暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~ 作:汐音 アイリ
ほら、人間はやっぱり人前で見せるところと家でしか見せないところがあるよね?っていう
理事長室は相変わらず静かな空間だった。
定位置の座り心地の良さそうな椅子に腰かける理事長と、そのデスクの前に立つ私。
空間の支配者は当然、理事長のはずだった。
しかし、2人とも余裕を保っており動揺も焦りもない。
この日、この時間を指定したのは理事長だが、私はそれを理事長から知らされたわけではなかった。
殺せんせー、烏間先生からでもない。
E組を含め、この学校でこのことを知る人間はいない。
「まずは……」
沈黙を破ったのは理事長だった。
いつも通りの感情の薄い微笑みだが、心なしか威圧感があるのは気のせいではないだろう。
初手から主導権を握ろうと仕掛けてきている。
「太刀川幸さん、50位以内おめでとう、というべきかな。
いや、E組が全員50位以内を目標にしているという
「その情報が役立つ場面なんて、限られていると思いますけどね。まあ、せいぜい上手く使ってください」
だから礼はいらない、と言外に告げる。
気まぐれに雑談のネタとして話しただけだ。
何かの脅しに使えるほどの情報でもない。
「では、答え合わせといきましょうか。腹の探り合いは面倒ですし、疲れますし」
私はいつもと変わらない格好だった。
だが、雰囲気はいつものように観察に徹する大人しい少女のものではないだろう。
今の私は、ボーダーの一員として、責任と義務を自覚し背負った者として立っている。
理事長室に満ちる理事長のプレッシャーが相殺されているのは、私が中学生の少女には似つかわしくないとよく言われる威圧感を放っているからだ。
理事長とは生きてきた年数も、経験も違う。
それでも、最初から押し負けるわけにはいかないので精一杯に自分の強さを見せつける。
「この学園に1人だけいるというボーダー隊員は、君だね、太刀川さん」
「
なんとも馬鹿馬鹿しいやり取りだ。
お互いにそう感じながらも告げる。
「ヒントなしにこの学園の生徒から1人を見つけ出すなんて、さすがです理事長」
私の声は明るかったが、どことなくわざとらしかった。
理事長も当然気づき、ため息を吐いて呆れた笑みを浮かべる。
「わざわざ、自分の存在を知らせるように接触をしてきたのは誰だったか……。
それより私は、君が私にたどり着いた方法を知りたいのだけれど」
穏やかな表情と声で促す理事長だが、その瞳は相変わらず凍てついたままで、プレッシャーもどんどん増していく。
いくら表面を取り繕ったところで、私にはお見通しというのが残念なところだが。
プレッシャーだって司令が放つものと本質的には同じもので、馴染み深いものだ。
だが、理事長の疑問も最もだ。
今回、本当にノーヒントだったのは私の方。
私の持つ情報は「司令とその人物は大学時代の同期で友人だ」ということだけだった。
しかし、全く無関係の人物のことを指しているとは考えられなかったため、椚ヶ丘学園に狙いを絞ったのだ。
「まずは、年齢で考えました。それからは、優秀さの比較です。
司令が『友人』と認め、私に探させようとする人物。何かしら権力か人脈かを持っていることも確実ですから、それも踏まえて」
その結果、条件に合うのは理事長1人しかいなかった。単純な話だ。
「……なるほどね」
◇◆◇
サクッと本題に入るのが理想だったのだが、お互いに警戒心が強く回りくどいせいで、かなりの時間を浪費していた。
「君がボーダー隊員ということは、政府には明かさない方向で、ということだね?」
「ええ、政府の人間だからって毛嫌いするつもりはありませんけれど、対立する可能性がある以上は、ね……?」
公私を切り離し、冷静に客観的に物事を判断していく。
理事長にとって、ボーダー隊員の代表は私なのだ。
ボーダーの仲間のためにも、無様な姿は見せられない。
「だから、バレたって最悪なんとかなるんですけれどね。変に探りを入れられるのも面倒なので」
「……ああ、何かしらの手段で情報を得て椚ヶ丘中学校、そしてE組にまで乗り込んできた、と?」
「そんな感じに。まったくの偶然なんですけれど」
理事長にとって交渉するに値する人物と認めてもらえたのか、私と理事長は多少打ち解けたように話し始める。
話の内容は教師やテスト問題の批評から日々の愚痴、果ては理事長の息子自慢にまで及んだ。
表に出さないだけで、理事長が実は親馬鹿だったことを初めて知った。
「……そういえば、君をA組に迎え入れる準備があるけれど、どうかな?」
理事長がそんな提案をしてきたのは、いい加減座らせろと私が訴え、理事長室の端にあるソファセットに腰を下ろしてから30分ほど経ってからだった。
ちなみに、理事長は開き直ったのか私に対して飽きることなく息子自慢をしている。
「それはまた、随分唐突ですね……私は元C組ですよ?」
「いや、浅野君のいい刺激になるかな、とね」
本気半分冗談半分、といったところだろう。
私はその提案を一蹴した。
「ご冗談を。私には荷が重すぎます」
「無理に移動させることもできるんだよ?君がボーダーに情報を漏らしている、と言ってね」
「……今更ですね」
消えかけていた理事長の威圧感が膨れる前に、言葉で叩き潰す。
理事長は面白いものを見た、というように目を細めた。
「脅されて従わざるを得ないような、取引の材料になる情報は渡しませんよ。私は、E組の今後を近くで見守りたいんです」
私は、「今のE組ってなかなか面白いんですよ?知ってます?」と挑発的に理事長を見る。
言っておくと、「E組が面白い」というのは本音だ。
──理事長は、高いレベルで完成されている人間だ。
完璧超人という言葉が理事長ほど似合う人はいないだろう。
しかし、それは人間相手に自分のつくったシステムを運営しているときの話。
椚ヶ丘学園という組織は、殺せんせーなる怪物(殺せんせーの優秀さも含めて)を相手取るには大きすぎた。
理事長という立場上、生徒や教員の面倒を見るばかりではなく、学園の今後のためにもさまざまなしがらみがある。
それを抱えながらなお合理的なやり方にこだわるのであれば、理事長の制御はいずれ狂ってしまう。
すべては推測にすぎないが、この予感がいずれ現実となるような気がしてならなかった。
理事長は多分、親馬鹿。
殺せんせーに語っているところを見てそう感じた。
溜め込んで溜め込んで、抱えきれなくなったら誰かにぶちまけるスタイル。
被害者:城戸さん、幸(←New!)
2人がはやめに打ち解けたのには、単純な相性の良さ以外の理由もあります。
理事長は息子自慢とか愚痴とか色々話せる相手を欲していた。
幸は、無意識に理事長を父親的存在にみています。