アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について   作:蕎麦饂飩

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間違って―――――――




尚、今回は特に捏造と矛盾の塊な上に一発ネタなのをご理解ください。


Q 王子様を救いたいと魔女の娘が願うのは間違っているのだろうか?

この国には理想的で女の子の夢と希望を詰め込んだ王子様がいる。

名前はロホルト様。発音的にはロールトに近いロホルトとのこと。

 

私の兄たちがお城で勤めている関係で、お会いしたことがそもそもの運命の始まり。

一目お会いした時に私は恋に落ちた。

そのお姿が、そのお声が、その全てが愛おしい。

 

王子様に近づくために兄たちに無理を言って厨房で働かせて貰う事に。

アグラヴェイン兄さんは溜息をついていたが、何だかんだで上手く滑りこめた。

 

ある時王子様が、厨房にやって来た。

お忙しいにも関わらず城の裏方働きにまでお声を掛けにきて下さる。

もしかして、私に逢う為?

 

「痛っ」

 

そんな想像を働かせて油断していたのが悪かった。

包丁が私の指を掠めた。薄く切れた傷跡から真紅が滲む。

 

「…怪我をしているじゃないか」

 

 

私の指を持って水場に連れてこられ、血を洗い流した後、ご自身のハンカチで傷口を巻いて下さった。

 

「あのっ…」

 

「ハンカチを返す必要はない。それと料理長に言っておくから今日は安静にしておくんだ。

君の白く美しい指に傷痕を残したくないからね」

 

 

これである。もうオチるしかない。

贅沢を言う積りはないが、傷口を口に含まれたら気絶していた。きっとその後指を洗い流す事も無かっただろう。

 

 

 

 

それが私達が距離を縮めた要因の一つで、

その後も、王子様が王妃様の為に育てられている花畑に連れて行って頂いたこともあった。

 

王子様曰く此処には土壌改良の実験施設としての目的もあるそうだ。

荒廃していくブリテンの農業を改良する手段を開発する事で国民達を救うのだと。

王子様は何時も私達には理解もできない難しい事を知っておられる。何時だって完璧な王子様だった。

 

 

 

 

その花畑で私は大切な思い出を…いえ、王子様と過ごした時間は何時だって大切なのですが、

その中でも取り分けて大切な思い出が其処にできました。

 

王子様は私に花のティアラを作って授けて下さったのです。

私は跪いてそれを戴冠させて頂きました。

それはもう結婚式のようで、天にも昇る思いでした。

 

 

 

其れからも王子様が近くを通られるたびにその姿を少しでも視界に入れようと、

少しでもそのお声を耳に入れようと、その、恋する乙女として頑張っていたのですが…

 

その度に私の心は少しずつ離解のできない苦しみに覆われていきました。

 

 

 

王子様は何時だって同じ微笑を掲げて、何時だって同じ温度で、何時だって最善の方法を選ぶ。

そこには何処か理想そのものの王子様が容を持ったようにも思える時がありました。

それでも私の想いには陰りはありません。

 

ですが、私の大切な弟にして親友モードレッドと話す時だけは、

どんなに邪険にされても王子様は他の方に向けるのとは違う空回る不器用にすら見える行動と、

どこか完璧でない、でもとても魅力的な笑顔で話されます。

 

そこで気付いてしまいました。

王子様はモードレッドに恋しているのだと。

 

 

 

 

その後、私が部屋で投げ出した王子様との想像の日々をつづった絵日記帳を、ガヘリス兄さんが持ち出し、

ガウェイン兄さんと読んでいる所に出くわしてお説教をすることになりました。

ガウェイン兄さんは「最後のページは特に絵が上手いな。」とデリカシーの無い事を言ったのでお説教は2倍でした。

 

 

 

 

でも、王子様が幸せなら、モードレッドに譲る事も仕方ない。

そう決意を固めたころでした。

 

 

 

「ローホルトォォォォ!!!!!」

 

 

 

陛下の絶叫が城中に響き渡りました。

王子様の名前を絶叫する陛下に私も兄程でなくとも健脚な走力をいかして全力で階段を駆け上がりました。

 

 

そこで目にしたものは血が付いたクラレントを落とすモードレッドと、それを刺し抜く陛下。

そして赤い水溜りに横たわる王子様。

 

「ローホルト様ッ!!

起きて下さい。嘘ですよねっ!!

