インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第124話

「ぐすっ、ひぐっ……」

 

 ここは鈴と、とあるルームメイトが住んでいる部屋。その部屋には一人の少女がベッドの上で一人、膝を抱き締めながら泣いていた。鈴であった。

 彼女は今、有る事で泣いている。それは中国政府からの重過ぎ、峻烈な条件を突きつけられたからだ。一夏に接触する事だった。簡単そうに見えるが困難でもあった。

 彼に接触する事は彼のデータを奪う事、それが中国政府の思惑でもあった。同時に今は日本政府は衰えており、絶好のチャンスでもあった。

 その隙に彼と交友を深め、データを奪えば良い。にも関わらず、彼女は出来なかった。彼女は一夏に想いを寄せている。彼を利用して中華人民共和国と言う国を偉大にする事は理想ではない。

 彼女は彼とは普通に交流し、学園生活を謳歌する。それだけなのに、中国政府に全てを崩壊させている。夢であった事が幻となっている。それが彼女を絶望の淵に立たさせ、孤独にさせている。

 彼女は一夏に接触しなかったのも彼を想い、彼を哀しませたくないのと、それを知られたくないと言う我が儘が有った。知られれば嫌われ、日本と言う国を追われ、祖国からも軽蔑や憎悪の視線を浴びせられる。

 それが嫌であった。自分の為だけではない、両親もまた自分と同じ立場に晒される。彼等を守る為には自分がなんとかしなければならない。

 なのに、一夏にも知られたくない、彼を守りたい。それが鳳鈴音と言う純粋な心を持つ少女を葛藤させ、苦しませている。鈴はそれを吐き出す意味で泣いている。

 誰か助けて欲しい、誰か力を貸して欲しい、そう願っていた。しかし、それさえも叶わない、学園に知られる危険もあるからだ。少女はそれを考えるだけでも泣いていた。

 

「一夏……一夏ぁ……」

 

 少女は一夏の名を呼ぶ。出来る事なら彼に力を貸して欲しい、なのに同時に嫌われたくない、両親の命が危険に晒される。それが邪魔をしていた。

 鈴は悔しくてたまらないでいた。同時に中国政府の堪忍袋の緒がそろそろ切れる。刻一刻と時が迫っている。速くしなければ両親が危ない、そう気付いていた。

 それでも出来ない、想い人である親友を裏切れない。それが彼女を葛藤させている。その所為で彼女は嗚咽を上げている。自分は泣く事しか出来ない、そう気付きながらも泣き続けていた。

 

「……何を泣いている? 鳳?」

 

 刹那、近くから声が聞こえ、鈴は目を見開きながら声がした方を見るーー彼女は驚愕した。そこには、一人の青年が壁に凭れ掛かりながら立っていたのだ。

 それは鈴がよく知り、想いを寄せている者、一夏であった。

 

「い、一夏……っ!?」

 

 鈴は慌ててベッドから降りると、思わず後退りした。彼が何故ここにいるのか、何時からそこに居たのかと疑問だらけであった。それに気配は愚か、扉を開けた音さえも感じられなかった。

 ISも彼の気配には気づいていなかった。まるで風のように現れた。そう思っていた。鈴は彼を見て驚くが、一夏は眉を顰めながら口を開いた。

 

「てめえ……何のつもりだ?」

「っ!?」

 

 彼の言葉に鈴は肩を震わせる。その口調には怒りが孕んでいる。それに気づいていた。が、彼は言葉を続ける。

 

「……どう言うつもりだてめえ? 何故、俺の机を荒らした?」

「っぐ!?」

 

 鈴は彼に指摘され、更に驚く。同時に脂汗が流れ始めた。まさか、気づかれていたのか? いや、鈴はあの時、机を漁ったのもデータを回収する為の重要な手掛かりを探していたからだ。

 しかし、目途となる物は無かった。鈴はそれに諦めると、そそくさと部屋を戻っていった。鈴はあの時、戻ったのも中国政府から連絡があったのと、片付けを忘れていたからだ。

 それは決定的な物的証拠でもあった。しかし、鈴は彼が何故、自分である事に気づいたのかは判らない。が、部屋にはベッドの下で隠れていた一美に気づかなかったからだ。

 彼女の存在を忘れていた程、我を忘れていた。ISもあの時、修理に出していた為に持っていなかった。それが一美の存在を明かされなかった。

 幼女から見れば不幸中の幸いであるが、鈴から見れば破滅でもあった。鈴は一夏の言葉に驚く一方で彼は何故、鈴である事に気づいたのかは一美の言葉からであった。

 泣きながら自分の名を呼んだ事、それが彼の心当たりある人物を直ぐに当てたからである。自分の名を呼ぶ者は、この学園にはあまり居ない。

 千冬は学園での事がある為、自分に嫌われたくないと言う思いもある為、出来ない。箒もそうであるが彼女は自分の部屋を簡単に出入りするような猪娘ではない、彼はジェイソンを目撃した為に一人でいる事を拒んでいると思っていた。

