アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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制作中のイメージBGM~笑顔のゲンキ~


A 救いは此処に。

この世界の修正力を破壊した魔神を斃すためにあらゆる時代、国家の英雄・反英雄がこの場に集まっている。

世界を救うという一つの目的を掲げた少女を旗頭として。

 

壮観な眺めだと言えるかもしれない。

想いの集大成と言えるかもしれない。

それは勿論、向こう側(・・・・)に重きを置く者達の考えなのだろうけれど。

 

「久しぶりね。覚えてる?

逢いたかった? …遇いたいはずは無かったでしょうね。

安心して。私も貴女達に遇いたいとは思って無かったから」

 

「ガ…レス。如何して此処に…?」

 

貴女にはきっと解らないし、解る必要も無い。

私の全ての行動目的は只一つ。王子様を救う事だけ。それ以外なんて存在しない。

何度やり直しても王子様の生存を拒む世界の修正力が壊れた奇跡の世界。

この機会を逃せば、また王子様が死に続けて可哀想でしょう。

だから、私は此処にいるの。それを答える義務は無いのだけれど。

 

「…貴女達は今まで幾つの世界を殺してきたの? しっかり数えてきた?

その世界はきっと生きたかったんじゃない? 歪んで壊れていたとしても。

そこにまだ生きていた世界は、まだ生きていた国は、まだ生きていた人々は。

 

…私達の世界の事、まだ覚えてるかしら?

それとも薄っぺらい理想なんて覚えるにも値しない?」

 

 

自分で思ったよりも昏い声がした。

王子様に逢う時にこの声のままだったら嫌だな。

ふと私は独りで正対する英雄の軍勢の前で場違いな事が頭に浮かんだ。

 

「やめてっっ!!」

 

私の言葉に耳を塞いでそう叫んで座り込んだ少女を護る様に何人もの英雄たちが前に出ては武器を構えて此方を睨む。

その中には騎士であっただろう者達も居ただろうし、

王であった者達も居ただろうし、

もしかしたら王子であった者も居たのかもしれない。

 

 

そのどれもが、私を殺そうとするのだろう。

兄である騎士たちが、王夫妻が、私のロホルト様が優しくしてくれた姿が何故か思い浮かぶけれど、

その思い出の人達とあれらは対極に位置している。

 

 

「…ブリテンは優しい場所だった」

そこに救いは無いけれど、それでもそこには人々の優しさがあった。

最後には何時もどうしようもなく絡まってどうにもならなくなってしまったけれど、そこの始まりは優しさだった。愛だった。

 

 

今、あれらが私に齎すべきである未来とは違う。

救いたい気持ちに溢れた世界だった。

だからああなったのかも知れないけれど…。

 

 

「我等はゲーティアを倒し、世界を救わなければならない。そこをどけ」

 

英雄のひとつが私にそう言う。

 

「あはっ、あははっ、あはははははははははっ」

 

「…っ、何が可笑しい」

 

可笑しい? おかしい。おかしいおかしいおかしい。

とても、とてもとてもとてもとても――――可笑しい。

 

 

「ブリテン1つ救えなかった貴方達が、世界そのものを救うだなんて可笑しくないわけがないじゃないっ!!」

 

気が付けば頬に何かが伝っていた。

だって、苦しかった。悔しかった。

皆が救おうとしても救えなかったブリテンを壊した人たちが、実は世界を救える人たちだったなんて。

 

 

「…ねえ、どうしてなんだろうね?

どうして、こんなに噛み合わないことばっかりなんだろうね。

どうして、なんだろうね」

 

また―――、何時かのように服が赤く紅く朱く染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気が付けば、私の前に居た彼女の仲間は全て消え失せて、そこには倒れてもがき苦しむ彼女だけが独りであった。

 

私はそれを無視して彼女達が進もうとした先へと行く。

きっと、もう戻れないけれど、元より、戻る所も無いけれど…。

 

 

 

 

 

「随分と凄まじい力だったな。どうやってそこに至った?」

 

私が進んだ先に彼女が倒そうとした存在がいた。

 

「…愛と勇気と優しさですよ」

 

私は皮肉でも何でも無くそう言ったつもりだった。

だが、魔神は笑った。狂嗤(わら)った。

 

「愛か、勇気か、優しさか、事においてよりによってそれか。

我々(わたし)たちはその身に纏う力の正体に気が付いていないとでも?

それは『こころ』といった力無い物とは違う純然たる因果の力だ」

 

 

 

「否定するのね。

――なら、貴方では私には勝てない」

 

 

 

 

 

何度も世界(ブリテン)を巡って重ねてきた絶望と、それに負けない想いが私に力の容を示してくれる。

 

私の愛しい王子様(クラレント・オブ・ロホルト)ッッ!!」

 

 

何処までも昏く眩い光がこの空間を包み込む。

その光は理想そのものであり、未来であり、過去であり、今此処に在り此処に無いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

絶対の理想が魔の神を根底から崩壊させていく。

 

「…ここで、我々(わたし)たちを殺した所で、もはや全て遅い」

 

 

往生際の悪いそれが何かを言っている。

だけど、そんな事は関係ない。元より世界そのものを救う心算は無い。

私が生きてきた世界は何時だって小さな島の中でしかなかった。

それだけで十分。それだけで良かった。

僅かな箱庭(箱舟)に永久の祝福を。

 

 

 

繰り返す世界で今までに連れてきた全ての絶望を贄に、私は王子様に代わって『ブリテン』の救済を執行する。

理不尽な絶望を純粋な力として私を基軸にした因果を収束・同化させ、

その消滅を代償に『始まりの魔法』=『願われた理想』を約束する。

 

私がいなくなったとしても、元々いなかった事になったとしても、

あの人がいれば、理想の王子様がいれば、ロホルト・ペンドラゴンがいれば、

(ブリテン)は救われる。

 

そこに後悔なんてある訳ない。あの人に二度と逢えなくたって、抱きしめて貰う事も話しかけて貰えることも無くなったとして、

(ガレス)に後悔なんてある訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……此処は何処だろう? 決まっているブリテンだ。

何かが起こって何かが終わり、何かが壊れて何かが救われた。

早く行かなくちゃ、向こうから愛しい声が私を呼んでいる。

 

 

ほら、皆が、あの人が待ってる。あの花畑で。

だから私は走る。足元も周りも見ずに駆けて抜ける。

 

 

 

そして、そこには兄さんたちが、皆が、そして待ち望んだ人がいた。

だから私はずっと言いたかった想いを言葉に乗せた。

 

 

 

「ただいまっ、私の王子様」

 

~END~




矛盾も問題点もあるでしょうが、お楽しみいただけたでしょうか?
この結末の真実や解釈は皆様にお任せします。
この結末までお付き合いいただきありがとうございました。

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