川神の弟くん。 作:マイケル
今日は義経たちの歓迎会が行われるらしい。どうやら2日前にやることが急に決めて多くの生徒が総出で多目的ホールで準備をしてけど、僕は昨日燕さんと会ってそく失神、3年生のA棟に乗り込んで3年生女子たちに捕食されかけたところを燕さんに助けられてといろいろあって何にも出来なかった。
結局この歓迎会を知ったのは設営の準備が終わった段階だったために僕は何にも手伝えなかったが、この回を取り仕切っている1人の大和くんにお願いして歓迎直前の準備に参加することになった。
「は、はは初めまして! 黛由紀恵ですっ!!」
「こんにちは。川神先輩」
もう設営の準備はされてあって、あとは歓迎会に出す食事の準備だった。調理担当である1年生の黛さんと大和田さんの補佐をする僕は彼女らに挨拶をした。
「こちらこそ。とにかく急にごめんね。補佐役に買って出て」
「いえいえいえ!! モモ先輩の弟さんなら心強いです!」
「はい! お願いしますね、先輩」
挨拶を済まして僕もエプロンを借りて調理のお手伝いすることになったのだが……
「あの……、このエプロン」
「す、すごくお似合いです! 先輩!」
「お人形さんみたいです!」
僕に与えられたエプロンは女の子がつけるような、それもフリフリがついたものだった。なんだろう、男の尊厳が……。
「ダメです。制服が汚れてしまったら大変ですし」
「そうです♪」
僕はフリフリの付いたエプロンをつけて調理の補佐役に徹した。黛さんと大和田さんは調理担当を任されるだけあって手際よく進める。僕はお皿を並べてきれいに出来上がった料理をのせた。
「川神くん。とても美味しそうによそえたね」
「ありがとう、熊飼くん」
同じクラスの熊飼くんも調理担当を務めていて料理の最終チェックにあたっていた。目の前にある料理に熊飼くんよほどお腹がすいたのか鳴っていた。熊飼くん、さっきから調理の指示にずっと当たっていたから大変だったんだろう。
「熊飼くん、僕もおにぎり作っていいかな」
「じゃあお願いするよ」
僕は得意なおにぎり作りの輪へ加わった。あと、もう少しで義経たちの歓迎会が始まる。
――――……
設営の最終調整に料理のほうもバッチリと出来てテーブルに並べて、あとは歓迎会が始まるのを待つだけだった。義経たちが所属するSの生徒たちはクリスさんのお姉さん分のマルギッテさんを先頭にやってきた。揚羽さんの弟・英雄くんと専属の付き人であるあずみさんは仕事の関係でいなかったけど、それ以外全員が参加。それのほかにも人が多すぎるぐらいに集まっていた。
「あれ、そういえば肝心の主賓たちは?」
ただ肝心の義経達がまだ姿を見せなかった。ざわつく中、クリスさんが正式の開始まで時間があることを伝えた。そのあとすぐに、大和くんが多目的ホールを出て行った。
僕も気になって後をついていくと、外には義経と弁慶の2人だけしかいなかった。
「どうしたの?」
「あ、瀬那。ちょっと――」
どうやら与一がこの期に及んで歓迎会に出たくないと参加を拒んだらしい。今朝は普通に出ると義経に言ったらしいけど。
「やはり殴ってでも――」
「ダメダメ、今回は3人が主賓の歓迎会なんだからさ。1人でも機嫌悪そうだったら雰囲気ぶち壊しになる」
大和くんの言う通りだ。せっかくの歓迎会だからどうしようかと思った時だった。大和くんは携帯の時間を見て説得へ向かった。
「大丈夫かな……」
「大丈夫だよ、主。ん? 瀬那、そのおにぎりは――まさか!?」
「僕が作ったおにぎりだよ」
「それだ!!」
弁慶は僕も説得に向かってほしいと背中を押した。義経もお願いする、と頭を下げた。ここまでされて行かないのもダメなので僕も大和くんの後を追った。
「まぁ、大和が説得してくれるだろうけど……あの最終兵器があれば大丈夫」
「うん、義経もそう思う」
