暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~ 作:汐音 アイリ
タイミングを伺ったりしているだけで、そのうち動きます。
「E組はどうだ、太刀川くん」
「……報告書には書いたと思うんですけど」
突然、司令室に呼び出されました。何事かと思えば、ただの中間報告とは……。
さっそく何かやらかしてしまったかと、緊張していた時間を返してほしい。
そんな思いを込めて、いつもより少し反抗的な態度をとってみる。
そんなことは何度もあったので、もはや司令も慣れたものだが。
「サイドエフェクトで視た感想はどうだ」
「ああ、そういうことですか……」
少し言葉を探して沈黙する。
サイドエフェクトで視えるのは抽象的なイメージのようなものだから、いざ説明するとなると表現しにくい部分がある。
言葉を尽くしても、正確に伝えることは不可能なのだ。
「淀んでいて、赤黒いオーラがモヤモヤしている感じ。その赤黒さも、いろいろな色が混ざりあっているからぐちゃぐちゃで、気持ち悪い感じですかね」
面倒になって、イメージをそのまま伝えると司令は「そうか」とだけ返した。
無意識なのか顔の傷に指をあてているが、あれってアイデアが浮かぶコツなのだろうか?
司令はしばらく思考の海に沈んだままだと判断し、視線を横の迅さんに移す。
「未来視」という特殊かつ強力なサイドエフェクトを持つ彼がここにいるということは、近々未来の分岐点が現れるのかもしれない。
「迅さん、何かある?」
「ん-……そうだなぁ。E組は幸以外を見ていないから何とも言えないかな。
ただ、新しく加入する先生、たぶん女の先生には特別なアクションは起こさない方がいいな。クラスの空気に潜んでいた方がいい」
「もしかして、危険人物なの?」
警戒対象なのかと思いきや、彼の反応は微妙なものだった。
確定した未来が見えていないせいだろうか。
いつものように自信に満ちた声ではなく、迷っているようだった。
────いや、これは戸惑い?
想定と異なるものが視えたような。視えたものが信じられないとでもいうような。
「もちろん暗殺の任務に送り込まれてくる人だし、プロの殺し屋とか戦闘訓練を受けた人間だろうけど……。あんまり危険な感じはしないかな。……また、何か視えたら言うよ」
「うん、ありがとう」
サイドエフェクトに振り回されながら必死に制御する術を身につけた者同士、彼と私は通じ合うものがある。
視る材料が少ない中で予知を手繰り寄せてくれたことに、素直に感謝を述べた。
「太刀川くん」
「何ですか、司令」
「任務はあくまで潜入・調査だ。暗殺に関しては、それなりでいい。
ボーダーに所属していることは」
「わかっています。ボーダーに所属していることは、内緒ですよね」
話は終わったとみて立ち上がる。
話を続けることは可能だろうが、有益な情報が得られる可能性は限りなく低い。
これくらいの引き際は心得ている。経験則、というやつだ。
「いってらっしゃい」
迅さんが柔らかい笑顔で手を振ってくれた。
これからの動きを頭の中で考え始める。
私にとってE組はあくまで任務地であり、それ以上の意味を持たない。
それは変わらないことで、変えてはいけないことだと自分を戒めていることでもあった。
E組に馴染める日は、まだ遠そうだ。
◇◆◇
暗殺を通して、クラス全体が活気を取り戻し始めていた。
生徒はそれぞれ思い思いのタイミングで暗殺を仕掛けていく。
今朝も5、6人で暗殺を仕掛けたというが、やはり失敗してしまったらしい。
ただ、その際に殺せんせーがクラスの花壇を荒らしてしまったらしく、ハンディキャップ暗殺大会を開催中だ。
紐で縛られて木の枝に吊るされた状態なのに、殺せんせーはみんなの攻撃をヌルヌルかわしている。
それを眺めていると、防衛省の烏間さんが坂を登ってきた。
「烏間さん、こんにちは。今日はどうしたんですか?」
そこへ棒を抱えて走ってきた茅野さんも気付いて、烏間さんに話しかける。
「あ、烏間さん! こんにちは!」
「こんにちは。明日から俺も教師として君等を手伝う。よろしく頼む」
烏間さん改め、烏間先生が教師になるということは、異次元すぎる体育がまともな授業になることを期待していいのだろうか。
E組には殺せんせーしか教師がいないので、当然体育も殺せんせーが教えることになったのだが、マッハ20の超生物の体育は人間には適さなかった。
