気ままに! ウェイストランド放浪記   作:気分屋

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第3話  ひとまずの休息

 夜の帳が降りて辺りは闇に包まれていた。本来の用途として機能しなくなって久しい嘗てハイウェイ道路だったものや、元は何かの工場だった廃墟も闇に覆われて一層不気味さを増している。

 時折建物の隙間を抜けていく風の音がそれに拍車をかけていた。

 

 月明かりどころか星の輝きすら隠れた闇空、その下に広がる同じく闇一色の大地。その中に灯りがポツンと一点だけ存在した。その灯りを目指して歩いている人影が2つ。まぁオレとジェームスさんなんだけど。

 

 近づいてみると灯りは松明の炎だった。そのすぐ傍に犬が3匹と椅子に腰掛けた黒人女性がいた。

 

 

「やぁ、スカベンジャー。元気だったかい?」

 

 

「おや、ジェームスさんかい。久しぶりだねぇ」

 

 

ジェームスさんは彼女と顔馴染みらしい。警戒もなく親しげに話をしている。

 

 

「ところでそこのお兄さんは誰だい? 見ない顔だねぇ」

 

 

「あぁ彼はユウ カジマ君。昼間モールラットに襲われていたところを助けたんだ」

 

 

「初めまして、ユウ カジマです」

 

 

取り敢えず握手をと思い手を出してみる。スカベンジャーさんはオレを見定めるように頭から爪先までをジーっと見ていたが、「まぁジェームスさんが連れてきたんだから悪い子じゃあないだろうね」と言って握手を返してくれた。

 

 

「さて、急で悪いんだけど何日か滞在させてもらってもいいかな?」

 

 

「どうせ空き家ばかりだからね。好きに使って構わないよ」

 

 

何の話だろうと疑問に思いながら聞いていると、スカベンジャーさんが奥の方を指差した。暗くて気が付かなかったが、目を凝らすと一軒家の家とも小屋ともつかない建物がそこかしこに点在していた。

 スカベンジャーさんの話によるとここは昔小さな村だったそうだ。しかし外敵の脅威に晒され、いつしか住民が離れていき廃村となったここを自分の拠点にしたのだそうな。

 

 

「ありがとう。恩にきるよ」

 

 

「やだね、こっちも助けてもらってるんだから困ったらお互い様さね。あんたがいろんな機材や装備を持ってきてくれるからあたし達は大助かりだよ」

 

 

 スカベンジャー、それは彼女の名前ではない。彼女のように自分で物を集めては商売をする。ひとところに留まることもあれば各地を転々とすることもある放浪の商売人。そのような人達を総じてスカベンジャーと呼称しているのである。

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 

 一通りの紹介が終わったところで食事にすることになった。大きめの石を円形に並べ中に適当な長さに折った枯れ木を並べて簡単なキャンプファイアの出来上がり。

 火を起こしたジェームスさんはちゃっかり剥ぎ取っていた昼間のモールラットの肉をフライパンで焼く。ジュウジュウと小気味よい音を鳴らすそれに適度に火が通ったら皿に盛り付け、平たい石や板などテーブル代わりになる物に載せる。その他に荷物からきれいな水を人数分取り出して渡してくれた。

 

 ユウは恐る恐る肉にフォークを刺す。少し力がいるあたり肉質は固そうだが、見た目は悪くない。油の滴るジューシーな肉料理といったところか。だがこれが昼間の変異ネズミだと思うと食欲など湧かなかった。

 

 

「気持ちは分かるが食べておいた方がいいよ。食べれるだけまだマシな方なんだから」

 

 

ジェームスさんの言うことも分かる。この不毛な場所で食料確保がどれだけ困難か、この世界を知る人間なら分かるだろう。実際ここキャピタルウェイストランドで入手できる食料といえば、大半は核戦争前の保存食となっている。中には極々稀にではあるが、イモなどの野菜が自生していたり変異して首が二つある牛『バラモン』が群生していたりもする。だが前者は高確率で放射能に汚染されており、後者に至っては言わずもがな。

