すべての艦たちのための艦娘解体   作:うずしお丸

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戦艦寮にて

 書類を吹雪に手渡した。ああは言ったけれど、勤勉な吹雪なら今日の夜にでも持ってきてしまいそうだ。

 

 そう陸奥は思った。

 

 長官室を出てから、陸奥は長門を連れて呉中を回った。終わったくらいに丁度陽が落ちてきたので寮に戻る。

 

 艦娘の寮生活は艦種ごとに趣きが異なる。駆逐艦や軽巡洋艦が数人で一部屋を使っているのは、頭数が多くそのほうが管理がしやすいからだが、戦艦や空母は一人一部屋を使っている。それに加えて、まだ揃わない未来の戦力のために部屋を空けているので、戦艦寮は駆逐寮や軽巡寮の学生風の賑わいと違って、全体として落ち着いた雰囲気がしていた。

 

「長門が見つかったって聞いたの突然だったから。大したもてなしもできなくてごめんね」

 

 呉の案内も一段落ついて、陸奥は自分の部屋に長門を通していた。

 長門にとっては慌ただしい一日が終わり、ゆっくりとくつろぎたいところだろう。そう思って紅茶を勧めた。

 

「いや素敵だ――綺麗だよ」

 

「えっ」

 

 突然の長門の一言に全身が固まる。隣り合って座って、まっすぐに見つめられた陸奥は何を言われたのか分からなかった。もし仮に長門が王子様で、それが自分に向けられた言葉だったら、ドキっとこない女子はいないだろう。そう思わせかねない長門の精悍な微笑が眩しい。長門の視線をよく見ると、自分を通り抜けて部屋の調度のほう、インテリアとか、壁紙とかに目線が向いているのが分かった。うん、部屋を評したセリフね……。

 

「お世辞上手なんだから。あんまり見ないでよね、恥ずかしいわ」

 

 そう言われて長門は、机の上の戦艦の形の置き時計に目を留めた。

 

「なんというかな、落ちつける。これなんて陸奥らしいよ」

 

 長門が変なことを言う。

 

「陸奥らしいって……私たち会ったばかりじゃない。……と、そういえば長門はドロップ艦だったわね」

 

 夕時に懐かしい香りのする潮風が窓の外から入ってくる。時折、艦娘たちが出港したり帰投したりするのを告げるサイレンが遠くから聞こえてきて、陸奥は気になりはするがいつものことでもあるので、少し落ち着いてきてしまう。

 

「ふふふ」

 

「えっ、」

 

 長門が急に含み笑いを始めた。怖い。

 

「ふふ、それにしても……ああ! 先刻(さつき)は楽しかったなあ! 可愛かったなあ、駆逐艦ってやつは!」

 

 長門は言う。食堂での話だろう。先ほどまで陸奥は長門を連れて施設の案内をしていた。工廠やドッグ、出撃のための待機所などを周り、食堂を案内するとき、ちょうど先ほどの駆逐艦隊と瀬名司令が三時のおやつを食べているところに遭遇したのだ。

 

『せっかくだから一緒にどう?』

 

瀬名のその提案で同席した、その時の話を長門はしているようだ。

 

「陸奥。思うんだが、駆逐艦ってなぜだか無性に抱きしめたくならないか? 砲弾が飛んでくれば覆いかぶさって守ってやりたいし、寒さに凍えていれば私を抱きしめて暖を取ってもらいたい」

 

 長門が少し壊れてきた。

 

「そ、そう? たしかに彼女たち、小さくて可愛らしいけれど……」

 

「そう、可愛いんだ。なんというか、庇護欲を掻きたてられるというか。ああ、しかし、私が抱きしめたら簡単に壊れてしまいそうだ! 目一杯愛したいのだが、近づきすぎるわけにはいかない。難儀な問題だ。……ふっ…………陸奥、私は今日ほど自分の力を呪った日は無いだろうな…………」

 

「そこまで……!」

 

 少しどころでなく重症だった。長門の壊滅的に子供好きな一面を知って、陸奥は正直引いている。

 

 一方で意外にも思っていた。戦艦長門。会うまでは、一体どんな艦なんだろうと思っていたのだ。かつて本国の期待を一身に背負った長門の名を関する艦娘だと、身構えていたくらいだった。だから現実とのギャップに戸惑いを覚えてしまっていたが、陸奥は目の前の長門を知りたいと思う。

 

「ふふ、でも長門あの子達とあんまり喋らなかったじゃない」

 

「し、仕方ないだろう! 何を話したらいいか分からなかったんだ……。だいいちここに来るまではキス島の屈強な男たちばかりに囲まれて過ごしていてな……まぁ屈強といっても私が一番強かったわけなんだが」

 

「長門って案外むっつりよね?」

 

「陸っ奥り?」

 

「うん、なんでもない」

 

 長門が分からない。

 

「むっちゃん」

 

「急に距離が縮まったけれど」

 

 長門が腕を組む。

 

「話は変わるが……瀬名司令は良い人だと思ったぞ。あの人はあんなに若いのにしっかりしている」

 

 うんうんと長門が一人で頷いている。

 

「女性の尉官か。まったく世の中は分からないものだな」

 

 感慨深げに長門が言った。

 

「うん、時代もあの頃とはまるで違うのよね。私も始めは驚いたけれど」

 

 陸奥は着任当時のことを思い出してみた。目に映る現代的な何もかもが新鮮な輝きを放っていたように思う。

 

「ふふ、瀬名さんはキスカの男衆よりしっかりしていた気がしたな」

 

 と、守備隊の人たちが勝手に引き合いに出され負けてしまう。

 

「瀬名司令は頼れる人よ。私たち艦娘にも親身になってくれるわ――」

 

 そうして陸奥と長門は喋っていた。鎮守府の人たちや今まで起こったこと、自分たち艦娘の今後についてなどを語り合う。陸奥は改めて長門が鎮守府に加わったのだと実感した。喜ばしく、そして不思議な運命のうねりを感じる。

 

 いつの間にか夜も更けていた。

 

「……と、もうこんな時間になってる。夕食というより夜食の時間ね。ながもん、ちょっと遅いけど食堂借りちゃいましょうか」

 

「ああ、そうしよう。でも陸奥、『ながもん』ってちょっと」

 

「うん、試しに言ってみただけだから」

 

 思ったより恥ずかしかったので、長門の凄さを思い知る陸奥だった。

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