インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「待って織斑君!」
一夏は千冬を拒む様な事を言った後、一夏は通路の中を歩いていた。しかし、そんな彼をその少し離れた先にいた楯無は彼を呼び止める。
本当なら直ぐ後ろにで彼を呼び止めたかったが彼は後ろに立つ事を嫌っている。
彼の後ろに立てば彼に何かをされるからだ。楯無は四回も彼の後ろにまで迫り、彼に少し返り討ちに近い状態に遭った。
その為、彼女は一夏を警戒している。が、一夏は楯無の呼び止めているにも関わらず歩き続けていた。
「織斑君……っ!」
楯無は下唇を噛むと彼に駆け寄る。彼の直ぐ近くにまで迫ると、腕を伸ばす。刹那、一夏は回り込む形で楯無の後ろへと回ろうとした。
しかし、楯無は一夏の行動を見抜き、彼を手で薙ぎ払うように叩こうとしたが、彼は咄嗟に屈み、彼女の手は空を切る。
楯無は「なっ!?」と驚きながら、屈んでいる一夏を見下ろそうとしたが彼は楯無に迫りながら立ち上がると、彼女を逃げ場のない形で壁へと迫らせる。
楯無は驚きつつも壁へと後退るが一夏の思う壷であり、彼女は逃げ場がなかった。刹那、一夏は楯無の顔の直ぐ近くの壁に当てるように叩く。
楯無は「っ!?」と言葉を詰まらせるが彼女は恐る恐る、目の前にいる一夏を見上げる。一夏は自分を見下ろしていたが瞳には怒りが籠っている。
自分に対してだが別の意味でも驚いていた。それは自分は一夏と顔が近い事だ。それも、壁ドンというドキドキする様な出来事が発生している。
普通ならば女性である楯無から見れば突然で嬉しい出来事であるだろう。が、今は別の意味で恐ろしい物であった。彼が、一夏の自分を見る瞳もそうであるが彼女は行動を読まれている事に驚きを隠せないでいた。
あの反射神経は暗部にいる誰よりも速く、咄嗟の判断でも即座に行動する事は難しい。楯無は一夏の行動により、再び彼を危険視するが会話はなかった。
自分が言えばいいが彼が許す筈もない。否、彼が自分を言わせないようにしていた、と言う方が正しいのかもしれない。彼の威圧的な視線が言わせないようにしもしている。
生唾を吞む事も許されない。そう感じていた。冷や汗は流す事が出来たが、この状況は変わらない。
「……いい加減にしろ」
一夏が口を開いた。楯無は一夏の言葉に瞠目するが彼は言葉を続ける。
「いい加減にしろ、貴様、何のつもりで俺を追い掛けた? 何のつもりで俺の後ろに迫った?」
「わ、私は只……」
「貴様の事情等、如何でもいい……貴様の事だから俺とあの女の事を訊こうとしたんだろう?」
一夏の言葉に楯無は肩を震わす。図星であった。同時に彼の言葉には情が感じられない。あの女とは千冬の事であるが他人行儀とも言え、赤の他人とも思える発言をしていた。
彼は既に姉への情はない。さっきの会話もそうであるがあの時の、IS学園での件でも彼は姉を他人として見ている様な発言をしていた。
さっきの会話で全て判った。証拠に彼の言葉は淡々としていた。氷のように冷たく、他人である自分には冷酷な発言を述べ続けている。
軽蔑、そう捉える事も出来た。
「……けっ」
刹那、一夏は何故か楯無から離れる。楯無は驚いていたが解放された事で安心したのか、膝を落とす。が、顔色は青かった。一夏の威圧的な視線と冷酷的な発言で心を抉られた様な感覚に遭った。
楯無は俯くが、そんな楯無に一夏は手を差し伸べなかった。彼女には何の感情もない。恋愛感じようもない。只の赤の他人として見ていた。
彼女へ向ける視線は冷たいが彼は腕を組むと、通路の方を歩き始めた。しかし、二、三歩歩くと不意に立ち止まり、肩越しで楯無の方を見る。
楯無は未だ項垂れているが彼は無言で見続けていた。声を掛けるつもりもなかった。が、彼はそのまま前を歩くと、何処かへと向かった更識家を出るつもりではない。
彼は、ある部屋へと向かった。その場にいる楯無を一人残して……。
「落ち着きましたか、織斑先生?」
その頃、客間にいる源次は、未だ泣いていた千冬に恐る恐る声を掛ける。千冬は何とか落ち着きを取り戻したのか、何とか鼻を啜ると深く頷いた。
「はい、お見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
千冬は頭を下げるが源次は哀しそうに微笑みながら首を左右に振る。
「いいえ、大丈夫です。貴女が泣き止むまで待つのはあれですが、貴女が気持ちを吐き出す意味でも泣くのを私は止める理由はありませんから」
「……すみません」
