暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~   作:汐音 アイリ

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実は、以前に投稿した分をちょこちょこ編集しているのですがそのたびに地の文が地味に増えています。
修飾語が増えたくらいで本筋に影響はありませんが。






015-台無しの時間

無事(?)にぼっちで5班となった私は1人、京都の宿泊施設に現地集合していた。

これは私も想定外の事態だったのだが、いつものごとく兄の課題が終わらなかったのだ。

 

誤解されがちだが、私の兄──太刀川慶は決して頭が悪いわけではない。戦闘関連に全振りしているだけだ。

そこにやる気のなさが加わり、戦闘員としての優秀さからくる多忙もあって大学の単位は常にギリギリになってしまうのである。

 

私はこれ幸いと兄の手伝いという建前の元、修学旅行1日目の夕方に京都へ乗り込んだ。

そのことを、行きの新幹線内でぼっち班ともあって心配されていたのだが、私が知ることは無い。

 

 

◇◆◇

 

2日目の自由行動となり、気の向くままに京都を散策する。

近くの名所を回り、少し休憩しようと静かな場所に惹かれていき……何やら物音を耳にした。

 

途切れ途切れに聞こえる声には、聞き覚えがあった。

しかも何やら不穏な空気である。

音と気配を消して、そっと騒動の中心をのぞいた。

 

そこには4班のカルマ君、奥田さん、茅野さん、神崎さん、渚、杉野君と不良たちがいた。

最も喧嘩慣れしているだろうカルマくんが不意打ちで沈む。

それをみると、私はそろりと一番近くの奥田さんの背後に歩みよった。

 

奥田さんに手を伸ばす数人の不良を軽くあしらって気絶させると、奥田さんの口を塞いで一気に物陰に引きずり込んだ。

口を塞ぐ前に、「ちょっとごめんね」と声はかけたのでたぶんセーフだ。暴れられなかったし。

 

不良たちは茅野さんと神崎さんをさらって車に乗り込むと去っていった。あとには、殴られた男子たちが倒れているのみだ。

 

奥田さんをそっと解放すると、奥田さんは3人に走りよって「み、皆!大丈夫ですか!?」と声をかけた。

 

「良かった、奥田さんは無事で」

「……ごめんなさい、思いっきり隠れてました」

 

奥田さんは私によって隠れさせられたのだが、自分のせいとでもいうように謝る。

妙に罪悪感が芽生える。大人しそうな奥田さんの見た目が余計にそう思わせるのだろう。

 

「いや、それで正解だ」

 

ゆっくりと身体を起こしたカルマくんは、感情を押し殺して呟く。

表情は、俯いているせいでわからないが、怒気が溢れているような……。

 

「あいつら、車のナンバー隠してやがった。多分盗車だしどこにでもある車種だし、犯罪慣れしてるよ」

 

彼の怒りから歪んだ顔は、なかなか迫力がある。

先ほどは不良たちを挑発していたのもあってかなり隙だらけだったのだが、今はそのような雰囲気は微塵もない。

 

「通報しても、すぐには解決しないだろうね。……ていうか、俺に直接処刑させて欲しいんだけど」

 

ここでようやく、空気と化していた私の存在に杉野くんが疑問を投げかけた。

 

「ところで。太刀川さんはどうしてここに?」

「たまたま近くを通りかかったら、何だか騒がしかったから」

 

別に嘘じゃない。本当のことである。

 

「そっか。太刀川さんが巻き込まれなくてよかった。……でも、これからどうしようか」

 

途方に暮れたように呟いた渚の瞳が、風に煽られてめくられた修学旅行のしおりのとあるページに向けられた。

 

 

◇◆◇

 

辞書以上の分厚さを誇る、もはや鈍器のような殺せんせー特製修学旅行のしおり。

恐ろしいほどマメな殺せんせーが作っただけあって、旅行中のありとあらゆるアクシデントの対応策が書いてあった。

なぜか(もちろん)、誘拐された時の対応策まで。

 

渚が殺せんせーに連絡を終え、しおりのマップに従って歩き出した。流れで私もついていく。

 

「えっと、『クラスメイトが拉致られた時→1243ページ』。犯人の会話内容や(なま)りなどから、地元の者かそうでないかを判断しましょう。

地元民ではなく、更に学生服を来ていた場合は、1244ページへ。考えられるのは、相手も修学旅行生で、旅先でオイタをする輩です」

 

渚がしおりをめくりながら読み上げる。

改めて、1244ページは確実にあるしおりの分厚さに目眩がする。

さらには、「拉致実行犯潜伏対策マップ」なるものが収録された付録までついている。

E組の大半が置いてきたというのに、渚は律儀に持ち歩いていたようだ。

 

「うん、今すべきことがきちんと書いてある。……行こう!」

 

 

◇◆◇

 

