暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~ 作:汐音 アイリ
「烏間先生、ちょっと怖いけどカッコいいよねー」
「ねー!ナイフ当てたら、よしよししてくれんのかな〜」
「6時間目、小テストかー」
「体育で終わって欲しかったよね」
そんな会話を交わしていた生徒たちも、次々にその存在に気付き、足を止める。
「カルマ君……帰って来たんだ」
元々知り合いだったらしく、話しかけた渚に赤羽くんが笑って答えた。
E組ができたとき、彼は停学中だったから、私は初めて顔を合わせることになる。
「よー渚君、久しぶり。わ、あれが例の殺せんせー?すっげ、本トにタコみたいだ」
予想通りというか、なんというか。なかなか面倒そうな人間だ。
席の左隣が彼だという現実からとても逃げ出したい。
「赤羽業君……ですね。今日が停学明けと聞いていました。初日から遅刻はいけませんねぇ」
顔にバツマークを浮かべた殺せんせーに、赤羽くんは苦笑して右手を差し出す。
一見穏やかな光景だが、どうにも裏があるように思えてならない。
「あはは、生活リズム戻らなくて。下の名前で気安く呼んでよ。とりあえずよろしく、先生!」
「こちらこそ。楽しい1年にして行きましょう」
そして、彼が殺せんせーが差し出された手を握り……その触手が破壊された。
左手のいちご煮オレを投げ捨て、対先生ナイフを出した赤羽くんが追撃する。
殺せんせーも、烏間先生も、クラスのみんなも。衝撃を受けていた。
殺せんせーにダメージを与えた
手に対先生ナイフを細かく切って貼り付けたという赤羽くんは、ゆっくりと殺せんせーに近付いていく。
「こんな単純な『手』に引っかかるとか……しかもそんなとこまで飛び退くなんて、ビビり過ぎじゃね?殺せないから『殺せんせー』って聞いてたけど……。あッれェ、せんせー、ひょっとしてチョロイひと?」
挑発的な態度をとる赤羽くんは、教室の方へ戻りながらナイフをクルクルと回し始めた。
まるで曲芸のような動きに、彼がナイフの扱いに長けていることがわかる。
いい隠れ蓑になるか、はたまた隠し事を暴かれる危険性があるか。
彼の実力は未知数だが、戦闘に関してクラスで上位に入ることは間違いなさそうだ。
◇◆◇
6時間目の小テストの時間。
殺せんせーはなぜか触手を壁に押し付けていた。
その行為の意味がわからず首を傾げたが、どうやら壁パンらしい。
触手が柔らかいから、壁にダメージが行っていない。
おまけにブニョンブニョンうるさい。
「ブニョンブニョンうるさいよ、殺せんせー!小テスト中なんだから!」
案の定、岡野さんがキレた。
そして私はといえば……私の席は寺坂くんとカルマくんの間なわけで。
ちょっと隣が怖そうだけれど、まあ問題ないとか思っていた過去の自分を猛烈に殴りたかった。
「よォ、カルマァ。あのバケモン怒らせてどーなっても知らねーぞー」
「またおうちにこもってた方が良いんじゃなーい」
寺坂くんと、追随する村松くんの言葉にカルマ君も挑発で返した。
思ったよりも遅く言い合いが始まったのは幸運だったかもしれない。
私のテストはほぼ解き終わっており、集中力が切れても問題なかった。
「殺されかけたら、怒るのは当たり前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時とは違ってさ」
寺坂くんは机を拳で殴って怒鳴った。単純な行動だ。
彼が腹の探り合いが苦手なことがよくわかる。
「な、ちびってねーよ!テメ、ケンカ売ってんのか!!」
寺坂くんも、シラを切ればいいのに……。思わず同情した。
動じずに返すカルマくんと比べれば、どちらが優勢かは一目瞭然である。
「あ、太刀川ちゃん。このこと、教えてくれてありがとね」
そこで、私に、振るな!と言いたくなるのを抑え、私は曖昧に微笑んだ。
いや、確かにエピソードを教えたのは私だが、別におちょくる材料として提供したわけではなかった。
それは、6時間目が始まる前の休み時間のこと。
私は赤羽くんに話しかけられた。
「ねー、太刀川ちゃん」
「えっ、赤羽くん?なにか?」
「これから1年、隣の席でしょ?よろしくね。下の名前で呼んでいいし」
「うん、よろしく……」
素質はあるみたいだし、トリオン量が基準に達しているのなら、ボーダーに勧誘したいな……。組織に馴染むかは、ちょっとわからないけれど……。と、ついスカウトの思考になるのは職業病のようなものだろう。
「今まで、どんな暗殺をしてきたの?」
「今までの?」
過去のデータを分析するのは基本だし、そういうことなのかな。
そう思い、今までの暗殺を思い出して挙げていく。
