インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第127話

「……フム」

 

 数分後、ここはアメリカにあるとある刑務所の地下にある牢獄。出入り口は厳重である。理由は凶悪な囚人が向こう側にいる事を意味していた。

 しかし、その囚人は脱獄する気はない。理由は彼にしか解らないだろう……。

 そんな囚人は今、一人でチェスをしていた。相手はいない。自分と戦っているのだ、それはもう一人の自分の存在。偽者であるが本物と思えるくらいだろう。

 しかし、見た目や実力はどうなのかは造った者にしか解らない。が、その者は、レクター博士は一人でチェスをしながらももう一人の相手、つまり自分と戦っている。

 勝敗はどうなるかは彼次第だろうが自分ではなく、相手がいたらもっと判らなくなるだろう。素人か玄人かも判らないだろう。

 

「うん?」

 

 刹那、レクター博士は鉄格子の向こう側に誰かがいる事に気付き、顔を上げる。確かに、誰かがいた。そこにいたのは、一夏であった。

 

「おや、君は……」

 

 レクター博士は一夏を見て微かに驚く。一度しか逢っていないが覚えているのだ。が、彼の右腕が無い事に違和感を覚える。右腕はどうしたのか? そう言いたかったのだ。

 そんな彼に一夏は眉を顰めるが口を開く。

 

「久しぶりだな、レクター」

「レクター博士だ……君は年上を対して失礼だね?」

 

 レクター博士は不敵に笑いながら肘を突く。が、正論であり、一夏は反論出来ない。当たり前の事であるが博士から見れば印象が悪いだろう。

 そんな中、レクター博士は言葉を続ける。

 

「それよりも用件……の前に信じていたよ?」

「何だと?」

 

 彼の言葉にレクター博士は更に不敵に笑う。

 

「君は私の言う通り、君は私に逢いに来た……それも、何かを成し遂げたいが故の情報提供を、ね?」

 

 レクター博士の言葉に一夏は舌打ちした。バレた、そう思ったのだ。が、レクターは一夏に逢いたがっていた。理由は彼が自分と同じ、同じ穴の狢。

 人を殺す事を躊躇わず、尚且つ、悪事を働く事に罪悪感を感じていない。今度逢う時は何かの理由がある。そう思っていたからだ。人は大抵、誰かに力を借りたい時にその人に頼る事が多い。

 連絡もあるが彼の場合、連絡よりも逢う方を選ぶだろう。自分の場合は自ら赴く事になるからだ。自分は極悪人であり、連絡が来るかどうかも判らないのと、それを刑務官達は赦す筈もない。

 このような処遇は自分の好みを把握した上で、この場所へと収監したのだ。いや、恐れているが故に此処に入れられた、と言い替えれば良いだろう。

 彼が来たのも自分に情報を提供されたいが為、自ら来たのだ。自分に頼ってくるのも、他の者では頼りにならない、からだろう。

 話が逸れてしまったがレクター博士は一夏に対して、そう指摘した。が、一夏はバツが悪そうに俯く。図星であった。一夏は彼に情報提供を願い出たのだ。

 それは青年の変死事件と女子高生の苛めに寄る自殺事件。夢見一彦、黒峯一也、楓一美の秘密を知る為でもあった。前者は兎も角、後者は他のプレイヤーの正体を知りたかったのだ。

 彼等は何者で何故、プレイヤーになったのかを、知りたかった。しかし、それは彼がレクター博士を思い出させる要因ともなる。彼ならば何かを知っている、そう思ったのだ。

 それに彼は楯無に対して、不信感しか無くなっていた。理由はあんな弱気の彼女はもう、守るに値するかどうかも怪しくなっていたからだ。

 彼女に頼れば良いが利用しても彼女はそれを調べようとはしない。逆にプレイヤー達の存在を指摘されても教えるわけにはいかないからだ。

 レクター博士は何者かは判らないが奴、主催者が彼の存在を自分に教えたからだ。理由は二人のプレイヤーを倒した事、優勝候補である事を全て教えてくれた。

 ならば、彼の助言と彼の力を試す意味でも頼ったのだ。もしもその存在に値するのならば、彼の力を利用しよう、と。一夏はそう思うと頷く、顔を上げる。

 表情は険しいが決心しているようにも思えた。

 

「フム……」

 

 そんな彼の様子にレクター博士は笑みを崩さない。理由は彼の様子に気づいたからだ。自分に頼りにきた事には気づいていた。二度しか逢っていないが彼は常に険しい表情を浮かべている。

 精神科医であった頃を思い出し、それを分析する意味で捉えていた。その結果、理由は何かあると思っていたがそれが彼の何かを調べたいと言う興味を沸かせる。自分が想像するような、いや、それ以上の物を抱えている。レクター博士はそう思っていた。

