インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
その頃、此処は学生寮にある一夏と楯無の部屋。刹那、渇いた音が小さく木霊する。
「…………」
「っ……」
そこには二人の生徒がいた。一人は織斑一夏、もう一人は更識楯無であったが、一夏は横を向いており、片方の頬は少し紅くなっていた。一方で楯無は何かを叩くように横に伸ばしていたが涙目であった。
同時に彼女の手を挙げた行動は、さっきの音は、彼女が一夏の頬を叩いた音でもあった。理由は彼の行動でもあった。彼はフランス政府の面々に対し、武器を向けた。
国政問題に発展しても可笑しくはないが今の彼女は怒りと哀しみで一杯だった。一夏は最悪、フランスに創刊される危険もあるのだ。今は一義首相が何とかしてくれるがどうなるかは判らない。
しかし、彼女は怒っている事に変わりは無い。一夏の行動を愚かに思い、我が身の立場を危うくさせているからだ。楯無はその事で怒りたいが今は叩く方を選んだのだ。
因みに真耶は楯無が何とか言って追い返した為に此処には居ない。言わば、二人だけであったが不安な空気が流れていた。何方も話す気配はないが何方かが動かない限り、この空気は変えられない。
一夏は眉を顰めているがそんな彼を見た楯無は項垂れる。
「……どうしてよ……?」
楯無はボソッと呟いた。一夏は聞き逃さなかったが楯無は先を続ける。
「どうして、どうして自分の身を考えないのよ!?」
楯無はそう言いながら彼に詰め寄る。さっきの事でもあるが楯無は涙を浮かべていた。涙が頬を伝うがそれは一夏を心配し、怒っているからだ。
そんな彼女に一夏はなんとも感じていないが楯無は彼の胸に顔を埋める。一夏は楯無の行動に戸惑っていないが楯無は先を続ける。
「どうして……どうして貴方は何時も、そうなの? ……もう……無理はしないでよ……勝手な行動はしないでよ……」
楯無は彼に対して、そう言った。楯無は一夏を心配していた。彼が二夏の(利用する)為に動いた事を咎めているのだ。同時に彼の安否を気にしている事に変わりは無い。
が、一夏は楯無を見て何とも思っていない。軽く溜め息を吐いていた。が、彼は不意に視線を窓の方へと向ける。午後に差し掛かっていた。
あれからかなりの時間が経っていたからだ。学年別トーナメントはどうなるのかや判らない。しかし、今はどうするのかは彼にも判らない。
彼はその事に気づきながらも再び溜め息を吐くが楯無は彼の胸に埋めたまま泣いている。が、楯無が動くまで、自分は動けない。彼はそう気付くが舌打ちした。
そして、彼は何時までも、楯無が動くまでそのままでいた……。
「ふぅ……」
その頃、此処は学長室。そこにはソファーに腰掛けながらティカップを手にしている二人の壮年の男性達が向かい合うように座っていた。
学園長である十蔵と総理大臣である一義の二人であった。彼等は軽く一息ついていた。さっきまでの話が纏まっと事での軽い休憩でもあったのだ。
紅茶が淹れられているが彼等は軽く談話していた。
「さっきは済みませんでした、一義首相」
十蔵はティカップをテーブルの上に置くと、軽く頭を下げる。さっきの事とはフランス政府の面々との話であった。それは一夏と二夏の身柄を此方へと引き渡せとの内容であったが一義の一喝と説得により事なきを得るのと同時に、彼等は二人の身柄を諦めたからだ。
学園の規則と国との問題かつ、他国からのバッシングを想定しての事であった。彼は、一義はそこを突くのと同時に生徒達の身の安全かつ、フランスが送った生徒達に危害を加えられる事を心配したからである。
これには彼等も黙るが一義はそこを何度も指摘すると彼らは泣く泣く諦めたのだった。十蔵は彼に感謝するが千冬は一夏を心配し、此処には居ない。今は二人っきりであるが他愛もない会話をするだけであった。
十蔵は彼に対して頭を下げるが一義は軽く笑う。
「別に良いんですよ? それに……私達は友人だろ? 十蔵?」
一義は軽く微笑みながらティカップをテーブルの上にある皿の上に置く。彼の言葉に十蔵は顔を上げるが一義は更に続ける。
「私は生徒達を守ろうとしただけだ。此処はIS学園だが、この学園の為だけに諸国から、この極東に来た娘達が居る。彼女等の成長と共に正しい道へと行かせ、見守るのがお前の仕事だろ? 十蔵」
「……首相、いえ、一義の言う事に一理あるな」
十蔵は彼を名前で呼んだ。が、彼等は友人であるからだ。高校で出逢い、幾多の思い出を作りながら青春を謳歌したのだ。卒業した後も交流は出来たが今は互いに多忙である為、こうやって話をするのは無理に等しいだろう。
だが今は話が出来る。それだけでも二人から見れば久しぶりだろう。
