機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~ 作:Pledge
C.E70年2月21日。
【プラント最高評議会】が先日、研究費の投入を決定した【オペレーション・ウロボロス】の中核を担うNジャマー。現時点では、この作戦には邪魔が入ることは間違いない。
【ZAFT】は宇宙にしか存在しないため、軌道上からの降下しか地球への移動方法は存在しない。降下位置がわずかでもズレたら、降下させた人員の危険、最悪の場合作戦に影響が出る場合も考えられる。よって、作戦時に余計な横槍を入れられるのは好ましくない。
そのため【プラント】は現時点で攻略可能であり、かつ邪魔な拠点であるL1のスペースコロニー、【世界樹】攻略を決定。
攻略決定の数時間後には、【プラント】はハルング隊などを含めたナスカ級五隻、ローラシア級十隻。ジン九十機を派遣した。
目的地へと向かう途中、レオハルトとクルーゼは格納庫を見渡せる一室に居た。二人は何をするわけでもなく、整備士たちが動き回る格納庫を眺めていた。
レオハルトには大きな変化があった。肩まであった髪をバッサリ切っていたのだ。今は首よりやや上程度までになっている。
「レオ。何故、いきなり髪を?」
「……“誓い”だ。連合に勝利するというな」
「……シアのためかね?」
いつもの皮肉染みた口調とは違う、真剣さのこもったクルーゼからの問い。その問いに、レオハルトは沈黙する。沈黙、それが何よりの答え。
「…シアのためだけじゃない。【ユニウスセブン】で散った者たちのためでもある。そして何より、俺の選んだ道だ」
クルーゼ同様、レオハルトのその言葉は真剣であり、そして重みがあるものだった。
レオハルト本人は気付いていなかったが、レオハルトはフィシアへ好意を抱いていた。知らぬは本人と、好意を向けられているフィシアだった。
フィシアもレオハルトには好意を持っていたが、自分に向けられる好意には無頓着で、気付いている気配は無かった。
というより、周囲から見たら二人は付き合っているものと認知されていたのだが、レオハルトは否定。フィシアは喜んでいたが、まだアタックの途中と周囲には漏らしていた。それほどまでに二人は仲が良かったのだ。
失ってから初めて気付いた、自らの秘めたる想い。それこそが、レオハルトが墓地で流した一筋の涙の答え。
「……そうか。…さて、私は部屋で休ませて貰うぞ」
「ああ」
クルーゼは身体を翻すと、わずかに顔を顰めながらドアへと向かって行く。だが、その背をレオハルトが呼びとめた。
「ラウ」
「何だね」
「……ちゃんと飲めよ」
「……わかっているさ」
クルーゼは部屋を出ると、レオハルトと相部屋となっている部屋へと急ぐ。その間も、クルーゼの表情はどんどん険しいものとなり、何かに耐えるように胸を掴む。
「ぐぅっ……ぐっ……」
部屋に入ると、自らのベッドの頭側にある小物置きのフタを開け、置いてあった透明で長方形のケースを手にすると、中に入っていた錠剤数粒を口の中に押し込み、ミネラルウォーターで流し込む。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
大きく肩を上下させ、呼吸の安定化を図る。その様子は、長距離を走った後のようで、額からは脂汗が滲んでいた。
「ククッ……。ままならん身体だよ、まったく。…付き合いの長さは伊達ではないな、レオ。おかしな奴だよ……」
クルーゼはケースを元の場所に戻すと、部屋に備え付けられているシャワールームへと歩いて行く。軍服にシャツ、短パンに続いて仮面も籠へ放り込むと、ドアを開ける。
わずかに見えたクルーゼの顔には深い皺が刻まれており、歳に似合わない顔と言える。クルーゼは鏡に映る自身の顔を見て、憎々しげに顔を歪める。
「忌々しい顔だ……!この顔を見ると、嫌でも“ヤツ”を思い出す……!」