 

 そのためモールラットのようなモンスターに分類されるものでも貴重な食料たりえるのがここキャピタルウェイストランドの常識だ。

 

中々手が動かなかったが、躊躇いながらも一口かじりついてみる。噛んだところから肉汁が溢れ出てくるところは中々いいが、やはり固く呑み込むのに苦労する。後々思い返してみると塩気が足りなかったと感じたが、調味料などあるはずがないのでどうにもならない。

 

食事が済んだ後、ジェームスさんに自分があそこにいた経緯を説明した。流石にゲームの世界に入ったとは言わなかった……というか言えなかった。信じてもらえないのは分かりきっているし、もしかしたら予期せぬ形で多大な影響を及ぼすかもしれない。

 

 

「つまり君はこことは違う世界、パラレルワールドから来たと言うんだね?」

 

 

なのでそういうことにしておいた。どのみち荒唐無稽で到底信じられる話じゃないし、変に思われたろうなぁ。

 

 

「……分かった、取り敢えず信じることにするよ」

 

 

「……へ? 信じてくれるんですか? オレが言うのもなんですが」

 

 

「確かに信じられる内容じゃない。言ってしまえば馬鹿げた冗談にしか聞こえないね」

 

 

「う……」

 

 

分かってはいたが、ズバリ言われると結構堪える。項垂れるオレを見ていたジェームスさんは、そこでニコリと笑う。

 

 

「でも見る限り、君は嘘を吐いている風には見えない。それに、そんな嘘を吐いてもメリットはないと思うし。オレは信じる事にするよ」

 

 

 その言葉にオレは不覚にも涙を流した。いきなりこの世界に跳ばされて、わけも分からないままに死にかけた。不安で一杯だったオレには、ジェームスさんの何気ない優しさが何よりも嬉しかった。

 

 

「さて、本当に異世界から来たならこの世界での生き方とか分かってないだろう。出来る範囲でいいならオレが教えよう」

 

 

ふと気がついたが、初対面の時の一人称は私だったのに対し、今はオレと呼んでいる。ジェームスさんの地はオレの方らしい。まぁその話は置いといて、この申し出は正直以外だった。

 

 

「いいんですか!? でも時間がかかるだろうし、食料や弾薬とかも……」

 

 

 この世界がゲームと同じだとすれば、オレはジェームスさんのやろうとしている事を知っている。それを考えればこんな所で油を売っているべきではない筈だ。

 それに教えてもらうのは何も知識に限った物ではない。銃器の取り扱いや機械の操作、果ては基本的な移動から戦闘時の対処法など多岐に渡る。

 そしてその訓練には実機や弾薬など消耗品が少なからずある。それを考えると少々、いや大分後ろめたく感じるわけで。

 

 

「んー……、掛かるだろうけどキミ放っておくと直ぐ死んじゃいそうだからね」

 

 

「うぐ……」

 

 

 日中モールラット相手に死にかけた身としてはぐうの音も出ない。このままジェームスさん達と別れても、言われた通りになるのが容易に分かるので尚更だ。

 

 

「まぁそういうわけだから。今日はもう寝るとして明日から始めよう」

 

 

「はい……、よろしくお願いします」

 

 

申し訳なさ半分、気恥ずかしさ半分を抱えながらオレは用意されたマットに寝そべった。見張りはスカベンジャーさんと三匹の犬がしてくれるようだ。

 

 こうして次の日から、ジェームスさん指導の下数日に渡る『ウェイストランドの生き方講習』が始まったのだった。

 

 余談だが、腹の中で何かが動いている感覚に、横になっても暫く寝付けなかった。食生活にも早めに慣れなければと思ったユウだった。

 

 

 




これで主人公が大分マシになる……予定です。
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