インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第12話

「い、一、夏、なのか……?」

 

 学長室に足を踏み入れた女性職員、千冬は今、驚愕していた。彼女は最初から室内に居たであろう学園長では無く、何処から入って来たのかも判らない青年を見ていた。

 彼女の瞳は見開いている状態であり、表情も驚愕その物であった。表情が物語っているようにも思えるが千冬は彼が一夏である事に疑問を抱いていた。

 彼が織斑一夏、自分のたった一人の弟であるのかと疑問に思っていた。姉としては最低だろうが疑うしか出来なかった。彼は三年前のあの日に死んだ。

 千冬から見れば彼が幽霊としか思えなかった。なのに足がおもりが付いている足枷が付けているように動けない。どうすればいい? 目の前のいる青年が一夏である事を願いながらも疑問を抱いていた。

 千冬は驚愕しながらも彼の名を言ったが二回しか言ってなかった。彼女の心情からすれば、後悔しか無いだろう。そんな千冬を一夏は無言で見ていたが視線には憎悪が込められている。

 それでも千冬は彼に近づく。一歩、また一歩と近づくが後、二、三歩歩み寄れば彼の身体や肌に触れる事が出来るが一夏は彼女を睨みながら口を開く。

 

「自分の弟も忘れたのか……織斑千冬?」

 

 彼は千冬に対してそう呟いた。刹那、千冬は何かが身体を貫き通し、心臓が鷲掴みされ、一瞬だけ寒気がしたのを感じた。彼の口調はとても冷たく、憎悪さえも感じる。

 彼は自分を怨んでいる――同時に彼が自分の弟である織斑一夏である事も確信した。が、彼の口調が冷たいのは彼が自分を怨んでいる事を意味している。

 千冬は一夏を見据えようとしているが一夏は千冬から目を逸らしてはいない。学園長は二人を交互に見ていたが付け入る隙がなく、見守る事しか出来なかった。

 此所で横槍を入れれば状況が悪くなり、二人の立場を悪くするようにも感じたからだ。

 

「それはそうか……あの日、アンタは弟よりも名誉を選んだからな……!」

「ち、違……う!」

 

 一夏の口調は更に険しさを増す。そんな一夏の言葉を拒絶する様に千冬が叫ぼうとした。しかし、彼女の言葉には怯えが見える。弟が生きていた事に驚き続けていた。

 出来る事なら彼に謝りたいが何故かそれを許さない様に一夏は自分を睨んでいる。さっきの言葉は彼の鋭くも氷の様に冷たい視線にたじろいでいたからだ。

 あの日は自分でも忘れない――昨日のようにも思えるが戻りたいとも思っていた。あの日、自分は名誉を得るが為に戦った。結果は良かった物の、代償をも得た。

 それは……弟を喪った事であった。

 

「別に俺はアンタが名誉を得たとしても関係ない――同時に祝福もしない」

「っ……い、一夏」

「アンタは此所に居るのも恐らくIS関連の仕事かもしくは操縦者を育てる為だろう……だがな、俺はそれも祝福しない」

 

 一夏は千冬に対して無慈悲とも言える言葉を述べる。自分を助けに来ずに名誉を選んだ姉を祝福もしたくない。此所で祝福しても姉が喜ぶどころか戻ってこいと言うからだ。

 自分は戻るつもりも無い上、再び姉と一緒に住みたくもない。自分はゲームを制し、ある願いを叶える為だ。それには姉を絶望に追い込むと言う願いも含まれている。

 一夏の言葉に千冬は心臓を抉られる感覚に陥るが一夏は突然、「止めた」と言う。千冬は驚きはしなかった膝を突くと項垂れる。彼が自分を怨んでいる――それだけでも判ったか反論出来なかった。

 突然の事であり、少し前まで生存が確認されていたら気持ちは落ち付いていたのだろう。それを良い意味で悪い意味で裏切ったのは一夏なのだが彼は視線を学園長らしき人物の方へと向ける。

 彼は蚊帳の外同然であったが一夏は訊ねる。

 

「それよりもアンタ……」

「わ、私ですか?」

「アンタ以外に誰が居る? 其処の女は兎も角、アンタはこの学園の学園長か?」

「えっ……あ、は、はい――私は十蔵、轡木十蔵と申します。この学園の最高責任者でもある学園長です」

 

 一夏は彼、十蔵を見て驚きはしなかった。彼が学園長である以前にこの学園は男性が手を伸ばす事が出来なく、女性の園であるからだ。彼が学園長ならば別に珍しいが一夏から見れば興味は無かった。

 一方の十蔵は一夏を見て何かを思っているが不意に千冬の方を見る。彼女は未だ項垂れているが未だ気持ちの整理が付いていないのだろう。

 十蔵は千冬を不憫に思いながらも視線を一夏の方へと移す。一夏は十蔵の方を見続ているが視線が痛くも感じる。目を逸らす事も出来ないが彼の瞳は自分を逃がさない意味でも、標的を逃さない意味でも見ており、瞳は冷たく感じる。

