インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「…………」
数時間後、ここは集中治療室の中、そこには一人の青年と一人の女性、数人の女子生徒達がいた。青年は一夏であった。一夏は昨晩と同じように身体中はチューブで繋がれている。
回りには心電図があるが生命維持装置ではない、彼は生きている事が理由でもあるが必要ない事を祈るだけだろう。そんな彼を実姉であり担任でもある千冬。同じクラスの簪、本音、箒。上級生でありながらも彼の仲間でもある楯無と虚がいた。
彼女等は一夏を心配しているが沈黙だけが続いていた。誰一人、会話をする者等いない。不安だけが募り、それが彼女達を追い詰めている。
時間だけが過ぎていく中、不安がどんどんど大きくなっていく。
「一夏…………」
「一夏……っ!」
そんな中、沈黙と不安を崩すかのように千冬と箒が彼の名を呟く。これには周りも反応するるがつらそうに俯く者や、目を逸らす者がいた。
ここにいる全員、不安で押しつぶされそうになっていた。一夏を喪う恐怖で一杯なのだろう。千冬は実弟を、箒は彼を想うが故であるが一夏を心配していることに変わりは無い。
しかし、逆に怒りを隠しきれないでいる。彼女等は知らないが彼をこんな目に遭わせた者達に対して怒りが沸いてくる。彼をやったのは二人だ。一夏の右腕を奪い、瀕死の重傷にさせた者であり、親しい人でもある篠ノ之束。もう一人は未知の敵でありながら満身創痍の彼を追い詰めたプレイヤー、夢見一彦。
何方も憎い敵であるが前者を知ったらどうなるのだろうか? 怒りで我を忘れて怒るだろうし、後者は殺しに掛かるだろう。が、今は一夏の安否を気にするのが先であった。
千冬の頬に一筋の涙が伝う。姉としての後悔でもあった、何故守れなかったのか? 何故傍にいられなかったのか? それだけが心残りであった。
彼女の後悔はとても大きく、暗い影を落としている。箒の方はあれであるが千冬は彼女なりの後悔と自らの過ちに気づいている。白式は彼女に非がある訳ではないが彼女自身が罪を償う意味でも持っているからだった。
しかし、箒はつらそうに俯くと、不意に楯無を見る。楯無はつらそうであるが涙を浮かべている。が、それが箒に嫉妬の炎を滾らせてしまった。
刹那、箒は楯無に詰め寄ると、彼女の胸倉を掴む。
「貴様!!」
刹那、箒は彼女に対して怒る。これには盾無も目を点にするが周りも箒の行動で驚きを隠せないでいる。が、箒は先を続ける。
「お前のせいで一夏はこんな目に遭った! なのに何故貴様は平気なのだ!? 何故お前でなく一夏が死にかけなければならなかったのだ!?」
「し、篠ノ之さん……っ」
「篠ノ之!」
「会長!」
楯無は箒の言葉に何も言えなくなる。が、そんな箒に千冬が羽交い締めし、虚が楯無を心配する。しかし、箒は千冬に羽交い締めされながらもなおも暴れる。
「お前のせいで一夏は危険な目に遭った! お前がいるせいで一夏は右腕を失い、死にかけている! お前がいるからだ!」
「…………」
箒の罵倒に楯無は何も言えなかった。否、事実を突きつけられて何も言えないでいた。彼をこんな目にしたには自分だ。自分がいるから彼が死にかけている。
彼女が悪い訳ではないが、一夏は従者として使命を全うしただけだ。が、それが全て裏目に出ているが箒は単なる嫉妬であった。簪だけにしか向けなかった嫉妬心を楯無にも向けてしまったのだ。
それは数日前に目撃した事であった。一夏が楯無の腕を掴みながら自分の方へと引き寄せ、部屋に戻った事である。あの時は部活で朝練があったからだ。
が、あれは好きな人を引き止める行動としか見えなかったのだ。これには箒も嫉妬を向ける事になるがそれが今、吐き出す事になったのだ。
箒は暴れる中、楯無に対してこう言い放った。
「お前は一夏に近づくな! お前がいたら一夏は死んでしまう! この、疫病神めーーっ!」
「……っ」
箒の言葉に楯無は言葉を失った。同時に哀しみが込み上げて来た。箒の言葉は彼女に大きな傷を負わすには充分過ぎる言葉でもあった。周りも彼女の言葉に言葉を失うが千冬は泣きながら怒ると、彼女を放し、彼女を自分の方へと振り返らせると……。
刹那、乾いた音が木霊する。これには楯無と楯無以外は目を見開くが箒は一番目を見開いていた。が、同時に頬に熱い感覚がありながらも痛みが走っている。
目の前には千冬が泣きながら怒りの形相をしているが手を上げている。それは、千冬が箒の頬を叩いたからであった。さっきの音は箒の頬を叩いた音でもあるが千冬は怒りながら唇を震わせていた。
