インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第141話

「……美味しい」

 

 あれから一時間後、一夏と楯無の部屋では一美がいた。彼女は今、独りで食事していた。手にはお握りがあったが楯無の手作りでもあった。

 彼女はおにぎりを食して、感想を漏らしていた。その表情には微かな笑みが零れている。おにぎりが美味しい事を彼女自身が良く理解しているからでもあった。

 部屋には一美しかいない。彼女は少し前まで寝ていたのだが起きたのだ。が、楯無は今、午後の授業に出ており、不在である。学生の身としては知識を身につける事は必要不可欠な事であり、仕方の無い事だ。

 それだけでなく、彼女は一美のお握りだと判るように置き手紙を残している。飲み物は楯無が戻る前に自動販売機で購買した水があった為、問題ない。

 一美は独りで留守番しているが独りではない。此処には居ないがチャッキーとティファニーの二体の人形達がいる。プレイヤーの独りとしては、孤独の彼女にとっては唯一の話し相手でもある。

 寂しくはないが家族の温もりが欲しい年頃でもある。一美はお握りを咀嚼するが音は無い。味わうようにしているのだ。すると、一人寂しく食事をしている彼女の近くから、独りの青年が風のように現れた。

 

「っ!?」

 

 一美は人の気配を間近で察知したが不意に驚いてしまう。が、気配がした方を向く。そこにいたのは、一夏であった。

 

「お、織斑さん……!?」

 

 一美は一夏を見て怯える。彼は彼女から視線を逸らしているが表情は険しい。自分は何か悪い事をしたのか? そう思っていた。別に彼女は何かをした訳ではない、彼を怒らせたのは楯無である。

 彼の表情は怒りそのものであるが戸惑いもあった。楯無の言葉が彼の心に微かな変化を見せさせている。彼は独りではない、自分達がいる。例え信じなくても、私達は信じると。

 それは一夏にとって、戯言でしかないと思うが彼女は本音を吐いたに過ぎない。一夏はその件で悩み始めているが一美は怯えている。

 

「あ、あの……」

 

 一美は一夏の様子に気づき訊ねる。が、一夏は軽く舌打ちする。

 

「ひっ!?」

 

 その行動は一美を怖がらせていた。が、一夏は一美の声に反応し、彼女を見る。

 

「……どうした?」

 

 一夏は一美に訊ねる。彼の言葉に彼女は震えながら目を逸らす。余計な事を言えば怒らせる、そう思ったからだ。彼女自身の本能が彼を避けているか、怒らせたくないと思っているからだろう。

 一美は一夏から目を逸らしながら手に持っているお握りをゆっくりと食べ始める。何か言いたいのを呑み込む形で食べているのだ。本当は飲み物が良いのだが彼女は何でも良いと思ったのだろう。言いたい事を呑み込む為には仕方ない事だと思っている。

 

「…………」

 

 一美を見た一夏は何も言わず溜息を漏らす。ああ、やっぱり無理だな、と、彼自身,自分でも判るように諦めたのだ。一美は自分を恐れている。それだけは理解しているが仕方ない事だ。

 同盟とは言え、敵対する存在だ。情けをかけるつもりは無いのだ。しかし、一夏はその事を頭の隅に置いとく意味で、今度は何かを思うように瞼を閉じる。

 思考を走らせているのだ。他のプレイヤー達の動きを先回りする意味で調べようとているのだ。一夏が考えているのはドイツ軍基地を襲撃してきた奴の事だ。

 奴はISを手に入れた……しかし、一夏は不意に第三者の立場で考え始める。

 

「……暫くは、学園生活をしながら活動を自粛するか……」

「えっ?」

 

 一夏のぼそっとした言葉に一美は反応する。が、一夏は先を続ける。何故なら一夏はその間、学園生活をしながら行動をしないと決めたのだ。

 何方も襲撃してきたとは言え、迂闊に動けないだろう。夢見一彦は兎も角、ドイツ軍基地を襲撃してきた一也は赦されない事をしたのだ。

 同時に多くの者に顔を見られている。全国指名手配は愚か、男性操縦者の存在で全世界から指名手配されているだろう。

 一也は兎も角、一彦は何をしているのかは判らない。判るとすれば……否、判らない。それは憶測でしか無く、行動範囲を削る事は出来ない。

 何れのプレイヤー達はどんな事をしてくるのかは判らない。今は攻めるのではなく、守りに徹するしか無いのだ。右腕が無い今、不利である事に変わりは無い。

 反面、楓一美と言うプレイヤーの独りと同盟しているのと……が。

 

「それに……何故動かない?」

 

