機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~   作:Pledge

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Mission - 3 送る者、逝く者

 ハルングの言葉にレオハルトは言葉を失うも、すぐに我に返るとハルングに詰め寄り矢継ぎ早に質問を投げかけていく。

 

「何故、ユニウスセブンに…!一体誰が!?住民は!?」

「…早朝、連合軍が侵攻を開始。撃ち込んだ理由は、分かるだろう?【ブルーコスモス】だ」

 

 【ブルーコスモス】とは、反プラント・反コーディネイター思想を持つ主義者の総称であり、その考えに賛同する者は民間人だけでなく、地球連合軍上層部にも存在している。

 

 彼らは【青き清浄なる世界のために】をスローガンとし、コーディネイター排斥のためには武力行使をもいとわない連中で、各地では【ブルーコスモス】によるテロが頻発している状況だ。

 

「【ブルーコスモス】……!ですが、あそこは軍とは何の関係も…!!」

「奴らにそんなことは関係無い。肝心なのは、我々コーディネーターを殺せるかどうかだ。だが、そのために核まで使って来るとはな……!評議会もさすがに予想外だったようだ!」

 

核。人類が開発した、大量破壊兵器。

 

 そんなものを使ってまで、コーディネーターを滅ぼしたいと思っているのだ、【ブルーコスモス】は。自身らの唱える【青き清浄なる世界】のために。

 

「ハルング、ザラ国防委員長がお呼びだ」

「わかった。すぐ行く」

 

 名前を呼ばれたハルングが振り返ると、そこには黒服を着た黒髪の男性が立っていた。

 

 彼はレイ・ユウキ。非常に優秀な人間で、【プラント】を護る人材を育成している士官アカデミーの教官も務めている。

 

「恐らく、これから我々は攻勢に出る。そのための話だろう。後日、改めて部隊を召集する。それまでは、待機だ」

「…はっ」

 

 ハルングはユウキと共に背を向けて歩き出すと、レオハルトも踵を返して帰宅するのだった。

 

 レオハルトの頭の中には【ユニウスセブン】に赴いていたはずの友人、フィシア・クリアーナのことを考えていた。

 

「(俺たちは軍人だ。死ぬ覚悟は出来ている。それは、あいつも同じだろう。だが……。こんな形で、逝くことになるとは……!シア……)」

 

 大切な友人の無事を願いながらも、生きている可能性が低いと言うことも理解しているレオハルト。

 

その日は結局、眠ることが出来なかった。

 

 

 

 

アプリリウス市 議事堂 評議会室

 

「皆さん。すでにご存知のことと思いますが、地球連合軍の手により【ユニウスセブン】に核が撃ち込まれました。核の砲火によって、24万3724名もの命が失われました」

「断じて許せん行為だ!!」

「このままにはしておけん!!報復だ!!こちらも核を撃ち込むべきだ!!」

 

【ユニウスセブン】崩壊の報を受け、プラントは緊急で会議を開かれた。

 

 椅子から立ち上がりまず口を開いたのは、【プラント最高評議会議長】シーゲル・クラインである。

 

 議会では穏健派として通っており温厚な性格をしているが、今回ばかりはその表情には厳しいものが浮かんでいる。

 

 シーゲルの言葉に続き、他の評議会の議員たちが口々に強硬姿勢を貫くべきだという発言をする。

 

「我々まで核を撃ち込んでは、核の撃ち合いになってしまう。それでは、我々の未来は滅びだけだ!」

「ならばどうするのだ! 我々は24万余りもの人名を一瞬で失なったのだぞ!報復することは絶対だ!!奴らにも同等の、いや。それ以上の痛みを強いるべきだ!」

「ですから!そんなことをすれば、彼らはまた核を撃ってきます!報復と同時に、相手の行動を封じる必要があります!」

 

 会議はどんどんヒートアップしていき、議員たちの怒号が飛び交う。だが、その中で腕を組み目を閉じた状態で口を開かない男がいた。

 

 男の名はパトリック・ザラ。【プラント国防委員長】にして、シーゲルの穏健派とは逆の強硬派として通っている。

 

 パトリックの表情は非常に厳しいものであり、ナチュラル殲滅を主目的として掲げるパトリックが口を開かないことに、シーゲルは疑問を覚えた。

 

「静粛に!…パトリック、君はどう思う」

「…私は、三つの柱からなる【オペレーション・ウロボロス】の実行を提案します」

「具体的には?」

「我々は宇宙ではプラントが拠点として存在しているが、地球には存在していません。先のことを考えれば、地球にも軍事拠点を持つことは必要不可欠。そのため、地球での橋頭保の確保」

 

 パトリックの言葉に、議員たちは黙って頷く。この点に関しては、全員が思っていた共通認識であると言える。

 