クルーゼはそう吐き捨て鏡から視線を外すと、シャワーのお湯を頭から被り、苛立ちを流すのだった。
翌C.E70年2月22日
間もなくL1・【世界樹】到着間近になった時、レーダーが【世界樹】から出てくる部隊を捉えた。
【世界樹】には第一・二・三艦隊が配備されているという、諜報部からの事前の情報があった。その情報通り、確かにそれだけの数が確認出来る。
「敵艦より、MAの発進を確認。MAW-01ミストラル、TS-MA2メビウス!」
「MS隊、発進急げ!」
MAW-01ミストラル。
連合の主力機として活躍しているMAで、徐々にメビウスが増産されつつあるが、未だに主力機としての座を守っているMAである。
敵のMA発進の報告を受け、ハルングもMSの発進を命じた。
MS発進の艦内放送が流れると、一気に格納庫は騒がしくなっていく。次々と艦からジンが出撃していき、【世界樹】が近付くにつれてコンディション・イエロー――警戒態勢を指し、いつでも出撃出来るように待機すること――で待機していたレオハルトとクルーゼも、自分のジンへと移動していく。
ジンのコックピット近くには整備員が待っており、近くまで来た二人の手を引き、通り過ぎるのを防ぐ。コックピットに身体を滑り込ませ手早くジンを起動させると、先にクルーゼが出撃する。
「クルーゼ機、発進位置へ」
「ラウ・ル・クルーゼ、出るぞ!」
シルバーにカラーリングされたジンが、カタパルトによってナスカ級から勢いよく射出される。
レオハルトも順調にジンを起動させつつ、各部のチェックを急ぐ。レオハルトの両手が素早く動き、キーボードを叩いて行く。
「各部チェック、異常無し。全システム、オールグリーン」
「レオハルト機、発進位置へ」
「レオハルト・リベラント、出る」
クルーゼに引き続き、レオハルトのダークグレーのジンが宇宙へと出撃する。先に出撃していたクルーゼらと速度を合わせると、大部隊の連合に向かっていく。
「レオハルト、我々はクレイソン隊と共に左翼を受け持つ。敵は多い。手早く敵を殲滅してくれ」
「了解」
中央と右翼は、素早く展開した別の部隊が対応する。いくらMSとMAの戦力比が三:一とはいえ、連合の物量を考えれば不安要素が大きい。
現に、今【世界樹】に配置されていた部隊数は、【プラント】に最低限の防衛部隊を残すことを考えると、ギリギリ派遣出来る数なのだ。
コーディネイターはナチュラルに比べると少なく、さらに【ZAFT】である数はさらに少なくなってしまう。ギリギリ、あるいは少々無理した数と言える。
「各機、連携して動け。敵は多い。後ろを取られるなよ!」
いつも通り、ハルング隊のMS部隊の指揮を執ることになったレオハルト。レオハルトは回線を開くと、同じ部隊の仲間に檄を飛ばす。
「そういう君もな、レオ」
レオハルトの檄の言葉に返って来たのは、クルーゼの皮肉だった。だが、レオハルトはそんな皮肉にも笑みで答えると、機体の速度を上げ戦場にその身を落とすのだった。
クルーゼ side
私は数機のジンを引き連れ、左翼の外側から攻撃を仕掛けていく。
私は一人突っ込んで行くと、正面からメビウスが二門ある[40mmバルカン砲]を乱射しながら突っ込んでくる。
私は機体を反転させて銃撃をかわすと、すれ違いざまに引き抜いた重斬刀で斬り捨てた。その程度の攻撃、当たらんさ。
瞬間、コックピット内にアラームが鳴り響く。後ろか!
私は機体を上昇させ回避。数秒前にいた場所をメビウスの武装である、[対装甲リニアガン]が通過する。機体を反転させ振り向いた瞬間、再びアラームが鳴り始める。
ちいっ!
私はフットペダルを踏みこみ、素早くその場を離れる。だが、後ろからは有線誘導式のミサイルが追いかけて来る。
その後ろからは、さらに二機のメビウスとミストラルが追いかけて来る。
やれやれ、人気者は辛いものだ!
