深夜の艦これSS60分勝負   作:うずしお丸

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もういっちょ!

今度は連載投稿テストです。

連投やテスト投稿NGだったりしたら教えてくださいm(_ _)m

以下、本編になります。


摩耶と猫

 その日は雨が降っていました。コンビニ帰りに、路地裏から奇妙な声が聞こえたのです。

 

「――こらっ! 暴れるなっての!」

 

 こっそりと覗いてみると、人影が見えました。あれは……、誰でしょうか。たしかあの制服は高雄型の……、誰でしたっけ。

 

「この摩耶様のミルクが飲めねえってのかー? 生意気な奴だぜ!」

 

 自分から名乗ってくれました。しかもなんだか怪しげで危なげなことを言っています。こんな人気のない路地裏で何をしているのでしょうか。これが巷で噂の援助なんとかってやつでしょうか。

 

「うにゃあー!」

 

 あれれ、この鳴き声は――。

 

「よーし飲めたな、偉いぞ―。お前痩せっぽちだから、ちゃんと栄養付けなきゃだめだぜー」

 

「うみゃあ!」

 

「よしよし。また明日も摩耶様がミルク買ってきてやるからな!」

 

 高雄型3番艦の摩耶さん。重巡洋艦である彼女は、鎮守府内で主要戦力として数えられています。その姉御気質な性格のために、他の艦娘たちからは近寄りがたい存在とされていたり、逆に一部の艦娘たちからは、頼れる姉貴分として慕われているみたいですね。

 

 そんな話をしていたら、あちらに見えるのは摩耶さんと天龍さんではないですか?

 

「摩耶さーん! この鋼材どこに置いとけばいいっすか―!」

 

「おーう天龍か、遠征おつかれさん! そこに置いといてくれよ。あとは私がやっとくからさ」

 

 うーん、やはり姉御肌ですねえ。

 

 天龍さんが申し訳無さそうに頭を振ります。

 

「いやいやそんな! こんな仕事で摩耶さんの手を煩わせるわけにはいかないですよ!」

 

「あーん? 摩耶様の言うことが聞けねえってのか? いいんだよお前は遠征で疲れてるんだから」

 

「すみません! 恩に着ます!」

 

 深々と天龍さんがお辞儀をしました。こう見ていると、任侠モノかなにかですか? と思ってしまうのは私だけでしょうか。

 天龍さんが手もみしながら言います。

 

「それにしても摩耶さん流石っすねー! また空母落としたんすか! 聞きましたよ、襲い来る敵の艦載機を全て撃ち落とし、奴らの旗艦にズドンと一発!」

 

「そ、そんな大したことじゃねーよ。もともと対空性能が高いだけさ」

 

「いやカッケーっすよ~~~! そういうところもほんと尊敬してます!」

 

「まあ、ありがとな天龍」

 

「はい!」

 

 と爽やかな笑顔で答えた天龍さんはカバン持ちの才能があると思いました。去りゆく摩耶さんの後ろ姿を、キラキラした尊敬の眼差しで見つめています。

 

「かーっ、あそこまで褒められると悪い気はしないけど、なんかこっ恥ずかしいなー」

 

 一人になったところで、頬を赤らめている摩耶さんがひとりごちました。

 

 

 

「えー、静粛に。今週の議題は、第六駆逐艦の子たちが、こっそりと小鳥を飼っていたことについてです」

 

 第一艦隊の秘書官・高雄さんが鎮守府定例会議の進行役を務めています。会議に出席しているのは、提督と第一艦隊に所属している艦娘たちで、金剛さんや摩耶さんの姿も見えますね。

 

「みなさんも御存知の通り、ここの鎮守府は『ペット禁止』のはずです。先日、第六駆逐艦の子たちが小鳥をこっそりと飼っていたことが発覚したことは周知の事実だと思います。あの子たちには悪かったけれど、小鳥は手放してもらいました」

 

