インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「う〜〜ん」
「本音、疲れたの?」
三十分後、簪と本音は話をしていた。が一年一組の教室は騒がしかった。
なぜならさっきまで自己紹介を済ませたであったからだ。彼女達はその事もあるが近くにいる赤の他人、いや、同級生とお話をしていた。
別の意味での自己紹介をしているがコミニュケーションをとっている。しかし、中には同じ学校から来た者達や、久しぶりに再会した者達もいる。
例としては、簪と本音だ。二人は幼い頃からずっと一緒だった。お嬢様と従者の間柄だが親友でもあるのだ。
二人は他愛も無い会話をしているがいつもの事であった。が、その近くには一夏がいた。
一夏は無言で瞑目していた。腕を組んでいるが何も話をしない。彼は更識家の更識姉妹直属の従者であるからだ。
本音とは同じ意味でもあるが、彼の場合は戦闘面での事だ。本音が簪の身の回りをお世話するのならば、一夏はボディガードだ。
それも折り紙付きの実力者だ。彼だけではない、ジェイソンもいるのだ。彼等がいれば更識姉妹を守る立場を保証できるのだ。
更識家の前当主、源次はそう思い、安心していた。一夏は無言で簪と本音のやり取りに耳を傾ける。
「そう言えばオリム〜さっきから話しないね〜?」
すると、本音が話題を変える意味で一夏に訊ねる。彼女の言葉に一夏は瞼を開き、視線を本音へと向ける。何も言わないが無表情だった。
簪も本音の言葉に驚くと、不意に一夏の方を見る。彼は無言であるが簪は少し怯えていた。無言が威圧的とも感じたのだ。
ボディガードとはいえ、彼が近くにいると大男、ジェイソンもいる感覚に陥るのだ。
簪は彼を見て生唾を吞むが、不意に視線を泳がす。
「あれ……?」
簪は何かに気づいた。視線が凄いだ。周りにいるクラスの人達が自分達を見ているのだ。好奇な視線と、憎悪が孕んでいる視線を送る生徒もいる。
前者は一夏に見惚れたか興味津々、後者は単に女尊男卑主義なのだろう。それだけでなく、外にも人で溢れている。
同級生、もしくは在校生である先輩方だろう。簪はそう思いながらも不安そうに俯く。
目立つのは嫌いだった。自分は更識楯無の姉だ。それが理由でもあるが一夏のせいで目立っていると思ってしまったのだ。
そんな簪を他所に本音は一夏に訊ねる。
「オリム〜どうしたの? さっきから黙ってて〜?」
「……別に、それよりも布仏の妹」
「何?」
「なぜ俺をオリムーと呼ぶ? 嫌なんだが?」
一夏は微かに怒る。さっきから本音は自分の事を「オリムー」と呼ぶ事に怒りを感じていた。
ずっと前からであった。本音はそれを連呼しているのだ。嫌であった。なのに本音は「嫌だ〜」と拒み続けていた。
何度目かは判らないがそのやり取りは当たり前ともなっていた。
「別にいいでしょ〜? オリム〜は渾名だよ〜?」
「だからって俺をあだ名で呼ぶな。別に親しくもない」
「いやだよ〜オリム〜は私達の大切な〜ダメ?」
本音は困惑しながら訊ねた。が、彼女は一夏に感謝していた。彼は父、半蔵を助けてくれた恩人だからだ。
彼がいなければ父は帰らぬ人となっていた。同時に多くの従者を喪った。が、同時に彼やジェイソンを得た。
本音は彼を恩人としても、怯えつつも接していた。渾名で呼んでいるのも仲間として、同年代の友人としても接しょうとしていたのだ。
しかし、彼は接するどころかそれをしょうとはしなかった。彼は楯無と簪を守る使命があるのだ。
その所為で彼は自分とは話をしない。それでも仲間である事には変わりは無かった。
ジェイソンは認めたくないが、彼だけは認めているのだ。
本音は一夏に渾名で呼ぶ事を許可するようにお願いしている。が、彼はそれを認めていない。平行線のままであった。
「ちょっといいか?」
刹那、誰かが声を掛けてきた。一夏と本音は見やり、簪は顔を上げて声をした方を見る。
そこには、長い髪を後ろに高く束ねている少女であった。大和撫子を沸騰させる雰囲気を醸し出しているがどこか険しい表情を浮かべている。
簪や本音にではない。その証拠に視線を一夏に向いていた。彼にしか興味が無い。彼女自身がそう訴えていた。
一方、一夏は彼女を見て表情を険しくする。彼は知っていた。幼馴染みであった。しかし、一夏は目を逸らし、舌打ちした。
「なっ、い、一夏!」