「篠ノ之、今の発言は失言だぞ……!?」
千冬はそう言った後、彼女の胸倉を掴むと、顔を近づける。
「篠ノ之、更識姉はな、一夏を守ろうと、学園を守ろうと闘ったのだぞ!?」
「だ、だけど千冬さ……織斑先生、一夏は彼女を守る為に傷付いたのですよ!?」
「だからなんだ!? 織斑は、一夏は彼女を守ろうとして身を挺したのだぞ!?」
千冬は怒り続けているが泣き続けていた、それでも言葉を続ける。
「一夏はな、自分よりも他人を優先する自慢の弟だ! 更識姉を守ろうとしたのもコイツなりの優しさなんだぞ!?」
千冬は怒りながら箒に言う。が、一夏は確かに誰かを守る為に身を挺している。誘拐された後に全てを知ったのだが一夏は自分に頼らずに我慢してきた。
友人達はそんな彼を心配しているが彼もまた、友人を心配しているからでもあった。が、楯無を守ったのも彼なりの行動だろうが従者としてでもある事を千冬は知らない。
同時に一夏を馬鹿と思いながらも心配しているが自慢の弟とも思っていた。楯無も悪いが全て彼女に非がある訳ではないのだ、一夏の優しさが楯無を二度救ったに過ぎないのと、楯無も学園を守ろうとした義務もあるからだ。
それを箒は否定し、一方的に楯無を罵倒した。千冬には煮えたぎる思いで一杯であるが千冬は箒に対して言葉を続ける。
「お前に更識姉の何が解る!? アイツの優しさを理解した事があるのか!?」
「お、織斑先生……ですが!」
「解らないだろうが!? お前はコイツの幼馴染みだろう!? なのに何故、理解してやれない!? お前はコイツの何を見てきたんだ!? 応えろ!?」
千冬の言葉に箒は何も言えなくなり、俯く。正論であったからだ。そんな千冬の言い分を周りは震えていた。簪と本音は肩を震わせながら泣いている。
虚は生唾を吞むが緊張しているからであり、戦慄さえもしている。しかし、楯無だけは違っていた。彼女はさっきの疫病神と聞いて混乱しているのと哀しんでいた。
刹那、楯無は泣きながら部屋を出ようと駆け出す。
「会長!?」
「お姉ちゃん!?」
虚と簪は楯無に驚くが鈴と本音、千冬も驚きを隠せないが楯無は部屋を出て行くと何処かへと走り去って行った。目に大粒の涙を浮かべながら……。
「……大丈夫かな、一夏って人……」
その頃、ここは一夏と楯無の部屋。その部屋には一人の幼女が枕を抱き締めながらつらそうに呟いている。一美であった。彼女は楯無にここにいるように言って、待機しているのだ。
千冬達に見つからないように隠れていたが今は誰もおらず、一人待機している……訳ではない。
「おいおい、辛気くせえ顔するなよ〜〜」
「止めなさいよアンタ、この娘はまだ四歳なのよ?」
そんな一美の近くには二体の人形がいた。チャッキーとティファニーである。しかし、この二体は殺人鬼であるが、彼等を引き連れているのは一美である。
二体の人形は一也を止めていたのだが逃げられてしまったのだ。が、その所為でチャッキーは怒っており、八つ当たりと言う意味で彼は一美の様子に呆れてい。そんな彼にティファニーは宥めているが呆れてもいる。
「チャッキー、ティファニー……」
一美は彼等を見て微かに微笑む。が、不安である事に変わりは無いだろう。
「おい、小娘! 何時になったらゲームをするんだ!? あの織斑一夏って野郎は死にかけているんだぞ!?」
「……ごめん、今は出来ない……私、人を殺せない……」
チャッキーは一美に怒るが一美は否定する。何故なら一美と二体の人形は一夏がプレイヤーである事を知った。いや、チャッキー達二体の人形が知ったと言い替えればいいだろう。
彼等の目的は一夏の抹殺であるが肝心の自分達のプレイヤーである一美は何もしないでいる。躊躇しているようにも思えるが理由があるのだ。
今はいいだろうがチャッキーは一美が何もしないでいる事に怒りを隠しきれていない。
「止めなよアンタ、怒っても何も変わらないわよ?」
「だからってゲームを生き残れないんだぞ!? 大体な……」
「ねえ?」
チャッキーが何かを言い掛ける前に、一美が彼に訊ねる。彼女の言葉にチャッキーは顔を引き攣らせるがティファニーは訊ねる。
「どうしたの? 何かあるの?」
「……出来ないかな?」
「何がだ?」
チャッキーは呆れているが口調は怒っているようにも思えた。そんな彼の様子に一美は微かに泣きそうになるがポツリと口を開いた。
「出来ない、かな? ……私達……一夏さんと協力って……」
一美の言葉に二体の人形は目を見開いた。が、一美は一夏と手を組む事は出来ないかと思っていたのだ。しかし、一夏は知らないだろうが彼女は一夏にとって、強力な味方かつ、一筋の光である事を……。