――――……
僕は大和くんを見失ったけど、与一が屋上にいるのではと思い向かうと2人の話し声が聞こえた。ルシファーズハンマー? 一体何の話をしているんだ? 僕は大和くんが説得してくれるだろうと信じで扉の前で待つことにした。“組織”や“特異点”などのワードが出て説得に至っているのだろうかと思っていると目の前の扉が開いて2人がいた。説得は上手くいったよう――――
「え……、瀬那」
「なんでお前が」
僕がいたことに驚く2人。特に大和くんはよくわからないが狼狽えていた。
「あ、与一。僕おにぎり作ったから食べてほしいな」
☆★☆★
時間通りに始まった義経たちの歓迎会は無事に行われ、楽しい時間が始まった。
みんなが立食しながら雑談を交えていた。主賓である義経や弁慶は大勢に囲まれていた。与一は与一で弓道部の部長さんに声を掛けられていた。
「瀬那、どうしたんだ1人でポツンとして?」
「モモ姉。いや、凄く楽しい学園に来れてよかったな~って思っていたところ」
「そうか、そうか」
百代は瀬那の頭を撫でてきた。くすぐったそうに目を細める瀬那は恥ずかしそうに手を払いのけた。
「モモ姉は何を手伝ったの?」
「いや、なにも。そういう瀬那は?」
「僕は調理のお手伝い。おにぎり作ったよ」
「!」
百代はそれを聞いてハッと辺りのテーブルを見回す。瀬那の作ったおにぎりを――
(あ、あれは。あれを生半可な気持ちで食べると――!)
瀬那の作ったおにぎりには逸話があった。時にはある争いを平和的に止めるきっかけになったり、中には縁結び・仲直り・出会いなどなど多くの幸せを運び続けた。わけだが……
(あのおにぎり……一口つけただけで――)
百代は一度瀬那には慣れてサッと瀬那のおにぎりが置かれたテーブルに陣取る。幸い主賓の義経たちに人が集中し、その輪はそのテーブルから離れていた。
(これならおにぎりを守れる)
今のうちに、と思い百代はおにぎりの置かれたお皿から瀬那の作ったおにぎりだけを抜き取り始めた。
「何しているの、モモ姉?」
「!? セ、瀬那か。な、なにも?」
いつの間にか近くにいた瀬那に驚く百代は手に持っていたお皿に乗ったおにぎりを後ろに隠した。瀬那は挙動不審の百代に気付くも気にせずテーブルにあった川神で取れた果物を取って去っていた。
「(はぁ……、何とか――)」
「川神先輩。おにぎり取りたいのですが、いいですか?」
「よ、義経ちゃん」
入れ違うようにやってきた主賓の義経や弁慶、それに与一もやってきた。
「武神センパ~イ。そこにあるおにぎり欲しいのですけど。ん? センパイおにぎりが好きでも取りすぎですよ」
「え、あぁ。これは、な」
お皿に乗った5個のおにぎりを見てそう話す弁慶に百代はとにかく例のものは回収出来たので離れようと思った。が、1つだけ異様に輝くおにぎりがあった。
「このおにぎり美味しそうだな」
「そうだね」
「これじゃないか?」
百代は1つ取り損ねていたことに気付く。マズいと思ったがすでに義経の手の元にあった。そして、そのまま義経が頬張った。
「う~ん。さすが瀬那のおにぎりだ」
普通に美味しそうに食べる義経を見て百代は気づく。義経の胃袋には耐性がついていると。大抵はかのグルメ漫画の食事シーンみたいなことになってしまう。もちろん服ははだけないが、かなり見悶える。
「弁慶と与一も食べなよ」
それからしてすぐにおにぎりを持った瀬那が補充の分を食べてなかった弁慶と与一に渡した。2人も義経と同様に美味しいそうに頬張り幸せそうな顔をしていた。それを微笑ましく見る瀬那に百代は少し複雑な気持ちになった。
(なんだろう……)
