暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~   作:汐音 アイリ

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お久しぶりです。



016-赤の時間

宿の部屋は男女で大部屋一部屋ずつだった。部屋割りを考えなくてもいいのは楽だが、押し込められている感じもする。

他のクラスは豪華ホテルで個室を与えられていると知ればなおさらだ。

 

だが、E組の面々は「みんなでおしゃべりできるし」とそれほど不満に思ってはいないようだった。

それにしても……椚ヶ丘学園は随分とお金持ちのようだ。私たちの学年は190人近く。E組は30人弱だから、実に160人ほどの個室2泊分の費用を簡単に出せるらしい。学費が高めとはいえ、授業料として払っているだろう額を差し引けば余りはそこまで多くなかったはずだ。

 

まあ、それはそれとして。

女子に割り振られた部屋に荷物を置いた私たちは、順番にお風呂に入る。いくら大浴場といえども、一度に大勢が押しかけると狭いので、ざっくり1・2班と3・4班に分かれて入ることにした。

言うまでもなく、私は4班の一員だ。

 

それを知って、他の班の人にもなんだか安心されたのは少し申し訳なさがある。どうやらE組の人は、予想以上に人が良いらしい。

 

◇◆◇

 

「太刀川さんは、今日どこを回ってきたの?殺せんせーも、予定を教えてもらってないって言ってたよ」

 

お風呂のあとは、大部屋でガールズトークに花を咲かせる。

そういえば、殺せんせーは各班に同行する予定だったか。暗殺のことを気にしていなかったから、記憶から完全に抜け落ちていた。

 

「暗殺のためにたてた計画じゃなかったから。今回の殺し屋は狙撃手(スナイパー)ってことだったし、1人だとできることも少ないから、普通の観光をしてたよ」

 

暗殺のことなど考えていなかった、と言うとやはり驚かれる。個人での暗殺こそしていないが、クラスでの暗殺には毎度参加していたから、暗殺には積極的な方だと見られていたのだろう。せっかくの機会を捨てたことが、理解できないのかもしれない。

……そんな大層な理由もないのだが。

 

「暗殺も楽しいけれど、今回はそれ以上に楽しそうなことがあったから」

「楽しそうなこと?」

 

不思議そうに問いかけられ、昼間のことを思い出す。

 

 

◇◆◇

 

 

時間は少し巻き戻って、修学旅行2日目の午前中。

班ごとに自由行動となっており、それぞれが立てた暗殺計画を実行する日。

 

ぼっち班たる私は、京都の高い建物を見て回っていた。

家族やボーダーのみんなへのお土産は既に購入して発送済。

所持金が多いからこそできる、手荷物を減らすひと工夫だ。

 

高い建物ばかりを見ているのは、狙撃手の人を探すためだ。素性は知らされていないが、狙撃手の選びそうなポイントはだいたい目星がついている。

 

しばらく歩き回っていると、思った通り高めの塔の上に、狙撃手の姿を見つけた。そう距離も遠くないので、狙撃銃らしき細長いシルエットも見える。

私は、足取り軽くそちらへ向かっていった。

 

 

 

「こんにちは。素敵な狙撃銃(パートナー)をお持ちですね」

 

挨拶をした後の話題が思いつかなかったため、とりあえず仕事道具を褒めておいた。突然背後から声をかけられ、狙撃手(スナイパー)さんは勢いよくこちらを振り向くと銃口を向ける。狭い場所に向かい合っているせいで、いま撃てばほぼ零距離射撃だ。

 

銃口を突きつけられているというのに、私が怯えを見せないからだろう。私の制服を見て戸惑った顔になったものの、警戒がとかれることはない。

 

それも当然だ。たとえ死を覚悟しているような人間でも、死に対する恐怖は持っているものだ。それを強靭な理性で抑えつけているような超人もいたりするが、ほとんどの生物が等しく「死」への恐怖を持っている。私はさぞ異質に見えることだろう。

 

トリオン体に換装していたから平然としていられるものの──いや、やっぱり内心ビビっています。トリオン体には通常の銃弾も対先生弾も効果はないとわかっていても、そういうのとは別に、目の前の銃口には恐怖をおぼえる。

 

だがここで怯えを見せるのはよろしくない。

どう足掻こうと、相手はプロの殺し屋の大人(たぶん)で、こちらは一学生にすぎない子ども。

私の方が前提条件は不利なのだから。

私は銃口に目を向けると、余裕ぶって微笑む。

 

「確かに暗殺に集中していたところに声をかけたのは、少々配慮に欠けた行動でしたけれど、随分と物騒ですね」

「……おまえ、何者だ。目的はなんだ」

 

