インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「えっ……」
楯無は源次の言葉に瞠目した。美川が死んだ、それは楯無にとって、信じられない事であった。
彼女は更識家に仕える従者達の中にいる女性達では強い部類に入る。強いだけでなく、厳しくも温かい女性でもあった。
しかし、彼女も死んだ。楯無にはつらかった。それ以上につらいのは、妹である簪だ。彼女は美川を誰よりも好意を抱き、自分を守る従者としてでなく姉の様に慕っていたのだ。
美川を喪ったのは、簪の拠り所を奪う様な出来事であった。源次はつらそうに語る中、一夏は気にもせずに腕を組みながら目を逸らしている。
部外者である自分には関係ない、そう感じていた。
「美川は胸を刺され、尚且つ、焼死の状態で発見された」
楯無はつらそうに俯く。聞くだけでも、彼女の状態を聞いただけでも胸糞悪く感じた。焼死と言えば肌が焼け爛れ、髪も消失している。従者達の中では一番酷い死因だろう。
簪が聞くだけでも、彼女は泣きじゃくるだろう。今まで、美川に頼んでばかりであった。とは言え、美川はもういない。簪の拠り所は誰になるのかも判らなかった。
候補と言えば母親の美和くらいだろうが自分は未だ和解していない為、今すぐにでも仲直りする事は困難に等しいだろう。楯無はそう思いながらも美川の死を重く受け止める当主と、簪を想う姉としての間で葛藤する。
「簪、ちゃんは? ……」
楯無は源氏に訊ねる。簪がいない事には気付いていたが心配していた。美川の死を伝えられた事でショックを受けたのだろうか。
もしくは彼女を心配して言わなかったのと、別の部屋で待機させているのか、と。
「……伝えたよ、簪はショックで私と美和の部屋で寝込んでいる」
「っ……そうです、か」
楯無は下唇を噛むと俯く。後者が正しかった。黙ったままではいけないと源次は思ったのだろう。真実を話した事は間違っていないが妹にはつらかったのだろう。
楯無は姉として妹を、源次や美和は娘である簪を心配する。また、美川という従者であり、仲間でもある彼女を喪った事を哀しんでいた。
更識家の面々は美川の死と簪を想う身内として落ち込む中、一夏だけは違った。
彼は簪や美川の事等知った事ではなかった。彼は今、時間を潰す意味で思考を走らせている。青年の事や、夢見一彦の事であった。
青年は拷問で微かに死にかけているがブギーマンの邪魔で殺し損ねた。拷問を速く切り上げれば良かったが過ぎた事だ。
もう一つ、夢見一彦の存在。彼は何者で何を半霊にしているのかは判断出来ない。調べなければ判る敵ではない。生まれた場所や人物像、願い等の事を知りたかった。
が、彼は青年の言葉を思い出す。
『其奴の名は夢見一彦! 殺人鬼は知らないが奴は倉庫に紛れ込んでいる! 美川恵と言う女に変装している!』
彼と対立した際、彼はそう叫んだのだ。それも美川恵……美川に変装していると叫んだのだ。だとすれば、焼死体の美川は本物であり、彼女達と一緒にいた美川は偽物である事だ。
では、彼は何の為に美川に変装したのだろうか? どうやってバレずに彼女達の間にとけ込んだのだろうか? 疑問が膨らむ中、一夏は一彦の立場で思考を走らせる。
自分が一彦の立場で行動するならば……更識家の美川を殺すのならば、変装するのならば……刹那、一夏は何かに気付き、舌打ちした。
一彦は気付いたのだ。自分がプレイヤーである事や、青年が自分達と同じプレイヤーである事にも。
恐らく、自分の立場で思考を走らせたのだ。IS学園に現れたのも他のプレイヤー達の行動を再開させる為の行動であり、更には更識家にいる事も気付いたのだ。
しかし前者は兎も角、後者は判らない。何故自分が更識家にいる事に気付いたのか、何故青年が更識家を殺しているのかを気にしているのかも。
それ以上は判断出来なかった。一彦の行動はそれ以上は判らない。が、一夏は警戒心を強くする。彼は青年よりも頭が切れ、警戒すべき人物である、と。
一夏は思考を走らせる中、楯無は何かを呟く。
「……誰だったの?」
楯無の言葉に一夏は思考を止め、彼女を見る。彼女は微かに震えていた。一夏は眉間に皺を寄せるが、美和と源次は楯無の言葉の意味が分からなかった。
しかし、楯無は震えながら顔を上げ、源次と美和を見る。
「……あの時、一緒にいた美川さんは……誰だったの?」
楯無は気付いた。あの時の焼死体は美川である事を知った。が、源次に教えられるまで知らなかった。炎に包まれていたから無理もないだろうが楯無は震えていた。
あの時、自分は半蔵といたが少し前まで、否、あの倉庫に行くまでの間、美川もいたのだ。彼女は正真正銘、美川であった。仕草や匂いも言動も全て美川恵本人としか言いようがなかった。