 艦娘の中から手が上がりました。

 

「はい。その小鳥さんは焼き鳥になったのですか?」

 

「進行に不必要だと思われる発言は控えて下さい、赤城さん」

 

 真面目に言ったのに……、と赤城さんが拗ねています。

 

「えー、というわけで、これを受けて皆さんの周りにも、動物をこっそりと飼っている艦娘がいないか気を付けてみてください。鎮守府の規則は厳守してもらいますからね。特にわたしたち第一艦隊の中から、規律を破る者が出るわけにはいきませんし」

 

「その第六駆逐艦の子たちはそれで納得してマスカー? 彼女たちにとっては辛い選択だったと思うネー」

 

 金剛さんが発言しました。その特徴的な喋り方は健在ですね。

 

「ええ、ちゃんと話をして、納得してもらいましたよ」

 

 高雄さんがにっこりと微笑みます。含意あるようにも見えますが、気のせいでしょう。泣きわめく第六駆逐艦を「納得している」と評している高雄さんが一瞬見えたのはなぜでしょう。教育ママのような彼女です。偏見で語りすぎですね?

 

「それでは、みなさん特に意見はないですね? 今回の会議はこれで終わり、ということで。最後に提督に一言お願いします」

 

 そうして発言権が提督さんに回されました。この鎮守府の最高責任者である提督さんが重たい口を開きます。冷徹そうな目で虚空を睨みつけています。きっと恐ろしい人なのでしょう。

 

「あの……、ハ、ハムスターは駄目かな」

 

 え、飼ってるんですか? と周りがどよめきました。

 

 

 

「摩耶、さっきの会議ずっと上の空だったけど、どうしたの? っていうか最近出撃しても全然集中できてないように見えるんだけど」

 

「ああ、高雄か。いや、なんでもないぜ。いつも通りの摩耶様さ」

 

「そうは見えないから言ってるんだけどねー。摩耶、最近あなた何か隠し事してない? わたしとしては結構心配よ?」

 

 摩耶さんは一瞬たじろぎましたが、

 

「そ、そんなことないって! 最近ちょっと体調が悪いだけ!」

 

 と全然隠せてないフォローをしました。

 

「まあ、それならいいんだけど」

 

 と言って去っていく高雄さんは分かっているのか分かってないのか、全く分かりませんね。

 

「うーん、困ったなあ」

 

 と摩耶さんが呟きます。

 

 

 

 その日もコンビニ前の路地裏で摩耶さんの姿を見かけました。

 

「うみゃあ」

 

「ほらミルクだぜ」

 

「みゃお」

 

「うーん、このままお前を寮でこっそり飼ってやろうと思ってたんだけどな、会議で駄目って釘を刺されちまって。どうしようかなー」

 

 と言いながら、甘える子猫を優しく撫でています。

 

「みゃんみゃん」

 

「うりうり。可哀想になーお前捨てられちまって。誰か貰い手になってくれないかなー。でも悪いやつに拾われるわけにはいかねーし」

 

「ウニャアデース」

 

「俺も仕事があるから貰い手を探しに行ったり、見張ってるわけにもいかねーし。困ったなー」

 

「マヤも大変デスネー」

 

「うわあ!! 金剛いつの間に!?」

 

 いつの間にか背後に金剛さんが忍び寄っていました。

 

「なんだか最近摩耶さんの調子がおかしかったし、毎晩どこかに出掛けてるナーと思って、気になってこっそりツケてしまったデース! 抜きレッグ差しレッグデスネー!」

 

 と、金剛さんはよく分からないことを言いました。

 

「ば、馬鹿! 金剛、お前ここで見たことは絶対内緒にしとけよ!」

 

「モチのロンデース! こう見えてワタシ口が堅いことで有名なんですヨー?」

 

「そ、そうかい。まあほんと頼むぜ! こいつには私しかいねーんだよ」

 

「ワタシ含めたら二人デスネー。交代制で面倒見てあげるとかどうデスカー?」

 

