インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第117話

「もう、私には何も判らないわよ……!」

 

 楯無は一夏の胸に顔を埋めながら泣いた。何故なら彼女は今、更識当主と生徒会長という重圧に耐えきられず、それを枷と感じていた。

 その原因は一夏に有るが楯無は自分の本来のすべき事が何も解らなくなり、同時に自信に対して、やるせない思いをしていた。自分は学園を守る盾の筈であり、当主でもある筈。

 なのに今は何方も一夏に譲りたい思いで一杯だった。それは現実から目を逸らし、自分がすべき事を他人にさせる行為にも等しい。が、今の彼女には重すぎたのだ。

 楯無は一夏に守られてばかりであった、従者に守られてばかりであった。彼女はそのお陰で生き存えているが代償として一夏の右腕を奪い、従者達の大半は命を落とした。

 それだけでない、箒には疫病神と言われ、千冬には一夏が暗部に入った事を詰られた。それ以上につらい事は無かった。楯無はその所為で何もかも投げ出したい気分であった。

 最早自分には楯無や生徒会長としての資格は無い、今までの行いもムダであり、所詮はそれに縋り付いていただけなのかも感じていた。楯無は何も判らないでいた。

 どれが正しく、どれが間違いなのかを全て把握出来ないでいた。出来る事なら普通の生活を送り、青春を謳歌したい。そう思っていた。彼女は自分でも判るようにそう思っている中、絶望に包まれている感覚さえも感じた。

 自分は誰にも必要とされていない、自分は疫病神だ。誰かが自分にそう詰るように囁いてくるのも感じた。楯無はそれに気づきながらも一夏に甘えていた。

 誰にも見せたくない、出来る事ならば誰かに甘えたい、と思ったのだ。他人とは言え、暗部に入って日が浅い彼でも良かったとさえも思った。

 しかし、楯無がそう考えているのを余所に一夏は無言で彼女を見下ろしている。一美は枕を抱き締めているが困惑そうに見ていた。二人は楯無が嗚咽を上げている事に気づきながらも声を掛けられないでいる。

 一美は兎も角、一夏は楯無を見て何も感じていない。鬱陶しいとさえも思っていた。が、一夏は楯無の髪を鷲掴みにする。

 

「っ!?」

 

 楯無は一夏の行動に驚きと痛みを感じるが一美は「ヒッ!?」と上げる。しかし、一夏は楯無の髪を鷲掴みにしながら彼女の顔を上げさせる。

 楯無は顔を、目線を一夏と向き合う形で彼に上げさせられてしまった。左手には力が込められていた。それ以上に楯無は戦慄しいていた。自分を見る一夏の表情は険しかった。

 自分を見る一夏の瞳には軽蔑が籠められている。弱気になっている楯無に対しての怒りと呆れが孕んでいた。無理も無いだろうが楯無は肩を震わせると、つらそうに目を逸らす。

 

「……何故、逃げる?」

「……貴方に、判らないわよ……」

 

 楯無は応える。唇を微かに震わせているが一夏に対して恐怖していた。一美がいるとは言え、一夏には好印象は無い。彼の行動範囲は広く、それを把握するのには時間が掛かるのと最悪、それが出来ない事も珍しくない。

 楯無は一夏に対してそう印象づく中、一夏は口を開く。

 

「何故逃げる? お前は何故自らの使命を背く形で背を向ける?」

「……何も解らないわよ……貴方に」

 

 楯無はそう言いながら再び泣き出す。逃げたかった。当主や生徒会長等の全ての事から、に。出来る事なら彼に代わってもらいたい、それは一夏にだ。

 彼なら当主や生徒会長を担うには相応しい人材だ。それ相応の度胸と覚悟が有る、その使命を重く受け止めるメンタルもある。嫉妬さえも感じるが楯無は自らの行いから逃げようとしている事に代わりは無い。

 楯無はそれを一夏に言おうと視線を彼に向ける。刹那、一夏は再び口を開く。

 

「軟弱者……」

 

 一夏の言葉に楯無は瞠目する。が、一夏は先を続ける。

 

「軟弱者め……何故、自らの過ちに気づかない?」

「な、何を……っ!?」

 

 楯無は一夏の言葉に反論しょうとした。が、一夏の手前、何故か言えなくなった。しかし、それが一夏を焚き付ける原因にもなった。一夏は楯無の言葉に眉を顰める。

 

「それだよ……お前は自らの事で何も言えなくなる」

「……そ、そんなのって……」

「違わないな……お前は逃げようとしている……お前を縛る物から」

「…………」

「何も言えなくなるのか……だが、お前は」

「判ってるわよ!」

 

 刹那、楯無は叫んだ。一夏は眉をひそめ続けているが一美は更に震えると、何も言えなくなる。が、楯無は唇を震わせながら目尻に涙を浮かべながら先を続ける。

 