「それにここは諸国から干渉されない、彼女等を育てるには最適だ、が、日本と言う国の温度差や文化は違う。未だ慣れる者達も居る、お前はそれに気づいているか?」
「ああ、幾らIS学園とはいえ、国との違いは明白だな」
「だろ? 私達はとっくに爺だが次世代を育てるには充分な年齢だ」
一義はそう言った後、ティカップを手に取り、中にある紅茶を飲み干す。
「俺達は激動の時代を生き抜き、今に至る……だが、次の世代である彼女達には、子孫達にはそう言った出来事を後世に残す役目もあるからな?」
「まあな……だが一義、お前は大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「多忙なんだろ? それに私に逢いに来たのは良いがフランス政府の者達には何て言うのだ?」
「そうだったな……」
一義は不意に考える。確かにさっきの話では彼等は納得していない。同時に彼等は何か良からぬ事を考えているのは目に見えていた。長年生きていた事で感が富んでいる。
彼はフランス政府の、向こうの出方を気にするが十蔵は辛そうに目を逸らす。
「済まぬ……」
彼はぼそっと呟いた。これには一義も聞き逃さなかったが十蔵は目を閉じるとある事を続けた。
「お前は総理大臣であるが私とは違い、多忙の身だ。それに外交での問題もあるが多方での問題もあるだろう?」
「……まあな」
一義は哀しく項垂れた。実は日本政府は今、多方面での問題に直視していた。外交は勿論、領土や虐待問題、前の政府関係者の裏金等、多くの問題を抱えている。
一義から見れば彼の体力を消耗させ、倒れる危険もあるからだ。が、彼は総理大臣としての使命がある為、弱気になっている暇はないのだ。
「……まっ、何とかなるが今は先の事を考えなければな?」
一義はそう言いながら軽く笑う。これには十蔵も驚きながら彼を見るが一義は言葉を続ける。
「今は二人の子供達を向こうに渡さないのが先だ」
「だ、だがそれは日本が今抱えている問題から逃げる行為にも等しいぞ? 大丈夫なのか?」
十蔵の言葉に一義は首を左右に振る。
「大丈夫だ。それに織斑一夏については色々と調べた」
「……えっ?」
一義の言葉に十蔵は惚けるが彼は一夏について話した。
「彼、織斑君は三年前、ある事件を切っ掛けに行方不明となった……ドイツでな」
「……それはどういう?」
十蔵は一義の言葉に疑問を抱くが彼は辛そうに目を附せる。
「彼は三年前、俺達の所為……否、お前で無く俺達政府の薄汚れた欲望や利益の所為で行方不明となった」
「……それって確か……」
「ああ、その当時、その日は生憎、織斑千冬の二連覇を掛けた試合でもあった。彼はその日に限って誘拐された。奴らの要求は簡単、身代金は愚か、織斑千冬に棄権してもらう為だった……だが、政府はこれを黙認した。利益を得るが為にな……」
彼はそう言いながらティカップを皿の上に置く。
「結果、織斑千冬は大会で二連覇を成し遂げた。が、織斑君は行方不明となった……それは織斑千冬にとって大きな代償だった」
彼はそう言いながら項垂れる。
「これは俺達政府の所為だ……俺達の所為で二人の姉弟を引き裂いてしまった……」
一義はそう言いながら手を絡める。手は震えていたが怒りを隠しきれないでいた。彼は知っているのだ。三年前の事件の全貌を、あの事件は腐敗した政府による陰謀でもあった。
彼等はその所為で巻き込まれた。所謂、利益の為に人生を棒に振る行為にも等しかったのだ。当時、一義は政府の役人にしか過ぎなかったが彼は後悔していた。
何故、あの時助けなかったのか? それは一義が総理大臣になる前であり、関わる事が出来なかったからだ。同時に彼は微かな疑問を抱いてしまった。
今の日本は腐っている、と。彼はそう思い、一人努力したのだ。総理大臣になったのも人の話を聞き、国を背負う想いを重く受け止める為であり、国民の幸せを考えての事だった。
それだけなく、織斑一夏の生存を歓んでいた。同時に罪悪感も沸かせたが彼を助けたい事に変わりはなかった。三年前の事を蒸し返す為ではなく、償う為ではない。
彼は織斑一夏を助けたい事に変わりはなかった。同時に国を変えたい気持ちも一杯あった。
「俺は三年前の事件で政府の汚れた、裏の顔を知った……それに」
刹那、一義は何かに反応し、視線を走らせる。そこはポケットだった。彼は自分のポケットから振動音が聴こえた事に気づいたのだ。彼はポケットに手を入れ、ある物を取り出した。スマートフォンだった。
彼はスマートフォンを見ているが眉間に皺を寄せる。画面にはある人物の名が映し出されていたからだ。
「一義、どうした?」
十蔵は彼に訊ねるが一義は十蔵を見て軽く笑うと「なんでもない」と言いながらスマートフォンをしまう。
「ちょっと……な?」
一義はそう言った。これには十蔵は首を傾げるが彼は話題を変える。
「それよりも、学園の事が先だろ? 十蔵」