ここは、何処だ……。
何故、ここにいる……。
こんな知らない場所に1人で。
――いや、訂正しよう。オレはここを知っている。
そう、知っている。
なんてったってついさっきまで見ていたのだから。
「……な……んで……。」
己の理解を超えた事態に動揺して言葉がうまく出ない。目の前に広がる光景は、淀んだ空、乾燥した空気、かつては形を成していたであろう建造物や舗装道路の残骸、そして荒廃した大地…。
先程までプレイしていた『フォールアウト3』の世界が目の前に広がっていた。液晶画面越しなどではない、ホンモノの世界がだ。呆然と立ち尽くしていると、生ぬるい風が肌を打った。足下の石を手で拾い上げるとゴツゴツとした感触が手に伝わってくる。有り得ないと思いつつも五感はこれは現実だとそう訴えてくる。
ふと自分を見てみると服装が変わっている事に気がついた。上下グレーのジャージを着ていた筈が、体はコンバットアーマーで頭はコンバットヘルメットを装備(色はデザートカラー)していた。手にはアサルトライフルを持ち、左腕には――
「これは……pip-boy?」
――この世界における高性能端末であるpip-boy 3000がついていた。触れてみようとしたところで背後に気配を感じ、振り返ると何かが突っ込んできた。
「うわぁっ!?」
慌てて避けて突っ込んできたそれを見る。
「モ、モールラット!?」
そこにいたのは全身が爛れて赤黒く変色した大型のネズミ“モールラット”だった。モールラットはこちらを確認するとまた襲いかかってきた。寸でのところで避けた勇は、手に持っていたアサルトライフルを構える。勿論銃など撃った事はおろか持った事すらない勇だが、そんな事も言ってられない。反撃しようとするがしかし、突然の事態にパニックになっているせいか中々狙いが定められない。
「……あっ!?」
必死に攻撃を避けてはライフルを構え直す事を繰り返していた勇は、混乱と焦りからか足場が悪くなっているのに気がつかなかった。ひび割れた地面の段差に足を引っかけて転倒してしまう。それを好機と見たのか、モールラットが口を開けながら飛び掛かってきた。
裂けた口から見える唾液まみれの牙が、獲物に喰らいつかんと迫ってくる。
あぁ、オレ死ぬのか? ゲームしてたらいきなり訳の分からない状況になって、何の抵抗も出来ないままゲーム中では弱小の部類に入る相手に喰われるとか。情けなさ過ぎて涙が出るよ。
ターーン、バシュンッ!
もう無理だと諦めかけたその時、遠くから発砲音が聞こえた。次の瞬間には目の前のモールラットの頭が弾けとんでいた。スイカが割れたように赤黒い肉片と血を周囲に撒き散らす。
肉片を全身に浴びながら、勇は暫く動くことができなかった。もはや状況に追い付けず思考がフリーズしてしまっているのだ。モールラットだったモノを見て茫然としていると誰かが近づいてきた。
「危なかったな、大丈夫かい?」
そこにはVault-101とロゴの入ったジャンプスーツを着てハンティングライフルを構えた壮年の男性が立っていた。
◇◆◇◆
大丈夫かい、と声を掛けられても直ぐには返答することができなかった。命の危険に晒された恐怖心から、というのもあるがそれよりも彼の顔を見た瞬間の驚きの方が大きかったのだ。
「……あ、あなたは……。」
「あぁ、すまない。私はジェームズ。ただの旅人さ。」
彼はそう自己紹介したが、されるまでもなく勇は既に彼のことを知っていた。何故なら彼ジェームズは原作に出てくる主人公の父親なのだから。
「ところで君は?」
命の恩人――ジェームズさん――が聞いてきた。相手が名乗ったのに此方が名乗らないのはあまりに失礼だ。カジマ ユウ、ここはアメリカが舞台だからユウ カジマと名乗った方がいいかな。
……某機動戦士の実験動物部隊のパイロットさんみたいな名前だな。
「はい、ユウ カジマといいます。先程は危ないところを助けて頂いて、本当にありがとうございます。」
「いや、いいさ。困ったときはお互い様だからね。」
なんて誠実な人だろう。この狂気と死の蔓延する世界でこんなにも良識のある人物はそういないだろう。
「さて、詳しい話は後でしよう。そろそろ日が傾いてきたからね。近くに休める場所があるからそこまで移動しよう。」
言われてから気がついたが、辺りは薄暗くなってきていた。この世界には先程のモールラットのように放射能によって突然変異した動物やレイダーという非道な無法者たちの集団があちこちにいる。そのため常に周りを警戒しなければならず、安心して休める拠点のようなものが必要不可欠なのだ。特に夜間などの視界が利かない時などは非情に危険だ。
「わかりました。宜しくお願いします。」
一先ず休憩場所に向かうため、ユウは歩き出したジェームズさんの後を追った。