校内に響くチャイムが、学校の終わりを告げる。
そして、それは始まりでもある。
今まで机で勉強していた数百人が、それぞれ違うことをしだす時間だ。
スポーツに励む者、勉学にさらに励む者、娯楽を楽しむ者。様々な事をして良い時間、我々学生に課せられた義務を果たし終えた後にあるもの、それは放課後だ。
そう、この時間帯は私の時間だ。
誰にも私を止める権利はない。あってたまるか。
私にはこの時間、やらなければならないがあるのだ。何人たりとも邪魔はさせない。
「花園君……ジュエルシードを渡して」
例え私の道を阻む者が魔法少女の格好をしていても。
空中に浮かび、スッテキを向けられたとしても。
「この子がジュエルシードを……」
フェレットが二足歩行しただけでなく、言葉を喋ったとしても。
私は止まらない。止められない。
「そこをどけ……そうしなければ、見たくもないモノを見ることになる」
彼女達は私の言葉を聞き、警戒心を上げたようだ。
臨戦体勢に入った彼女達は、テコでも動かないつもりなのだろ。
それはつまり、見たくも無い恐ろしいモノを見たいということだ。物好きなヤツらめ。
――――ぎゅるるるる~
そんなに私の脱糞を見たいというのか。
ふざけるな! この歳で漏らしたら、もう学校に行けなくなるわ!!
私は彼女達を睨みつけた。
それは極々当たり前のことだ。何故なら彼女達の背後には、WCと書かれた公共物があるのだから。
■
ことの始まりは1時間前……。
私は帰宅途中、ある変化が起きていることに気が付いた。
それは腹部から押し押せる、強烈な痛み。
内部を抉られ、何かが暴れまわっていると錯覚するほどの痛みだ。
「ぬぉぉぉぉっっっ!!」
私は堪らず、両手で腹部を抱えた。
少しでも痛みが和らぐように。少しでも楽になれるように、私の体は自然と動いていた。
しかし、現実とは残酷なものだ。どれだけ腹部に気を使っても、痛みは一向に減らない。
それどころか、痛みは酷くなる一方だ。
これはマズイ。
そう思った私は、近くにある公園へ逃げ込んだ。
腹部の痛みに耐え、ぎこちなく歩き。その末、私はとうとう見つけたのだ。
光り輝くWCの二文字を、トイレというヴァルハラを見つけ出したのだ。
「あぁ……」
私は感動し、涙が出そうになった。
実のところ私は公衆トイレに対し、不衛生な印象を私は持っていた。
臭い、汚い、さらに虫が多くいる……そんなトイレ必要ない。
そんな馬鹿なことを、昨日までの私は考えていた。
公衆トイレの神様ゴメンナサイ、私が間違っていました。
今までの間違いに気付き、後悔し、悔い改め。私は何度も何度も心の中で懺悔をした。
いるかもしれない公衆トイレの神に許してもらう為に……。
「なのは、結界張ったよ」
「……うん」
しかし、私の声は神に届かなかった。
それどころか、神は刺客を送り込んできた。
白い悪魔とその使い魔……私には、彼女達がそう見えた。
空に浮ぶ少女。
立って喋るフェレット。
人々が消え、色あせた世界。
ファンタジーな事だらけなこの状況。普段なら驚いたかもしれない。
だが、今の私はこんなことで驚いてる場合ではないのだ。
気を抜けば、肛門筋が決壊する……もうすぐそこまで来てるッ!
そんな極限な状態では、他のことなど気にしている場合ではない。
漏らしたら、社会的人生の終焉なのだから……。
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話は冒頭へと戻る。
空中には白い悪魔。地上には使い魔。
私は脱糞の危機、最悪の状況である。
「ユーノ君ッ!」
「うん、チェーンバインド!」
フェレットの地面から出て来た鎖に、私の四脚は縛られた。
ギチギチと軋む鎖は、ちょっとやそっとじゃ解けない。私は拘束されてしまったようだ。
脱糞しそうな相手を拘束とは……なんて趣味してやがるんだ、こいつ等は。
―――ぎゅるるるる~
腹部からまたも訪れた痛みに、私は顔をしかめた。
額に大粒の汗が浮び、垂れてくる中、私はお腹を擦りたい衝動にかられていた。
少しでも楽になる為に、私は何度も拘束された腕を動かした。
しかし、結果はギチギチという耳障りな音を奏でるだけだった。
状況は最悪の一途を辿っている。泣きたい気持で一杯だ。
「チェーンバインド!」
フェレットは私が抵抗していると勘違いしたのだろうか。
新に一本の鎖を出し、私の一部分を拘束し、強く締め付けてきた。
「ッ―――!?」
私は、声にならない叫び声を上げた。
何故なら、あのフェレットが次ぎに拘束してきたのは腹部。
ギチギチと締め付けてくる鎖は、無慈悲の一言だ。
「お、お前等……じ、自分達が何をしているのか、わ、わかっているのかっ」
「……これが悪いことだって、解かってるの。
でもっ! こうしないと皆が、花園君自身が悲しむことになるのッ!」
泣きながら叫ぶ彼女を見て、思う。
意味が解からない……泣きたいのは此方の方だ。
今君達がしている行動そのものが、私を悲しませていることに何故気付かない。
「お、お前達のやってることはぎゃ、逆効果だ……それでは誰も喜ばない」
「褒められたことじゃないのも、解かってるの。
誰にも喜ばれないことも、花園君に嫌われるのも……解かってるの」
「なのは……」
フェレットが心配そうに少女を見ている。
その気持の一割でも、私に慈悲を恵んで欲しいものだ。
「でもっ、何もしなかったら沢山の人が傷つくの!