「……ところで、奴はどこだ?」
烏間先生は殺せんせーを探して周囲を見渡し、茅野さんに先導されていく。
そしてハンディキャップ暗殺大会を見て、グッと拳を握った。
もはや暗殺とは呼べない状況を目にしては、無理もない反応だ。
殺せんせーは顔に緑のしましまを浮かべ、E組を煽る。完全に舐められている。
「ほら、おわびのサービスですよ?こんな身動きできない先生、そう滅多にいませんよぉ」
ただ、あまりに激しく揺れるから紐が繋がれている木の枝にはかなりの負荷がかかっている。現にギシギシなっていて、今にも折れそうだ。
「ヌルフフフフ。 無駄ですねえ、E組の諸君。このハンデをものともしないスピードの差。君達が私を殺すなど夢のまた……あっ」
バキっと音を立てて枝が折れて、殺せんせーが地上に落ちる。
沈黙がおり、
「今だ、
「にゅやーッ、しッ、しまった!!」
今度は地上でバタバタし始める。
殺せんせーは慌てて縄をほどこうとするも、触手とからまって苦戦しているみたいだ。
なまじスピードがある分、繊細な作業は苦手なのかもしれない。
「意外とテンパるのが早いんだ。予想外の手を織り混ぜれば、あるいは……」
確認のように呟くと、近くの渚と茅野さんが意外そうな顔をした。
「……なにか?」
「いや、太刀川さんってあまり暗殺に積極的じゃないから、ちょっと驚いて……」
「うんうん。暗殺とか嫌なのかなって思ってた」
「そう? まあ、渚と同じで情報収集中ってところだから。いずれ、個人でも暗殺を仕掛けに行くよ」
こんな感じで思わせぶりなセリフを吐いている間に、殺せんせーはようやく縄から抜け出して屋根の上に逃げ出していた。
そこで息を整えている。
そして……
「明日出す宿題を2倍にします」
殺せんせーの宣言に、クラスが「小せぇ!!」と声を揃えた。
しかも、殺せんせーはどこか遠くへ逃げた。
……え、本当に宿題2倍なの?
それをなす術なく見送ったクラスは、ワイワイと盛り上がり始める。
「でも、今までで一番惜しかったよね」
「この調子なら、殺すチャンスは必ず来るぜ!」
「やーん。殺せたら100億円、何に使おー♪」
「殺す」という単語が軽く、日常的に使われているこの空間は、はっきりいって異常だ。
それでも、この椚ヶ丘中学校で、今一番いい空気なのはこの
◇◆◇
烏間先生は、予想通り体育の担当教師になった。
同時に副担任と、表向きの担任になるらしい。
……大変だなあ。私が言えた義理じゃないけれど。
現在は、対先生ナイフを使っての授業だ。
戦闘訓練と呼べるものはほとんど受けていない──実戦から学べとばかりに模擬戦に放り込まれたのだ──私にとって、こういう訓練は新鮮だ。
いや、思い返してみればボーダーの初期の訓練は酷かった。あれは、訓練なんて名ばかりの、新人を叩きのめすだけの作業だった。
しかも、旧ボーダー側に悪気はなく、むしろ模擬戦が1番訓練になると思っていた節がある。──確かに、感覚を掴むという意味ではよかったけれど、せめて武器の説明くらいはきちんとしてほしかった。
レイジさんがいなければ、ボーダーの戦闘技術は本当の意味では上がらなかったに違いない。本部長も、なんだかんだで指導は最初から上手いわけではなかった。
掛け声に合わせてナイフを振っていると、烏間先生から厳しい声がとぶ。
「八方向からナイフを正しく振れるように!!どんな体勢でもバランスを崩さない!!」
そして、その横でなぜか体育着に着替えている殺せんせーに向かって言う。
「この時間はどっか行ってろと言ったろう。体育の時間は、今日から俺の受け持ちだ。
追い払っても無駄だろうがな。せいぜいそこの砂場で遊んでろ」
殺せんせーは涙を流しながら、砂場で砂をいじり始めた。
砂場には雑草か生えていたように見えたのだが、一瞬の内にすべて引っこ抜かれていた。
どうせなら、校庭全体を整備してくれないだろうか。
「ひどいですよ烏間さ……烏間先生。私の体育は生徒に評判良かったのに」
その殺せんせーの言葉には、すぐに反論が出た。
「うそつけよ、殺せんせー。身体能力が違いすぎんだよ。この前もさぁ……」
私すら、反復横跳びに視覚分身とか言われたときは耳を疑った。人間にできると思っているのだろうか。
トリオン体でもそんなことできな……いや、そういうトリガーがあれば可能か……?
