インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第154話

「…………」

「……い、一夏……」

 

 あれから数分後、此処はアリーナ内にあるロッカー室。そこにはISスーツ姿の一夏と彼の姉であり、担任の千冬がいた。他には誰も居らず、通路にも待機しているSPもいない。

 事実上の彼等しかいない事を意味していた。しかし、一夏は千冬を睨んでおり、千冬は困惑している。此処には彼等しかいないのは千冬が二人で話をしたいからでもあった。

 何日振りかの、あるいは何年振りかの姉弟二人だけの会話だろう。千冬は彼との話を誰よりも喜び、誰よりも後悔している。何故今まで弟の事を見てやれなかったのか、と。

 

「い、一夏……済まなかった……!」

 

 千冬は頭を下げる。謝罪でもあった。第一にやる事でもあるが和解の道を探す為であり、同時に彼にある事を尋ねたかったのだ。千冬はゆっくりと顔を上げ、彼の顔を覗く。千冬は戦慄した。

 彼の、弟の、一夏の豹女は険しい今まであった。彼女の謝罪が気に喰わなかったのだろう。同時に謝って済む事ではない事に一夏は知りながらも、千冬は気づいていた。

 彼は怒っているのだ、謝罪で済む事ではない事は知っているが千冬は肩を震わせながらも視線を逸らし、瞑目した。両手を拳に変え、震わせる。

 自分への怒りでもあった。何故、彼を見てやれなかったのか? 何故、彼に手を差し伸べてやれなかったのか、と。彼は自分のたった一人の弟ではないか、家族ではないか、と。

 もしも、彼の事を気遣ってやれたのならば、彼の事を思っていれば、こんな事にはならなかった。千冬は今までの愚行を自覚する中、一夏は口を開く。

 

「……どうした? それに俺はお前とは話をしたくも無い……」

 

 一夏は千冬の様子に気づきながらも目を逸らし、そう答えた。千冬はそれを聞いて目を見開き、彼を見ると微かに震える。一夏は彼女を毛嫌いしているからでもあるが時間の無駄でもあると思っているからだ。同時に彼女を姉としての想いは既に消えているからだ。

 和解するつもりもないのと、彼女と一緒に居たくない。更識姉妹や布仏姉妹の方がマシだと微かに思ってしまった。一夏はそれに気づきながらも舌打ちする。

 千冬は言葉を詰まらせるが、何とか口を開く。

 

「……一夏、お前に訊きたい事がある……」

「…………」

 

 千冬の言葉に一夏は視線を彼女の方へと向ける。これには千冬もたじろぐが千冬は言葉を続ける。

 

「何故……暗部に入った?」

「……それが何だ?」

 

 一夏の言葉に千冬は辛そうに怒る。

 

「惚けるな……! 何故、更識姉妹の裏の生業に自ら入った!」

 

 千冬は一夏に怒る。彼女が話をしたいのは暗部の事であった。彼は一介の学生でありながらも裏の世界に身を委ねた。危険かつ死をも意味している。

 そんな危険な仕事に彼は何故入ったのかを訊ねたかった。楯無や簪に言えば良かったのだが彼を怒らせたく無いのと、彼に嫌われたく無いからであった。

 近い内に言わなければならないのだが彼の逆鱗にも触れたく無いのだ。千冬はその事を隠すが一夏は呆れながらも答えた。

 

「……何でも良いだろ? ……それに俺の関わり事に口出しするな」

「勝手な事を言うな! お前は私の弟だ……それに私はお前に罪を償いたいのだ……!」

 

 千冬は土下座する。一夏に対してだった。姉として情けないだろうが千冬はそれでも良かった。一夏に謝罪する為ならば、こんな侮辱は容易いのだ。

 彼女は目に涙を浮かべるが言葉を続ける。

 

「私はお前に対して赦されない事を何度もしてきた……誤って赦されぬ事でもないのは判っている……だが、私にチャンスをくれ……!」

「…………」

「お願いだ……私にチャンスを……くれ!」

 

 千冬は泣きながら一夏に懇願した。今までの償いでもあるがもう一度、姉弟として戻りたいのだ。家族を失いたくない……千冬の、たった一人の姉としての哀しみでもあった。

 そんな千冬に一夏は冷たい視線を向けている。何を今更、頓珍漢な言葉を自分に投げ掛けているのだ? 一夏はそう思うと舌打ちした。怒りが沸いてくる。もう、自分は彼女の元へと戻らない、そう決めたのだ。

