だが、それは二人も承知している。焦りを必死に抑え込み、二人は作業を急ぐ。

 

「よし、これで!」

「急いで!」

 

だが、遅かった。

 

防火扉は爆弾で容易く吹き飛ばされると、武装し怒りをにじませた【ブルーコスモス】が押し寄せてきたのだ。

 

「フォードさん!」

「ちっ!」

 

ハルフォードはリレイナは管制室に引き返すと、中にあった机や椅子などで入り口をふさぐと脱出艇に通信をつなげる。

 

「ウェーガー、私たちのことはいい。行け」

「そんなこと、出来るはずが!」

「お前らまで死んではいかん!お前たちまでいなくなってしまえば、ゼファーはどうなる」

「フォードさん……」

 

唇を強く噛み締め、受け入れがたい現実に直面するウェーガー。だが、ハルフォードの言葉通りそうするしか無いということも理解できるのだ。

 

ゼファーはゆっくりと歩み寄り、モニター画面の前に出る。

 

「ヒュバート博士……」

「ゼファー、私たちは一緒に行くことは出来んようだ。私からの願いだ、ゼファー。これからは、銃を捨て平穏に生きてくれ。人類には、まだ希望と未来があるはずだ!人を信じろ、ゼファー!」

「博士……」

 

幼いとはいえ、高い頭脳を持つゼファー。だからこそ、今の現状が理解できる。だが、ゼファーにとって長年の親代わりだった二人を失うことに、抵抗が無いわけではない。

 

ゼファーの瞳には浮かぶ涙を見て、ハルフォードは微笑みを浮かべる。

 

「泣くな、ゼファー。私たちとはこれで最後だが、私たちはお前を見守っている」

「…………」

「行け、ウェーガー!ゼファーを頼むぞ!!」

「くそっ……!」

 

ウェーガーは脱出艇のスイッチを押していき、操縦桿を握ると流れる涙も拭わず正面を見据える。

 

その時、ついに扉が破られ【ブルーコスモス】たちのいくつもの銃口が二人に向けられる。無慈悲に引かれる引き金。その様子を、ゼファーは目撃してしまった。血に濡れ、血に倒れ伏す二人の姿を。

 

「お父さん!お母さん!」

 

ゼファーの叫びは、薄れ行く意識の二人の耳に確実に届いていた。血を吐きながら、ハルフォードは小さく笑みを浮かべる。

 

「(こんな私たちを、親と呼んでくれるのか……。さらばだ、息子よ……)」

 

 

 

 

 

クルーゼによって明かされた、レオハルト最大の秘密。

 

研究データのために行われた、ユーレン・ヒビキ主導による遺伝子配合計画。その唯一の傑作にして失敗作。まだ未熟な技術故に、生まれてきたレオハルトはテロメアに異常を持って産まれてきた。

 

その唯一の欠点を除けば、レオハルトの能力はあらゆる面で【最高のコーディネイター】キラ・ヤマトを上回っている。

 

だが、ユーレン・ヒビキにそれを見過ごすことは出来なかった。だからこそ、ユーレン・ヒビキはレオハルトに失敗作の烙印を押し、以降はデータのためだけに生かし続けた。

 

レオハルトはリベラント夫妻と共に【プラント】に着き、定住。念を入れ、ゼファーは名前を変え、リベラント姓を名乗ることになった。

 

その時、レオハルト・リベラントという男が生まれたのだ。

 

クルーゼはドラグーンを呼び戻し回収すると、沈黙を貫くレオハルトに再度言葉を投げかける。

 

「さあ、レオ!私と共に、この腐った世界に復讐しようではないか!!」

 

クルーゼがドラグーンを回収したことで猛攻は止み、レオハルトはクルーゼと向かい合う。レオハルトの返答が気になるのか、キラまでもが動きを止めてしまう。

 

親友からの誘いの言葉。レオハルトはその言葉に目を閉じて頭の中で反芻すると、目を開けはっきりと答える。

 

「断る」

「何?」

「断ると言ったんだ。俺は、そんなくだらないことに興味ない」

「……予想していたとはいえ、残念だよ。実に残念だよ、レオ!」

 

瞬間、二人は同時に動く。幾度も交差し、その度にぶつかり合う両者のサーベル。

 