千冬は源次の言葉に再び泣きそうになるが何とか堪えると顔を上げ、源次と向き合う。彼女はつらそうであるが訊ねた。
「……一夏は、其方で迷惑をかけていませんか?」
千冬はつらそうに訊ねた。これには源次は哀しそうに頷いた。本当なら三日前、更識家から逃げた事を伝えた。そして、多くの従者を使って捜していた事を教えた。
教えれば彼女は更に迷惑をかけ、彼女自身が自分を追い込む危険を察知したが、引退した身で隠居の身でもある。今は前当主としてでもあるが、本当の事を教えた。
「そうですか……ご迷惑をおかけしました」
千冬は再び頭を下げるが源次は顔を上げるよう言った。
「いえ、私達の監視が甘かったからであり、彼が突然保護されると言われても戸惑うでしょうからね」
「そうですか……それよりもお父さん?」
千冬はつらそうにある事を訊ねた。
「実はここに来る前、警察が来たり、人だかりも出来ていたのですが、何か遭ったのですか?」
千冬の言葉に源次は瞠目した。刹那、源次は辛そうに俯く。千冬の問いの意味は源次は知っていた。警察とは、あれは殺人事件の事であり、被害者は武藤と山岡であり、従者でもある。
源次は武藤と山岡の死、そして木村の死、更には伊藤の安否を気にしていたが今は他の従者を向かわせている。死んだのかもしれないが源次は待つ事しか出来なかった。
源次は千冬の問いに答えるように殺人事件が遭った事を伝えた。千冬は驚いたが直ぐに謝る。
「あ、あの……すみません! ……本当は先に言いたかったのですが、一夏の手前、それに弟を心配させないようにして……すみません」
千冬は謝る。一夏の事を思ってだが源次達、更識家に関係しているとなれば尚更悪かった。失礼な発言でもあり、身内かもしれない事を考えてしまったのだ。
千冬を見た源次は首を左右に振る。
「いえ、貴女が悪い訳ではありません。それに一夏君にも関係しておりません」
「ですが……! すみません……」
「いいえ、それよりも貴方は弟の事を思っていたのですね?」
「……はい」
千冬は頷く。彼女なりの一夏への罪滅ぼしではない。彼女は一夏の事を思ってだが源次にこう言った。
「あの、私が言うのもなんですが、一夏を、どうか弟をよろしくお願いします……!」
千冬は頭を上げる。一夏を任せてと頼んでいる様な物であった。しかし、それは他人である彼らに任せ、放棄しているようにも思えるが千冬にはつらかった。
今の自分には弟と向き合う刺客はない。それが今の自分の立場でもあったからだ。さっき源次が言った通り、時間をかけてでもいいと言われたからであるが、千冬も一夏に向き合う為の時間が欲しいからであった。
今は彼等に預かってもらうしか方法はないが千冬も自分が犯した償いをするつもりであった。
「織斑先生……判りました。弟さんの事は私たちに任せて下さい」
「……っ、あ、ありがとうございます……!」
千冬は再び泣き始める。一夏を想っての事であるが彼女は涙を止めなかった。自分のした罪として受け止めていた。さっきの一緒に暮らしたいのも本音であるが今は出来ないと感じ、そして一時の離れ離れであるがそれも重く受け止めていた。
源次は千冬の様子に気付いたが彼は慰めなかった。出来る事なら吐き出す意味でも、彼女に時間を与える意味でも何もしかった。
客間は再び千冬の嗚咽が木霊し続けるが源次は何もしなかった。
その頃、ここは東京にある某所。そこは沢山の高層ビルが建っているがその中に一つ、其処は十階建ての高層ビルであるが屋上には一人の青年と、一人の男が寝転がっていた
彼は雨が降っているにも関わらず、傘を差していない。濡れているが頭にはつば付きの帽子を被っている。
その青年は夢見一彦であった。一彦はビルの下を上から見下ろしていた。車は通るが人は蟻のようかつ胡麻みたいに見える。しかし、一彦は不敵に笑っている。
「人がゴミみたい」
一彦はそう感想を述べる。確かにそうであるが彼は其処に居るのには理由があった。それは近くにいる男へ言ったのだ。彼は前進黒ずくめであるが両目を何かで抉られていた。
しかし、一彦は男を抱える。自分よりも背が少し高いが、一彦は男を抱えたまま、笑う。
「取り敢えず、君の為だよ? ブギーマンのつ・か・い・さ・ん? それと君には一苦労してもらうから、ね?」
和彦はそう言った後、男をビルの下へと投げ落とした。一彦は男を玩具の如く投げ落としていたが『ふふっ?』と笑いながら風のように消えた。
刹那、ビルの下から大きくもなく小さくもない音が響いたが直後に、女性の悲鳴が聞こえた……。