インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「つ……そ、そんな」
「あ、ああ……」
「う〜〜」
その頃、ここは更識家にある簪の部屋。その部屋が少女らしくクマのぬいぐるみもあるが本棚やベッド、机は兎も角、数十点の特撮物のDVD等が収められている棚があり、ヒーロー物のフィギュア等も飾られている。
其処は簪の部屋であるが部屋には三人の少女と一人の男性の従者がいた。従者は源次や楯無と一緒にいた者であり、三人の少女は床に座っていたがそのうち、一人は簪であった。
しかし、後の二人は違う。共通しているのは髪や琥珀色の瞳は同じであった。彼女等は姉妹であった。姉の方はは長い髪をポニーテールにし、額には赤いカチューシャを着けている。白いシャツに赤い上着を羽織り、黄色いズボンを穿いている。
妹の方は短い髪であるが、両側には某有名マスコットキャラを模した二つの髪飾りで髪の一部を纏めている。裾の余る黄色いシャツと白の長いスカートを穿いている。
そして姉妹の、姉の方は布仏虚、十七歳。妹の方は本音、十五歳。二人の姉妹は更識家に仕える従者、布仏家の娘達である。姉妹は簪の部屋にいるのは、簪を落ち着かせる為でもあった。
何故なら簪は武藤と山岡の死を源次が聞かされ、酷く落ち込み泣いていた。美和の方は源次が落ち着かせている。が、源次は娘の簪には同い年である姉妹に任せていた。
功を奏したのか簪は落ち着きつつあったものの、源次と楯無と一緒にいた従者が追い討ちをかけるように簪に木村の死を伝えた。それは数分前であるが彼を発見したのは別の従者である山川と高橋であった。
二人は源次と一緒にいる従者に伝えると彼は驚いていた。同時に、彼は木村の死を源次と楯無に伝えたが二人も驚きを隠せなかった。
二人は三人目の従者の死を嘆き悲しむが源次は従者に簪達にも伝えるように命じ、従者はここにいる。伝えないという手はあったが何れ知る事になる。
苦渋な判断であるが知らせなければ更に後味悪くなるからだ。従者の言葉に簪達は愕然としていた。少女達には辛いだろうがこれは現実でもあった。
「き、木村さんまで……う、ううっ」
簪は目に涙を浮かべながら項垂れる。従者は武藤と山岡だけでなく木村まで死んだのだ。一日で三人の従者を喪ったのだ。皆気のいい人であるが簪は不意に武藤の顔を思い浮かべる。
あれは自分や母、美川を逃がす為であるが最後の姿だった。簪はそれを思い出すと更に泣き出す。
「簪様……」
「かんちゃん……」
虚と本音は簪を慰めるが彼女は涙を止めず泣き続けている。二人も目に涙を溜めている。
「簪お嬢様……つらい気持ちは判ります。私もまた従者の身でありながら部下を三人も喪いましたから……っ」
従者は下唇を噛みながら俯く。彼は握り拳を作っているが震えている。彼は怒りを隠せなかったからだ。同時に仲間であるが筆頭格でもあるのだ。
そして、その従者は……刹那、彼は虚と本音に対し、口を開く。
「虚、本音、お前達は簪お嬢様に傍に付いてやってくれ」
「えっ……お父さん?」
従者の言葉に虚は驚くが彼は哀しそうに微笑む。そう、彼は虚と本音の父であった。彼の名は布仏半蔵、更識家に仕える一族、布仏家の家長にして従者達の筆頭。
彼は前当主の源次の右腕的存在であるが、源次が信頼に値する程の実力者である。他の従者達の上を行く存在でもあった。
虚は半蔵の言葉に驚くも、半蔵は不意に哀しそうに微笑む。
「私は大丈夫だ……それに簪お嬢様を任せられるのは年の近いお前達にしか出来ない」
「そ、それは……お父さんは?」
「……俺は他の従者達と共に緊急会議を行う――前当主を交えてな」
「で、でもパパ〜武藤さん達が死んだんだよ〜それに次は……」
本音は何かを言う前に虚が「本音!」と叫んだ。これには本音はビクッと肩を震わすが恐る恐る虚の方を見る。虚は少し怒っていた。
彼女は本音が何かを言う事に気付いた。縁起でもない事だ、彼女の事だから従者に更なる犠牲者が出るのではないのかと察したのだ。
妹とは言え、部下を喪った父親の前で言うのは姉としての怒りが沸いて来る。本音は虚の眼差しに震える中、不意に誰かに頭を撫でられる。
とても大きくて温かく、優しい手つきであった。父、半蔵の手であった。半蔵は哀しそうに微笑んでいた。
「本音……おまえの気持ちは判る――だがな死ぬと言う言葉は使ってはいけない。従者達にも動揺が広がる」
「パパ……ごめんなさい」
