インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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 気づけば百話目でした。


第100話

「「「「…………」」」」

 

 あれから数時間後、ここは学園にある、集中治療室の前。そこには更識姉妹と布仏姉妹が細長いイスに座りながら待機していた。が、彼女達の表情は暗い。

 重苦しいようにも思えあるが彼女達は集中治療室の前でそれぞれ行動を起こしている。簪は祈るように指を絡めながら俯いているが目に涙を溜めている。そんな彼女を本音は心配そうに肩を抱き寄せ、虚は隣で下唇を噛みながら俯いている。

 そんな中、楯無は集中治療室の前に立ちながら目を閉じている。表情は心配そうであるが下唇を噛みながら俯いている。彼女達は心配しているのが共通であった。そして、心配している理由は、目の前にある集中治療室。その中にあり、患者でもある者を心配しているからであった。

 その患者は織斑一夏、更識姉妹を守る影の従者にして、布仏姉妹の仲間。彼は集中治療室の中で絶対安静であった。室内はどうなっているのかは判らない。

 判るとすれば、彼はベッドで横になりながら沢山のチューブで繋がれ、心電図や点滴等の医療関係の器具等で囲まれているだろう。それが一般的でもあるが彼女達は室内に足を踏み入れることは許されていない。

 面会謝絶であり、楯無が生徒会会長の権現を使ってもムダであった。そのため、彼女達は此所で待つ他、何も出来ない。しかし、心配していることに変わりは無い。

 彼がいつ目を覚ますのかは判らない、出来ることなら目を覚ましてほしかった。が、彼が目を覚ましても彼は右腕を失ったことに変わりは無い。

 あの時、右腕は切り落とされてから数分は経っていたのが原因で硬直してしまった。それは右腕を縫合することは無理だということになったのだ。

 右腕はあの後、どうなったのかは判らない。しかし、今は一夏の安否を心配しているため、別のことを考えることは出来なかった。彼女達の間には会話は無い、一夏を心配するがあまり、沈黙していた。話題を出すことも出来ないでいたからだ。

 

「織斑さん……」

 

 そんな中、簪は口を開いた。が、彼女はジェイソンに助けられてからのことは覚えていなかった。自分はあの時、ジェイソンに助けられたのはいいが、気がついた時には学生寮の、自分と本音の部屋にある自分のベッドで横になっていたことだろう。

 簪は、ここにいたことに驚いているのかもしれないが彼女を運んだのはジェイソンであるのだ。簪がそれに気づくにもそう、時間は掛からなかった。

 が、本音から一夏が楯無を庇って右腕を失ったことを聞かされて思考が停止したことは言うまでもなかった。今も彼を心配しているのは彼女だけではない。

 楯無や布仏姉妹、千冬や真耶等の数人も一夏を心配していることに変わりは無い。が、簪は一夏を想うが故であった。そんな簪に本音は何も言わず簪の肩を抱き寄せる手に力を入れる。

 虚は簪を見てつらそうに目を逸らす。楯無は何も言わず目を閉じているが腕に力を入れている。彼女達は簪の言葉に同情はしている。が、己の無力さにやるせない思いで一杯だった。

 この思いを誰にぶつければいい? まるで八つ当たりかもしれないが彼女達はそれをグッと堪えていた。しかし、彼女達以上につらいのは奴、ジェイソンだろう。

 彼は一夏が死ねば彼自身も消滅と言う形で死んでしまう。それだけはまだしも、ジェイソンはどこにいるのかも判らないのだ。彼女達はジェイソンの事を考えて……いない。

 

「……虚、本音」

 

 そんな中、楯無が口を開いた。虚と本音は声に反応し、顔を上げ、楯無を見る。楯無は後ろを向いたままであるが肩越しで彼女等を見る。眉をひそめているが瞳はどこか哀しい。

 しかし、楯無は彼女達を見ながら口を開く。

 

「私は、これから更識家に連絡するわ」

 

 楯無の言葉に布仏姉妹は目を見開くが楯無は先を続ける。

 

「織斑君が私を庇って右腕を失った。そう言うわ」

「お、お嬢様それは違います!」

 

 虚は楯無に言う。が、それは楯無を思っての事であった。一夏が右腕を失ったのは楯無を庇ったのが原因でもあった。楯無が悪い訳ではない、彼女は生徒会長としての義務を果たそうとしたのだ。同時に、彼は従者としての使命を果たそうとしたのだ。

 虚から見ればそう思われても仕方ないだろうが連絡しなければならない。義務でもあるが楯無は自ら連絡する事にしたのだ。

 

「虚……あなたの気持ちは解るわ、でも、彼をこんな目に遭わせたのは、当主である私の責任。私が連絡しなければ、父を困らせる。従者の皆を困らせる」

 

 楯無は彼女達を見る。刹那、哀しそうに微笑む。

 

「怒られるのは私なのかもしれない。彼は従者としてでもあるけど、守るべき者でもあるの……それに私、少し思った事があるのよ」

「ある事?」

 

