目の前には金髪の黒い魔法少女。
身長を見る限り、私と同じ位の年齢だと思われる。
服装はスクール水着+レオタード+マント、手には凶器の死神のような鎌。
色々と危険な人物である事は間違いないだろう。
後方には朱毛をした狼。
しかも、聞き間違いでなければ狼は喋れるようだ。
ガルルゥ、と開いたその口からは凶暴な牙が見える。
恐らく、嚙まれたら怪我では済まない……。
周りに助けを求めようにも、先程の公園と同じように誰もいない。
もう一度テレポートしようにも、今度やったら漏らすという確信がある。
走るなんて出来る訳もなく、ただただ腹痛に耐えながら立ち尽くすしかない状況。
―――詰んだ。
「早くジュエルシードを渡してください。
抵抗した場合、貴方を攻撃します」
少女は何か言っているが、私には少女の言ってる事など頭に入らない。
もはや絶望感が強すぎて、頭が真っ白になっているのだ。
ふと視線を少女へ向けると武器を此方に向けている姿が映った。
恐らく、『これからお前を社会的に抹殺してやんよ』とでも考えているのであろう。
もはや私が脱糞しなければこの場は収まらないとでも言うのか。
神はそうしないと許さないと、公衆トイレの有難みを身に刻めと言いたいのか……。
「くそ……ちくしょぅ……」
もはや私に残された事は懺悔と悔し涙を流すことであった。
■
私、フェイト・テスタロッサは困惑していた。
ジュエルシードを持っている少年が徒然泣き出したのだ。
歯を食いしばり、悔しそうに泣くその表情に、私は自分が罪深い事をしていると再認しいさせられる。
彼はジュエルシードを持っている点を除けば、ただの子供。
自分のように魔力がある訳でもなく、戦闘の経験すら無い子供が結界に閉じ込められ、
脅迫されている状況……泣いて当たり前だ。
やりすぎ、そう思った瞬間から自然と手に持っていたデバイス、バルディッシュを下していた。
『……フェイト…』
アルフからの念話に活気はない。
それもそのはずだ、使い魔と主は心で通じ合っている。
私の思っている事全てが伝わる訳では無いが、この悲しさは伝わっているようだ。
しかし、どんなに悲しくてもジュエルシードは回収しなければならない。
それは私の願いであり、母さんの願いだからだ。
母さんはある日を境に笑顔を向けなくなってしまった。
それもこれも、私が悪い子だからだ。
母さんの期待をどこかで裏切ってしまったから……でも、ジュエルシードを沢山集めれば、
母さんはきっと私を認めてくれるはずだ。
だから、ちゃんとしなければ。
『アルフ……ごめんなさい。
私がもっとしっかりしなきゃいけないのに……』
『良いんだよ! そんな事!
フェイトが優しい子だって、アタシが良く知ってるんだ。
こういう事はアタシに任せときなっ』
『でもっ』
『いいから!
それに、そんな顔じゃあこのガキが調子に乗るだけだよ。
アタシがビビらせるから、フェイトはバルディッシュを構えておきな』
『うん……ありがとう』
私はアルフに言われた通り、バルディッシュを構えなおす。
表情も真剣なものへと変え、彼に気取られないようにしなければならない。
私達が本気じゃないと思われたら、彼が反撃してくるかもしれない。
なら、アルフの言うお通りにした方が良い。
そうすれば、無駄な被害はでない。
「ほら、泣いたって何にも解決しないよ!
早く出すモノを出しな!」
アルフが唸り声をあげながら、彼を威嚇している。
その声に反応し、ギョっと振り返った彼はアルフを見つめていた。
喋る狼に驚いたのか、それともアルフの威嚇が怖いのかは定かでないが、此方の傷つけたくないという気持ちは気取られていないようだ。
「出すモノ……だとっ」
「そうさ、さぁ早くしな! さもないと」
ガルルゥと歯を出して威嚇するアルフ。
それに恐怖し、後ずさる彼。
彼が一歩下がり、アルフが一歩近づき彼を次第に追い詰めていく。
そして、数歩後ずさった彼の背中は私の目の前に居た。
私は彼の頭に少し当たる程度にバルディッシュを押し当て、彼をさらに追い詰める。
彼は私の存在を思い出しのだろう、ビクッっと体を硬直させその場に止まった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「待たないね、早くだしな!」
「これ以上は……強引にでも奪います」
「ごごごご、強引っ!?
そんな……こんな、こんな状況で…………だ、出すのかっ」
彼は相当焦ったのだろう。
私がバルディシュを押し当てているにも関わらず、此方に振り向いた。
その際、私は反射的に彼の喉元にバルディッシュを強く押し当てていた。
あっ、と思い直ぐにバルディッシュを引いたが、彼は苦しかったのか、その場で膝を折って咳き込んでいた。
「ごほっ、なぁ頼む。
今ままでの私の非は認める、懺悔だってする!
だから頼むよ、見逃してくれ!!」
彼は頭を地面に擦り付けて、謝っていた。
謝っている内容は良く解らないが、土下座をしていた。
だが、彼の要求は到底此方が受け入れるモノでは無かった。
「……バインド。
言ったはずです、これ以上は強引にでも奪うと」
「あぁ……ぁ」
バインドによって、私の目の前で大の字に拘束された彼は、ガシガシっと拘束を解こうとするが、徒労に終わる。
それもそのはずだ、バインドが一般人に破れる事は絶対にない。
これでもう彼はごねることもできない、後はジュエルシードを回収するだけだ。
魔力の波長は、どうやら彼のズボンの後ろポケットのようだ。
私は彼の後ろに周り込み、ジュエルシードを奪うべく、ポケットに手を入れ―――
―ブゥィィリリイィッッ!!
「っ!?」
私は彼から発せられた音に対し、ジュエルシードを取らずに反射的に距離を取っていた。
何かわからないが、あの音に対してとても悍ましいモノを感じ取ってしまったからだ。
すぐに頭で状況を判断しようとするが、周に漂ってくる独特の異臭に『え?』と、
思考を中断される。
もしかして毒?…いやでもこれって……。
と、まさかという思いでアルフを見ると、彼女は涙目で鼻を前足で抑えていた。
「フェイトぉ……こいつ、漏らしやが―」
「テレポォォォォォトッ!!!」
「っ!!」
彼が叫んだ瞬間に発生した魔力のうねりに、『しまった!』と思い、バルディッシュで彼の意識をなくそうと振るうが、それは空振りに終わった。
無情にも彼の居た場所には魔力の残留である粒子と、独特の異臭が残るのみであった。
「魔力は無いはずなのに……まさか、ジュエルシードを使って?」
ありえない。
だが、それが先程起こった。
決して偶発的なモノではない。何故なら彼は転移する前、呪文を叫んだ節がある。
「私達の近くで、突然ジュエルシードの反応があったのは……彼が転移したもの?」
「ありえないけど、恐らくそうだろうね。
地球に転移して、そうそうラッキーだと思ったのに――フェイトッ!」
アルフの警戒した声の先を見ると、何かが此方に向かってくる様子が見えた。
管理局はありえない。この地は管理外惑星なので、到着が早すぎる。
この星に魔法文化が無い事を考えると……母さんが襲撃した次元航空船の生き残りの可能性が高い、つまり敵だ。
敵であるなら私のやる事は1つ。
「アルフ、戦闘準備」
「あいよ!」
私はバルディッシュを握り絞め、白い魔道師とその肩に乗る使い魔を見据えるのでした。
「出すもの……だと?」
これで国木先輩を思い出すなら結構染まってると思うお(´・ω・`)