インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「貴様との話……知るか」
「い、一夏……!」
一夏は千冬との話を拒んだ。彼は姉、千冬との話をしたくなかった。
自分を疎かにした姉と話はない。あったとしても、こちらにはない。
「わ、私はただ、お前と話がしたいだけだ!」
「断る、俺は貴様とは話をしたくない。じゃあな」
一夏はそう思いながら腕を組みながら歩き出した。千冬の横を通り過ぎる。
しかし、千冬は一夏の前腕を掴んだ。一夏は千冬の行動に怒りを感じつつも睨む。
「っ!?」
千冬は一夏の視線に言葉を詰まらせる。彼はいつもの一夏ではなかった。この前、逢ったばかりとは違う。
今までよりも険しく感じた。自分に向ける視線は憎悪が籠っていた。今まで以上の何倍よりも多い。
まるで、死地を潜り抜けて来た猛者だ。弟からそのようなオーラを感じる。
しかし、自分は誇るつもりはいないが、モンド・グロッソを二連覇した偉業があった。
誇らしく感じてはいないが自分と戦って来た相手の女性達とは違う。彼はそれ以上に、歴戦の猛者という雰囲気を醸し出している。
睨まれただけでも相手は素人ならたじろぐ。玄人が対等ぐらいだろう。
千冬はそう思ったが自分の弟の鋭い目つきに生唾を吞む。それが千冬の、微かな行動であった。冷や汗が流れるが自然に出た物に過ぎないのだ。
「……貴様と話しはしたくない。するつもりもない」
一夏は静かに答えた。決別とも捉える事のできる、姉への拒絶だった。
一夏の言葉に千冬は瞠目した。同時に身体が震えた。彼の言葉が重く感じたのだ。
千冬は一夏の言葉に何も言えなくなる。刹那、一夏は千冬の掴んで来た腕を身体を動かしながら振り払う。
弟と姉の間に溝を作るような行動であったが弟、一夏の本心だった。
一夏は千冬に気遣いの言葉をかけずに、そのままピットを出て行った。
「織斑君……」
そんな中、近くにいた楯無は二人の静かに見ていた。一方的、と言うよりも拒絶としか思えない一夏の言葉に顔を引き攣らす。
あれでは千冬が可哀想だと思っていた。が、一夏がああなったのも千冬にも原因がある為、なんとも言えない。
楯無は不意に辺りを伺う。他の教員達は千冬と一夏のやり取りを見て何も言えなかった。
部外者でもあるが異様と感じていた。彼女等は試験官であるが、他の受験生の為にラファールを調べているのだ。
が、誰一人作業の手を止めていた。やり取りに驚いているのだろう。
楯無はそう思いながらも軽く目を閉じる。眉間に皺を寄せているが千冬に言った。
「織斑先生、後は私にお任せ下さい」
楯無の言葉に千冬は目を見開きながら楯無を見る。楯無は瞑目していたが瞼を開く。
険しい表情をしていたが深く頷くと、何も言わず一夏の後を追い掛ける意味で歩き出し、ピットを出て行った。
ピット内の残ったのは千冬を含めた教師陣だけであった。彼女等の仕事は試験官としてでもあったが本来の仕事を忘れている。
理由は言わずとも、一夏と千冬の関係だろう……。
「織斑君」
その頃、楯無は一夏を追い掛けるべく通路内を歩いていたが直ぐに見つけた。
彼は普通に歩いていたのだが周りには誰もいない。理由はアリーナ内に着替え用の更衣室がある為、そこに戻ろうとしていた。。
本来ならば他の試験生同様、同じ更衣室を使えばいいのだが彼の場合、男性と言う事で彼だけの貸し切りの更衣室があるのだ。
勿論、その更衣室には誰にも入れない。理由があるが更衣室にはジェイソンが待機しているのだ。
勿論それも、誰にも言ってない。彼は一夏のいない間の更衣室を守っているのだ。理由は財布や鍵等の貴重品管理をする警備員としてだ。
誰かが入れば、悲鳴が上がるだろうが、無い方が無理に等しい。更衣室に入ったら最後、悲鳴は避けられない。
話が逸れてしまっているが楯無の言葉に一夏は立ち止まり、肩越しで楯無を見る。
表情は険しく感じられた。視線も厳しく感じられる。
楯無は一夏を見て顔を引き攣らすが平然を装う。話題を変えようとしていた。
「実技試験お疲れさま」
「……ああ」
楯無の言葉に一夏は普通に答えた。従者の立場としてであるが当主である楯無に逆らうつもりは無かった。
今は二人しかおらず、自然と当主と従者の立場になっていた。
「あなたはこれからどうするの?」
「……帰宅する。それ以外、何がある?」
「そうねえ……」
楯無は一旦顎に手を当てる。彼に命令するつもりであった。
が、これと言った任務は無い為、楯無は頷くと彼を見て微笑む。
「取り敢えず無いわ。帰っていいわよ」
「……そうする」
一夏は楯無の言葉に納得したのか軽く目を閉じると、前を向き、再び歩き出した。
「織斑君……」