辿りついたのは、閉店したお店だった。

外れかけた看板には、かすれた文字で「ダーツ・ビリヤード」と書かれている。

 

殺せんせーと連絡をとりあって相談した結果、一番可能性が高いのはここだろう、という話になったのだ。

理由?一番近いから。それだけだ。

 

殺せんせーはほかの場所を見て回るらしい。

こういう時こそ殺せんせーのスピードの活かしどころである。

 

「辿り着いたはいいけれど……見張りがいるね」

「強行突破と穏便に通るのと、どっちが好み?」

 

周囲に尋ねると、カルマ君が頑なに強行突破を主張した。

というか、今にも飛び出して行きそうだ。

私としても、強行突破(殴って気絶させる)穏便に通る(脅してでも通る)ことに大差はないから異論はない。

尋ねておいてなんだけれど。

 

「じゃあ、もう、そこで今にも飛び出していきそうな人を先頭に、強行突破しましょう。それに……たぶん見張りはあの1人だけだと思うし」

「え、なんで1人だけだってわかるんだ?」

 

杉野くんの疑問には「勘」とだけ返しておいた。

説明するにしても、この状況では時間が足りないし、一応機密扱いだし。

 

◇◆◇

 

やはり、見張りは外の扉にいた1人だけで、廊下には人っ子一人見当たらない。

だが、大きめの部屋から複数人の声が聞こえてくる。

男子学生らしく、少し低めの声だ。さらに、汚い笑い声も響く。

 

カルマくんが躊躇なく扉を開け、一瞬で昏倒させたあとここまでズルズルと運んできた見張り役だった不良を床に投げ捨てる。

仲間の姿を目にし、茅野さんと神崎さんは顔を輝かせた。

 

「で、どーすんの?お兄さん等。こんだけの事してくれたんだ。あんた等の修学旅行はこの後全部、入院だよ」

 

渚がここまで辿り着いた経緯をしおりを見せながら説明し、殺せんせーのしおりの有能性を示したところで、代わりに進み出たのはカルマくんだ。

何が彼の怒りを買ったのかは正確にはわからないが、随分と刺々しいオーラだ。

しかも、これだけの人数を相手にして勝てる気でいるらしい。

こちらは2人を人質にとられ、非戦闘員を抱えているというのに、よほど自信があるのか。

 

「……フン。中学生(チューボー)がイキがんな」

 

場所がバレたことや、よくわからないしおりに戸惑っていた不良のリーダー格も、さすがにカルマくんの発言は聞き捨てならなかったらしい。

他の不良も、臨戦態勢といった感じだ。

 

さらに、足音が近づいてくる。

私たちに心当たりはない。ならば、向こうの増援!

証拠に、不良どもは余裕の笑みを浮かべている。

 

「呼んどいた友達(ツレ)共だ。これでこっちは10人。

お前らみたいな良い子ちゃんはな、見たこともない不良だ」

 

背後の扉が開くのが、スローモーションのように遅く感じる。

人数的にも状況的にも不利な中、挟み撃ちにされるのはかなり(まず)い。

 

どちらから襲われても大丈夫なよう、警戒する。

現れたのは不りょ……え?

「不良」の定義が揺らいできたぞ?

 

「何この、『ガリ勉』イメージそのままの優等生もどきは……」

 

唖然。

まさにそんな状態だ。

 

誰もがぽかーんと、それ(・・)を眺めていた。

 

「不良などいませんねぇ。先生が全員手入れしまったので」

 

一応擬態はしているが、うねる触手が丸見えだ。

……殺せんせーには、国家機密の自覚はあるのだろうか。何度思ったか知らないことだが。

 

「遅くなってすみません。この場所は君達に任せて……他の場所からしらみ潰しに探してたので」

 

殺せんせーのスピードで、よく不良の仲間を見分けられたものだ。

……無関係の人が混ざっていたりしないよね?

 

「……で、何その黒子みたいな顔隠しは」

「暴力沙汰ですので。この顔が暴力教師と覚えられるのが怖いのです」

 

殺せんせーも、妙なところで世間体を気にする。

国家機密の自覚は薄いのに、教師としての自覚は有り余っているようだ。

……変なの。

 

「渚君がしおりを持っていてくれたから、先生にも迅速に連絡できたのです。この機会に全員ちゃんと持ちましょう」

 

わざわざ運んできたのか、全員にしおりが行き渡る。

ずっしりとした重みが一気にかかり、よろけそうになるのをなんとかこらえた。

 

「……せ、先公だとォ!?ふざけんな!ナメたカッコしやがって!!」

 

驚くべきことに、殺せんせーが人間ではないとバレていないらしい。

ただ、得体の知れない奴だということはわかるのか、一斉に襲いかかる不良たち。

各々得物を持って向かってくる男子学生の集団は、なかなか迫力がある。

 