私が機体を急停止させると、ミサイルは私の急な動きに付いてくることは出来なかった。ミサイルは運悪く、連合のドレイク級に着弾。そこを友軍のジンが攻撃して撃沈させた。
私は、背後から迫る二機の撃墜に向かう。二機から集中砲火を浴びせられるが、私は恐れることなく立ち向かっていく。
二機とすれ違うと、私は機体を上下反転させた状態で重突撃機銃を構えると、旋回して再び攻撃しようとするメビウスを撃墜。ミストラルは素早く距離を詰め、重斬刀で両断した。
周囲を見ると、友軍も敵の物量に苦戦しながらも敵の数を減らしているようだ。
個々の力ならともかく、我々は数で圧倒的に負けている。時間が経てば経つほど、我々の不利と言えよう。
さて、レオも頑張っていることだろう。私もギリギリまでやるとするか。
クルーゼ side
レオハルト side
俺たちが到着してから、すでに一時間以上は経過している。結構撃墜したはずだが、一向に減っているようには見えない。戦況は刻一刻と変化している。…悪い方向に。
友軍の被害も小さくはない。すでにジン三十一機、ローラシア級四隻、ナスカ級一隻を失っている。やはり当初の予想通り、連合の物量は脅威だ。
俺たち【ZAFT】に物量作戦は真似できない。俺たちコーディネイターは、ナチュラルの五百万分の一しか存在しないのだから。
その時、この状況を一変させる通信が入る。
「【ZAFT】全軍に告ぐ。これより、試作兵器の効果実験を行う」
試作兵器!?ブリーフィングではそんなこと…。だが、実戦で試作兵器を使うなんて…。
その時、敵陣に“何か”が向かって行く。その“何か”から、何かが発せられた、ように感じた。
その瞬間、今まで動きまわっていたメビウスの動きが止まった。メビウスだけではない。連合全体に、大きな混乱が見られる。
「敵…【Nジャマー】に……混乱…いる!今…好機…!せん……ろ」
【Nジャマー】?聞いたことがある。確か、核分裂を抑制させる兵器。研究に莫大な費用が投じられたと聞いたが、すでに試作品が完成していたのか。理論だけはすでにあって、それを形にするだけだったのか。
だが何故、通信が阻害されている。【Nジャマー】は通信まで阻害する効果があるのか?いや、考えるのは後にしよう。今は動くべきだ。
俺が先頭を切って動き出すと、動かなくなった敵を易々と撃墜していく。メビウスだけでなく、ミストラルも撃墜していく。
最近はメビウスが増産されつつあるようだが、未だに配備数はミストラルが大部分を占めている。攻略戦などの時には、新型のメビウスを使うようだ。
今は動けなくなった敵を撃破し、後々の戦闘を少しでも有利にするため、数を減らさなければ。
【Nジャマー】使用から三十分後。
【ZAFT】は【世界樹】へとミサイル攻撃を仕掛け、徹底的に破壊。【世界樹】はデブリベルトの仲間入りを果たした。生き残った連合も、【Nジャマー】の効力が切れたことで撤退していった。
今回の戦い、互いに無視できない損害を被った。俺たちは全部隊の三分の二近くを失い、連合も半数以上の戦力を失った。
物量が主体の連合ならとにかく、数で劣る俺たちにしてみたら今回の損害は大きい。連合はすぐに戦力を整え、攻撃を仕掛けてくるだろう。
戦争は始まったばかりだ。気は抜けない。撤退していく連合を見送りながら、俺はそう考えていた。
デュッフェルからの帰還信号が宇宙へと放たれる。それを見ると、周囲の友軍を見渡した後、デュッフェルへと帰還した。
レオハルト side
「【世界樹】での功績を加味し、両名に【ネビュラ勲章】を授与するものとする」
【世界樹】での戦闘を終え、本国に帰還した二日後。
レオハルトとクルーゼは国防委員会に呼び出された。そこで待っていたのは、評議会の人間の他に、議長のシーゲル、国防委員長のパトリックだった。
ここに来るまでの間に、ハルングから勲章を授与することを説明されたレオハルトとクルーゼ。
レオハルトはMA四十五機、戦艦四隻を撃破。クルーゼはMA三十七機、戦艦六隻を撃破したのだ。
この大きな功績により、二人には在来他国軍の2階級特進に相当する、【ネビュラ勲章】が授与された。
丁寧な装飾が施されながらも、豪華さは失っていない勲章がシーゲルの手によって二人の左胸に付けられる。
「これからも期待しているよ」
「ありがとうございます、クライン議長」
「光栄であります、クライン議長」
シーゲルの賛辞に、二人は敬礼をしながら礼を述べる。シーゲルに続き前に出てきたのは、パトリックだった。【プラント】国防のすべてを担っている男だ。
「貴様らには期待しているぞ。【プラント】のために」
「「はっ!」」
パトリックの言葉に二人は直立すると、シーゲル同様に敬礼を返した。同時に、会場には拍手の音が鳴り響くのだった。
次は番外編にしようかな。
それとも、本編を進めようかな。
本編なら、次はグリマルディですね。
今週中には更新したいです。