川神の弟くん。 作:マイケル
教室に入って教壇へ上った僕に向けられる視線。何か品定めされているように見えた。その中には一子ちゃんがいたが、同じクラスと伝えてなかったので驚いていた。
「では、川神瀬那。挨拶を」
小島先生に挨拶を振られて僕は一礼してから自己紹介をした。
「初めまして、川神瀬那です。京都の高校から編入してきました。中途半端な時期からの編入ですがこれからよろしくお願いします」
静まっていた教室内だったが――、ピシッと挙手が上がる。
「ウメ先生、質問タイム!」
「うむ、では島津から質問をあるみたいだがいいか?」
島津くん……、確か前にモモ姉や一子ちゃんの仲良しグループのメンバーの人だと聞いたことがある人からの質問を受けることになった。
「では――! なんで男装しているのですか!? そして彼氏の有無を!!」
……はい?
「あの、僕は男ですが」
――……!? え~~~~!!?
僕が男だということに驚くクラスメイト達。そんな反応されたらかなり傷つくよ。
男子たちは頭を抱え、女子たちは頬を染めていた。なんだ、このカオスな状況は……。
「あ、僕はそちらの川神一子の兄で3年生の川神百代の弟です」
「ワン子! そうなの!?」
「う、うん。お兄ちゃんだよ。でも、私たちのクラスと思わなかったよ。てっきりS組だと思っていた」
それを聞いていたクラスメイトたちは呆気からんに取られていた。
「それにしても……お人形みたい」
「ホントですね」
「新境地に達しそう系」
最後のことは深追いせず、質問タイムを取り直すと手を挙げる欧米系の女の子がスッと手を挙げていた。
「じゃあ。そちらの方」
「おっ、私だな。私はクリスティアーネ・フリードリヒ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それで瀬那殿は何か武道をされているのだ? よければ手合わせ――」
武道……
「ク、クリ! 瀬那兄は――」
僕はその質問を受けてどんな顔をしていたのだろう。一子ちゃんも気を利かすぐらいだ、ひどい顔だったんだろう。
「ごめんなさい。武道の家ですが僕は武道をしていませんのでお相手にはなれません。本当にすみません」
「そうか! 早とちりして済まない」
「い、いえ。こちらこそ……」
「でも、仲良くしたいと私は思っている! よろしく、瀬那殿。私はクリスと呼んでくれ」
クリスさんは優しく迎えてくれた。それに続くようにほかの皆さんも同じように声をかけてくれた。
――――……
編入初日。久しぶりの川神の学校は平穏という言葉が似合わないほど騒がしかった。もちろん授業中は静かだけど休み時間は賑やかだった。編入生である僕の知らせは瞬く間に広がり声をかけてもらえることが多かった。
「やっぱり姉さんの弟で気になっていたんだろうな」
「そんなにモモ姉はすごいの?」
今は4限目の授業を終えたばかりで近くの席でモモ姉の舎弟である直江くんが声をかけてくれた。直江くんは知り合いが多かったことから彼を介していろんな人を紹介してもらった。
「お弁当~お弁当♪」
そしてお昼休み。僕は坂口が用意してくれたお弁当をカバンから取り出しテーブルに置く。大半のクラスとメイトたちは教室の外で取るみたいだ。さっそく親しくしてくれた直江くんや島津くんに師岡君の姿はなかった。
「犬! なんだ、そのお弁当は!?」
僕の前のほうで机を並べて、食事を摂ろうとしていた一子ちゃんと椎名さんとクリスさんたち。一子ちゃんの弁当を見て驚いて声を上げるクリスさん。それを聞いた周りのほかの女子たちが一子ちゃんのお弁当を覗く。
「うわぁ……。なに、この可愛いお弁当。いつもワン子のお弁当と違いすぎるんだけど」
「可愛らしいお弁当ですね、ワン子ちゃん」
