インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第123話

 

「ふぅ……」

 

 数分後、一夏は浴室から出てきた。手ぬぐいで濡れた髪を拭いている。が、片手だけでも一苦労している為、拭くのには時間が掛かっていた。

 制服を着ているが彼は気にもしていない。

 

「……まだいたのか?」

 

 一夏は顔をしかめる。ベッドの上には一美がいた。彼女はずっとその場を動かないでいた。目には涙の痕が残っているが少し困惑していた。

 

「……ちっ」

 

 一夏は舌打ちすると、そのまま自分の机近くにあるイスに座ると、鋭い視線を彼女へと送る。何か行動しないのかを警戒していた。同盟しているとは言え、信頼を得ていない。

 勝手な行動をしたらその場で殺す覚悟もある。一夏はそう考えているが彼女を見ているのもそれを確かめる為であった。どう動くのかを、彼女は自分に対して、どんな印象をしているのか、と。

 しかし、それが逆効果であった。一美は彼を見て怯えてしまう。何か悪い事をしたのか、と。彼の威圧的な視線が幼女を金縛りにするくらいの、恐怖を与えていた。一美は彼の視線に怯えつつ、訊ねた。

 

「あ、あの……何か?」

「……何もねぇよ」

 

 一夏はそう言いながら目を逸らす。ああ、やはり、怯えているのか、と。コイツがプレイヤーである事は違和感でしかない。そう思っていた。

 そんな彼に一美は、ある事を思い出し、それを一夏に言った。

 

「……あ、あの」

「なんだ?」

 

 一夏は視線を一美に向ける。一美は怯えるが何とか教える。

 

「あ、あの……貴方の机の事で……」

「……机だと?」

「は、はい……その、貴方の机を荒らした人の事で……」

「……俺の机を荒らした奴だと?」

 

 一夏は一美の言葉に眉を顰める。彼は机が荒らされていた事を知っている。自分が荒らした訳ではない事に気づき、楯無や一美がした訳でもない事に気づいている。

 しかし、彼はそれを咎めようとはしなかった。理由は犯人探しも時間のムダや、行動したくなかったからだ。が、彼が何を思っている事に気づいているのか、一美は怯えながらも、先を続ける。

 

「うん……その人、一夏、一夏って……貴方を呼びながら泣いていた」

「……俺の名を?」

 

 一夏は軽く目を逸らす。自分の名を呼ぶ者……彼は今までの者達を思い浮かべる……いや、それは少数に限られていた。が、彼は直ぐに思い浮かべる。

 まさか……一夏は何かに気づく。恐らく、あいつしかいない、と。同時に何故泣いているのかを気にしているが今はそれどころでは無い。

 

「……ったく、何を考えてやがる?」

 

 一夏はその者に対して怒りを通り越して、呆れていた。何を考えているのかは判らない。しかし、一夏はそれを咎める以前に捕まえるのが先であった。

 犯人の目星は付いているが一夏はどうすれば良いのかを先に考えている。一夏は思考を走らせる。捕まえるのならば手荒な真似は出来ない、ならば……一夏は不意にある考えを浮かべる。

 彼は使おうとしていた。それは危険であるが致し方ない。勝手な事をした事に怒りを感じているからだ。暫くは動けにないのと、学園にいる間は鬱憤が溜まるだろうが仕方ないだろう。

 一夏はそう考えているが一美は彼を見て何を考えているのかを理解出来ないでいる。しかし、一夏はそれ以上は考えず、不意に視線を壁に掛けられている時計の方へと移す。

 時刻は丁度、六時半であった。本来ならば夕食時で有るが彼は再び視線を一美の方へと移す。彼女は怯えていた。彼が見てきたからだろうが一夏は別に何かをするつもりではない。

 一夏は彼女を見て、ある事を訊ねる。

 

「それよりもお前、飯は喰ったのか?」

「……えっ?」

 

 一夏の言葉に彼女は目を見開く。何故なら一夏は一美が食事をしたのかを訊いていた。彼女は何時も何所にいるのかは判らない。何をしているのかも判らない。

 が、ちゃんと食事を摂っているのかを訊ねていた。餓死させる為でもない、一夏はある事を一美に言う。

 

「ちゃんと飯は喰っているのか? 喰っていないのならそれでも関係ない」

 

 一夏は左手を腰に当てる。呆れているが彼は一美を気遣っている訳でもない。しかし、一美は応えた。

 

「……食べてない」

「……はぁ?」

 

 一夏が惚けると、一美はつらそうに俯きながら口を続ける。

 

「……食べてない、今日の分は」

「…………」

 

 一美はつらそうに言葉を続ける。彼女は今日の分の食事は摂っていなかった。何時もはティフアニーが作ってくれるが今日は何も食べていない。

 一夏との同盟で二人は否定している。命令をしたいがそれを聞くだけでも更に反抗する危険があったからだ。自分は本来、なる筈も無いプレイヤーである。

 何時もプレイヤーと言う理由で命令しても彼等をこき使う訳にもいかなかった。一美はそれだけの理由で我慢していた。本当は空腹にも関わらず、彼女は耐えていた。

 そんな一美に一夏は溜め息を吐く。

 

