インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「か、簪ちゃん!!」
簪の悲鳴を聞いた楯無、源次、美和の三人は源次と美和の部屋へと急ぐ。直ぐ近くであるが楯無は襖を開けた。楯無は戦慄した。
部屋には腰を抜かしながら後退りしている簪と、縁側の窓の向かい側にはジェイソンがいたのだ。しかし、楯無はジェイソンを見て目を見開いているが後から来た源次と美和も戦慄していた。
「な、何でなの!?」
楯無はジェイソンを信じられないと言わんばかりに見ながら震えた。彼が生きている事に驚いているのだ。あの時、ランスで腹を刺したのに彼は何ともないように佇んでいる。
楯無は驚くが直ぐに簪の事を気にし、簪に駆け寄ると横抱きする。簪は楯無に縋り付くが美和と源次は楯無と簪を守るように庇う。更識家の面々はジェイソンを見て戦慄する。
が、後ろから走る音が幾つも聴こえた。
「どうしました!? ……うっ!?」
「ひっ!?」
従者達はジェイソン達を見て顔を引き攣らし、怯える者達がいた。縁側からも従者達が来るが彼等の反応も同じであった。が、誰もがジェイソンを見て怯えている。が、従者達であるが為、警戒する。
従者達は全部で五人だった。二人は更識家の面々を守る為に立ちふさがり、三人は身構える。しかし、誰も動かない。
人間なら未だしも、相手は人間の名を語った化物だ。どう戦うのかも判らないのだ。誰もがジェイソンに対して警戒する。
殺伐とした空気が流れるが従者達は更識家の面々を守る使命があるからだ。仲間を喪いながらも、その使命だけは忘れなかった。
「安心しろ」
刹那、通路の方から声がした。この殺伐とした空気を断ち切るかの様な口調であった。楯無、源次、美和、従者の二人は後ろを見る。
其処にいたのは、腕を組みながら眉間に皺を寄せている一夏であった。
「お、織斑君!?」
楯無は一夏を見て驚く中、彼は楯無達の間を通り過ぎようとした。
「だめ!!」
楯無は彼を制止するが従者達も一夏を制止する。が、一夏は二人を気にもせずに通り過ぎる。彼は敷かれている布団を跨ぐと、縁側の前に立つ。
縁側には三人の従者達もいるが一夏を制止しょうとした。しかし、足が動かなかった。
彼等はジェイソンが動くと思い、何も出来なかった。抵抗は出来るものの、相手は化物である事に変わりはない。
従者達は自分の無力さに噛み締める中、一夏は腕を組みながら、窓の向こうにいるジェイソンを見る。彼は無言であるが一夏を見て何も言わない。
元々無言の方であるが一夏を見続けていた。が、一夏はジェイソンを見て何かを感じた。彼が此所に来たのは恐らく、あの事だろう。
刹那、一夏は不意に肩越しで楯無を見る。楯無は少し驚くが一夏は口を開いた。
「コイツは俺の相棒だ」
刹那、室内の空気は殺伐から一瞬で変わる。一夏の説明とも捉えられる言葉が理由であった。楯無達は一夏の言葉に愕然とする。
しかし、彼はジェイソンに対して背を向ける。
「……驚いているのか?」
一夏は室内にいる者達と縁側にいる者達に訊ねる。が、わざとらしい質問であった。そんな一夏に楯無は簪を美和に任せると、一夏の前に出る。
彼女の表情は険しいが当主の顔をしていた。
「そ、それはそうよ! だいだい誰よソイツ!? 私が腹を刺して殺した筈よ!?」
楯無はジェイソンを指差す。周りは楯無の言葉に驚く。楯無がジェイソンを殺した事にだ。暗部では殺人は仕方ないのだが彼が、ジェイソンが生きている事にも驚いていた。
そんな楯無にジェイソンは何も答えなかったが怒る気配もない。しかし、彼の代わりに一夏が答えた。
「……コイツは俺の相棒だ、それに腹を刺しただけで死なない」
「なっ……じゃあ、あの時、未だ生きていたの!?」
「ああ……だが、コイツは人間ではない……貴様も気付いてるだろ?」
一夏の言葉に楯無は下唇を噛み、目を逸らす。源次も一夏の言葉に気付き冷や汗を流す。簪を除き、他の面々は顔を引き攣らす。彼等は気付いていた。
ジェイソンが人間ではない事に気付いていた。ホッケーマスクの下の素顔は思い浮かべるだけでも吐き気を促し、二度と見たくないと言いたい程醜いのだ。
夢に出てくる様な物であり、語るだけでもゾッとする。しかし、楯無達の様子に一夏は気付きながらも瞑目した。
「そうだろうな……だがコイツはゾンビみたいな奴だ」
「あっ……うっ」
楯無は言葉を詰まらせる。それでも一夏は言葉を続けた。
「そんなゾンビみたいな奴にお前は殺そうとした。が、あれは一時の妨げにしかならない……」
一夏はジェイソンを親指で指す。