「ただ可愛いだけじゃないよ! 凄くおいしいんだよ、坂口さんのお弁当は!」
僕も遠目から一子ちゃんのお弁当を見たが、みんなが言うように可愛らしいお弁当だった。
「だから昼休みが近づくにつれてソワソワしていたのか、ワン子」
「京の言う通りだな。犬、なんならおかず交換をしようではないか」
「フフッ、しょうがないね~」
一子ちゃんのお弁当包みと似たガラ……。なんとなく僕は察した。僕のお弁当も同じような系統だと。僕はテーブルに置いたお弁当を持って教室を出ることにした。
2-Fを出た僕はとりあえず1人で食べられそうな場所を探す。学食ではたくさんの人でにぎわい、中庭では芝生にシートを敷いて楽しそうに食べるグループ……どこもかしこも複数で食べている生徒が多かった。
「どこかいい場所ないかな……」
「あの、ちょっといいですか?」
僕は後ろから声をかけられてビクッとしつつ振り返る。
「え……」
そこにいたのは女の子……フワッとした優しさで僕を包み込むような魅力的な人だった。後、とても懐かしい感じと。
「瀬那くん……だよね」
「は、はい、その……小笠原諸島のほうでお世話になった川神瀬那です。お久しぶりです、清楚さん」
この人、葉桜清楚は揚羽さんにお仕事を紹介してもらった先で知り合った女の子。僕は彼女が暮らす小笠原諸島のある島に長期休みの度に向かって身の回りのお世話をする仕事をさせてもらった。と、言っても彼女のほかに同年代の女の子2人と男の子1人と一緒に楽しく遊んだ覚えしかない。ちなみ彼女のほかはあの武士道プランの中心人物である源義経と武蔵坊弁慶、それに那須与一であった。
「久しぶりだね。2年ぶりか」
「はい、また会えて嬉しいです。清楚さんもお変わりないようで」
「うん! 義経ちゃん達も学園にいるよ。もう会ったかな?」
「それがまだで……。今日中に声をかけようと思っています」
「そうか、分かった。でも、1つ」
「?」
清楚さんは僕の口元に人差し指を添えるように指して、“普通に話すように”と気を遣ってくれた。今も僕の顔をうかがうようにそう言ってきたのでドキッとした。
「う、うん」
「そのほうが自然だよ。じゃあ、一緒に昼ご飯食べようか♪」
「あ、うん」
どうして僕が食べる場所を探しているのかは、僕の行動で分かったとのこと。清楚さんはちょうど空いていたベンチに腰掛けて招いてくれた。
「うわぁ、すごく可愛らしいお弁当だね」
「うん……」
お弁当箱を広げると予想通り可愛らしいものだった。坂口の野郎……。
「清楚さんのも美味しそう」
「そ、そうかな。今日は自分で作ってきたんだ」
坂口の変態を対象にするのはどうかと思うけど、清楚さんのお弁当も美味しそうだった。
「おかず、交換する?」
「!?」
どうやら食い入るように見ていたようだ。でも、ま、まさか。おかず交換に発展するとは――
「いいなぁ~。私も混ぜろ~」
「あっ、モモちゃん!」
そんな時だった。いつの間にかベンチ後ろから僕の肩に腕をかけるモモ姉がいた。
「モモ姉、離してよ」
「そう恥ずかしがるな。ホレホレホレ~」
「くすぐったい、って! 僕のおかず!?」
僕をくすぐって弄ぶモモ姉は、僕のお弁当のおかずをヒョイっと取ってしまう。
「うまいな~、坂口さんのお弁当は。あっ、このダシ巻きも」
「モモ姉。お弁当は?」
「早弁した」
聞くのが愚問だった。モモ姉は早弁したけど坂口の味が忘れられなくて僕の弁当を襲ったようだ。
「ふふっ。仲睦まじい姉弟だね」
清楚さんは僕がモモ姉に一方的に遊ばれているのを見て笑みを向ける。そのせいもあって、モモ姉は調子に乗り始めてどうすることにも出来なかった。
「はぁー、はぁー」
「まぁ、かわいがるのはこれぐらいにしておいて……。瀬那はいつの間に清楚ちゃんと仲良くなったんだ~。私というかわいいお姉さんが既にいながら~」