その時、二人の戦闘にキラがバラエーナで横槍を入れる。二人は同時に後方へ下がると、レオハルトはドラグーンを解き放つ。

 

クルーゼは半数をキラに、レオハルトは三基のドラグーンをキラに差し向ける。無論、残りは目の前の相手に。

 

バイザーの奥で、紅金に妖しく光るレオハルトの瞳。だが、徐々にその瞳に変化が表れ始めた。二色が複雑に混じり絡み合っていた瞳が、次第に調和し始めたのである。

 

「これほど腐った人類に何の意味がある!どれほどの価値がある!そんなものは無い!!欲望と欺瞞に満ち溢れたこの世界で、何を信じる!何故、信じる!!」

「違う!人は、人はそんなものじゃない!!」

「何も分かっていないな、君は!いつかは、やがていつかはと愚かな幻想に踊らされ、どれだけの命を奪ってきた!!我々のような存在を生み出し、幾星霜も争いを続ける!救いようがないな、ヒトは!世界は!!」

 

この場に味方は居らず、敵しかいない三つ巴の状況。

 

クルーゼとキラがぶつかれば、その隙を狙いレオハルトは二人の撃墜に動く。クルーゼは【プラント】を裏切り危険にさらした人間として罰を。

 

キラが弟だろうと関係ない。所詮は遺伝子上の弟。レオハルトはキラに対して家族の情など無く、あるのは敵という認識だけである。それはキラも同じことではあるが、引き金に掛けられた指には多少の迷いがあった。

 

キラはレオハルトを討つことに理由が無いのだ。そのため、キラはレオハルトに対しては最低限の攻撃に徹しクルーゼを討つことに全力を注ぐ。

 

だが、そんな甘さが通用するほどレオハルトは容易くは無い。クルーゼからの攻撃が一瞬止んだ瞬間、レオハルトは猛然とキラへと斬りかかる。

 

キラは後方へと距離を取り振り下ろされたテュルフィングを避けるが、息つく間もなくレオハルトはアスカロンとレシェフをドッキングさせブリューナクで追撃する。

 

「(!? 押されてる!?)」

 

キラはシールドで防ごうと試みるが、ブリューナクは強力なエネルギーを圧縮して撃ちだされたビームである。ブリューナクの予想外の威力に驚きつつ、ビームは無効化したが衝撃を防ぐことは出来なかった。

 

ブリューナクの威力にキラは後ろへと吹っ飛び、さらなる追撃のためドラグーンを動かすレオハルト。その時、レオハルトの頭の中に閃きが駆け抜ける。

 

レオハルトは機体をバク転の要領で後方に回避した途端、その場所をProvidence(プロヴィデンス)のドラグーンから発射されたビームが左右から飛んでくる。

 

それだけで終わるはずもなく、続け様に飛んでくるビーム。だが、避けるのが精一杯だった先ほどとは違い、レオハルトは退路を塞ぐようなクルーゼの攻撃を難なく躱していく。

 

「(なっ!?レオとはいえ、この攻撃を……!まさか……!)」

 

全周囲モニターに向けて忙しなく動き回るレオハルトの瞳。三六〇度、全方向から迫るビームをレオハルトはその瞳ですべてを見通し回避する。

 

クルーゼとレオハルトのドラグーンによって防戦一方のキラと同様、クルーゼはレオハルトのドラグーンを避けながら驚愕に表情を歪める。

 

だが、その間もレオハルトの動きは異常と言う他無かった。厳しいクルーゼの攻撃を避けつつ、レオハルトはクルーゼとキラに向けているドラグーンを完璧に操っているのだ。

 

それも含めて、クルーゼは驚いているのだ。キラは、二人の攻撃の前にそんな余裕は無かった。驚愕するクルーゼは、レオハルトの異常ともいえる目の前に現実の理由に思い至る。

 

「……ついに覚醒したのか、レオ!!君の内に眠る【Origin(オリジン)】が!」

「そこまで知っているのか、ラウ」

「知っているとも!【Origin(オリジン)】とは、云わば【根源】!(レオハルト)から零れ落ちた雫が、【SEED()】となった!その種が君の兄弟に宿るとは、因果なものだな!!」

 

