暗殺教室の戦闘員 〜異世界からの侵略×超生物の出現~ 作:汐音 アイリ
今日も殺せんせーに決定打を与えられないまま、1日が終わった。
それぞれが帰り支度をし、帰路につく。
それは私も例外ではなく、荷物をカバンに詰め込んでいた。
そして、携帯の通知を一応確認する。
すると、珍しい人物からメッセージが来ていた。
それを見て、思わずガタッと勢いよく席を立つ。
「なになに、太刀川ちゃんどうかした?」
今の私は、カルマ君の軽口に付き合う暇すら惜しい。
それまでの3倍の速さで帰り支度を完了させる。
「ちょっと……えー、お迎えが来てるから!」
それだけ言い捨てると、超特急(当社比)で校舎を出て坂を駆け足で下っていく。
……よく考えれば、大声でクラスメイトの興味をひくような話題を叫ばなくてもよかったのに。
動揺がモロに出てしまったことを内心反省した。
◇◆◇
E組校舎のある山を抜けると、そこに立っているのは迅さんでした。
学校指定の学ランを着こなし、フェンスにもたれている立ち姿ですら周囲を魅了する。
少し明るい茶髪と、空を閉じ込めたようなすべてを見透かす瞳に、鍛えられて引き締まった細身の身体。
さらには、未来視のサイドエフェクトというチート級の能力をあわせもつS級隊員。
そんな彼が、好敵手の妹とはいえ、一介のA級隊員である私のためだけにお迎えに訪れるか?
答えは当然、否。
何か、別の目的のついでと考えるのが妥当だ。
「迅さん! 突然どうしたの?」
だがそれを堂々と訪ねたりはせず、まずは探りをいれる。
単純にお迎えに来た可能性もまだ捨てきれないからだ。……というか、ちょっと期待している。
可能性はまだ0ではないので、チャンスはある。多分。
「ああ、来ちゃった✩」
「いや、来ちゃったって……学校は?」
すごく素敵に輝いている笑顔だけど、誤魔化されませんよ。つまりサボりですね。 気持ちはわかる。
内心で語りかけながら彼の真意を探ろうとする。
しかし、ポンと頭に手がのった。
優しい手は、そのまま私の頭を優しく撫でる。
……誤魔化されてくれってことかな。
そう判断し、大人しく身を任せた。難しい思考を放棄すれば、素直に甘えることができる。
迅さんとはそれなりに仲良しのつもりだが、そんな私でも彼にはなかなか会えないのだ。
「暗躍」などと称して、いろいろと手を回している彼が忙しいことはわかっている。
彼にしかできない役割がたくさんあるということも。
分かってはいるが、サイドエフェクトという共通の属性をもつ彼に会えないことを寂しいと思うのも仕方ないはずだ。
「今日は、幸のクラスメイトの顔を見に来たんだよ」
……クラスメイト?私はどういうことか聞こうとして、すぐに納得した。
より正確な未来を視るためには、私だけを通して未来を視るよりも全員を見た方がいい。
「そうは言っても、何人かは帰っちゃったけれど……。教室にもまだ残っている人がいたし」
「ああ、他の人はもう全員見たから平気」
「え……? あ、もしかして資料では全員を見ているの?」
まさか授業が終わる前から待っていたのだろうか。
教室に残っている人も見たと言っていたし、数日前から来ていたのかもしれない。
だとしたらかなり不審者だ。
そうやって話してこんでいると、後方に複数の気配を感じる。
殺気はなく、観察するような視線。
迅さんを見上げ、
いや、むしろこの展開を狙っていた……?