 束もそうであるが彼女は自分をいっくんと呼ぶ為、論外。他にも名前で呼ぶ者はいるが此処は本州から離れた孤島にある女子校。行き来するのには無理な話であり、用事がなければ来ない。

 一夏は全ての人物に心当たりを探った。が、一人だけいたのだ。名前で呼び、尚且つ、未だに自分に関わろうとする者、それが鈴であったのだ。

 一夏は鈴に対して、それを指摘した。机を荒らした事を問いつめているが彼はそう言った事は時間やムダな行動である事には気づいていた。

 しかし、今は他のプレイヤーの動きが無い今、学園内で大人しくする他方法は無いのだ。それを使っての意味でもあるが一夏は鈴に訊ねている。

 

「あ、ああっ…………!」

 

 一方、鈴は彼の言葉に驚きと哀しみに溢れていた。嫌われたくない恐怖と知られたくない恐怖がある。出来る事なら自分でなんとかしなければならない、他者に知られれば危険が増す。

 それ以上に一夏に走られたくない。彼は自分が好きな人であり、彼に軽蔑されたくない我が儘があった。鈴は口を閉ざすが否定さえも出来ない。

 自分でも判るように挙動不審になっており、それを止まらせる事は自分でも出来ないのだ。鈴は詰んだ状態であった。どうする、どうすれば良い、と言い訳を探していた。

 

「……ったく」

 

 そんな鈴に一夏は痺れを切らしたのか、指を軽く鳴らす。パチン、と言う音が一瞬であるが室内に響き渡る。が、それはある事をする為でもあった。

 

「一、夏……今のは……?」

 

 鈴は一夏の行動に震えつつも訊ねた。が、一夏は何故か視線を横の方へと向けていた。

 

「えっ?」

 

 鈴は彼の視線を気にした。が、視線の先を追うように、彼が見ている方を見た。

 

「ひっ!?」

 

 刹那、彼女は戦慄し、恐怖する。そこには、一人の大男がいた。自分達よりも一回り大きいが体格が良い。ヨレヨレの服を着ているが顔には白いホッケーマスクを付けている。

 その大男とはジェイソンであった。彼が此処にいるのは一夏が呼んだからであった。さっきの指を鳴らす音は彼を呼ぶ合図でもあった。しかし、そんな彼を鈴は怯えて見ている。

 恐ろしい物を見たかのように怯えているが少女らしく泣きそうになっていた。

 

「キャァ……!」

 

 鈴は悲鳴を上げそうになった。しかし、それを赦さない者がいた。一夏である。彼は左手で鈴の口元を塞いだのだ。それも風のように消え、風のように移動したからだ。

 今は叫ぼうとする彼女に口を抑えているが表情は冷ややかであった。ゴミを見るような目をしているが何かを隠している鈴への怒りでもあった。

 一方で鈴は怯えている。同時に自分の口を抑えている一夏の左手を両手で退かそうとしている。しかし、一夏は左手に力を入れている。彼女がどうこう出来る訳ではなかった。

 

「う〜〜うう……!」

 

 鈴は一夏の行動に驚きつつも、目の前に佇んでいる大男、ジェイソンに怯えている、どちらを対処すれば良いのかが判らないでいた。後者の方が濃厚であるが前者も気になっていた。

 彼の変わりようと大男との関係。どちらも鈴にとって疑問でしかないが一夏は口を開く。

 

「……騒ぐな」

 

 刹那、鈴は目を見開く。その瞬間、全ての時が止まったようにも感じた。それは一夏の言葉である事は理解した。しかし、それを認めたくもなかった。

 彼は自分に対して悪い印象を抱いている。理由は机を荒らした事だろう。が、それを言う訳にはいかなかった。言えば両親の命が危ないからだ。同時に自分は彼に口を塞がれている為、言えない。

 しかし、彼は言葉を続ける。

 

「……騒いでみろ、そうなればお前は命が無いと思え……」

「……っ」

 

 鈴は泣いた。彼の変わりように驚いているのだがそれ以上に、何時もの彼では無い事に気づいていた。それに気づいただけでも泣かない訳にはいかなかった……。

 

「……俺の質問に答えるのならば、解放してやる。が……あいつを怒らせるなよ?」

「……ううっ」

 

 鈴は何かを言うが一夏は耳元で囁いた。

 

「コイツは今、相当鬱憤が溜まっている……最悪、お前を殺すだろう……」

「……う〜〜」

「……無論、俺は気にもしない……」

「!?」

 

 刹那、鈴は更に驚いた。しかし、それは一夏が自分を気にもしない宣告でもあった。それは鈴にとって哀しみしか無かった。が、一夏は鈴に対して印象は無い……。

 

 そして、破滅のカウントダウンは一時間を切った。

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