レオハルトの内に宿るのは【Origin(オリジン)】。レオハルトという器から溢れ出た雫が、【SEED()】となった。

 

それは運命の悪戯か。あるいは、すべては予定調和の範疇か。それは誰にもわからないが、何の因果か【SEED()】はキラの内に宿っている。

 

SEED()】は元々、レオハルトの【Origin(オリジン)】から生み出されたもの。そのせいだろうか、二人がこうして戦場で出会ったのは。

 

紅と金が複雑に混じり合い絡み合っていた瞳が、今ではオッドアイに変化していた。その瞳でレオハルトはあらゆる攻撃を見通し、戦闘を優位に進めていく。

 

「【プラント】は俺の第二の故郷でもある。故郷の脅威は排除するぞ、ラウ!」

 

レオハルトとクルーゼはまるで示し合わせたかのようにドラグーンを回収すると、猛攻を受けていたキラも含め三者三様に動く。

 

レオハルトは、クルーゼへと向かうキラに素早く接近し蹴りを喰らわせようと試みる。しかし、キラはすぐに反応すると、クスィフィアスで牽制する。

 

だが、牽制程度の攻撃で止まるほどレオハルトは柔ではない。クスィフィアスを容易く避けると、右手にテュルフィングを抜剣し斬りかかる。

 

「僕に、あなたと戦う気は!」

「いつまでそんな甘いことを言うつもりだ!討たなければ討たれる!そう考えたから、お前はここまで生き残ってきたんだろう!!命を奪ってきたから、お前はここにいる!!」

「僕は……!っ!!」

 

キラは大きく上方に動いて避けるが、クルーゼのユーディキウムから撃たれたビームが追い打ちをかける。キラはシールドで防ぐと、すかさずルプスで反撃。

 

「ちぃ!」

 

ルプスを避けたクルーゼに、今度はレオハルトがアスカロンを撃ち込む。クルーゼは舌打ちをすると、機体を反転させ避けると再びユーディキウムを発射。そのままドラグーンを分離する。

 

「何故だ、レオ!何故、そこまで人を信じる!希望を持てる!!私たちは、同じ絶望を味わった者だろう!!」

「……それは否定しない。真実を知り、俺も絶望した」

「では、何故だ!何故、復讐しない!ヒトに!世界に!!」

「人を信じろ。ヒュバート博士の遺言でもある。何より、お前を始めとした多くの仲間が信じさせてくれた」

「…………」

 

Providence(プロヴィデンス)から放たれたドラグーンが、レオハルトとキラに向けられる。レオハルトは撃たれるビームを避けながら、クルーゼからその心の内を問われる。

 

「レーン、ウェード、アイラ、リックス、アルド、クイラ、バークス。そして、フィシアにラウ。お前らがいたから、俺は心の底から憎しみを捨て前を向くことが出来た!お前にも出来たはずだ、ラウ!!」

「……そんなものは幻想だ!そんなものは一時の夢だ!!夢はいつか覚める!愚かな幻想に囚われているに過ぎん!!欲望と偽善に支配された生き物、それがヒトだ!!」

「憎しみに囚われ視野が狭いぞ、ラウ!その視野の狭さが、この状況を招いた!その結果、お前は死ぬ!俺に討たれてな!!」

 

レオハルトの訴えにクルーゼは表情をやや引きつらせながらそう叫ぶと、分散していたドラグーンをすべてレオハルトの攻撃に回す。

 

レオハルトはシールドを投げ捨てると、左手にもテュルフィングを抜剣し迫ってくるドラグーンに斬りかかる。素早く動き回るドラグーンの軌道をレオハルトは予測し、ビームを撃つ前にテュルフィングを振るう。

 

一つ、また一つとレオハルトによって破壊されていくドラグーン。それは、レオハルトのドラグーンも同様だった。キラに向けていたドラグーンが破壊されてしまったのだ。

 

「ちっ、さすがにやる!」

 

レオハルトはクルーゼだけに割り当てていたドラグーンを、二人に割り当てることにして対処する。だが、数と向かってくるビームが減ったことでクルーゼとキラは飛んでくるビームの隙間を縫い攻撃を加えていく。

 

