インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「……はぁ」
更に一時間後、此所はIS学園にある、とある一室。そこは生徒会長室であった。その室内には二人の女子生徒がいた。生徒会長である楯無と書記の布仏虚であった。
二人は生徒会の仕事に集中している。授業の終わった後でも関わらず、学園が抱える幾多の問題の対応に集中している。が、虚は兎も角、楯無は頭を抱えていた。
「……織斑君」
楯無は彼の事を思い出していた。彼は何時も険しい表情を浮かべていた。自分達に頼る気配はなかった。それどころか、多くの汚れた仕事を独断で遂行し、完璧に熟していた。
何れも赦されぬ事だがそれ以上に困惑している事があった。自分達の思いが彼には届いていない。それが楯無を追い詰めていた。彼は一生、心を開かないのか? そう思っていた。
同時に彼の冷たいまなざしが彼女の心を抉る。今までのツケが回ってきた、そう感じ、後悔している。何故、今まで彼の事を理解してやれなかったのか? 何故、彼の事を考えてやれなかったのかを自分に言い聞かせていた。
出来る事なら謝りたい、が、それは既にしているが赦される事でもないのだ。楯無はそう考えているのと同時に更に悩む。
「お嬢様……」
そんな楯無を虚が心配そうに見ていた。否、元から心配している。理由は彼女はさっきから書類に手を付けていないのだ。何時もなら仕事しろと口酸っぱく言うが今はそれを咎める気もない。
一夏の事で彼女は自分を追い詰めている。出来る事なら力になりたいが一夏、彼は自分達よりも死地を潜り抜けた異質な存在かつ、自分や本音の父、半蔵を助けた恩人。
自分には楯無は幼馴染みとして、親友としてサポートするしか無い。が、一夏は違う。異性であり、考えも違う。意見が一致所か食い違うばかりである。
それ以前に彼と話をしたのは長くもなく、とても短い。虚も一夏の事で悩んでいる。彼の力になれないのか、と。何方も一夏を心配して、彼が心を開く切っ掛けが無いかを探していた。
しかし、千冬に暗部の件で知られている為、それが出来ないのだ。一夏は自分達にとって、無くてはならない存在となっている。原因は自分達にある為、言い返す事も出来ない。
楯無は一夏の事で悩み、虚は暗部の件で悩む。それは難題でもあり、解決の糸口が見つからない。二人はその事で悩む中、何方も書類に手を付けないでいる。独りの為に問題を抱えている。
何か無いか、二人はそう思っていた。
「……何を悩んでいる?」
刹那、二人は目を見開いた。それは近くから声がした為にだ。同時に顔を上げると、声がした方を見やる。二人は驚愕した。そこには、窓近くには彼がいたのだ。
彼とは一夏の事である。彼は何時ものように風のように現れたのだが彼女達は驚きを隠せないでいる。彼の行動範囲は広く、それを把握出来ないからだ。
しかし、二人が彼の事で悩んでいるのを、当の本人は知らない。否、知る事も無いだろう。
「お、織斑君……!」
楯無は彼を見て微かに表情を明るくする。が、何かに気づき辛そうに下唇を噛むと、項垂れた。彼は心を開かない、それもあるが彼は自分を冷たい目で見ている。
自分の言葉を鵜呑みにしている訳ではない……そう気付いたのだ。自分に向けてくる彼の冷たい視線が意味しているのだ。楯無は項垂れるが彼は、一夏は何も言わずに彼女を見下ろしている。
何しにきたのかは彼にしか判らない。楯無は一夏の行動に何も言えない中、ある事を思い出す。それは一夏に対して、自分達を信じてくれと言った事だ。
彼はその事を気にし、尚且つ、それを咎める意味で詰るのではないのかと思った。楯無はその事を気にし、瞼をぎゅっと閉じる。詰られるのを覚悟していた。
今までの事を思い返せば、そう思われても仕方が無い。彼女はその事に気づきながら何も言わないでいる。否、自分に言い返す資格は無いからだ。
「……どうした?」
一夏は楯無の様子に気づくが眉を顰めている。一方で楯無は一夏の問いに応える様子は無い。彼への罪悪感で一杯だからだ。それを思えば詰られる覚悟はあるからだ。
楯無は何も言わない中、一夏は更に訊ねようとした。
「あの織斑さん!」
そんな彼女に助け船を名乗るように虚が訊ねる。
「……何だ?」
一夏は聞き返すと、虚は肩を震わせる。彼の口調が鋭く、怒りが孕んでいる事に気づいたのだ。しかし、彼は自分と同じ従者であり、知る義務もあるからだ。