「アイツから見ればお前の攻撃は痛くも痒くもない……それ以上にお前はコイツを怒らせた」
一夏の言葉に楯無は「えっ?」と不意を突かれるが一夏はそれを指摘した。
「お前はコイツを刺した。その所為でコイツは怒っている……お前から見れば判らないだろうな?」
「さ、刺しただけで怒ってるの? ソイツは?」
「ああ、お前のせいで、此所に来た……それだけでなく、お前の妹はエラいとばっちりを受けたのかもしんねぇな?」
「とばっちり、簪ちゃんが?」
楯無の言葉に簪は「えっ? ……」と瞠目した。が、一夏はそれを指摘した。
「コイツは元々、お前の所へと行こうとした。が、コイツは間違えてしまったかもな? ……お前と、お前の妹を」
「か、簪ちゃんを? どういうこと?」
「未だ判らねえのか? お前らは姉妹だ。良く似ているからそうかもしれねえが、コイツはお前を驚かそうと、懲らしめようと此所に来た」
一夏はそう言いながら眉間に皺を寄せる。
「ところがコイツは間違えた。お前がいるであろう部屋にきたまではいいが、妹と間違えた。後ろ姿が似ているからだろうな?」
一夏はそう言葉を述べた。しかし、一夏の言い分は正解であった。何故なら一夏はジェイソンの性格や行動を知っていた。彼は狙った獲物は逃がさなかった。
彼は執念深いのだ。捉えた獲物を追い掛ける為ならば米国で有名な都会にまで行く。母の仇を討つ為に、母を殺した女の元まで行き、殺した。
それだけでなく、自分を殺そうとした奴は許さなかった。獲物を捕らえる為ならば何でもするのだ。だが、彼は一夏が止めたにも関わらず、更識家に来てしまった。
そして、最大の失敗をしてしまった。それは簪と楯無を間違えてしまった。前なら兎も角、後ろ姿が似てしまった為、判断が出来なかった。
簪の前に現れたのもそれが理由であるが、彼が動かなかったのにも理由はあった。それを楯無は指摘する。
「じ、じゃあ私と簪ちゃんを間違えたのなら、何でソイツは此処にいるの!?」
楯無はジェイソンを指差すが、一夏は不意にジェイソンを見る。彼は何も言わなかったが彼は言葉を話せない方だ。
が、一夏は気付くと再び楯無を見て、彼の代わりに答えた。
「コイツは独断で動く奴だ。俺の忠告がない限り、コイツは檻から放たれた獣だ。俺が言わない限り、何処にでも行く……それに此処にいるのもお前を狙ったのがそうだが、お前の妹を狙うつもりはないからな」
一夏はそう言った後、ジェイソンを見る。ジェイソンは無言であったが彼は深く頷いた。ジェイソンの仕草に楯無達は驚く。
しかし、ジェイソンが簪を狙わなかったのは殺害の標的ではないのと、単に一夏が何か遭った場合に何時でも動けるように近くにいたのだ。
簪がいる所の近くにいたのは想定外でもあり、間違いでもあるが彼は一夏を心配し、来ただけでもある。
「それにあの時、俺は言った筈だ……後悔しろ、と」
一夏は別の話題を切り出す。それはジェイソンに連れ去られる前に言った言葉である。あれは自分達の戦いに巻き込まれない意味でもあった。
ジェイソンを現れさせたのも、手を引け、と言う意味でもあった。一夏の言葉に楯無は微かに震え、自分を抱き締めながら膝を突く。
「刀奈!」
源次は楯無の横に駆け寄り、楯無を優しく抱き締める。楯無は源次の腕の中で震えた。あの時の言葉の意味を知った訳ではない。一夏の正体を知りたいだけなのに、ジェイソンが死ななかった事を知ってしまった。
全部とは言い切れないが彼は一夏に対して恐怖した。自分を見る彼の目には怒りが籠っているようにも感じたのだ。ジェイソンを傷付けた事もそうであるが、自分の事を探ろうとした事にも怒っているのだ。
楯無はそれに気付きながらも恐怖した。暗部である楯無ではない、一人の少女として恐怖したのだ。話の内容に何かを感じたのだ。
「此れで判っただろ……俺に干渉するな、例え、お前達が詮索しょうと、俺は止めない……だが、部下を喪いたくなければ手を引け」
一夏はそう言いながら身を翻し、ジェイソンの所へと行こうとした。楯無は一夏を飛び止めたかったが上手く言葉にできない。何かが邪魔していた。
従者達も一夏の言葉に恐怖を感じたのだ。ジェイソンと彼に……。
誰もが一夏を止められない中、源次は叫んだ。
「だったら、私達の、暗部に入らないか!?」
刹那、彼の言葉に周りは驚く。楯無も源次の言葉に驚く中、一夏は立ち止まっていた。そして彼は肩越しで源次を見る。
源次は表情を険しくしながらもあの事を叫んだのには理由があった。そんな彼に一夏は眉間に皺を寄せるが、二人の間には重苦しい空気が流れ始めていた……。