何を言い出すかと思ったら……。
「瀬那くん。良かったらお茶をどうぞ」
「ありがとう、清楚さん。どっかの姉とは比べると……」
「ぐはっ」
胸を押さえて悶えるモモ姉をほっておき僕は清楚さんにおかずを分けてもらった。やっと静かに食事へありつけた僕。まさか清楚さんが同じ学校とは思ってなかったから驚いたな。
「ご馳走様でした。清楚さん」
「こちらこそ」
「あぁ~、美味しかったな」
いつの間にか復活していたモモ姉も隣でベンチに腰かけていた。
「よかったな、瀬那。こんなかわいいお姉ちゃんたちと一緒に昼食とれるなんて」
「うんそうですね。清楚さん、今日はお昼に誘ってもらいありがとうございます」
「どういたしまして」
お茶でほっこりする僕たち。さすがにもう6月とあって中庭の陰でも少し暑いけど、時折通る風が心地よかった。
「お薬?」
「うん、食後に飲む薬です」
「まだ飲まないといけないのか。昔は大変だったよな。“粉薬はいやだ~”って」
「うるさい」
「私も苦手だったよ」
モモ姉に恥ずかしい過去を暴露され、清楚さんに気を遣われフォローされる始末……。居た堪れない。
「それで飲ませるためにご褒美のゼリーをあげないといけなかったよな」
「……」
モモ姉……。これ以上は、耐えられません。今も隣でクスクス笑う清楚さんがいる手前だからぎりぎりのところで耐えられているけど――。
「ごめんなさい、許してください」
「まぁこれぐらいにしておくか」
僕はカプセル2錠を飲んで教室に戻ることにした。
「瀬那くん」
「ん?」
「これ、良かったらどうぞ」
清楚さんは何を思ったのか僕の手に何かを渡してくれた。慰めの……飴玉だった。
☆★☆★
編入初日。瀬那は川神学園の生徒として快く迎えてもらったこともありこれからもやっていける気がしていた。
「瀬那くん、バイバイ!」
「瀬那くん、また明日!」
クラスメイト達は妹の一子がいることから苗字読みは被るからと名前で呼んでくれた。これまで名前で呼んでもらえる間柄が少なかったこともありホクホク顔で教室を後にした。
放課後、川神学園は部活動もそうだが賑やかだったがさらに武士道プランでやってきた義経たちへの決闘が相次いでおり第1グラウンドは騒がしかった。
決闘内容は完全な腕っぷしでの対決。義経は1人で多くの相手の対戦を受け付けて薙ぎ払っていた。それを校舎の窓から眺めていた瀬那は羨ましそうだった。元気にグラウンドをかける姿を。
「いいな~」
そうボソッと瀬那が言った時だった。背後から首元に腕を巻かれた。
「はい、捕まえた~」
「え、あ――、弁慶!?」
武士道プランの1人・武蔵坊弁慶。瀬那が九鬼財閥のご令嬢・揚羽の紹介で小笠原諸島の時にお世話をさせてもらった女の子の1人。瀬那自身、おもちゃにされた覚えしかなかった。
「ふふっ、相変わらず軽いな」
「ちょ、ちょっと下して!」
「そう言われると、下したくなくなる」
弁慶は前にあった時からそうだったが、力強さが凄すぎた。今も瀬那を軽く肩にしょってどこかへと向かい始める。
「どこに行くの?」
「いい場所だよ」
弁慶が向かった先は第2茶道室。普段使われていない空き教室だったが、弁慶は普通に入った。
「ん? 弁慶か。って、川神の弟じゃねぇか」
「こちらの方は?」
「だらけ部の顧問」
空き教室の茶道室で横になってくつろいでいたのは2‐Sの担任教諭である宇佐美巨人だった。瀬那は初めて会ったこともあり軽い自己紹介をする。
「2日目の部員が勧誘かよ。それで素質は?」
「そうだね~。もう眠たそうにしているけど」
「確かに眠たそうだな」
宇佐美は弁慶におろされて膝元でウトウトする瀬那を見る。
「瀬那は、不思議なことに女の子にかなり触れられるだけで弱体化するからな」