「判ってるわよ……そのくらい、私には……もう、何も、判らないわよ……」

 

 楯無は俯く。すると、彼女に目尻に溜まっていた涙が粒のように何滴も床に滴り落ちる。ポタッ、ポタッ、と小さな音が聴こえ、床を濡らす。しかし、楯無は言葉を続ける。

 

「私は皆の思いを、家の為来りを守る為に……簪ちゃんを……いえ、それを全て受け止める覚悟は有ったわよ……なのに!」

 

 楯無は強く瞑目し、歯を食い縛る。

 

「なのに私は貴方に守られ、貴方を危険な目に遭わせ、右腕を奪った……従者の皆を死に追いやった……!」

 

 楯無は目に溜まり、滴り落ちる涙を拭く意味で腕で拭う。涙が止まらない事で悔しいのではない、自分に対しての罪悪感でもあったのだ。

 

「それを平気でいられる訳でないでしょう!? ……従者の皆には悪いけど、貴方は警護の対象なのに、貴方に守られるばかり、そのせいで貴方を死に追いやる事を何度もしているのよ!? それなのに……それなのに……私に怒ってよ! 詰ってよ! 腕を返せと言いなさいよーーっ!?」

 

 楯無はそう叫んだ後、泣いた。彼が責めない事に対してであるのと、詰らない事に対しての怒りでもあった。自分には彼を責める資格は無い、逆に彼には自分を責める資格が有る。

 自分がいるせいで彼は右腕を失ったのだ。人を殺めさせたのに彼は自分を責めない。可笑しい、とても可笑しいとしか思えなかった。何故怒らないのか、何故それを指摘しないのか、と。

 現に千冬と箒からは怒られている事には自覚しているが彼はそれを咎める以前に何も言わない。それだけが心残りであるが不信感としか言いようが無かった。

 そんな楯無に一美は何も言わないでいるが目に涙を浮かべている。幼い彼女にとってつらい目撃でもあるだろう。が、それを知る事も当たり前なのだが仕方ない事だろう。

 逆に一夏は楯無を見て何も言わない。ジッと見ているとしか思えなかったが彼は不意に呟いた。

 

「それが出来れば、問題ない……」

 

 一夏はそう言った。これには楯無は驚きながら泣きながら顔を上げる。彼は無表情であるが何処か寂しそうであり怒りが籠っているような口調をしていたのを、楯無ははっきりと聞こえた。

 しかし、楯無は一夏の言葉に驚く一方で一夏は言葉を続ける。

 

「それが出来れば、俺にも微か慈しみは有るだろう……だがな、優しさは不要だ。そんなのは、俺には要らない」

 

 一夏はそう言うと、楯無に対し、俯く。

 

「俺には優しさは要らない……泣く事も、笑う事も、感情は怒るのと、怨む事以外、善の感情は要らない……」

「お、織斑君?」

 

 楯無は一夏の言葉に不信感と言うよりも、何処か不思議に感じた。棘があるようにも思えるがそれがあまり有るようにも思えなかった。が、そんな楯無の考えを一夏は知らない。

 同時に彼は何を思ったのか顔を上げると、視線をそらす。否、一夏は標的を楯無から、ある幼女へと変えたのだ。それは一美にであった。

 一美は一夏が自分を見ている事に驚いているが少し震えている。何かをするつもりだ。そう思ったのだ。逃げる事も出来ないでいるが一夏が何を言うのかを一美は怯えつつ気にもしていた。

 一方、一夏は一美を見たままで有るが口を開く。

 

「……組んでやる」

「えっ?」

 

 一夏はそう呟いた。が、一美には上手く聞き取れなかった。が、一夏は一美の様子に気づくと舌打ちすると、再び口を開いた。

 

「手を組んでやるよ、お前と……一時的な共闘をな」

「っ!?」

 

 一夏の言葉に一美は驚きを隠せない。が、一夏がそんな事を言ったからであった、彼は最初、拒否していたのだ。小娘である自分と組む気はない事だけは知っていた。

 なのに今更、気が変わったように手を組むと言ってきた事に驚くのだ。一美は一夏の行動に驚くが一夏は顔を引き攣らせながら言葉を続ける。

 

「何度も言わせるな、俺はお前と組む……無論、他のプレイヤー達を倒す為だ。それにお前が裏切るのならば殺す、それだけは覚えておけ」

 

 一夏はそう言いながら視線を楯無の方へと向ける。楯無は驚くが一夏は何も言わずに背を向ける意味で身を翻すと風のように消えた。

 

「っ!?」

「あっ!」

 

 楯無と一美は一夏の行動に驚くが一夏は何所へ行ったのかは二人には知らない。

 しかし、これだけは判った。それは織斑一夏と楓一美が他のプレイヤーを倒す為の協力関係を結んだ事、だった……。

 そして翌日、二人の転校生が一夏に余計な事をしてしまう……。

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