彼女は一夏を見て少し驚く。が、一夏は彼女に対して何も言わなかった。知っているが拒絶していた。関わる気はなかった。
「い、一夏!? どうしたんだ!? 私だ、篠ノ之箒だ!」
少女は、箒はそう言いながら彼に近づく。刹那、一夏は箒の後ろへと回り込む。
簪は何かを言いかけていたが時既に遅し、一夏は箒の腕を捻りながら拘束した。
「ああっ!!」
箒は腕を捻られ悲痛の声を上げる。
「きゃぁぁぁ!!」
周りにいた生徒達は悲鳴を上げた。一夏の行動がそうでもあるが周りは一夏の突然の行動に恐怖したのだ。
泣きそうになる者や冷や汗を流す者達もいた。が、一夏はそれを気にもしなかった。
彼は箒の腕を捻る腕に力に入れる。
「ああっ……! い、一夏……!」
箒は一夏の行動に驚きつつも、激痛を堪えつつ一夏の方を見た。箒は戦慄した。
彼の、一夏の瞳にはなんの感情も見られなかった。眉間に皺を寄せているが怒っているようにも感じられた。
が、自分は一夏を困らせるような事をしていない。なのに、彼の瞳には自分への想いは内容にも感じられた。
同時に、いつもの優しかった頃の彼とは違う。彼と邂逅したのは、自分が男みたいな女だと言われて苛められた頃であった。
そんな自分を助けてくれたのは、一夏であった。理由は苛められている自分を見て見ぬ振りはできなかったから、だった。
箒はそれを聞いて彼に感謝と共に、ある感情が芽生えた。
それは、恋であった。それだけではない、彼は姉の千冬と共に自分の家へと来たのだ。自分は篠ノ之家の次女であるが剣道を教えているのだ。
箒は驚いたものの、彼等が来たのは姉とは知り合いであり、お世話になったからだ。
それから箒は毎日が楽しい日々を過ごした。想いを寄せる一夏と共に剣道をするのは。
異性の友達は初めてであったが一夏でもあった。しかし、自分は、ある事が原因で転校すると言う形で離れ離れになってしまう。
箒は哀しかった。それだけではない、三年前のあの日、彼は行方不明になったのだ。
箒は更に哀しんだ。唯一の拠り所の一人でもある一夏を喪ったのだ。想いを寄せる人を喪ったのだ。
が、今日のIS学園の入学式、奇跡が起きた。彼がいたのだ。
唯一の男性操縦者として、入学して来たのだ。箒は嬉しかった。生きていた事に喜んだ。
再び一緒にいられる。そう思った。なのに……彼は、自分を見る彼は拒絶しているのか、他人としても見ていた。
これには箒は驚いた。同時に哀しい気分に覆われた。
「い、一夏……!」
箒は一夏に訊ねる。弱々しい口調であった。彼の行動を信じられないと思っているからだ。
できる事なら、いつもの優しかった頃の一夏に戻ってほしいと願った。
「だ、ダメっ!!」
そんな中、簪が立ち上がり、一夏の腕を掴む。
「…………」
一夏は無言で簪を見る。簪は困惑していた。自分の行動に怒りを感じつつも不安を隠せないでいる。
同時に彼女は自分の側近である一夏の行動を許す筈も無かった。
「だ、だめっ……! 手を離し……て……!」
簪は困惑しながらも一夏に言った。が、それは楯無の妹、簪として命令していた。
今の彼は従者だ。命令に逆らえる立場ではないのだ。簪はそう訴えていた。
「…………」
一夏は何故か箒を突き飛ばす。放す意味でもあった。箒は腕の激痛に堪えつつも一夏を見る。
「い、一夏……ど、どうしたのだ?」
箒は一夏を見て驚きを隠せないが訊ねた。しかし、彼は箒を無言で見続けていた。
が、一夏は箒を部外者としてみていた。箒の手を捻ったのは彼女が後ろに迫ったからだ。条件反射でもあるが一夏は箒を捻ってしまったのだ。
箒にも原因はあるが、それを、いや、教える気はなかった一夏にも原因はあるだろう。
「い、一夏、わ、私だ……箒だ……!」
箒は腕の痛みをこらえつつも訊ねた。が、一夏は舌打ちするとこう呟いた。
「知るか……」
刹那、箒は瞠目した。彼は自分を赤の他人として見ている。これには箒は顔を青褪める。
彼は変わっている。そう感じたのだ、箒はそう思うと泣きそうになった。あの頃の彼とは違う。そう思ったのだ。
そんな箒に一夏は何もなかったように背を向ける。が、そんな一夏に簪は困惑しながらも彼の行動に怒りを感じた。
しかし、彼女は不意に周りを見渡す。周りは困惑していたそうだろう。一夏の行動は酷いからであった。
簪は周りに対して戸惑う。刹那、チャイムが鳴った。これには周りも驚くが、居室内は異様な空気が流れてしまった……。