地球軍が宇宙に来るのを待っているだけでは、戦争に勝てるはずも無い。勝つためには、侵攻することも重要となってくる。

 

だが、【ZAFT】には地球での拠点が存在しない。侵攻の度に部隊を降下していると、次第に対策も取られ時間も掛かる。

 

そのため、地球に拠点を確保するのはこれからの戦争において最重要課題と言えるだろう。

 

「二つ目。奴らを地球に封じ込めておくため、宇宙港やマスドライバーの制圧。これが実現すれば、我々にとって大きな優位性(アドバンテージ)を持つことが可能となります」

「なるほどな。それで、三つ目は何だ」

「これが最大の目的となります。三つ目、ニュートロンジャマーの地球への散布」

「!!」

 

 セクスティリス市代表のオーソン・ホワイトが開発した、ニュートロンジャマー。通称、Nジャマー。

 

 Nジャマーの影響下では、自由中性子の運動を阻害することにより全ての核分裂を抑制する。このため、核ミサイルをはじめとする核分裂兵器、核分裂エンジン、原子力発電などは使用不可能に陥る。

 

 さらにその副作用として電波の伝達が阻害されるため、それを利用した長距離通信や携帯電話は使用不可能となり、レーダーも撹乱される。

 

 これにより精密誘導兵器が使用不可能となり、戦場は再び有視界接近戦闘の時代を迎えることになる。そして、その環境下で最も有効な兵器となるのが、【ZAFT】のMSである。

 

「そんなことをしたら、地球のエネルギーが!」

 

 他の議員たちが言葉を失う中、驚愕の表情をしていたシーゲルは立ち上がり声を荒げる。

 

 現在、地球上に存在する各国家では原子力発電がエネルギーの大半を占めている。Nジャマーによって核分裂が封じられ原子力発電が停止すれば、地球を深刻なエネルギー不足が襲うことになる。

 

「パトリック!そんなことをすれば、民間人にも死者が出る……!」

「すでに出ているではありませんか!我々は!!戦争とは何の関係もない【ユニウスセブン】で、24万余りの人命が!!一瞬で!」

「だが…!!」

「二度と撃たせてはならんのだ!!失わないために!!友を、仲間を、家族を!そして、愛した者を!!」

 

 反論しようと立ち上がったシーゲルだったが、反論しなかった。反論出来なかったのだ。

 

 【ユニウスセブン】にはパトリックの妻である、レノア・ザラが在住し農業を営んでいた。だが、彼女はすでにこの世に存在しない。核によって、帰らぬ人となってしまった。

 

それを分かっているからこそ、シーゲルは何も言うことが出来なかった。

 

「シーゲル。いや、クライン議長。決を」

「…ザラ国防委員長の意見に賛成の者、起立を」

 

 シーゲルの言葉により決議が行われ、結果は賛成多数で可決。パトリック・ザラの提唱する【オペレーション・ウロボロス】の実行のための、莫大な費用の投入が決定。

 

 その後の会議で、【オペレーション・ウロボロス】の実行を最後に、シーゲルの提案により【プラント】は核攻撃を受けた者として、核の永久放棄が決定されたのだった。

 

 

 

 

C.E70年2月18日

 

 この日、【ユニウスセブン】で失われた24万3724名のための国葬が行われた。国葬の様子は市街の大型テレビなどでリアルタイムで中継されている。

 

 国葬の会場は非常に広く一番の奥の祭壇には花が手向けられ、その前には【ZAFT】の軍人が整列。祭壇の左右には評議会の人間の姿があった。

 

「民間人を核で焼き払ったナチュラル共を、許すことなど出来るはずがない!!このような悲劇を二度と起こさないためにも、我らは闘わねばならない!! 我らの自由を勝ち取るために!!我らの未来のために!!彼らの犠牲を無駄にしないためにも、我らに勝利を!!」

 

 シーゲルの後に行われたパトリックの演説は、【ユニウスセブン】で頂点に達したナチュラルへの敵対心をさらに煽る形なった。

 

 祭壇近くの列にはレオハルトとクルーゼの姿があり、二人の視線は壇上に立つパトリックへと向けられ静かに演説を聞いていた。

 

 パトリックの演説が終わると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。会場に居る者だけでなく、全コーディネイターの気持ちはただ一つ。

 

憎しみと怒り。核を撃つという暴挙を行った、ナチュラルへの憎悪である。

 

 【ユニウスセブン】に友や家族、愛した者がいたかもしれない。それら大切な人間を一瞬にして失い、奪われてしまった彼らの気持ちを計り知ることは出来ない。

 

「【プラント】の勇敢なる【ZAFT】の諸君!諸君の力を、【プラント】を護るために貸して欲しい!」

「はっ!!【ZAFT】のために!!」

 