相手は押し殺したような声でこちらに問う。

 

「いろいろと想像を巡らせているのでしょうが、たぶんすべてハズレです。私はその、ちょっと変なところもあるけれど、概ね普通の女子中学生です」

「嘘だろ!」

 

秒速でツッコミを入れられた。なんでさ。

普通の女子中学生だって、狙撃手に話しかけることもある。

 

「今回の殺し屋さんは狙撃手と聞いたので、本物(プロ)と呼ばれるような人の仕事を見学に来たんですよ」

 

資格も基準もないので、どこからをプロと呼べるかの境界は曖昧だ。だが、ボーダーの狙撃手たちはアマチュアと呼ばれる部類なのだろう。実力の問題ではない。むしろ、比較する対象によっては、ボーダー側に軍配が上がる。

 

ボーダーの狙撃銃がトリオンでつくられていなければ、比較できたのかしれないが。トリオンでつくられた弾丸は多少の障害物は容易に貫通するし、空気抵抗はないも同然だ。

同じ距離から同じ的を狙うにしても、前提に差がありすぎて比べられるものでもないのだ。

 

「見学、見学ねえ……。ちなみに、いつから見てたんだ」

「見つけたのはついさっきです。他の班のスケジュールなんて気にしていませんから。……あ、そういえば、名前を聞いてもいいですか?何て呼べばいいのかわからないです」

「……レッドアイとでも呼んでくれ」

 

レッドアイさんは、何だかいろいろ諦めたような表情で銃を下ろした。

 

「普通の女子中学生だっていう主張は納得しかねる。が、別に俺とやりあうつもりでもないんだろう?」

「……意外ですね。こういう時って、問答無用とばかりに殺されると思っていました。口封じとか何とか言って」

 

まあ、本当に殺されるとは思っていない。たとえ生身でも、ここで命を落とすことはないと確信している。

彼は殺し屋としては、優しい。プロと名乗るのなら、殺し屋として可能な限り目撃者は葬っておくべきだ。仮に私がここで命を落としたとしても、こちらを見張っている人間などいないのだから、バレることもないし、彼が罰を受けることは無い。

 

「……あなたは、レッドアイさんは、おもしろい方です。殺し屋には向いていないのに、向いている。……今のところは、ですけれど」

「向いていないのに、向いている?」

 

訝しげなレッドアイさんに構うことなく背を向ける。

 

「そろそろ、次の場所に移動した方がいい時間では?それと、いくら平和ボケした人間が多い国だからといって、気を抜くのはあまり関心できませんよ。特に今は、大金がかかった賞金首がいるんですから、それだけ殺し屋(その手)の人も集まりますし」

「言われるまでもない。あまり、プロを舐めるな」

 

所詮は子どもの戯れ言と、そう思っているのだろう。

確かに私はプロの殺し屋などではないが、これでも戦場に身を置いて数年間を過ごしているのだ。経験はそれなりにある。

 

「そう仰るわりに、隠れ方は雑でしたね?無意識なら、気をつけた方がいいですよ」

 

もう手遅れな気もするけれど。殺せんせーは確実に彼を捉えているだろう。

 

「残りの仕事も頑張ってください」

 

私はそれだけ言って、その場を去った。

 

緊張からくる震えを、身体全体を意識下において支配することで抑え込んだが、上手くいっただろうか。

相手に自分の方が優位に立っていると印象づけるのは成功したと思いたい。

 

自分より明らかに勝っている人間に対峙したとき、自分がただの中学生に過ぎないのだと嫌でも実感する。

毎日のように武器を振るい、近界民(ネイバー)やボーダー隊員相手に勝利を収めて入るけれど。

 

所詮、自分の力なんて大したことはないのだと。そう、言われているような気がしてくるのだ。

 

──何度か深呼吸をして、マイナス思考を振り払う。動揺したまま、日常に戻るわけにはいかなかった。

 

◇◆◇

 

いろいろ(・・・・)あったけれど、特に語れるようなイベントはなかったよ?単に観光だよ」

 

何を期待しているのか、興味津々のみんなに告げる。

修学旅行の夜は静かに更けていく──否、ここからが本番だ。他の女子はおしゃべりする気満々だ。

明日は大した予定がないからいいものの、睡眠時間が普段よりもどれくらい削られるのかを想像して、少し憂鬱になった。

 

とはいえ、私も誰かと話をすることじたいは好きなので、結局は後悔するとわかっていても、雑談に興じてしまうのだろう。

 

 

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