「とんでもねぇ体質だな。学長の孫で川神百代の弟ならとんでもねぇ怪物かと思ったが普通だな」
「まぁ、武力はなくても可愛さは武神級だよ」
「確かにな。あっ、落ちた」
コクン、コクンとしていた瀬那は寝落ちしたように背中を弁慶に預けた。
「こりゃ、お人形さんみたい――」
瀬那の頭に触れようとした宇佐美だったが、いつの間にか世界が反転して畳に叩き付けられていた。
「い、痛ぇ……」
「言うの忘れたけど、男に対しては反射的反応で投げ飛ばすみたい」
「それ、先に言ってくれよ……」
宇佐美は叩き付けられた背中をさすりながら将棋盤を出し、弁慶に対局を申し出た。
「ちょっと相手してくれ」
「いいよ~」
だらけ部の活動、それはダラダラと時間を過ごすこと。ただそれだけだった。
「これまたすごい器用なポジションで指しているな」
遅れてもう1人の部員である大和が入ってくる。
「あれ、どうして真面目な瀬那が?」
「私が連れてきた。それで背中を預けて寝ている」
――――スゥー、スゥー……
「気持ちよさそうに寝ているな。かなりの素質だ」
大和は自然と手が瀬那の頭へ向かった。が、きれいに宙に舞って宇佐美と同じで畳に叩き付けられた。宙に舞った際に手に持っていた土産品を手放したが弁慶がしっかりとキャッチした。
「これは――!?」
弁慶は直感で感じたのか紙袋の中に自分の好きなものが入っていると気づく。
「それは川神ちくわ。地元の人が趣味で作っているんだ。それと、なんで俺は宙に舞っていたんだ?」
「私はちくわには愛ゆえにうるさいぞ、もぐもぐ……」
大和は完全にちくわにしか目に行ってない弁慶にやれやれ思いつつ紙袋から包装を開いて土産のちくわを差し出した。
「! 美味しい! 魚のうまみとコクを引き出している! 食感も、肉厚でもっちりとしていて……素晴らしい!」
自称・ちくわソムリエの弁慶は大和の用意してくれたちくわに感動しつつ、川神水を飲み干す。
「ありがとう大和……感謝する♪ それと、さっき宙に舞ったのは瀬那に投げられたからだよ」
それを聞いた大和は少し驚きつつも将棋盤近くに腰を下ろす。
「瀬那とは知り合いなの?」
「う~ん、いろいろと世話になったからね。義経や清楚に与一も」
「へぇ~、そうなんだ」
「ん? 武神の舎弟なら弟の瀬那こと知っているじゃ?」
「いや、川神にいたときは七浜の小学校に通っていたらしいから接点が全くなかったんだよ。姉さんに弟がいるってことぐらいで」
百代の舎弟である大和は、話の中で聞いていただけでよく知らなかった。それに仲良しグループである風間ファミリーのメンバーたちも。
「キャップの奴は話を聞いて会いたいって言ってたのに今日は休みだからな」
「てっきりあんたたちのグループのメンバーかと思っていた」
何度か瀬那が中学の頃に川神に帰省した時に、百代と一子の弟ということでグループに迎えて一緒に遊ぼうとしたがタイミング悪く実現しなかった。それには訳があったことを百代と一子の身内にしか知ってない。
「まぁ、私が言うのもあれだけど仲良くしてあげてね」
「もちろん、そのつもりだよ」
――――……
廊下で義経たちの決闘を眺めていたら弁慶に茶道室に連れていかれたところまでは覚えていたけど、僕はいつの間に寝ていたんだろうか?
「瀬那様~!」
僕は茶道室を後にし校門を抜けるとそこには坂口がいた。
「どうしたの、坂口? 自分で帰れるから大丈夫だよ」
「心配してまいりました! が、その様子だと編入初日は上手くいったようですね! さすが瀬那様です!!」
「……うん」
坂口はよくわからないけど何か撃ち抜かれたように直立不動のまま後ろに倒れた。
「う、うっ。瀬那様の天使の笑顔」
僕は変態を置いて家に帰ることにした。
また、よろしくお願いします。