 長く生きてきた訳だからではない――彼の瞳が全てを物語っている様にも感じたからだ。十蔵は生唾を吞む中、一夏が何をしてくるのかまでは予想出来なかった。

 

「……なあ、この学園は今、世界は今、男性操縦者の話題で持ち切りか?」

 

 一夏は口を開くと、十蔵は目を見開く。

 

「ど、如何言う事ですか? 何故男性操縦者の事を?」

「……どうなんだ? 学園はそれで対応に追われているのかって訊いてんだ?」

「あっ……はい、学園はそれで対応に追われています……それが何か?」

 

 十蔵は彼に訊ねるが一夏は無言であった。黙秘を貫き通しているようにも思えるが十蔵は何かに気付いた。さっきの質問が語らせている様にも思えるが十蔵はそれを指摘する様に答えた。

 

「ま、まさかISを動かしたのは、君なのですか!?」

 

 十蔵はそう叫ぶと、千冬は瞠目しながら顔を上げ、一夏を見る。一夏は無言で十蔵を見ていたが深く頷く。彼が此所に来たのはISを動かせる存在である男性操縦者が自分である事を教える為だった。

 しかし、本当かどうかも判らないが一夏は正真正銘のISを動かせる者であった。霧が原因でもあるが彼は自ら出向いたのには理由があった。

 それは死のバトルロワイヤルを再開する為でもあった。全世界は今、男性操縦者を捜す為に奮起している。見つからない限り続く危険が有ったからだ。

 そうなれば他のプレイヤー達は活動は愚か、ゲームを再開する事も出来ない。願いを叶えるどころか捜す事も困難に等しい。ならば自ら出向く事で、存在を明かす事で炙り出そうとしていた。

 青年の死で他のプレイヤー達も日本に来るであろう。自分が殺人を犯したのも他のデスプレイヤー達を炙り出す為でもあり、警察の目を厳しくさせたのも彼等が捕えられる事を願っていたからだ。

 殺人者ばかり狙ったのは一般の人を殺すよりも社会のゴミを殺す方が良いと歪んだ思考を走らせてしまったからだ。同時に一般人を殺さなかったのは微かな情が残っているようにも思えるが一夏はその事に気付いていない。

 十蔵の言葉に一夏は無言で見ていたが千冬は何かを言いかけていた。

 

「い、一夏……お、お前……!?」

 

 千冬は一夏に問い掛けようとした。彼がISを動かせる男性操縦者で有る事に驚きを隠せないでいた。自分と同じ血を引いているからか、単に動かせただけなのかは判らない。

 それで千冬は微かな期待を抱いていた。自分は一夏と寄りを戻せる。それは千冬にとって嬉しい出来事であるが彼女は微かに嬉しそうであった。

 彼女は一夏に対して淡い期待を寄せているが一夏は突然、何かに気付き溜め息を吐く。呆れている様にも感じるが彼が呆れているのは千冬や学園長にではない。

 彼が呆れているのは……一夏は不意に視線を扉の方へと向けながら口を開いた。

 

「さっきから何をしている? 出て来い」

 

 一夏は扉の方を見ながらそう訊ねた。二人にではないが二人も一夏の視線に気付き扉の方を見る。扉は開いているが千冬が開けたのと、ほったらかしにしていたからだ。

 扉の方には何も無いが何者かが何かを言いながら出てきた。

 

「あれバレちゃった? おねさーんに気付く何て流石ね〜〜」

 

 出てきたのは十代前半か後半に差し掛かる少女であった。一部が外側に跳ねている水色の長い髪に紅い瞳。お茶目な性格とも思えるがこの学園の制服を着ている。手には扇子を持っていたが広げており、扇子には黒文字で『流石』と書かれていた。

 

「バレるも何も、扉近くに居たら気配は感じる。何より直ぐ近くなら尚更だ」

「ふ〜〜ん。これでも気配を消そうとしたけど近くなら尚更かな?」

 

 少女は悪戯っぽい笑みを浮かべるが一夏から見れば警戒されている。少女は一夏の様子に気付いたが自分と同じ人間である事にも気付いた。

 彼が自分に向ける視線には警戒している様にも思えるが他とは違う様にも感じていた。そんな一夏に少女は扇子を閉じると先端を向ける様に突き出す。

 

「まっ、肩苦しい話しは置いといて、貴方は何者かはさっきから聞いていたけど、ISを動かせるかどうか実験してみせましょ? 織斑一夏君?」

 

 少女は一夏に対してそう宣言した。ISを動かせるかどうかを試しているが一夏は眉間に皺を寄せ続け続けていた。

 

「あっそうそう、自己紹介が未だだったわね? 私は楯無、更識楯無――この学園の生徒で生徒会会長をしているから、よ・ろ・し・く――ね?」

 

 少女、楯無は一夏に対してウィンクした。その仕草はからかう様にも思えるが彼女の性格を意味している様にも思えた。が、一夏から見れば効果はなかった……。

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