じーっと問い詰めるように見上げる私に根負けし、迅さんはいつも持ち歩いているぼんち揚の袋を差し出す。
「あー、幸? ほら、ぼんち揚、食う?」
「……食べる」
1枚だけもらい、ため息をつくと振り向いた。
明らかに強ばる気配。最初からバレていたのにね。
「……それで?そこの野次馬さんたちは、姿を現したら?」
視界に入れれば、よりはっきりする。
カルマくん、渚、茅野さん、中村さん、殺せんせー。
……おい、国家機密。心の中で殺せんせーにツッコミを入れた。
「なんだ、バレてたんだ……」
「ごめんね、隠れてたりして……」
最初に姿を見せたのは渚と茅野さん。
2人は少し申し訳なさそうな感じだ。
なんとなく連行されてきたのかもしれない。
「で、その人は太刀川ちゃんの何?」
「まさかまさか、彼氏なの?」
そして、カルマくんと中村さん。
人の恋愛事情が気になるのはわかるが、何か漏らしたら最後、この2人は永遠にその事でからかってきそうだ。
殺せんせーは出てこないみたいだ。
……いや、国家機密に出てこられたらそれはそれで困るからいいけれど。
迅さんは、ニコッと人好きのする笑顔を浮かべた。
「どーも、はじめまして。俺は、幸のお兄さんの友人で迅悠一。
今日は、ちょっと遊びに行こうと思って幸のお迎えにきたんだよ」
あ、実力派エリートとは言わないんだ……。
自己紹介にいつもの「実力派エリート」の言葉はなかった。
私が潜入任務だということを考慮してくれているのかもしれない。
それとも、ボーダー隊員以外には言っていないのか。
顔を見合わせて、笑みをこぼす。
どこから見ても、仲のいい男女。
誤解を誘うには十分な要素ともいえる。
それでも……殺せんせーを誘い出すには至らない、か。
さすがに姿を見られてはマズいという自覚はあるらしい。
これくらいが限度だと判断して目配せする。
身長差の関係で、自然と見上げる形になった。
「それじゃ幸、そろそろ帰ろっか。太刀川さんが暇を持て余しているみたいだし」
「本当に? それなら、相手してもらおうかな〜」
4人に別れを告げて、迅さんと共に歩き出す。
久しぶりに対戦できるという期待もあって浮かれていた私は、既に頭の中からすっかりE組のことなど抜け落ちていた。
◇◆◇
2人が立ち去ってからも、その場から動くものはいなかった。
「なんていうか、太刀川さんってあんな風に笑うんだね……」
呟いたのは茅野だ。
自然な心からの笑顔。
それを見たのは誰もが初めてだったが、それ以上に彼女はあまり笑うことがなかった。
「やっぱりあの人、彼氏なのかね」
「本人は『お兄さんの友人』って言ってたけど」
その言葉を信じる者はいなかった。
あの仲良さそうな様子では、付き合っているか、付き合う寸前の両片想い状態だろう、と。
実は、ボーダーではわりと男女の垣根を越えて隊員同士の仲がいい傾向にあり、2人の距離感はさして珍しくないのだが……。
そして、どこか沈んだ雰囲気の生徒たちの横で一心不乱にメモ帳に書き込む教師、殺せんせー。
「……殺せんせー。太刀川さん、E組があまり好きじゃないのかな」
「どうしてそう思うのですか?」
暗い雰囲気を漂わせた渚の問いに、殺せんせーも書く手を止めた。
その顔はいつも通り、生徒に真摯に向き合い、その答えを出すお手伝いをする教師の顔で、渚は言いにくいこともすんなりと口に出すことができた。
「だって、E組ではそもそも笑うこと自体がないのに、あの人にはあんな笑顔だったし……」
「うーん、そうですねぇ」
殺せんせーは
殺せんせーも彼女の笑顔はあまり見たことがない。
感情が表に出にくいタイプなのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
「太刀川さんも、まだクラスに馴染んでいない、ということです。
E組は始まったばかりです。これから仲を深めればいいんですよ」
その言葉に、渚や茅野は少し顔色を明るくして頷いた。
穏やかな顔でそれを見ながら、殺せんせーは幸についての考察を重ねていく。
彼女がよく周囲を観察するような視線を向けているのは気付いていた。
その時は、渚のようにサポート向きの生徒なのだと思っていたし、クラスに馴染めばその本領を発揮してくれるだろうと、そう考えていた。
だが、背後から盗み見ていた人間の気配を察知できるような力量だったか?
烏間先生の訓練は全員が同じようなものを受けていたはずだし、訓練時に特別なところはなかった。
一緒にいた男性が教えたわけでもなさそうだったし、もしかしたら、自分は勘違いをしていたのかもしれない……。
「ヌルフフフフ。これからが楽しみですねぇ」