インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第102話

「そう……篠ノ之さんをお願いね」

 

 その頃、学園にある集中治療室前では更識姉妹がいた。簪はイスに腰掛けているが楯無は壁に凭れ掛かりながらスマートフォンを耳に当てながら誰かと会話している。

 その者は虚であった。彼女は本音と共にジェイソンを見た箒を連れて、学生寮へと戻ったのだ。箒はジェイソンを見て失神したが失禁はしていない。

 ジェイソンはその場には居ない。彼は楯無に無理矢理、戻るように言ったのだ。理由は一夏を安静にしなければならない、騒いだら帰って傷が悪化するだけだ、と。

 楯無は一夏の上司であるのと同時に、ジェイソンは一夏の部下であるからだと認識されている。これにはジェイソンは渋々だが、湖で囲まれた孤島へと帰った。

 しかし、楯無は虚に対し、本音と共に箒の傍に居てやれと命令すると、通話を終える。楯無は「さて……」と言いながらスマートフォンを懐にしまうと、簪を見る。

 簪は集中治療室の扉を見ているが哀しそうであり、祈るように指を絡めている。まるで想い人の安否を気にしているようにも思えた。死なないでほしい事を祈っているようにも思えた。

 楯無はそれに気づくが、同時にある考えも浮かぶ。まさか、簪は……。楯無はそれを簪に訊ねてしまった。

 

「簪ちゃん」

 

 刹那、簪は楯無を見る。簪は微かに顔を引き攣らすが「何?」と聞き返す。これには楯無は軽く肩を震わせる。やはり嫌われている。それだけは判っているが楯無は聞き返した。

 

「どう思っているの? 織斑君の事」

「っ!?」 

 

 楯無の言葉に簪は目を見開き、言葉を詰まらせる。楯無の質問とも言える言葉に何も言えないからだった。自分は一夏の事が好き、それは紛れも無い事実でもあり、人に言える事ではない。

 本音や虚は兎も角、姉である楯無なら尚更悪い。彼は従者であり、自分や姉を守ってくれる存在なのだ。そんな彼を好きになってはいけない理由は無いが、簪はそれを言えなかった。

 簪は黙る中、楯無は溜息を漏らす。彼女の様子で直ぐに気づいたのだろう。そんな簪に楯無は哀しい笑みを浮かべながら指摘する。

 

「好きなのね……織斑君の事が?」

「……だったら何?」

 

 簪はそれを聞き返した。その口調には棘があるようにも思えるが姉を嫌っている簪だからこその言葉だろう。そんな簪に楯無は軽く肩を震わすが、姉の威厳と言う意味でなんとか言葉を続ける。

 

「そ、そう……簪ちゃんもそんな年頃よね?」

「……それ、何かの含みを感じるけど? 当てつけ?」

「当てつけじゃないわ……それに」

 

 楯無は不意に扉の方を見る。扉の向こう側、室内には一夏が横になっている。目覚める気配はないだろうが楯無は扉を哀しそうに見ながら呟いた。

 

「出来る事なら言いたくないけど……でも、彼には簪ちゃんに相応しいかどうかも判らないのよ」

 

 楯無の言葉に簪は「なっ!?」と言いながら目を見開く。楯無の言葉は簪と一夏の恋を否定し、反対しているようにも思えたからだ。それは簪にとって非情な一言でもあり、傷付けるような言葉でもあった。

 楯無は簪が驚いているのをよそに、言葉を続ける。

 

「彼、笑わないのよ……それに私達を守ってくれても、私達といても、彼は笑わない。奴と一緒にいる事もいれば、いない事もあるけど、彼、笑わないのよ」

 

 楯無は一夏の事を楯無に言う。彼の今までの様子と、感情を教えたのだ。彼は笑わない、周りに女子がいても鼻の下を伸ばさない上、気にもしていない。

 従者としては相応しいが凛としている。それだけは高評価であるが感情は主に怒りしかない。無感情もあれば泣いている所も見た事がない。

 楯無は感情の無い一夏が簪に相応しいかどうかも判らないからだ。反対している訳ではない上、簪をとられたくないからではない。彼は簪を幸せにする男としても相応しいのかどうかも疑わしいからだ。

 姉としての疑問と、簪と言う可愛い妹を心配しているからだ。そんな楯無の言葉に簪は驚きつつも下唇を噛む。刹那、簪は声を上げた。

 

「だったら、お姉ちゃんはどうなの……!?」

「えっ……?」

 

 簪の言葉に楯無は驚くが簪は言葉を続ける。

 

「お姉ちゃんはどうなの……!? お姉ちゃんだって、織斑さんと共同生活して、織斑さんの事を恋愛感情としても見ていないの……!?」

 