「あなたの言っていることは間違っている!僕は認めない!!」

「君がどう言おうが考えようが、事実は変わらんさ!!醜く欲深い、それがヒトだということはな!!」

 

レオハルトはドラグーンを回収し近距離戦で二人の戦いに乱入しようと瞬間、レオハルトの元にバルドリッヒからの電文が届く。

 

「(【ジェネシス】が地球に!?ちっ、それだけは避けたいところだ。急げ!)っ!?」

 

通信内容に驚きつつ、レオハルトはヤキンに止めに向かった少年を思い浮かべた瞬間、ユーディキウムのビームが迫る。シールドを投げ捨てたレオハルトに、それは防ぐ術は無い。

 

防げないのならば、防がなければいいだけの話。レオハルトはテュルフィングでビームを切り払うと、二人の撃墜を急ぐ。

 

三人が三つ巴の戦いを繰り広げている中、一人の隊長が密かに動き出した。

 

後詰として待機していた、ラミリア・オリンベルが隊長を務めるオリンベル隊。隊長である彼女はチラッと時計を確認すると、戦闘開始からかなり時間が掛かったことを確認。

 

さらに、彼女の元に届いた連絡に笑みを浮かべる。

 

「オリンベル隊、行くわよ」

「了解!」

 

ラミリアの言葉に部下たちは笑みを携え答えると、ラミリアを先頭に六人の男たちがその後ろを歩き始めた。

 

「場所は?」

「調査済みです。第十三隔離エリアです」

「フフッ、VIP待遇みたいね」

「そのようで」

 

【プラント】には第一から一二までの隔離エリアがある。これらに収容されるのは政治犯やそれに近い犯罪を犯した者たち。

 

だが、それよりさらに上の反逆罪などの特別な人間を収容するのが、第十三隔離エリア。そしてここに収容されているのは、パトリックの指示で動いた司法局によって捕らわれた議員たちがいる。

 

部下に問いかけたその返答に、ラミリアは皮肉の笑みを浮かべる。

 

「邪魔をする人間は制圧しなさい。でも、殺傷は禁じるわ」

「了解」

 

目の前にある重厚なゲート。このゲートの向こうに、ラミリアの目的が存在する。

 

ラミリアの存在に気付いたのか、ゲートの両端に居た緑服兵たちは目配せをすると同時にカードキーを通しロックを解除する。

 

「無いとは思うが、誰か来ても通すな」

「はっ!」

 

ラミリアはゲートを解除した二人に短くそう告げると、そのままゲートの奥へと進んでいく。重厚なゲートが閉じると、部下たちは隠していたポンプアクション方式のショットガン手にする。

 

ラミリアから殺傷は禁じられているため、ワイヤーを必要としないワイヤレスタイプの電気ショックガンである。撃ちだされた特殊な弾頭が人間に命中すると、四十万ボルトの電流が流れる。

 

四十万ボルトになると厚手の服も意味が無いため、軍服程度の服などは問題無い。

 

その時、ラミリアたちの前に隔離エリアを護る兵が現れる。

 

「ここは立ち入り禁止だ!一体何の用件でここに!」

「クーデターの手伝い、かしら」

「何を言って……!」

 

瞬間、銃声と共に男は身体を痙攣させその場にうずくまる。四十万ボルトによって身体が言うことを聞かなくなったのだ。

 

「あ、が……」

「おとなしくしていなさい。すべてが終わるまで」

 

ラミリアは地面にうずくまる男を無視して、さらに奥へと歩いていく。その後ろで、部下の一人が男の首を絞め気絶させる。

 

ラミリアは邪魔する者を排除していき、ついに最奥の第十三隔離エリアに到着する。ラミリアは事前に侵入していた仲間にロックを解除させると、収容されていた議員たちを解放する。

 

「助けに参りました、カナーバ議員」

「待っていたぞ、オリンベル隊長。状況は?」

「すぐに説明致しますが、まずはここを出ましょう。部下が先導します」

 

ラミリアは救出した議員たちを部下に先導させて脱出させ、その後をラミリアも追いかける。

 

「……さて、終わりにしましょう」

 

 

 

 

その頃、因縁の三つ巴戦も終わりが近付いていた。

 

Freedom(フリーダム)は左腕を損傷し、Providence(プロヴィデンス)Finis(フィニス)に目立った損傷は無いもののドラグーンをほとんど失っている状況だった。