 一夏は、ある疑問を浮かべる。それは、最後の一人、ピンヘッドが動かないからだ。最後の一人は最近起きている事件に顔を見せないでいる。

 更識家の従者達が壊滅する程に殺された事。倉持技研の戦慄の一夜、学園が襲撃された事、中国政府の重鎮達が鏖殺された事、ドイツ軍基地が夜襲されたと言う大きな事件が全世界を震撼させているのだ。

 そんな大きな事件が、自分や他のプレイヤー達が元凶でもあるにも関わらず、動く気配はない。莫迦か? 或いは温存しているのか、と一夏は思った。

 しかし、今はそれどころでは無い。今は気に入らないが学園生活をする他、方法は無い。一夏は思考を走らせるが不意に扉の叩く音が聴こえた。

 これには一夏も考えるのを止め、一美は驚きつつも扉の方を見やる。誰かが来た、そう意味していた。

 

「あっ……っ」

 

 刹那、一美は困惑した。あれは誰なのか、と。楯無や簪達は兎も角、他人に見られてはいけなかった。大騒ぎになるからだ。一美は困惑する中、一夏が扉の方へと近づく。

 そして、扉の前に立ち止まると訊ねた。

 

「誰だ?」

 

 一夏はそう訊ねると、返事がした。

 

「一夏……私」

 

 その声に一夏は眉を顰める。この声に聞き覚えがあったからだ。それは今の一夏にとって逢いたくもなく、知られたくもない。が、あの件で知ってしまっている為、仕方ない。

 彼女がここに来たのは、恐らくその件だろう。一夏はそう気付きながら口を開いた。

 

「……今、開ける」

 

 刹那、一夏は扉を開けた。そして、そこにいたのは、独りの少女であった。鈴であった。彼女は哀しそうに一夏を見ている。が、彼女はある理由で早退したのだ。同時に別の意味での理由はあの件、中国政府の役人達が鏖殺された事だろう。

 彼女はそれを知って戦慄しているのだろう。同時にそれをしたのは一夏と、あの大男、ジェイソンの仕業ではないかと思ったからだ。もしそうなれば、一夏を人殺しにさせた事にもなるのだ。

 鈴はその事で後悔する中、恐る恐る訊ねる。

 

「い、一夏……い、今大丈夫?」

「…………」

「……っ」

 

 鈴は一夏を見て言葉を詰まらせる。彼は冷ややかな目で自分を見ている。それだけでも彼が変わった事を意味しているが鈴はそれに気づきながらも言葉を続ける。

 

「い、一夏、あ、あの……っ、わ、私……その」

 

 鈴は言葉を見つけられないでいた。理由は彼が人を殺したのかもしれない事だ。自分は中国政府から一夏に接しろと言われたからだ。鈴から見れば苦痛でしかないが両親を盾にされているのも原因であった。

 しかし今は中国政府は多方面からの事で対応に追われている。両親も今は無事であるが再び狙われる危険もあるのだ。鈴はその事で悩む中、今は一夏に訊ねるのが先であった。

 あれは彼がやったのか? それだけが心配であった。鈴は言葉を探す中、困惑している。そんな彼女に一夏は何も言わなかった。彼女を無言で見下ろしている以外、何もしていない。

 が、彼女が自分の所へと来た事を知っている。しかし、その事を言わないのはワザとであった。彼女と話をする理由も無い上、ジェイソンを目撃し、尚且つ中国政府と言う腐った者達を殺す切っ掛けを作ったに過ぎない。

 鈴は中国政府を売ったのではない、中国政府が自らを生贄に捧げる意味で自らを破滅に導いたのだ。鈴はその事を知らないが後悔している。

 一夏はその事を気にもしていないが鈴は決意したように言った。

 

「そ……その、ごめん」

「…………」

「わ、私……貴方にとんでもない事を……」

「……知るか」

 

 刹那、鈴は彼の言葉で目を見開く。彼は怒っている、そう気付いたのだ。否、元から怒っている、と鈴は感じた。鈴はその事に気づきながらも目を逸らすと、何も言わずにその場を走り去っていった。

 後悔の念で嘖まれているからでもあった。もう、彼に嫌われた、彼の手を汚してしまった。そう思うと同時に、何時の間にか目尻に涙を溜めていた。

 

「…………」

 

 そんな鈴を一夏は何も言わずに見ていた。鈴が走り去っていくのをただ、ただ見ていた。が、彼は何かを思ったのか扉を閉める。

 

「どうしたの?」

 

 そんな一夏に一美が恐る恐る訊ねていた。が、一夏は気にもせずに懐からある物を取り出す。スマートフォンであった。彼は何かを思いながら指で何度もタップすると、それを耳に当てる。

 

「……もしもし、俺だ……あんたに頼みたい事がある」

 

 一夏は誰かと会話を始めた。そんな一夏に一美は気になりながら見ているが彼は瞼を閉じると、壁に凭れ掛かりながら用件を淡々と述べていた……。

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