「……ったく」

 

 一夏はそう言うと、風のように消えた。

 

「あっ……っ」

 

 一美は一夏が消えた事に驚くが直ぐに目尻に涙を浮かべる。余計なことを言った、そう思っていた。が、彼女はただ答えただけである。なのに彼は怒っている、

 同盟相手なのに、彼を怒らせたら更に立場を悪くする。彼女はそう思っていた。一美はそれに気付き泣きそうになる。

 刹那、扉が開く。一美は「っ!?」と驚く。まさか、一夏の机を荒らしにきた奴が来たのかと思った。しかし、それは一美が思っているだけであった。扉を開けたのは、一夏の机を漁った者ではないーーそれは。

 

「織斑君、それに一美ちゃん?」

「あっ……」

 

 一美はその声の主に気づき、目を見開く。しかし、その者は姿を現すように部屋の奥へと歩いてきた。水色の髪に紅い瞳の少女、更識姉妹の姉の方である、楯無であった。

 彼女は、この部屋のもう一人の住人だ。戻ってきても可笑しくはないが一美は楯無を見て驚き続けていた。

 

「た、楯無お姉ちゃん?」

「一美ちゃん……えっ!?」

 

 楯無は一美を見て微笑む。が、一美を見て驚くと、彼女の近くまで駆け寄った。

 

「ど、どうしたの一美ちゃん!? なんで泣いているの!?」

 

 楯無は一美の様子に気づき戸惑う。が、一美は自分が泣いている事に気づいているが慌てて拭う。

 

「な、何でもないよ……何でもない」

 

 一美はそれ以上は言えなくなった。いや、言えなかったのだ。自分は一夏に対して怯えていた。そう言えば良いのにも関わらず、彼女はそれが出来なかった。

 弱虫だからではない、彼を庇っているからだ。彼女なりの優しさでもあるがそれは彼女の為にはならない。一美はそれに気づいていないが楯無は彼女を見て気づいた。

 

「……まさか! っ!」

 

 楯無は下唇を噛む。一夏だ、彼が一美を泣かせたのだと。何故かは判らないが彼しかいないと疑ってしまったのだ。出来る事ならしたくなかったがそう思えざるをえない。

 彼女は一夏に対して怒りを覚える中、一美は彼女の様子に気づくが怯えていた。

 

「おい」

 

 刹那、近くから声がし、楯無と一美は驚きながら声がした方を見る。そこには、ある袋を持っている一夏がいた。彼は表情を険しくしているが楯無は彼を見て怒る。

 

「お、織斑君!」

 

 楯無は一夏に対して詰め寄るが一夏は嫌そうに顔を引き攣らす。

 

「……どうした?」

「どうしたも何も、貴方何を考えているのよ!?」

「……何がだ?」

「巫山戯ないで! 一美ちゃんに何をしたのよ!?」

 

 楯無は一夏に対して一美の事での話をしようとした。が、一夏は何も言わずに楯無を見ている。

 

「別に……何もしていない」

「じゃあなんで泣いているのよ彼女は!? 何をしたのよ!?」

「……別に無いって言ったろ? それに、おい」

 

 一夏は一美に訊ねる。

 

「っ!」

 

 一美は一夏の言葉に肩を震わせる。が、楯無は一夏に怒る。

 

「一美ちゃんに何をするつもりなの!? それに何よそれ!?」

 

 楯無は一夏に袋を指摘した。が、一夏は楯無の言葉に耳を化さず、手に持っている袋を一美に差し出す。

 

「あっ……な、何ですか、それ?」

 

 一美は一夏に対して袋の事を指摘する。が、一夏は何も言わずに袋を一美に無理矢理渡す。一美は困惑するが一夏は何も言わず首を振る。中を見ろ、そう指摘していた。

 一美はそれに気づくと、袋の中を見る。

 

「……あっ」

 

 一美は目を見開いた。袋の中には,ある物が入っていたからだ。流石に驚かない方がおかしいだろう。一美は袋の中を見え驚くが不意に一夏を見る。

 彼は何も言わないでいた

 

「織斑君、何よそれ? それに……」

 

 楯無は一夏に訊ねようとした。が、一夏は何も言わず、風のように消えた。

 

「あっ!」

 

 楯無は一夏の行動に驚く。しかし、楯無は一夏が何所に向かったのかを知らない、が、一夏はある場所へと向かった。それは、ある人物がいる部屋でもあり、それを確かめる為でもあった。

 そして、そんな彼は再び惨劇を起こす事を誰も知らない。同時に、一美は未だに驚き続けていた。それは、一夏が手渡してきた袋の中を見て、だった。

 そして、その袋の中にあるのは、彼の手作りの、サンドイッチであった……。

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