そんなの、私は嫌だ!……だから…私は花園君を止める」
彼女は力強く、決意の篭った目で私を見ている。
そして、手に持つステッキを握り締め、直にでも攻撃してきそうな雰囲気だ。
「私を通さないというなら……止む終えない」
目の前のトイレに行けず、その場に拘束されたこの状況。
長くない内に、私は確実に漏らす。
ならば私は、最後の掛けにでることにした。
それは自分自身をテレポートすること。
ここから撤退し、トイレできそうな所に移動することだ。
そうすればこの刺客から逃げられるだけでなく、トイレに行ける。
まさに一石二鳥な手段だ。最初からそうすれば良いのに、と思ってしまぐらいに合理的な方法だ。
だが、最初からテレポートをしなかったのには理由がある。
それは……テレポートをする際、かなり集中しなければならないこと。
そう、集中することが問題なのだ。
今の私は、腹部の痛みと肛門筋に力を込めるのに手一杯の状態。
そんな状態で、他の事に集中しようものなら、直にでも漏らしてしまうだろう。
そんな危険なリスクを負ってまで、私はテレポートを使用する気は無かった。
しかし、状況は既に詰みに近い状況だ。
このまま拘束され続け、漏らすぐらいなら……私は賭けにでる。
「ジュエルシードの魔力が……ダメッ、止めて!!」
「止めるんだ!」
彼女達は焦り、叫びだし始めた。
どうやら彼女達には、私が何かすると解かってしまったようだ。
しかし、どれだけ制止を呼びかけようと、私がテレポートを止めることない。
このままでは漏らすし、何より私を更に拘束しようと、フェレットが鎖を5本追加で出しているのだ。恐ろしくて、止めれるはずもない。
目を閉じ、思い浮かべるのは4㎞離れたところにある大通り。
あそこには、公衆トイレは無いがコンビニはある。つまり、トイレがある。
私は行きたいと念じ、願う。
腹部の痛み、漏れそうなお尻。邪念を払い、私はひたすら念じる。
「花園く――」
白い魔法少女は、何かを言ったようだが、それは直に聞こえなくなった。
それどころか、辺りは急に静になり、音1つ無い場所に私は居る。
目を開け、周りを見渡せば、そこには大きな交差点、立ち並ぶビル。
そして、目先にあるものは……コンビニ。
―――ヴゥ
聞きたくも無い音が聞こえてきた。発信源は私のお尻。
私は直、下着の上からお尻を触ってみる。
腹痛は相変わらずだが、お尻に湿った感じはない。
ちょっと何か出た感覚はあったが、どうやらオナラだったようだ。
「勝った……」
私は歓喜した。
刺客から逃げ、トイレが目の前にあり、危険視していた脱糞も無かった。
完全勝利と言って良いこの状況。歓喜せずにはいられない。
しかし、いつまでも喜んで良いという訳ではない。
私がいずれ漏らすのもそうだが、あの刺客が追ってこないとも限らない。
ここは早々と用事を済ますのが先決。
それに、ある偉人はこのような名言を残している――油断大敵。
油断していては、勝てるものも勝てなくなる。
勝利目前の今のような状況が、まさに油断しやすい状況。
私は早々と、一歩ずつ足を進めた。
"絶対に油断しない"と心で何度も唱え、私は更に前進する。勝つ為に。
私は万全にことを進めた。
しかし、私は重要なことに気付いていなかった。
私が何故公衆トイレに行けなかったのか、私に刺客を向けたモノは誰なのか。
この時、私は早くに気づくべきであった。
―――私は公衆トイレの神を敵にしていると。
曲りなりにも、神と敵対していることに。
神が創造する存在だと、気付くべきだったのだ……。
「ジュエルシードを渡してください」
「早く渡しな。
そうしないと、ガブッといくよ」
コンビニの前に立ちはだかる、黒い魔法少女。
後方で"ガルルッ"と威嚇してくる朱毛の狼。
新に現れた刺客を見て思う……どうやら、私は神の怒りに触れてしまったようだ。