インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第129話

「お嬢様……もう、大丈夫ですか?」

 

 あれから一時間は経ってない頃、一夏と楯無の部屋では楯無と虚の二人がいた。本音は簪と共に寝ている一美を微笑ましそうに見ながらも姉達の会話に入れないでいる。理由は彼女達にはまだ早いからであったが簪は楯無の言葉に嫌悪感を抱いている事に変わりはない。

 

「…………」

 

 楯無はイスに座っていたが近くには虚が辛そうに彼女を慰めていた。

 が、楯無自身も辛そうであった。楯無と言う当主としての証である名の事や、学園中の生徒のトップに立つ生徒会長として相応しいのかを疑っていた。

 一夏を見てやれないのと、殆どの事を解決していない。大半は一夏が解決している。彼の力で解決したと言っても過言ではない、が、自分は彼の上司でありながらも何もしていない。

 サポートかもしくは見ていただけだ。それで生徒会長とは言えた者だ、と自分を責めていた。そんな彼女を従者であり親友である虚が慰め続けてくれている。が、効果はないだろう。

 楯無は自分に対して罪悪感を抱いている。このままでは学園の守りが危うくなる。虚はその事に気づき不安を隠せないでいた。

 

「……どうした?」

 

 刹那、二人に声を掛ける者がいた。これには虚は驚きながら振り返り、楯無は目を見開きながら声がした方を見る。そこには、一夏がいた。

 何時ものように風のように現れたのだが表情は険しい。楯無に対してではない、彼はさっきまでレクター博士と会話をしていたのだがそのないように驚愕と憤怒していたからであった。

 そして、あの事も……が、最初はやるべき事があった。しかし、その前に彼は楯無に責められる。

 

「お、織斑君!」

 

 彼女は怒りながら立ち上がると、彼に詰め寄る。虚は驚くが楯無は言葉を続ける。

 

「貴方、今まで何所に行ってたのよ!?」

「…………」

「応えなさい!」

 

 楯無は一夏に対して何所に行っていたのかを問い質している。が、一夏は何かを思うように彼女を左手で払うように退かす。

 

「ちょっ!」

 

 楯無は驚くが彼は無言でテレビがある方へと近づく。そして、その近くに置かれているリモコンを手に取ると、それを使ってテレビを点けた。

 刹那、テレビに画面が映し出される。

 

 

「……っ!?」

「……なっ!?」

「…………」

 

 が、楯無と虚は驚愕し、一夏は無言で見ていた。テレビには緊急速報が流れていた。アナウンサーらしき者が慌ただしくも手元にある書類に書かれている内容を視聴者である自分達に事細かと説明している。

 しかし、その内容は戦慄かつ、驚愕させる物であった。同時にテロップが出ているがそれが更に戦慄させていた。

 それは中国の首都、北京にある湖に囲まれた中でポツリと浮かんでいる孤島に立てられた場所で大量殺人が発生したのだ。その犠牲者は主に中国政府の重要な者達ばかりであり、後は有名なコックや警備員等の一般人。

 その殺され方は今も警察内で継続中であるらしく、その事は今でも捜査中と言う名目で黙秘している。どうなっているのかは誰にも判らないがその報道は視聴者を戦慄させている。此処だけではない、世界中にいる者達、更には中国全土にも衝撃を走らせている。

 戦慄はそうであるが驚愕、恐怖、不安、狂気等と言った負の言葉が彼等彼女等の心を支配している。事件のあらましを気にしながらもそれを躊躇する者、逆に知りたい者がごまんといる。

 が、中国全土は不安を隠せないであろう。理由は中国政府の役人達が皆、殺されたのだ。それは自分達の国の未来を担う者達が殺されたのだ。

 中国はこの先どうなるのだろう、そう悲観しているのだ。が、そんな彼等を嘲笑う者達もいる。中国と言う国を嫌う者達だ。彼等は内心、ざまあみろ、天罰だ、と嘲笑っているだろう。

 人として最低であるが中国に対して良い印象はないからだろう。人それぞれであるが今は中国警察が何とか捜査をしている。しかし、報道陣は警察に対して貴重な意見を求めている。

 マスゴミとも言えるがそれを知りたいのは誰もがそうだろう。そんなテレビから流れる内容に楯無と虚は戦慄している。自分達だけでない事に気づいているかどうかは判らないが気づいている方だと思っているだろう。

 一方で二人とは違い、一夏はリモコンを手にしながら何かを思っている。中国に同情している訳ではない、彼はこの事件を引き起こした元凶を知っている。彼が引き連れているジェイソンだ。

 彼が動いたのも一夏が命じたのと、中国政府の役人達を殺せとも命じたからだ。彼は任務を遂行したに過ぎないが一夏は内心、こう思っていた。

 これでまた、腐った人間達は減った、と。が、そんな彼に対して、怒る者がいた。

 