「基本的には、毎朝のクラス一斉射撃かな……。あとは、個人で暗殺を仕掛けたりするくらいだけど、全部失敗で……あ」
「なになに? 何かある?」
「うん……1度、寺坂くんたちが渚に手榴弾もどきを持たせて自爆テロみたいなことを仕掛けたことがあって。ただ、そういう風に自分や他人の命を大切にしない暗殺は良くないって、殺せんせーに怒られちゃったけれど」
私としては忠告の意味合いで話したのだが、予想外なことにカルマくんは、その話に興味を持ったみたいだった。
「怒った? どんな風に?」
「え? えーと……。普段、怒りは真っ赤になって表現するんだけど、その時は真っ黒で。
次にこんな方法で来たら、政府との契約で守られた私たち以外には危害を加えるかもって脅されたよ。たぶん、本当に実行するわけじゃないと思うけど」
カルマくんは、ふんふん、と頷いていたが、そこで2つの疑問を挙げる。
「なんで、本当にはやらないって思ったの?あと、寺坂たちの反応は?」
「……先生として、殺しはしないんじゃないかなって、それだけ。
寺坂くんたちはちょっと泣いて、いや、怯えてたみたい。うん。
殺せんせーについて詳しいことが聞きたいなら、渚に聞くといいと思うよ」
その言葉を聞いて、カルマ君くんはなぜかニヤリと笑った。
そこで今更ながらにカルマ君に燃料投下したことに気付いた私は、「カルマくん、楽しそうだなぁ……」と現実逃避をしていた。
結論、私は悪くない。
1人で勝手に納得していると、殺せんせーの注意がとんできた。
「こらそこ!テスト中に大きな音を立てない!」
大きな音、というより喧嘩を注意した方が……と思ったのだが、低レベルの喧嘩だから気にしないことにしたのだろうか。
殺せんせーに、カルマくんはジェラートを取り出して返す。
「ごめんごめん、殺せんせー。俺もう終わったからさ。ジェラート食って、静かにしてるわ」
「ダメですよ、授業中にそんなもの……。まったくどこで買って来て……」
言いかけて、殺せんせーはハッとした顔をする。
……え、ジェラートを買ったお店がわかったとか?
「そっ、それは昨日、先生がイタリア行って買ったやつ!」
「あ、ごめーん。教員室で冷やしてあったからさ」
「ごめんじゃ済みません!溶けないように、苦労して寒い成層圏を飛んで来たのに!」
お前のかよ!という声なきツッコミが聞こえた気がした。
殺せんせーは甘いものが好物らしい。よく食べているのを見かける。
でもまさか、ジェラートのために成層圏にまで行くとは思わなかった。
殺せんせーにとっては、成層圏などお散歩感覚なのかもしれない。
「へー……。で、どーすんの? 殴る?」
「殴りません!残りを先生が舐めるだけです!」
残りを舐めるという衝撃発言に、殺せんせーのジェラートへの執着がうかがえる。
しかし、舌を出して挑発したカルマくんに向かってズンズンと歩いていった殺せんせーの足が、突然弾けた。
いつの間にか、床に対先生弾が置いてあったようだ。
「あっはー、まァーた引っかかった」
動きの止まった殺せんせーに向けて、カルマくんが続けて撃つ。
そちらはかわされたが、殺せんせーの表情には動揺がはっきりと表れていた。
「何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら……俺でも、俺の親でも殺せばいい。でもその瞬間から、もう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ。あんたという『先生』は……俺に殺されたことになる」
……彼は、頭の回転がとても早いのだろう。
本質を見抜く力と、どんな物も扱いこなす器用さも持っている。
私の推測も交えてだけれど、短期間で得た情報をここまで上手く使うとは。
その力を、人とぶつかるために使ってしまっているのがもったいない。
しかも、奇襲や騙し討ちが主みたいだ。
せっかく素質があるのに、これでは宝の持ち腐れというもの。
うん、これはやっぱり、ボーダーにいずれ勧誘しよう。
彼がチームを組んだら、ランク戦が一段と面白くなるに違いない。
少し気になったのは、「先生」という存在にこだわりがあるような響きがあったことだ。
生物としての死、先生としての死……どちらでも構わないようにも聞こえた。
◇◆◇
翌朝教室に入ると、教壇にナイフが刺さったタコがありました。
色ツヤのいい、美味しそうなタコですね。
誰が買ってきたのかなー。
ナイフ?
なんだろうね、調理途中かな。
あ、金欠の殺せんせーの仕業かな?
「おはよ、太刀川ちゃん」
「おはよう、カルマくん。このタコ、やっぱり……」
「うん? 俺が買ってきたやつ」
ですよね!