「……ふざけるな?」

 

迎撃しようと身構える前に、目にもとまらぬ速さで触手が不良共の頬をうつ。

 

「先生のセリフです。ハエが止まるようなスピードと汚い手で……うちの生徒に触れるなどふざけるんじゃない」

 

言葉が出せる状態なのはリーダー格の1人だけだった。

バカ高校と思ってお前も肩書きで見下しているのだろうと、足の震えを抑えながらナイフを構える不良のリーダー。

そんな相手に殺せんせーが返したのは、予想外に穏やかな声だった。

 

「エリートではありませんよ」と殺せんせーは言う。

名門校の生徒とはいえ、私たちは落ちこぼれ扱いで差別されている。

だが、この不良たちのように他人の足を引っ張るのではなく、さまざまなことに前向きに取り組んでいる。そこに学校や肩書きは関係ないのだと。

諭すように。

 

ああ、前向きに取り組むことは大切だ。

自分の実力不足を他人のせいにするより、自分を鍛えた方がよっぽどいい。

 

その言葉はどういう関係か、神崎さんの心に響いたらしい。彼女らしからぬ重い空気が一気に晴れた。

 

「……さて、私の生徒達よ。彼等を手入れしてあげましょう。修学旅行の基礎知識を体に教えてあげるのです」

 

その合図で、気配を消して不良の背後に迫っていたみんなが一斉にしおり(鈍器)を振り下ろした。

いかにも痛そうな音が立て続けに聞こえ、不良はピクリとも動かず床に倒れ伏す。

……念の為確認したが、特に後遺症が残るような人間はいなかった。

 

 

◇◆◇

 

外は夕焼けで橙色一色に染まっていた。

開放感に包まれ、思いっきり伸びをする。

 

「いや〜、一時はどうなるかと思った」

「あ〜、俺一人ならなんとかなったと思うんだよね」

「怖いこと言うなよ……」

 

杉野くんとカルマくんのやり取りに、奥田さんと渚が顔を見合わせて笑みをこぼす。

今回、一番怖い思いをしたであろう茅野さんと神崎さんも()る限り平気そうだ。

むしろ、神崎さんは……

 

「何かありましたか、神崎さん?ひどい災難に遭ったので混乱しててもおかしくないのに、何か逆に……迷いが吹っ切れた顔をしています」

 

代わりに殺せんせーが私の思ったことを言ってくれた。

神崎さんはいつも通りの笑顔で殺せんせーにお礼を述べる。

神崎さんの事情は知らないが、殺せんせーの言葉がしがらみから逃れる決め手になったのかもしれない。

 

「いえいえ。それでは修学旅行を続けますかねぇ。……ああ、そういえば」

「殺せんせー、どうかしたの?」

 

まだ何かあったかと、渚が問いかける。

殺せんせーはなぜかニヤニヤと笑いながらこちらを見る。

……え、私?

 

「太刀川さんは、いつの間に4班に合流したんですか?」

「……あ」

「そういえば、そうだな」

「何だか普通に馴染んじゃってたよね」

 

今気づいた、とでも言いたげに順に渚、杉野くん、茅野さん。

スルーしてくれればよかったものを。

心の中で舌打ちをこぼす。

 

「成り行き、というやつですよ。合流なんて」

「この機会に、太刀川さんも4班のメンバーになっちゃいましょう!」

「……はい?」

 

あ、これ絶対拒否できないやつ。

そう悟って抗議の声をあげようとするも、言葉になることはなかった。

……こんなときに、“お約束”の展開を起こさなくても!

 

「はーい、賛成!」

「うん、太刀川さんと一緒ならもっと楽しくなるよね」

「俺も別にいいよ」

「太刀川さん、よろしくね」

「太刀川さん、よろしくな!」

「あの、よろしくお願いします……」

 

4班全員から歓迎の言葉をかけられ、退路を塞がれた。

諦めざるを得ない状況だが、このまま素直に加わるのもなんだか癪だ。

反論の余地なく決定される、というのは相手が親しい人間だからこそ許されることだ。私にとっては。

 

「皆さん、太刀川さんを心配しているんですよ。丁度いい機会ですから、太刀川さんも」

 

何と返したものか戸惑い、言葉に詰まった私の頭に柔らかな感触のものがのる。

殺せんせーの触手だ。

それを理解した瞬間、頭の上のものを跳ね除ける。

もはや条件反射だったから、自分の行動を理解したのはその2秒後だった。

 

殺せんせーが嫌だったわけではない。

気軽に頭を撫でられたことがとてつもなく気に障っただけで。

 

「えっと……じゃあ、今から4班に合流します。よろしくね」

 

周囲が驚きが固まっているので、笑顔でゴリ押ししておいた。

幸いなことに、何も聞かれることはなかった。

 

 

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