 簪は楯無の事を指摘する。それは楯無自身が一夏と共同生活している事であった。一夏のルームメイトは楯無であり、楯無のルームメイトは一夏であるからだ。

 異性同士が同じ一つ屋根の下に住んでいるのは不思議かつ、違和感しか無い。恋人同士ならば兎も角、姉と一夏は当主と従者の立場であるのだ。

 そんな楯無が一夏に恋心を募らせる事も珍しくない。恋話はあれであるが、楯無はどうなのだろうか? 簪はそれを突いてきたのだ。

 

「お姉ちゃんだって、織斑さんが好きなら、心配しているんじゃないの!?」

「し、心配しているわよ!?」

 

 楯無は怒るが簪は更に怒る。

 

「嘘だよ! お姉ちゃんは織斑さんが好きならそわそわする筈だし、泣いている筈だよ!?」

「えっ……な、何を言ってるの?」

 

 楯無は簪の言葉に戸惑いを見せる。が、簪は更に言葉を続ける。

 

「お姉ちゃん……織斑さんの事が好きなの? それとも、織斑さんを従者としか見ていないの?」

「な、何を……!?」

「惚けないで! 織斑さんはお姉ちゃんの下僕なの? それとも単に使い捨ての駒としか見ていないの!?」

 

 簪は楯無に対して怒る。無理も無い、楯無が一夏をそう思っているとしか思っていなかったからだ。現に一夏は楯無や簪を守ってくれるがそれ以外の私生活は判らない

 彼は基本的には従者として行動している。彼が笑わないのは、従者としての使命を重く受け止めているからだと簪は思っていた。が、簪は一夏に惚れたのは自分を守ってくれた事や慰めてくれた事だ。

 それだけでも嬉しい。が、簪は楯無に反発したのは別の理由でもあり、一夏に対してどう思っているかだ。彼女は一夏と共にいるが従者としてだろう。

 しかし、彼は自分達を守るために傷付いている、それが、右腕を失うと言う最悪な結果になってしまったのだ。彼は自分達姉妹を守るために我が身を犠牲にしてきた。それは、自分達が彼に頼り過ぎたと言う事を自覚させたからだ。

 最初は気づかなかった。それは無責任とも言えるがいつの間にか自分は、いや、自分達は彼に甘えていたからだった。簪はその事を楯無に指摘する中、楯無は何も言えずつらそうに俯く。それでも簪は言葉を続ける。

 

「お姉ちゃん……もう止めて……織斑さんは私達と同じように青春を謳歌してもいい年頃なんだよ? ……それなのに、私達は織斑さんに頼り過ぎてる……」

 

 簪はそう言いながら目に涙を溜め始める。一夏を思うが故であった。彼女は扉の方を見る。

 

「私達は……いつの間にか、彼を追い詰めている……うぐっ、青春を奪い、人生を奪うようにもなっている……えぐっ……」

 

 簪は嗚咽を上げる。自分達が一夏を苦しめている。追い詰めている、そう思っていた。しかし、彼女が悪い訳ではないが簪は後悔していた。

 

「織斑さんは私達の、何? 従者? それとも……他の人達よりも使えるだけの存在なの? ……違う、よね? ……違うよね!?」

 

 簪は泣きながら怒る。彼は従者ではない、従者でもあるが仲間なのだ。彼の人生は彼の者だ。自分達更識家の為来りと言う名のレールの上を走らせるためではない。

 彼が何を考えているのかは自分達には判らない。が、出来る事なら謝りたい。しかし、彼の右腕を奪ったのは、守ろうとした自分達だ。今更謝っても赦してもらえないだろう。

 それでも簪は彼に謝りたかった。同時に彼が目覚めない限り、何も出来ない。口で言っても、彼が目覚める訳ではないのだ。簪はそれに気づくかそれさえも躊躇していた。

 

「謝りたい……謝りたいよ……うぐっ、えぐっ……ううっ」

 

 簪は嗚咽を上げながら俯くと、顔を手で覆い隠しながら泣いた。眼鏡を掛けているにも関わらず彼女は涙を止めない。一夏を思う意味と後悔の意味が含まれていた。

 簪の心は純粋な少女である意味で澄んだ心をしているだろう。そんな簪に楯無は俯いているが目に涙を溜めている。簪の言葉が響いたのか、それとも後悔の念に押しつぶされそうになっているのかは判らない。

 それでも、彼女もまた、一夏に頼り過ぎたと言う真実を重く受け止めていた。当主が相応しいと言ったのも、彼に頼ろうとしていたからだろう。

 楯無と簪はその事で後悔する中、誰も彼女に声をかけない者は……いた。

 

「おいおい〜〜何辛気クセえ顔してんだ?」

 

 刹那、奥から声がして、楯無は咄嗟に声がした方を見る。同時に簪も泣きながら声をした方を見る。刹那、二人は目を見開いた。そこには、此方へと歩いてくる、包丁を逆手に持っている一体の人形がいたからだった……。

 

 

 そして、同時刻、夢見一彦と、あの死の淵から半回復した黒薙一也の二人が学園の別々の場所へと現れた。それは別々の目的があるが、共通しているのは一夏抹殺のためであった……。

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