 

それぞれが極限状態での厳しい戦闘に肉体的・精神的にも限界が近く、決着の時は近い。

 

レオハルトは右手にレシェフ、左手にテュルフィングを手に、Freedom(フリーダム)に急速に接近しテュルフィングを振るう。振り下ろされたテュルフィングは避けられるが、すかさずレオハルトはレシェフを向け引き金を引く。

 

だが、すぐにレオハルトもその場を離れる。クルーゼがユーディキウムを発射したためである。キラはクルーゼにバラエーナを、レオハルトにはクスィフィアスを発射する。

 

「実に愚かだ!真実を知りながら、真実から目を背けるとは!!目を背けたところで変わらない!何一つな!!」

「背けたつもりはない!すべてを受け入れた上での答えだ!!」

「そんなあなたの理屈……!!」

「理屈ではなく、真理だよ!!君たちのそれは信頼ではなく、君たち自身の願望だ!自らが信じがたいがために真実から目を背け、幻想にその身を投じるか!確かに、それがヒトという生き物だ!だからこそ、ヒトは愚かなのだよ!!」

 

レオハルトはアスカロンを向けるが、クルーゼがいち早くその行動を察知しユーディキウムからビームが放たれる。

 

しかし、レオハルトは寸前にアスカロンとの連結を解除。アスカロンが後方で爆発するのも気にせず、クルーゼに突っ込んでいく。

 

だが、その前にレオハルトは後方から嫌な気配を察し横に動く。すると、その場所をバラエーナが通り過ぎていき、バラエーナはそのままクルーゼに向かっていく。

 

レオハルトをブラインド代わりにした、キラの攻撃である。直前までレオハルトがブラインドになっていたことでクルーゼの反応が遅れ、直撃は免れたものの右脚を損壊する。

 

「…………」

 

損傷を受けたというのに、クルーゼの視線がわずかに下に動くと顔に笑みが浮かぶ。レオハルトが振り下ろしたテュルフィングを躱すと、クルーゼはわずかに残った三基のドラグーンで迎撃する。

 

「ククッ……」

「何がおかしい、ラウ」

「笑わずにはおれんよ、レオ。君たちの努力も空しく、【ジェネシス】が止まることはない」

 

不敵な笑みを浮かべ小さく笑い声を上げるクルーゼに、レオハルトは怪訝な表情を浮かべその真意を問いかける。

 

クルーゼから返ってきた答えに、レオハルトの表情が晴れることは無い。それは、キラも同じ気持ちだった。

 

「間もなくヤキンは自爆する!それと同時に、【ジェネシス】は地球に向けて発射されるのだ!地上は地獄と化し、人々の怒りと悲しみは新たな戦いの狼煙となる!!憎み争い、その果てに滅ぶがいい!!」

「そんなこと……!!」

「ヒトの愚かさ故の結末だ!間もなくだ!間もなく、すべてが終わる!【ジェネシス】が地球に発射されることで、私の目的は完遂される!!終わることのない戦いの世界に、人々は堕ちる!!」

「ラウ・ル・クルーゼェーーーーっ!!」

 

瞬間、レオハルトの内に眠る【Origin(オリジン)】が完全に覚醒。瞳の輝きが一層増すと、Finis(フィニス)は瞬時にクルーゼとの距離を詰めると素早く振られたテュルフィングによって、Providence(プロヴィデンス)の左腕を付け根から斬りおとす。

 

さらに、レオハルトは視界の端で飛ばしていたドラグーンでキラに猛攻撃を与えていく。【Origin(オリジン)】が完全覚醒したレオハルトの攻撃はすさまじく、キラは防戦一方に陥る。

 

残ったドラグーンはわずかに四基。だが、ドラグーンの速度は異様という他無く、キラは頭部と右脚を破壊される。

 

「すべてを見届けるまで、私は死なん!死ねんのだよ、レオ!!」

「貴様は脅威だ!【プラント】にとっても、地球にとってもな!!」

 

左腕を斬りおとされすぐに距離を取るもレオハルトは即座に追撃。クルーゼはユーディキウムで牽制しレオハルトを近付かせまいとするが、レオハルトは止まらない。

 