「異次元すぎてね〜……」
「体育は、人間の先生に教わりたいわ」
ガ───ン
そんな効果音が見えるほどショックを受けた殺せんせーは、泣きながら砂いじりを再開した。「しくしく」と声が聞こえるが、もう誰も殺せんせーを気にしない。
授業の再開を告げる烏間先生に、前原くんが問いかけた。
「でも烏間先生、こんな訓練意味あんスか?しかも当の
クラスのほとんどが同意見なのだろう。何人かが、うんうんと頷いている。
「勉強も暗殺も同じ事だ。基礎は身につけるほど役に立つ」
私は烏間先生と同意見。
たとえば私の兄がよく使う『旋空弧月』を例にすればわかりやすいかもしれない。
『旋空』は『弧月』専用のオプショントリガーであり、その間合いを拡張して攻撃範囲を広げる効果をもつ。
ランキング1位がよく使用することや、『弧月』使いが多いこともあり、『旋空弧月』の使い手はそこまで珍しいものではない。
だが、あれは『弧月』の扱いが上手くないと有効な手立てとはならない。『旋空』の起動時間は一瞬といってもいい。
その間に、重量のある『弧月』を狙いすまして振り抜かなければならないのだ。
生駒さんが『旋空弧月』使いとして名を馳せているのは、『旋空』の起動時間が他の人より短いからというのもある。それだけ、彼の技量が高いということなのだ。
だが、身近に例がある私以外は烏間先生の言葉に納得しきっていないようだ。
勉強に基礎が大切なのはわかるが、暗殺にも大切なのか?そう言いたげだ。
「例えば……そうだな。磯貝君、前原君。そのナイフを俺に当ててみろ」
今の実力では、私含めてクラスの誰でも烏間先生にナイフは当てられない。
身体能力の差が圧倒的なのだ。2人がかりでも、どこまで迫れるか。
「え……いいんですか?」
「2人ががりで?」
戸惑う磯貝くんと前原くんに烏間先生はネクタイを緩めながら返す。
……その仕草はちょっとカッコイイな。
「
かすりでもすれば、今日の授業は終わりでいい」
2人が烏間先生の前に出て、磯貝君がまずナイフを突き出す。
しかし、そのナイフは軽く避けられた。
「さあ」
動じた風もなく次を促す烏間先生に、今度は2人で攻撃を仕掛けていく。
すべていなされ、かわされたが。
「このように、多少の心得があれば、素人2人のナイフ位は、俺でも
私は、自分が烏間先生の立場でもかわせるだろうか、と脳内シミュレーションを行う。
いやでも、ボーダーではシールドで防ぐか受け流すかしているし……避けるだけなら?
「「くッそ」」
2人同時攻撃か……悪くはないけれど、いい手とはいえない。
案の定、2人は手首を捉えられ、ひっくり返らされた。
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。
……見ろ!今の攻防の間に奴は、砂場に大阪城を造った上に、着替えて茶まで立てている」
しかも、ニヤニヤ笑いもセットで。なかなかに腹が立つ。
ここまでくると、いっそわざとのような気がしてくる。
元からの性格だとしたら、相当なキャラだ。
磯貝くんと前原くんを助け起こしながら、烏間先生は続ける。
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。
ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々、体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
いくら自衛隊に所属していたからといって、何も知らない中学生にナイフから狙撃まで仕込むのは容易ではない。
それを1人で任されるということは、烏間先生は本当に優秀な人なのだろう。
授業終わりのチャイムが鳴り響き、私は校舎の方を見る。
授業の途中から感じていた気配。
殺せんせーや烏間先生がいたし、観察するような視線だったから無視していたが。
暴力沙汰でE組に落とされ、今日まで停学を食らっていた赤羽業が、立っていた。
二宮さんと加古さんの好きなもの:才能のある人間