「織斑君!」

 

 楯無だ。彼女は一夏に対して駆け寄ると彼と向き合い、胸倉を掴む。

 

「お嬢様!?」

 

 虚は楯無の行動に驚くが彼女は一夏に対して怒り続ける。

 

「何を考えているのよ!?」

「……何がだ?」

 

 一夏は知らない振りをする。ワザとであるが楯無の怒りに触れる。

 

「惚けないで! 貴方なんでしょう!? 貴方が奴を、あの大男を使ったんでしよう!?」

 

 楯無は一夏に対してい怒りながら指摘する。奴とはジェイソンの事である。彼女は一夏が彼を使って中国政府の奴等を殺したのではないかと疑っていた。

 正解でもあるが彼女はその事を彼に問いている。もしも本当ならば赦される事ではない。彼にはそれ相応の処罰を受けなければならないのだ。身勝手な行動かつ殺戮を繰り返したのだ。

 倉持技研だけでなく、中国政府の役人達まで殺したのだ。前者は兎も角、後者は日中関係に大きな亀裂を入れかねない。楯無はそれを危惧しているが彼の行動が大きな波紋を呼ぶ行為にも等しいからだ。

 彼を守りたい訳ではない、彼が独断で動いた事に怒りを隠しきれないでいるからだ。楯無は一夏に対して歯を食い縛る。一方で一夏は無言で見ていたが視線は鋭い。

 彼自身の怒りがあったからだ。楯無に対してでもあるが彼女は中国政府の腐ったやり方を知らない。無理もないとも言えるが知ったらどう受け止めるのかも彼女自身だ。

 一夏はその事を楯無に言おうとした。が、反面、楯無に対しての怒りが自然と沸いてくる。堪忍袋の緒が切れそうであった。が、そんな楯無を虚が止める。

 

「お、お止めくださいお嬢様! そ、そんな事をしても織斑君が言う訳でもありません!」

 

 虚は慌てて楯無を宥める。にも関わらず、楯無は怒りを抑えきれないでいる。一夏の独断にだ。しかし、一夏はもそろそろ怒りを抑えきれないでる。

 これ程、覚えたのは今までで一回だけだ。それは千冬に見捨てられた感覚と同じであった。怒りがどんどんと込み上げてくる。今までは何とか我慢してきた。が、今は違う。

 楯無は何度も指摘してきたからだ。その所為でもあるが彼は自分でも気づいているが歯を食い縛っている。怒る寸前であったからだ。が、楯無は怒り続けている。

 

「織斑君、貴方は一体……!」

 

 楯無は一夏に何かを言おうとした。刹那、一夏は楯無の胸倉を掴み、自分の方へと引き寄せる。

 

「っ!?」

「織斑君!?」

 

 一夏の行動に楯無は驚き、虚は驚きながら声を上げる。が、一夏は楯無の胸倉を掴みながら彼女を睨んでいる。彼女とは互いの鼻が触れるくらい、近い。

 吐息もするが相手が異性であろうが一夏はそれを気にもしない。彼は怒っているのだ。何度も自分に指摘してくる楯無に対して。

 

「お、織斑君……っ!」

 

 楯無は彼の行動に怒りを戸惑いを隠せないでいた。いや、不意を突かれたからだ。彼が怒った所は始めて見たからだ。今まで怒った素振りもあったが今は違う。

 彼は自分に怒っている。それも尋常ではない程の。何で怒っているのかは彼自身理解しているが自分も解る。が、楯無は驚きが勝っていた為に言葉を失っている。

 虚は驚いているが手を出せないでいる。彼の怒りに触れた事に気づいているからだ。が、一夏は楯無に対して、こう言った。

 

「貴様、いい加減にしろ……!」

 

 一夏はそう言い放った。これには楯無も目を見開くが彼は言葉を続ける。

 

「何度も何度も俺に指摘しやがって、何様のつもりだ……!?」

 

 一夏は楯無に対して静かに怒る。それは彼自身が我慢の限界を自ら吐き捨てる意味でもあった。それを聞いた楯無は驚きを隠せないが一夏は彼女の胸倉を掴む手に力を入れる。

 

「俺がどうしようがお前には関係ない……! それに何度も言った筈だ……俺に関わるなとな!? 何故それを知ろうとしない!?」

「……っ!」

 

 楯無は辛そうに下唇を噛むと彼から目を逸らす。が、一夏は怒りを楯無に対して履き続けていた。辛辣でもあるが彼自身の怒りを良く表している。

 しかし、その所為で楯無への信用は完全に出来なくなったと彼は思った。無論、それを良い意味でそうさせたのは楯無である事もまた、事実だろう……。


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