あれは偽者であったのならば、本物はいつ死んだのだろうか……楯無はそう思うと自分を抱く。怖くなっていた。あの時の美川が偽者である事に本能的に恐怖を抱いたのだ。
当主とは言え、一人の女の子だ。幾ら心が強くても不可思議な出来事は信じられないのだろう。楯無の様子に美和と源次は互いを見合わせるが源次は訊く。
「刀奈、どうしたんだい?」
「……違うのよ……美川さんじゃない!」
楯無は叫ぶ。源次と美和は驚くが一夏は何も言わず瞑目した。彼は気付いていたが楯無は震えつつも言葉を続けた。
「違うのよ! あれは美川さんじゃなかったの!」
「み、美川って焼死体の事か?」
「そうじゃない! 私は半蔵さんと一緒だったけど美川さんもいたのよ!」
「「!?」」
源次と美和は驚く。娘が何を言ってるのかを理解出来なかった。が、あの時現場にいたのは楯無と半蔵、死んだ従者達であり、美川が焼死体になった事以外、何が遭ったのかは知らない。
楯無は何かを喚いている。
「美川さんじゃないの! でもあれは美川さんだった! なのに違うのは……あれは誰だったの!?」
楯無は美川の事で困惑していた。刹那、一夏が口を開いた。
「あれは美川恵ではない」
一夏は楯無にそう言い放つ。これには楯無も驚き、源次と美和は彼を見やる。一夏は瞼を開いているが表情は険しい。彼は知っていた。青年の言葉がヒントでもあるがチャンスとも考えていた。
一夏の言葉に源次は訊ねる。
「い、一夏君? それは一体、どういう事だ?」
源次は一夏に訊ねるが彼は目を逸らす。
「それは言えない……だが強いて言うなら、全くの別人だ」
「べ、別人って……」
楯無は震えながら聞き返すが、一夏は無言であった。それもその筈、デスゲームの事を知られたくないからであった。
「お、織斑君……答えて……それに……っ」
楯無はベッドから降りると、源次と美和の横を通り過ぎる。両親は驚いているが楯無は一夏の前に来ると、彼の胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「何をする?」
一夏は楯無の行動に驚きはしなかったが怒りを感じつつも呆れていた。一方、楯無は一夏を見ながらも微かに怒っていた。
「答えて織斑君……その人は誰なの? それに貴方は何者なの……それに、あの大男とはどういう関係なの!?」
楯無は一夏を問いつめる。一彦の事や青年の事、そして、ジェイソンの事であった。当主として知りたいからであるが一夏の正体も知りたいからであった。
只者ではない事には気付いているが未だ未だ、謎だらけである事に不信感を抱いているのだ。
「刀奈!」
源次は楯無の駆け寄り、彼女を羽交い締めしながら引き剥がす。が、彼女は一夏に詰め寄り続けていた。
「教えて織斑君!! 貴方は何者なの!? 答えて!!」
楯無は一夏に詰め寄ろうとしているが我を忘れている。従者達の事や美川の事だろう。が、楯無は当主として知りたいだけであるが、一夏から見れば見苦しい物であった。
一夏は楯無を見て眉間に皺を寄せているが軽く舌打ちした……。
「ぐすっ……ひぐっ」
その頃、源次と美和の部屋では簪が寝込んでいた。布団であるが彼女は涙を浮かべていた。眼鏡を外しているがなくても可愛らしい少女であった。
しかし、簪は涙を浮かべていた。美和が死んだ事を聞かされた。それがショックであったのか今は寝込んでいる。周りには誰もいない。
彼女一人であるが周りが気を使っているとしか言えなかった。否、誰よりも尊敬し、慕っている美川が死んだ事を哀しんでいる簪を気遣っているのだ。
源次と美和の部屋は襖は当たり前であるが窓はない。代わりに縁側と繋がる障子はあり、向こう側には窓があったが開いている。簪が寝込んでいる布団は障子近くに敷かれていた。
しかし、窓は換気の意味で開いていた。しかし、簪は背を向けながら横になっていたが簪は今だ泣いていた。
「美川さん……っぐ」
簪は美川の事を思い出していた。彼女は仕える従者達の中では自分を誰よりも気にしていた。本来仕える者は本音であるが戦闘面では彼女がサポートしてくれていた。
だが、それはもう出来ない、そう思うと簪は更に泣き出す。
「ひぐっ……うぐっ……っ!?」
簪は嗚咽を上げ続けていたが不意に目を開ける。が、驚いてしまう。理由は大きな影が見えたからだ。
それも大きく、それも後ろからであった。簪は恐る恐る後ろを向く。嫌な予感がしたからだ。従者の者ではない……そう思ったからだ。
刹那、簪は瞠目した。そこには、障子の向こう側にある縁側の窓の向こう側には、一人の大男が立っていた。
それはジェイソンであった。
「あ、あああ……」
簪はジェイソンを見て震えながら起き上がる。あの時の男だ、そう気付いたのだ。が、ジェイソンは簪を見続けていた。
「い、イヤァァァァァァァァッ!!!」
そして、簪は悲鳴を、上げた……。