暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~ 作:汐音 アイリ
トリオン体と生身の関係には、未だ謎も多い。
トリオン体での経験がどの程度生身に反映されるのか。
トリオン体でのショックが生身にどういう影響を及ぼすのか。
トリオン体と生身での感覚には違いがあるのか。
トリガーは近界の未知のテクノロジー。
使い方、活かし方こそわかっているが、まだまだわからないことの方が多い。
そこで私は、鬼怒田さんに言いたい。
「疲労は結構反映されます」と。
ついつい、E組になる前の感覚で兄に付き合ってしまった。
私自身もノリノリだったので兄のことは言えないが、E組の授業はサボると面倒になりそうだ。
本校舎と違って生徒に、クラスメイトに無関心ではいてくれないクラスは、休むとなれば何かしらのアクションを起こしてくるだろう。
そういう目立ち方は、私の望むやり方ではない。
……感覚はほとんど戻ってきているが、模擬戦で切断されたところにまだ痛みがあるような気がする。
戦闘後の妙な疲れが全身を包んでいるが、感覚は逆に鋭く冴えていた。
意識を切り替えようという思考がなかったせいか、日常と非日常の合間にいるような、ふわふわした感じだ。
なのに、気配には敏感に反応してしまう。
身体は休息を欲しているというのに。
いろいろと面倒くさがった結果がコレだ。
その状態で勉強など、通常よりも効率が落ちるのは当たり前で、殺せんせーはとてもうるさかった。
ただでさえ、理事長に言われたことを気にしてか増えた分身がうるさいのに、とことん神経を逆なでされている気分になる。
……いや、自業自得だとはわかっているけれども。
だから、暗殺という身近なチャンスに甘える生徒たちに対して殺せんせーが何やら不機嫌になっても、校庭に巨大竜巻を起こしても、私はどこかぼんやりとしていた。
「第二の刃を持たざる者は……暗殺者を名乗る資格なし!!」
殺せんせーの声が遠くに聞こえる……。
「明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい」
ああ、眠いなぁ……。
◇◆◇
睡魔は私を倒そうと躍起になってすがってくる。
それをどうにか抑え込みつつ、本校舎の理事長室までやってきた。
特に呼び出しがあったわけでもなく、いわば私の趣味なのだが、入室の許可はすんなりと出た。
「どうかしたのかな?」
そう、張りつけたような笑みで問う理事長に微笑み返し、勝手に端のほうのソファに腰を下ろした。
「特に用事があるわけではないので、お気になさらず。
……それにしても本校舎が、いえ、中学3年生が随分と慌ただしいですね。何かあったのですか?」
半ば確信をもっての問いかけだ。
理事長は特に動揺しなかった。いつも通りのままだ。
「テストの前日だからね。慌ただしいのも当然のことだ」
誤魔化しの色を纏って答える理事長を、数秒見つめる。
「……まあ、なんでもいいですけどね、私は。
それより、今日は来客の予定はありますか?」
「特にないね」
「じゃあ、仕事の邪魔はしないのでしばらく居させてもらいます」
勝手に宣言し、一瞬言葉に詰まった理事長を横目にソファに横になる。
制服の上着を畳んで、簡易枕をつくった。
「おやすみなさい……」
その言葉を最後に、意識はブラックアウトした。
途中、気配を感じて意識が覚醒したが、特に何もされるわけでもなく、ただ相手の視線を感じた。
しばらくして、身体にふわりと暖かいものがかけられる。
気配が去っていくことを確認して、再び意識は闇に沈んだ。
◇◆◇
時間にして約2時間半。
全快とはいかないが、眠気は幾分マシになっていた。
身体を起こすと、肩からスーツの上着が滑り落ちる。
誰のものか、など聞くまでもない。
黙々と仕事を片付ける理事長に、畳んだ上着を差し出した。
「ありがとうございました。……意外と、優しいんですね」
「本当はブランケットがあればよかったんだけどね。
ここには置いていなかったから。体調管理はしっかりしなさい。睡眠は大切だ」
「はーい、気をつけます」
「それにしても……なぜ、ここに来たのかな?」
まあ、最もな疑問だ。
家に帰るなり、保健室に行くなりすればいいところを、あえて理事長室に特攻をかける人間など中々いない。
「人の出入りが少なくて、気配がわずらわしくない場所を求めていたので。家に帰るまで保たなそうだったし」
理事長室は基本、理事長一人しかいない。
生徒たちが過ごす空間からも離れた場所にあるので、校内ではわりと静かなところだった。
「それでは、お疲れ様でした」
「……待ちなさい」
とっとと退散しようとすれば、呼び止められた。
説教か、と身構える私の前に出されたのは数学の教科書。
「少し、授業をしてあげよう」
…………え?
いくら幸視点でも、すべてを描写しているわけでもないのです。
無意識のこととかもありますし。