 虚の言葉に楯無は表情を暗くする。が、言葉を続ける。

 

「ええ……実は私、織斑君が、いえ、織斑君の方が私よりも更識家当主に相応しいと思ったのよ」

「ええっ!?」

 

 楯無の言葉に虚は驚き、簪と本音は目を見開く。楯無が自分よりも一夏を当主として相応しい? それは楯無が当主という立場から逃げ、一夏を推しているような発言とも取れた。

 が、楯無は理由を述べる意味で言葉を続ける。実は楯無は一夏を警戒していた。彼がなんのために行動しているのかは判らない。が、彼は誰よりも冷酷で、完璧に任務を熟しているのだ。

 立場を脅かすかつ、楯無として相応しいと感じたのだ。自分の勘違い、気のせいかと思っていたが、ある事件がそれを確証づけたのだ。

 

「倉持技研の時、彼は日記で倉持技研を破滅に追い込んだ、政府を変える事をもした」

「ちょ、ちょっと待って下さい!? なんですか日記って!?」

 

 楯無の言葉に虚は困惑しながら無理矢理止める。虚の言葉に楯無は思わず口を噤む。が、虚の言葉に楯無は気づいたのだ。日記の事は誰にも言わなかったのだ。

 源次や更識家の面々、それに近くにいる妹や布仏姉妹にも言ってなかったからだ。理由は言えないが楯無は彼女等を見まわす。彼女達は心配そうに見ていた。

 いや、日記の件を明かさなかった事を知りたいのだろう。楯無はそれに気づくがつらそうに俯く。

 

「一夏ーーーーっ!!」

 

 刹那、遠くから声が聞こえ、彼女達は声がした方を見やる。そこにいたのは、箒であった。彼女は一夏が集中治療室に運ばれた事や、右腕を失った事を聞いて、一夏を喪いたくない恐怖のあまり、集中治療室を捜していたのだ。

 そして、集中治療室を見つけると、その場へと駆け足で向かってきたのだ。

 

「っ!!!? き、貴様!!」

 

 箒は、ある人物を見て怒りの形相になる。それは楯無であった。箒の言葉に楯無達は驚くが、箒は彼女達の前にまで来ると、立ち止まる。

 

「貴様……っ!? 一夏!」

 

 箒は集中治療室の扉を見る。扉は開いていない。同時に、開く気配はない。

 

「一夏……っ!」

 

 箒は下唇を噛むと、再び楯無を見る。楯無は少し驚くが箒は手を挙げると……。

 

 

 刹那、乾いた音が辺りに木霊する。これには布仏姉妹と簪は目を見開いた。が、それ以上に楯無は目を見開くが同時に彼女は頬に微かな痛みを感じ、手で押さえる。

 一方、箒は何かを叩いたように構えていた。いや、箒は楯無の頬を叩いたからであった。乾いた音もそれであるが箒ははらわたが煮え繰り返る思いで一杯だった。

 理由は察する通り、一夏の事であった。一夏は楯無を庇って瀕死の重傷であるからだ。その元凶である楯無が無事なのは箒には許さなかったからだ。

 想い人があんな目に遭ったのも、楯無のせいだと思ったからだ。箒は楯無に怒りを覚える中、彼女の胸倉を掴むと、キッと睨む。

 

「貴様のせいで……貴様のせいで一夏が!」

 

 箒は怒りを隠しきれず再び、楯無を引っ叩こうと手を振り上げる。刹那、箒の手首を掴む者がいた。

 

「!?」

「ひっ!?」

「っ!?」

「うぁあっ!」

 

 同時に、楯無達は驚きを隠せない。いや、怯えている。楯無は目を見開き、簪と布仏姉妹は怯えると身体を震わす。が、それ以上に箒は。

 

「誰……っ!?」

 

 箒は振り返りながら怒る。しかし、彼女は振り返った直後に恐怖で顔を歪める。自分の手首を掴んだ者に対しての怒りでもあったが一瞬で恐怖へと塗り替えられた。

 箒は自分の手首を掴んできた者を見て怯える。身体も言うことを聞かないように震えている。が、自分の手首を掴んだのは、ある大男であった。

 白いポッケーマスクを着けている大男であった。そう、ジェイソンであった。ジェイソンは扉の方を見ているが箒の手首を掴んだのだ。楯無を守るためではない、一夏を思っての事であった。

 彼は今、生死の境を彷徨っている。ジェイソンは主人を思う従者の立場であるからだ。それを煩くした箒が許さないのだろう。そんなジェイソンに箒は青褪める。

 

「う、うぁぁ……!!」

 

 箒はジェイソンを見て怯える。刹那、ジェイソンは箒の方を見る。刹那、箒はジェイソンが此方を見ると。

 

「う……うぁぁぁーーーーーっ!!!!」

「きゃぁぁぁーーーーっ!!!」

 

 箒は力一杯叫んだ。いや、恐怖で叫ばずにはいられなかったのだ。そんな箒に簪は驚き、直後に声を上げてしまった……。

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