貴方なら何でも出来る筈です。例えっ、例えっ―――――」

 

 

例え死の淵からでも…。

完璧な王子様でも死の終焉から舞い戻る事は出来ませんでした。

 

 

 

そして、数日の後

 

「モードレッドを唆して暴走させた正体はお袋だ」

 

「もはや看過は出来ないようだね」

 

「ブリテン存続の為に母上には消えて貰う」

 

兄さんたちがそう話しているのを聞きました。

 

 

 

 

 

ああ、母さんが。母さんがいけないんだ。

 

それが解った私は兄さんたちが来る前に魔女モルガンの所に行きました。

 

「母さん、魔術の勉強をしたいの。だから帰ってきちゃった」

 

「お城はもういいのか。まあいいさ。

…それならそこに本がある。自由に読むが良い」

 

 

「ありがとう。母さん」

 

私は1冊目を読み始めた。

それは運命だったのかも知れない。

 

そこには不老になり時間を逆行する術と、魔術師から全ての魔術を奪う術が描いてあった。

血が繋がった魔術・魔法を使う者を犠牲にしてその全てを奪う術が描いて(・・・)あった。

 

 

 

「全く、他の子達は誰も皆アーサー王とその息子にばかり尻尾を振ったが、お前だけは別だった。

お前だけ、お前だけは特別だよガレ…ス…?」

 

それが包丁を刺されて倒れたモルガンの最期の言葉となった。

後はその血を全身に浴びるだけだ。

 

 

 

そして儀式が終わった時だった。

 

「ガレス…?」

「これはっ?」

「…っ」

 

「ああ、兄さんたち。遅かったのね。

何をしているかわからないって顔をしているから教えてあげるね?

――この女の全てを啜っているの」

 

この時、私は自分の声を何処かで他人のように聴いていた。

 

その数日後、私はもはや何の価値も無いこの時代を棄てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処かであった事があるかな?

君とは初めて会った気がしないんだ。ああ、君が麗しいからと言って口説いているわけじゃない」

 

「いえ、王子様にご拝謁を承けるのはこの度が初めてです」

 

 

そして私はやり直す。

何度でも、何度だってやり直す。王子様を救う為に。必ず救う為に。

記憶がすり減っても魂がすり減っても、この想いだけはすり減る事は無い。

 

自身の記憶がすり減りきってしまう前に、私はこの記憶を絵日記に描いた(・・・)

その絵日記は何時の間にか無くなってしまったけど、それでも構わない。

王子様にはまた会えるのだから。

 

でも、なるべく早く王子様を助けないと。

王子様に痛い思いをさせたくはない。

 

 

 

 

 

王子様の近くで専属の魔術師として雇って貰う事にしている私は、この世界で2つ嫌なものを見る事になる。

 

一つは愚かな私だ。あの女を自分の親友だと思っている。

王子様がまさにあの女に殺されるなんて思っても見ないのだろう。

 

そしてもう一つは、私が親友だと呼んでいた女。

忌々しいが魔術の副作用であの女だけは殺せない。

そして今回もまた、コレが王子様を殺してしまった。

そしてアレが求めた『父親』に憎しみを受けて殺される。良いザマだ。

 

でも、何度見ても王子様の死は苦しくて悲しいものだ。

また、『今回の私』が絶叫している。

彼女の為に一番近くに見える所に魔導書が転移する隙間を作っておかなければならない。

 

だが、毎回『私』の悲鳴を聞くたびに摩耗して薄れかけた感情が再び鮮明に痛みを訴える。

ふと、その痛みとに共鳴するように痛む人差し指を見ると何時の間にか傷口が開いていた。

 

この痛みは王子様との絆を思い出させてくれる良い痛みだ。

そう思うと少しだけ幸せになれる気がする。

 

苦しくて切なくて、でも温かい思い出を。

 

 

 

王子様を助ける為なら私は何度でもやり直す。

記憶がすり減ろうと、魂がすり減ろうと、何度だって何度だってやり直すっ!!

もう一度、あのお方のお声が聞こえるのなら、何度だって。

不可能なんてない。

 

だって―――――――――――――――――私は魔女の娘だもの。




逆行関連で矛盾アリアリなのはすみません。
それとガレスちゃんはいつだって天使派のお兄様方やお姉さま方はすみませんでした。

こんな作者にでも感想を頂けるとありがたいです。
矛盾点が多い所は柔らかめに。







次回予告。8月28日の夜9時付近までには間に合わせます。多分これまでよりも鬱です。

Dr.ロマン「この特異点の最大の歪みはブリテンに生存していないハズの『理想王』が存在する事だ。」



プロローグ

???「やった。遂にやった。ああ、愛しい愛しい王子様。
忌まわしい修正の輪が壊れ、ようやく私の為に生き残って下さった。
私の、私の愛しい王子様。
壊れた世界で佇まれる欠けるものの無い完全な王子様。
もう二度と貴方を失わせない。誰にも、誰にも渡さない。」


私は絶えられるのだろうか? 貴方がいない世界の流転に。


―――――――世界が救いを求めて絶叫する。

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