百代は知っていた。瀬那は子供のころから体が弱かったせいもあり外で遊ぶこともなく家にいることが多かった。それもあって同年代の友達との間に微妙な距離感があって友人関係があまり上手くいかなかった。だから百代ぐらいとしか一緒に遊ぶことがなかった。でも、川神を出てからそうではなかった。源氏組と清楚、それに燕といった友人たちを作っていた。
いつの間にか知らない間に成長した弟に百代は嬉しいのもあった。けど、それ以上に胸につかえるモヤモヤした何かがあった。
(あぁ、もしかして――。いや、まさか……な)
――――……
義経たちの歓迎会は大成功に終わった。自分が知っていること以外にも色々あったらしいけど上手くいってよかった。直前の準備しか参加できなかった僕が言うのもあれだけど。
「清楚さんも設営で手伝っていたんですね」
「うん、物を運んだりね」
今は帰り道についていた。隣を歩く清楚さんは自転車を押して僕に合わせくれた。清楚さんも設営を手伝ってくれたようで、所属クラスの3-Sではすでに歓迎会みたいなものをやったらしい。
「清楚さんはうまく川神学園に馴染んでいるね」
「そう言う瀬那くんも」
笑ってそう言う清楚さんだけど、編入2日目で3年生の女子生徒たちに捕食されかけたなんて言えなかった。
「瀬那くんもお昼を一緒にする友達ができたみたいでよかったよ」
「はい。初日はありがとう」
「うん、また誘ってね」
また清楚さんのお弁当を食べたいと思っていたから誘えるなら誘おうと思った。あの時はモモ姉がいたことも楽しかったけど、2人でゆっくりと食事を摂れるのもいいかもな。
「じゃあ私、こっちだから」
「はい。じゃあ、また」
「あ、そうだった」
清楚さんは何か忘れたことがあったらしい。
「連絡先、教えてもらってもいいかな?」
そういうことか。確かに清楚さんとは連絡先を交換してなかったからいい機会だと思って僕も携帯を取り出した。
《川神瀬那様、確かに連絡先を受け取りました》
「え? スイスイ号って何でもできるんだな」
「うん。私を守るための威嚇機能もあるんだよ」
清楚さんの自転車は九鬼財閥の技術が結集した人工知能がついている。今も清楚さんの連絡先を送信と受信をしてくれた。
「ありがとうございます。また連絡しますし、してください」
「うん。じゃあまたね」
清楚さんは自転車をこいで暮らしている大扇島にある九鬼極東本部へと帰っていた。
「やった。アドレス帳に1人増えた」
僕のアドレス帳には新たに加わった清楚さんが加わった。と、言ってもアドレスには10人も超えてなかった。まぁ、これから増えてくるだろうと思いスマホをポケットに入れた。
「あらら? なかなかいい雰囲気だったね~」
「つ、燕さん!?」
清楚さんと入れ違うように現れたのは制服ではなく普段着の燕さんだった。
「フフッ、清楚ちゃんと仲良さげに帰っているところ見たからさ。声かけづらかったよ」
「い、いつからですか?」
「川沿いで歩いてきたところからだよ」
結構前から僕たちは付けられたようだった。まったくと言って気づかなかった。
「ねぇねぇ、私のアドレスは残っているよね?」
「残っていますよ。消したらまたいつの間にかありましたから……」
うわ~、そんなことがあったの? と、とぼける燕さん。それ、貴女ですよと言いたかったけど、いつの間にか距離が近くなっていた。
「瀬那くん。週末って時間ある?」
「はい。大丈夫ですけど?」
それを聞いた燕さんは嬉しそうに手を合わせて僕の手を取った。
「あのね、私たち引っ越したばかりで大変なんだよね。だから、助けてほしくて」
「僕でいいのですか? 人手に数えるのも……」
「大丈夫、大丈夫! 重いものはほとんど片付いているから」
それならいいかと思い僕は手伝うことにした。それを聞いて燕さんはまた連絡するからと言ってさっそうに去っていた。多分、あっちのほうへ。
「さて、帰るか」
家である川神院にまっすぐ帰った。
第4話でした。また、よろしくお願いします。