 

「取り敢えず、先ずは君の用件は置いといて……」

 

 彼の言葉に一夏は眉を顰める。が、レクター博士は不敵に笑いながら、こう言った。

 

「君の右腕の事を訊きたい……が、出来る事なら、私が得た情報で、その右腕を造る存在がいるのだが……どうかね?」

 

 

 

 

「あがが……!」

 

 その頃、中国にある、政府の役人達の居住区でもある、とある建物ではジェイソンが一人の男性議員に対して殺しに掛かっていた。殺し方は彼の身体を半分にする意味で引き千切ろうとしていた。

 男は身体中に激痛が走っている事に気づきながらも恐怖で顔を歪めている。殺されると言う事に気づいているからだ。が、ジェイソンは渾身の力で男の身体を……。

 刹那、男の身体が上半身と下半身が別れるように引き千切られた。が、男はそれに気づきながらも言葉を失った。いや、既に引き千切られた直後に事切れたからだ。

 しかし、上半身からは肝臓、腎臓、心臓等の臓器が落ちていく。下半身は膝を突いて倒れるが腸が出てきた。血の海も出来るがジェイソンは上半身だけの男を投げ捨てた。

 男は近くに転がるが臓器も散らばる。

 

「キ、キ、キ、マ、マ、マ……」

 

 ジェイソンは彼を見た後、何も言わず、風のように消えた。しかし、彼が次に向かう所は彼にしか判らない。が、彼はこの部屋の男を殺すまでの間、多くの人を殺した。何も知らない警備員、酔いを醒ます為に外に出た男、横になっていた男、シャワーを浴びていた女性……いや、それ以上似多くの人を殺した。それも男三人に女二人の計五人もだ。

 最初は男であるが鉈で彼の頭をカチ割り、次の男は入浴中の最中であるが足で顔を踏みつけて溺死させ、後の男は女と性行為中の最中に鉈で二人を串刺しにし、最後の女性は、近くにあったポットのお湯を使って、彼女の顔に掛けるとそのままポットで頭を何度も殴打して撲殺した。

 いや、全て悪徳議員……ではない、中にはマトモな奴もいたが知らなかっただけであるか、鈴を気遣っている者がいたのだ。それはジェイソンには判らないが彼は次の標的を殺しに移動していた。

 

 

「…………」

 

 その頃、此処は、とある部屋。その部屋は書斎とも言える暗い難しい本が収められている本棚や高級感ある家具が幾つも置かれている。しかし、その部屋の住人は二十代後半の若い男だ。

 彼は今、机と向かい合いながら書類を纏めている。その書類は政府関係の物であり、重要な物である。彼はその書類を一通り見ている。見落とさないように見ていた。

 が、彼は何かを思うように目頭を抑える。

 

「……っ」

 

 彼は悔しい思いをしていた。理由は彼は秘書である。それも中国の最高司令官であり、一番偉い人の、だ。彼は彼のく得振りに頭を抱えていた。

 理由は一番偉い者が、一人の少女を人生を狂わせているのだ。その少女の両親を盾に操り人形のように命令している。それは彼から見れば苦痛と鈴に同情しか無い。

 彼は一番偉い人の悪徳振りに怒りを隠せないでいた。彼だけではない、他の議員も同じ穴の狢である。彼等彼女等も名誉を欲しいが為に動いている。

 権力を使っている。これでは中国が滅ぶ、そう思っていた。しかし、自分にはそう言った行動力や権力は無い。出来る事は彼に従い、彼の弱みを握る事だ。

 が、それも権力で揉み消され、暗殺されるだろう。男はそれに気づきながらも下唇を噛む。自分は国の為に働きたいのに、腐った連中に媚びし、その片棒を担がなければならないのか、と。

 男から見れば嫌であり、屈辱でしかないだろう。

 

「くそっ……」

 

 男は辛そうであった。が、それも直ぐに消えた。何故なら……彼の真後ろに奴がいたからだ。ジェイソンだ、彼は男の顔をッ両側から挟むように掴む。

 

「っ!?」

 

 男は目を見開くがジェイソンは男の顔を真後ろへと向けさせる意味で首を捻った。刹那、男は目を見開いているが口を開きながら死んだ。

 ジェイソンは男の首を捻って殺したのである。理由はどうであれ殺した事に代わりは無く、鬱憤を晴らす為でもあった。彼が男を放すと、男はイスから転げ落ちる。

 起きる気配はない、死んでいるからだ。そしてジェイソンは再び風のように消えた。次の標的を捜す為にも、だ。が、男は死んだままであった。

 それもこれからの中国の安泰を気にしながらも非業の最期を遂げたのであった……。


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