そんな彼を楯無は見ていた。後ろ姿であるが哀愁漂うような雰囲気は無かった。いつも通りの彼としか思えなかった。
彼はさっきまで姉である千冬と話をしたのだがあれが久しぶりであった。
本来ならば数週間前に逢う事はできた。千冬は一夏が大男、ジェイソンにつら去られたのにも関わらず生きていた事に泣いていた。
できる事なら抱き締めやりたかったのだが彼、一夏はそれを拒んだ。
千冬は何度も彼と話をしたかったのだが、楯無の父、源次に一夏を任している事を思い出し、身を引いた。
今日は源次はおらず、久しぶりに会話できると喜んでいたに違いない。
しかし、一夏はそれさえも拒んだ。千冬から見ればつらいだろう。
が、千冬は己の犯した罪悪感で一歩前に出る事はできないでいる。
仕方ない、そう思いたかったが楯無は千冬に同情しながらも自分も同じ事をした為、人の事は言えなかった。
楯無はそれを思い出すと、つらそうに項垂れる。和解したい……妹、簪と、と。
「簪ちゃん……」
刹那、楯無はそう呟いた。すると、少し先にいて、そこまで歩いていた一夏は立ち止まり、訊ねた。
「妹、簪様がどうした?」
「……えっ!?」
一夏の言葉に楯無は驚きながら一夏を見た。彼は背中を向いているが身を翻すと、自分と向き合う。
彼は呆れていた。自分に対してだろう。彼は側近であるが自分が唯一、虚の他に話ができる同年代の異性だ。
彼は強いのはそうであるが、自分の心情までを察知されると、驚きとしか言いようが無い。
数週間も一緒に行動した事が問題なのかもしれないが理由でもあった。
慣れるのは怖い物だと思ったが楯無は、一夏の言葉が自分に関係する事だと思うと尚更、恐怖さえも抱いた。彼にだ。
「どうした、図星か?」
「うっ……え、ええ」
楯無の言葉に一夏は何もいわず目を閉じる。沈黙が微かに流れた。
「……ねえ、どう思ってるの?」
が、楯無は恐る恐る一夏に訊ねる。この空気に耐えられない事ではない。彼の様子が変だと言う事に不信感を抱いたのだ。
「何がだ?」
「……私達、姉妹の事よ?」
「…………」
「貴方は私達の仲間だけど、貴方は誰とも行動する事は無い。あったとしても、大抵単独行動を好む」
「……俺は誰とも組む気はない、ジェイソン以外はな」
「そう……」
一夏の言葉に楯無は目を逸らす。彼の言葉はいつも通りだった。相変わらず単独行動しかしない。
従者達の間では彼に困っている者が多い。仲間の死が原因でもあるが彼はその事をなんとも感じていないようにも思えた。
彼は優しいのだろうか? 楯無は彼に不信感を抱いていた。いや、既にそれしかなかった。
楯無は一夏に対して困惑する中、一夏は口を開いた。
「だが、俺はお前や簪様を守るという使命だけは忘れていない」
「えっ……!?」
一夏の言葉に楯無は驚きを隠せない。が、一夏は腕を組むと言葉を続ける。
「俺はアンタら姉妹を守る使命がある。それは源次様のお願いだ」
「お父さん……」
「それに俺の目的はあの事件の事を知りたい。勿論、アンタらは独断での行動を許す筈も無い」
一夏はそう言いながら身体の向きを変える。横向きだった。
「それは仕方ないが、俺はアンタらを守るという事だけは忘れていない。アンタもそうだが」
一夏は言葉を止めると、視線を楯無へと向ける。楯無は驚き続けていた。
「俺はアンタら姉妹がどう思うが、俺は従者として、それだけは破る気はない。例えアンタらが嫌でも、俺は命令に背く形で聞かない……それだけは覚えておけ」
一夏は言いながら、更衣室の方へと歩き出した。楯無を置いていってるが彼には関係なかった。
「お……織斑、君……」
そんな彼の決まり事ともいえる説明に楯無は驚き続けていた。彼は自分だけでなく、簪も守るつもりだった。
彼は自分の側近なのに、妹の簪をも守るべき対象としてみていた。しかし、彼がそう言うのは変であったが楯無は一夏の言葉に驚き続けていた。
彼なら簪を守る事ができる。そう思ってしまった。
「……ちっ」
楯無が驚いているのを他所に一夏は舌打ちした。なぜなら彼は楯無を利用しょうとしていた。
簪もそうであるが彼はゲームを制する為には、どうにかしたかったのだ。だが今は、その手掛かりがないのだ。
一夏はそう思いながらも自分の無力さに悔しい思いをしていた。が、二人を守り続けるふりをし続ければ、向こうは調べてくれるだろうと、思っていた。
それまでは耐えるしか無いと思いつつ、彼は更衣室へと向かった。
そしてこの春、彼はIS学園へと入学した。一組であるが同じ従者である本音もそうであるが、簪も同じクラスになったのはいうまでもない。
無論、それには理由があるが、彼はそれを知るのは楯無から聞くまでだろう……。
次回、IS学園編始動。