彼女は自分にそう言い聞かせながら口を開いた。
「ど、どうしましたか?」
「……何がだ?」
「お、お嬢様に何か用件ですか?」
「……ああ」
一夏は深く頷く。虚は何も言わないが楯無は肩を震わせる。詰る気だ、そう思ったからだ。身体が恐怖で震えているのだ。止まる事も出来ず、震わせ続けている。
楯無はそう思いながら彼の言葉を待つ。が、一夏の問いに虚は訊ね続ける。
「ど、どう言ったご用件ですか? 何なら、私が代わり……」
「……別に良いだろう」
「い、いえ、私が出来る範囲なら……」
「アンタでは出来ない……」
一夏はそう言い放った。これには虚もたじろぐが彼の威圧的な言葉で黙ってしまう。逆に疑問もあった。自分では出来ない事? それに楯無にしか出来ない事とは何だろうと思ったのだ。
が、虚は胸騒ぎを感じた。良くない事ではないかと思った。それが本当ならば……虚は困惑しながら彼に訊こうとした。
「邪魔するな……!」
刹那、一夏は静かに言い放った。それを聞いた虚は目を見開く。が、一夏は指を軽く鳴らす。更に刹那、独りの大男が窓の資格とも鳴る場所で姿を現す。
ジェイソンであった。
「ぅ!?」
虚はジェイソンに気づく。それだけならまだしも、ジェイソンの存在は恐怖の対象でしかないのだ。慣れたとは言え、怖い物は怖いのだ。
が、一夏は彼を呼んだのは邪魔をしたら容赦ない、彼女にそう言い聞かせている。
彼がいるだけでも彼女は怯えている。効果はあったが一夏は虚をジェイソンに任せると、再び楯無を見る。彼女は俯いているが肩を震わせ続けている。一夏は彼女を見て溜め息を吐くと、口を開いた。
「何を怯えている?」
「……っ」
一夏の言葉に楯無は目を見開く。冷や汗を流し始める。あの事を咎めるつもりである事に気づいたが今その時だとも思ったからだ。そう考えると震えが止まらないのだ。
一方で一夏は楯無を見て再び溜め息を吐くと、彼女に言った。
「……アンタに、頼みがある」
刹那、楯無は目を見開きながら顔を上げ、虚は驚くと一夏を見やる。彼は眉を顰めていた。が、楯無は一夏の言葉に驚きを隠せないでいた。
自分に頼み? それは驚きとしか言いようが無かった。楯無は一夏を見て驚き続けている中、一夏は舌打ちした。
「……何を驚いている?」
「えっ……で、でも……さっき」
「それ以上言うな」
楯無が何かを言い終える前に一夏は黙らせる。これには楯無も黙るが一夏は言葉を続ける。
「……実は……」
「そ、それって……!」
あれから数分後、一夏は、ある事を彼女達に言った。これには楯無も、虚も驚きを隠せないが一夏は、ある事を楯無と虚に言ったのだ。そして、一通り話し終えると、彼女達に言った。
「取り敢えず俺が出来る事は此処までだ……後はお前等が何とかしろ……」
「お、織斑君……」
一夏の言葉に楯無は驚くが彼はそれ以上、何も言わずに指を鳴らす。刹那、ジェイソンが消えた。彼のやる事は終わった。そう意味させている。彼の役目は虚を黙らせる為であるが一夏が良い終えるまでの間、彼女が何も行動を起こさせない為でもあったのだ。
「……後はアンタ等が何とかしろ。あの方には一通り伝えといたからな」
「…………」
「あいつの為ではない、あの女が政府の汚れ役になろうが、飼い狗にされようが、痛くも痒くもない……」
「……織斑君」
「……俺には奴が幼馴染みとして情けをかけるつもりも無い。俺に近づくな……そういう意味でも恩を作らせるだけだ」
「…………」
「それに、お前達や簪様達の為でもない……俺は俺の為にするだけだ……」
一夏はそう言いながら風のように消えた。彼はそのことを楯無達に言う為に来たのであった。しかし、それは楯無達を驚かせるには充分過ぎる内容かつ、彼の行動もだった。
「……織斑君」
刹那、楯無は嬉しく感じているのか微かに微笑む。それは、その内容は彼女には安心としか言いようが無かった。さっきの事も気になるのだが今は安心としか言いようが無い。
彼は自分達を頼ってくれた。それは本当かどうかは判らないが、ある少女の為に動こうとしているのだ。
「お嬢様……」
そんな楯無を虚は微笑みながら見たが彼女も驚いているのと、嬉しさが込み上げてくる。しかし、彼女は言った。険しい表情で。
「お嬢様……早速、行動を」
虚の言葉に楯無は反応すると、険しい表情を浮かべながら頷いた。
「ええ……!」
楯無が頷くと虚も頷き返す。が、それはある計画の始まりでもあった……。