会場に集まった【ZAFT】の声が揃い、誓いを新たにするのだった。

 

 

 

 

 国葬終了後、レオハルトとクルーゼは今にも雨が降りそうな天気のなか墓地にいた。二人の目の前にある墓石には、一つの名が刻まれている。Fishia・Klianaと。

 

 レオハルトの予想通り、フィシアは当時【ユニウスセブン】内にいたことがわかっている。

 

 【ユニウスセブン】を出た記録も無く、当然別の【プラント】コロニーに入った記録も無い。そのため、彼女は死亡と認定。こうして墓石が作られている。

 

「これほど早く、友を見送ることになるとはな」

 

 クルーゼの呟きに対して、墓石を見つめるレオハルトからの答えは無い。何も言わないレオハルトに違和感を覚え、クルーゼはレオハルトへと視線をやる。

 

「何を考えている、レオ」

「何も」

「そうは見えないな。私には、君から憎しみと怒りが溢れているように見えるよ」

「…無意味だ、憎しみや怒りなど。俺たちはただ、敵に銃口を向け引き金を引くだけだ」

 

 感情の無い、無機質の口調。だが、クルーゼには分かった。付き合いの長い彼だからこそ分かる、レオハルトのわずかな変化。

 

 機戒のようなその口調、表情。溢れ出る感情をひた隠しにしている。クルーゼは直感的にそう感じ取った。

 

「無意味と思うかね?私はそうは思わない。憎しみと怒りは、大きな力となる」

 

その言葉に、レオハルトは横に立つクルーゼへと視線を移す。

 

 だが、クルーゼの表情は仮面に隠され読み取ることは出来ない。付き合いの長いレオハルトでも、クルーゼの感情を読み取ることは難しい。

 

 だが、クルーゼの言葉からは確信が現れていた。まるで、自分がそうであるかのように。

 

「ラウ。お前は、憎しみと怒りで生きているのか?」

「…フッ、私の持論だよ」

「その割には、やけに確信に満ちた言葉だったな」

「おや、そうかね?」

 

 クルーゼは口元に小さな笑みを浮かべるも、レオハルトの言葉を受け止めることはしない。ただ、受け流すだけだ。

 

 レオハルトとしても、クルーゼが話すとは思っていない。親友とも呼べる距離感ながらも、二人の間には決して消えない壁がある。

 

「…どうやら、心の内を明かさないのはお互い様か」

「私もかね?君だけだろう」

 

 二人のその言葉を合図に、再び訪れる沈黙。その時、クルーゼの肩に雨粒が落ちると、クルーゼは作り物の空を見上げる。

 

クルーゼは今日が雨となっていたことを思い出し、小雨が降る空からレオハルトへと視線を移し、ゆっくり声を掛ける。

 

「…そろそろ帰るかね?」

「……ああ。……なあ、ラウ…」

 

踵を返し歩き出したクルーゼは呼び止められ振り返った。その時、小雨だった雨が徐々に勢いを増していき、ついにどしゃ降りの雨が降り始めた。

 

レオハルトは徐々に雨足が強くなる空を見上げる、静かに口を開いた。

 

「…雨が…降って来たな……」

「……そうだな。早く帰るとしよう……」

 

 クルーゼは仮面を静かに持ち上げると、レオハルトに背を向け同じように空を見上げた。クルーゼは見逃していなかった。

 

レオハルトの頬に流れる、一筋の涙を―――――。

 

「さよならだ、シア……」

 

 レオハルトはフィシアの墓石に敬礼をすると、同じようにクルーゼも敬礼をする。レオハルトは挙げていた手を下ろし墓から視線を外すと、前に向かって歩き始めた。

 

 

 

同日、地球ではシーゲルの発した声明によって情勢が動いていた。

 

 【プラント最高評議会議長】シーゲル・クラインにより、地球連合非参加国には優先的に物資を提供する【積極的中立勧告】の声明を非プラント理事国である、大洋州連合――オセアニア地域で構成――と、南アメリカ合衆国――ラテンアメリカで構成――が受諾した。

 

 これに危機感を覚えた地球連合は、翌2月19日。南アメリカ合衆国に武力侵攻を開始。パナマ宇宙港を軍事制圧し、南アメリカ合衆国を大西洋連邦に武力併合した。

 

 これは、マスドライバーによる宇宙からの補給が滞ることを恐れた大西洋連邦――北アメリカ・イギリス・アイスランド・アイルランドで構成――が、武力をもって阻止するための侵攻であった。

 

 なお、このさらに翌20日。大洋州連合は地球連合軍の中南米侵攻を批判すると共にプラント支援を表明し「親プラント国家」になった。同日、地球連合軍は大洋州連合に対し宣戦布告を行った。

 

地球の情勢は、大きく動いていた。

 




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