 金剛さんは屈んでいる摩耶さんに向けてにっと笑います。

 

「へへっ、助かるぜ! サンキュー!」

 

「うみゃお!」

 

 夜の街に猫の声が上がりました。

 

 

 

 ある大雨の夜、土砂降り。突然崩れ出した天候は、にわか雨のようにさっと上がることもなく、延々と大粒の水滴を落とし続けます。全てのものを押し流すように、路上に水が溢れています。

 

「馬鹿野郎! 予報じゃあ雨じゃなかったハズだぞ!」

 

 寝間着のまま鎮守府を飛び出す一人の艦娘。その手には傘が握られていますが、彼女はその傘を差すこともなく、雨の中水に打たれるままに走っています。

 

 コンビニの前の路地裏はほとんど浸水していました。水が溜まりやすい地面なのでしょう。

 

「うっ、マジかよ……。いるか! おい! いたら返事してくれー! メロス―!」

 

 断腸の思いで呼びかけるも、何の声も聞こえません。

 

「おい! 頼むぜ! 生きていてくれよ! メロス! おーい!」

 

「……うみゃあ」

 

 遠くで声が聞こえました。振り向くと、水に流されたダンボールが建物から伸びているパイプに引っかかっています。鳴き声が聞こえたのはその中からでした。

 

「大丈夫か!」

 

 既に服はぐしゃぐしゃ。靴の中にも水が浸水しています。しかしこの程度の荒天、哨戒で慣れていると言わんばかりに、おかまいなしに、彼女はダンボールの方へと駆け寄ります。

 

「にゃお」

 

 良かった……、と胸を撫で下ろした摩耶さんは、持ってきた傘をそのダンボールの上に差しました。雨が止むまで、猫のそばにいてやるつもりなのでしょう。

 

 しばらくして傘を二つ持ってきた金剛さんがやってきました。

 

「シット! 摩耶さんびしょ濡れじゃないデスカー! もうちょっと先のこと考えたほうが良かったんじゃナイ? 一本、ネコちゃん用の傘だったけど、摩耶さん用になっちゃったネー」

 

「気が利くじゃねえかー、流石戦艦様だぜ。もうちょっと高速で来てくれても良かったんだけどなー」

 

 と上目で拗ねるように金剛さんの方を見ました。

 

「ごめんヨー、妹達に拘束されてたんデース。まあ、ネコちゃんが無事で良かったネー」

 

「全くだ」

 

 二人は笑いました。

 

 そうしてしばらく摩耶さんと金剛さんで交代しながら猫の様子を見ていると、段々と雨脚も弱まってきて、やがて静寂が訪れました。雨雲もいつの間にかどこかに消え、澄み切った空に星が輝いています。

 

「飼い主、探してやらないとな……」

 

「鎮守府がペットOKだったら良かったのにネー。提督も泣く泣くハムスターと別れたみ

たいだし」

 

「鎮守府の規則はわたしらにとって絶対だからな……。クソッ」

 

「うにゃあ……」

 

 心細そうに鳴く子猫の頭を、摩耶さんがふわりと撫でます。

 

「心配すんな、また明日も来てやるからな、飼い主もすぐ見つけてやるよ」

 

 そうして、次の日になりました。

 

 

 

 摩耶さんがいつもの路地裏に出向くと、そこには子猫の姿はどこにもありませんでした。

 

 その代わり、ダンボールの中に一枚の書き置きを残しておきました。

 

『この子は私が責任をもって育てます。今まで本当にありがとうございました。』

 

 この子のことを知っているのは他に私しかいなかったから、私が拾ってあげるしかなかったんです。

 

 それに、摩耶さんたちの苦労を見ていたら、つい助けてあげたくなってしまって……。

 

 だからこの子は私が責任をもって育てますよ。

 

 わたしはエラー娘。みなさんお馴染みの、不幸を呼ぶ女です。


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