 

「……断る」

「……っ!?」

 

 一夏の言葉に千冬は目を見開き、顔を上げる。刹那、千冬は一夏を見て震える。彼の表情は無に近かった。まるで何も感じられないようにも思えた。

 怒り、哀しみ、憎しみと言った負の感情は見えない。笑いや歓びと言った感情もない。まるで人形のようにも感じられた。千冬は彼を見て震えるが一夏は口を開く。

 

「俺はアンタの所には戻らない……それに俺は自らの過去を思い出したくもない」

「い、一夏……」

 

 千冬は一夏を見て更に泣く。しかし、一夏は忌まわしい過去を思い出したくもなかった。自分は姉の付属品としか見てもらえなかった。心を赦せる存在も僅かであり、それ以上は居なかった。

 姉は自分を疎かにしていた。最初は姉を気遣い言わなかった。しかし、徐々にそれが怪しくもなり、信用に値するのかも判らなくなっていた。

 そして、決定的なのは三年前のあの日だった。姉は名誉を選んだ。それは紛れもない事実であるが裏切りさえも感じられた、ああ、自分は付属品だったんだな……と。

 一夏はその事を千冬に言わないが彼はある事を言った。

 

「俺は……アンタが憎い……アンタは俺を気にもしなかった……」

「ち、違う! 私は……!」

「何が違う……!!」

 

 刹那、一夏は叫んだ。これには千冬も肩を震わせるが一夏は先を続ける。

 

「アンタは俺を疎かにした……!! ……アンタは名誉を選んだ……!! それ以外に何がある!?」

「そ、それは名誉は違う! あれは私も騙されたのだ!」

「言い訳等聞きたくもない……!! それにそれは政府の陰謀だろうが俺には関係ない……!」

 

 一夏は彼女を指差す。

 

「俺はアンタの元には戻らない……!! 俺は……俺は……っ……」

 

 一夏は険しい表情で俯く。

 

「……俺は……温もりが欲しかった……!」

 

 一夏は怒りながらも千冬に訴えた。彼の怒りが孕んでいるが悔しい思いをあったのだ。彼は家族の温もりを欲しがっていたのだ。千冬に甘えたかったのだ。

 両親を蒸発と言う形で失った時は泣きたかった。しかし、そんな自分には姉がいた。姉は自分の為に仕事をしてくれた、家系を助けてくれた。

 自分も姉の負担の少しでも減らそうと助けた。が……それも過去の出来事。もう、姉への感情は皆無に等しい……姉に対しての温もりも欲しかった……一夏は千冬に対してそう思う中、彼は顔を上げると、千冬を睨む。

 

「もう……アンタを……姉として……否、もう、戻らない……!」

 

 一夏はそう言った後、その場を離れようと歩き出した。千冬は呼び止めようとしたが言葉が出なかった。彼の袂を分かつ意味にも近い言葉にショックを受けているのだ。

 千冬は目を見開いているが更に泣き出す。

 

「う……ううっ……!」

 

 千冬は彼の言葉におえつをあげる。もう無理なのか、と。出来る事なら和解したいがそれは無理に等しいのか、と。千冬はその事に気づき泣いていた。

 ロッカー室には彼はいない。彼は既に出て行った後である。扉の音も聴こえなかったのは泣いていた為に聴こえなかったのだ。千冬は一夏がいない事よりも彼の拒絶的な言葉にショックを受けているからだ。

 

「一夏……一夏……!!」

 

 千冬は一夏を求める。しかし、どんなに言っても彼は戻って来ない。彼は既に裏世界の人間となっているのだ。周りがどう思おうが彼は変わった。否、壊れたに等しいだろう……。

 千冬は一夏の名を言いながらなく中、誰も彼女に手を差し伸べない。そして、室内には千冬の嗚咽だけが木霊し続けていた……。

 

 

 

 そして数日後、学年別トーナメントが始まる。それは幾多もの危機が起きるがそれは誰にも判らない。同時に彼、一夏はあるパートナーと共に戦うが彼にとって、苦痛でしかなかった。

 勿論、彼がそれに気づくのは当日であった……。同時に、その日もクラス代表決定戦の日同様、波乱に満ちた日である事も、彼は知らない。

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