「それでいい……俺はもう少ししたら前当主に許可して、前当主や従者達と共に会議に出る」
「お父さん……あれ、お嬢様は?」
虚は楯無が含まれていない事に気付く。会議となるならば当主である楯無も含まれる筈、なのに半蔵の言葉には彼女の名はない。
虚の問いに半蔵は深く頷くと、後ろをさす。
「お嬢様は部屋の外におります」
半蔵の言葉に虚と本音は目を見開き、簪は瞠目しながら顔を上げる。扉の方は何の変哲もなかった。しかし、半蔵は扉の方を見ると口を開く。
「お嬢様、部屋に入ってきてはどうですか?」
半蔵は扉の方へと問い掛ける。刹那、扉が不意に開くと、簪と布仏姉妹は少し驚く。扉を開けたのは楯無であった。彼女は四人を見て不意にぎこちない笑みを浮かべていた。
簪への罪悪感だろう。だが今はそれどころではない、今は姉としても妹を心配している。楯無は簪の部屋に足を踏み入れるが簪は楯無を見て泣きながらそっぽを向く。
楯無は「っ……」と下唇を噛むが彼女は簪に近づくと、屈んだ。
「簪ちゃん……大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
楯無は優しく問い掛けるが簪はそっぽを向いたまま答える。姉妹の中は冷えきっていた。そう物語らせている。
「あっ……そう」
楯無は哀しそうに項垂れる。やはり無理だった。そうだろう、自分は妹に心ない一言を言ったのだ。それは妹を守る為でもあったが逆効果であった。
しかし、出来る事なら和解したいが生憎、楯無にはそういった事は出来なかった。妹の手前、罪悪感が込み上げて来る。そのせいでチャンスを逃がしてしまった。
買い物で二人きりの時が何度もあったがそれも無駄にしてしまった。楯無はどうするか悩み身体を震わせる。そんな楯無と簪を見て布仏家の三人は見守る事しか出来なかった。
自分達は横槍を入れる立場ではない。彼女等の仲は彼女等自身が取り戻すしかないのだ。それは源次や美和、自分達従者の願いでもあった。二人の姉妹が自ら乗り越えなければならないのだ。
二人の様子に布仏家の面々は固唾を呑んで見守るが重苦しい空気が漂い、包まれている。出来る事なら逃げ出したいがそれは従者としては失格であった。
布仏家の面々は二人の従者として更識楯無と更識簪のやり取りを見守るが二人の間には会話がない。刹那、簪が口を開く。
「それよりも……何しに……きたの?」
簪は楯無に対して問う。それを聞いた楯無は目を見開きながら顔を上げる。簪はそっぽを向いていたが彼女は目を合わせようとはしなかった。
「私を……慰めにきたの? ……でもいい……私は本音や虚さんに慰めて貰うだけでもいい」
簪の言葉に虚は「かんざ!」といようとしたが楯無が虚を手で制止した。虚は楯無を見て驚くが楯無は哀しそうに微笑む。
「っ……そ、そうね……私が来ても無駄だったわね……」
楯無はつらそうに立ち上がる。やはり拒絶されている、自分が悪いが仕方ない事なのだろう。楯無は哀しそうに俯く。。
彼女は泣きそうであった。簪の言葉にはトゲがある。自分はここにいるべきではない――そう感じたのだ。
楯無はゆっくりと踵を返すと、部屋を出ようとした。
「やはり仲が悪かったみたいだな」
刹那、男性の声が聞こえた。その声は半蔵の声ではない。楯無はその声に聞き覚えがあるのと同時に瞠目すると直ぐに声がした方へと振り返る。
簪や布仏家の面々も声に驚き、声がした方を見やる。
「なっ!?」
楯無は声を上げそうになった。簪や布仏家の面々も声を上げそうになったが驚愕していた。そこには一人の青年がいたのだ。黒で統一された服装であるが少し濡れていた。
彼は更識姉妹ではなく、布仏家の面々を見ていない。彼が見ているのは部屋にあるヒーロー物のフィギュアを見ていた。珍しい物を見ている――というよりも、興味なさそうに見ているだけであった。
しかし、更識姉妹と布仏家の面々は別の意味でも驚いていた。それは彼がいつ、この部屋に入ってきたのかで驚いていた。気配を消してまで、この部屋に入るのは難しいのだ。
しかし、その彼を知っている者がいた。楯無だ。楯無は彼を見て身体を震わせていた。何故ならその者は……。
「お、織斑君!?」
刹那、楯無は彼を織斑と呼ぶ――そう、彼は一夏であった。手荒な真似をしてでも拘束すると決めた彼、一夏がいたのだ。
にも関わらず、彼はここにいる。楯無から見れば想定外であったが一夏は楯無や他の者達に眼中はなく、只、部屋に飾られているヒーロー物のフィギュアを興味なさそうに見続けていた。