連射される攻撃とドラグーンの攻撃を紙一重で躱しながら進んでいくが、そのうちの一発がFinis(フィニス)の右腕を貫く。右腕が吹き飛び機体は体勢を崩すが、レオハルトはそんなことはお構いなしにフットペダルを踏み込む。

 

クルーゼは複合兵装防盾システムの巨大なビームサーベルで、斬りかかるレオハルトと激しくぶつかり合う。互いに素早く動きながらもぶつかり合う両者。

 

幾度か斬りあった時、ついにその時が訪れる。

 

Finis(フィニス)のビームサーベルがProvidence(プロヴィデンス)のコックピットを貫き、、Providence(プロヴィデンス)の巨大なビームサーベルがFinis(フィニス)のコックピット部分の表面を切り裂いた。

 

機体を切り裂かれたことで露出するコックピット。さらに、互いのコックピットで巻き起こる機器類のショートと激しい衝撃。

 

クルーゼの腹部には飛び散った破片が突き刺さり、レオハルトは太腿に破片が頭部からも血が流れる。

 

「……ラウ。人間は、まだ捨てたものじゃない……」

「…………」

 

その時、ついに起こってしまった。。ヤキンの自爆と同時に、【ジェネシス】が大爆発を起こしたのである。長い戦闘によっていつの間にか、Finis(フィニス)は【ジェネシス】の発射口前に立っていた。

 

レオハルトが発射口に視線を移すと、【ジェネシス】が発射されるのがレオハルトの瞳に映る。すぐに離脱しようと試みるも、目に入ってしまった血と太腿の痛みで行動が遅れる。

 

「(マズい……!!)」

 

レオハルトがそう認識する間に、【ジェネシス】が発射。レオハルトが死を覚悟した瞬間、機体が激しく揺さぶられ吹き飛ぶ。

 

その時、レオハルトの耳に友の声が届く。

 

「さらばだ、親友(レオ)……」

「ラウーーーーーーっ!!」

 

いくら最新鋭の機体とはいえ、【ジェネシス】の攻撃に耐えられることもなくProvidence(プロヴィデンス)は瞬く間に損壊。そして、Providence(プロヴィデンス)の源でもある【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】が核爆発を起こし、視界が真っ白に染まる。

 

広範囲に及んだ核爆発はやや離れた距離に居たキラをも巻き込み、二人の機体は核爆発によって機体の至る所が大破。

 

スラスター・バーニア共に破損しまともに動くことが出来ずに行動宇宙を漂っていると、Finis(フィニス)の通信機から声が聞こえてくる。

 

「宙域の【ZAFT】全軍、並びに地球軍に告げます。現在、【プラント】は停戦協議に向けて準備を進めています。そのため、【プラント】臨時最高評議会は現宙域でのすべての戦闘行動の停止を要請します」

 

ひどい雑音が混じりながらも、前後の文章を予想して何となく意味を察したレオハルト。レオハルトはシートに身体を預けると、虚空に向けて右手を伸ばし力強く握り締めた。

 

「……ラウ。俺は手にしたぞ、俺の未来を。未来は俺たちのものだ。お前の未来は、お前のものだったのに」

 

レオハルトが掴んだもの。それは、未来。未来は他の誰でもない、本人のものである。未来をどうするかは、自分次第。

 

クルーゼは過去を憎しみ過去に生き、レオハルトは過去を受け入れ未来に生きた。

 

一歩間違えれば立場が逆だったかもしれない。大きく違うようで、些細なズレ。一つのボタンの掛け違いが、二人の未来を決定付けてしまった。

 

「俺は生きるぞ、ラウ。命ある限り。お前の分まで」

 

遠くから聞こえてくるMSの駆動音を聞きながら、レオハルトは静かに目を閉じる。その頬に、一筋の涙が流れる。

 

「(親友(ラウ)、先に逝って待っていろ。俺も……いつかは……)」

 




ちょっとキラが空気になってしまっていますね。特に最後。

もっと会話を挟みたかったんですけど、メインはレオハルトとラウです。
それを考えると、こんな感じになってしまいました。

ようやくこの小説も完結するということで、次回作のことも考えなければいけませんね。
まあ、気張らずに頑張っていきましょうか。
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