予想通りすぎて、苦笑することしかできなかった。
昨日、カルマくんにしてやられていた殺せんせーはどうするのかと思っていたが……手入れをする、という結論になったらしい。
朝はタコをたこ焼きに調理されて食べさせられ、
授業中の暗殺を止められたと思ったら爪にネイルアートを入れられ、
家庭科ではフリフリの可愛らしいエプロンを着させられ。
これは手入れじゃなくて……プライドへし折り大会?
殺せんせーはけっこう弱点が多い。
ちょこちょこドジを踏むし、慌てた時は反応速度も人並みに落ちる。
性格も「本当に地球を滅ぼそうとしているのか?」と思うほど隙だらけだ。
……ただ。
いくらカルマくんが不意打ちに長けていても、本気で警戒をしている殺せんせー相手に勝てるほどの実力ではない。
もっといえば、ある程度意識して自分を
機会が減るなら誘導もしやすくなるし、タイミングもわかりやすくなる。
結局、カルマ君は1日中暗殺をかわされて終わった。
◇◆◇
放課後、大自然に囲まれて読書を楽しんでいたら、カルマくんが落ちてきました。
おまけに、助けなければと思ったら殺せんせーも落ちてきて、触手でカルマくんを助けました。
……ちょっと訳がわからないですね。
「カルマくーん、平気ー?」
下から呼びかければ、殺せんせーの方が反応した。
「にゅやッ!太刀川さん、どうしてここに!?」
「いや……大自然の中での読書は楽しそうだったから」
全くの嘘ではない。他にも理由はあるけれど。
主に地形把握のため、という理由が。
カルマくんは触手の上でじたばたしていた。
触手には粘着性でもあるのかもしれない。
この光景、教師としてはちょっとアウトなんじゃ……いや、殺せんせーは超生物だし、その能力を使っているから……セウト?
「これでは撃てませんねぇ、ヌルフフフフフフ」
よく見れば、カルマくんの右手には銃があった。
飛び降りて、その間に銃で撃とうと?
……無理するなあ、生身なのに。
「……ああ、ちなみに。見捨てるという選択肢は先生には無い。いつでも信じて飛び降りて下さい」
その殺せんせーの言葉に、カルマくんの空気が軽くなる。
なんというか、浄化技を受けたみたいに、暗いオーラがぱあっと散っていった。
カルマくんと共に、先生に持って行ってもらった崖の上には渚がいた。
「あれ、渚?……もしかして、渚がカルマくんを?大人しそうな見た目なのに、意外と行動的なんだね……」
「ちょっと、太刀川さん!? 違うよ!?カルマくんが自分から飛び降りて……って、カルマくん。平然と無茶したね」
「別にぃ……。今のが考えてた限りじゃ、一番殺せると思ったんだけど。しばらくは大人しくして、計画の練り直しかな」
万が一を心配したが、渚がカルマくんを突き落としたわけではなかったらしい。
そこに、いい空気に割り込むタコがきた。
「おやぁ? もうネタ切れですか?報復用の手入れ道具はまだ沢山ありますよ?君も案外チョロいですねぇ」
なんだかイラッとする。
わざとだとわかっているが、それでもイラッとくるものがある。
カルマくんもイラッとしたみたいだが、どこかさっきとは違う。
「殺すよ。 明日にでも」
カルマくんは、もう淀んだオーラを
その表情も、どこかスッキリしている。
「帰ろうぜ、渚君、太刀川ちゃん。帰り、メシ食ってこーよ」
ニッコリと笑って、カルマくんが財布を見せた。
カルマくんの趣味とは合わなそうな……と思っていると、殺せんせーが悲鳴をあげた。
「ちょッ、それ先生の財布!?」
「だからぁ、教員室に無防備で置いとくなって」
ジェラートの時もそうだったけれど、教員室の警備は結構ガバガバだなあ……。
生徒に侵入される分にはまだいいけれど、いつか重大な機密が盗まれそうだ。
E組のボロ校舎には、外部の侵入を阻むセキュリティなんてないだろうし。
「返しなさい!」
「いいよー」
「な、中身抜かれてますけど!?」
「はした金だったから、募金しちゃった」
「にゅやーッ、不良慈善者!」
殺せんせーとカルマ君のやり取りに、思わずクスリと笑いが漏れた。
「本来のカルマくんは、あんな感じなの?」
「うん……よかった。さすが殺せんせーだね」
暗殺に行った殺し屋は、
それがここ、暗殺教室。
明日はどうやって殺そうか。
スパイダーとか鉛弾とか、結構好きなんですよね。
状態異常系とか。
ただ、それをいれるといろいろと制限がつくという……ままならない。