インフィニット・デスゲーム   作:ホラー

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第56話

「…………」

 

 二時間半後、ここは一年一組の教室。今の時間帯は夕方であり、放課後でもあった。

 外からは部活動をしている生徒達の声や、帰宅している生徒達の談話する声が微かに聞こえる。

 前者の方が聴こえるのかもしれないが教室には一人の生徒が居残りをしていた。

 その生徒は一夏であった。彼は教卓前にあり、自分の席に着いている。

 彼は無言であった。いつものように瞑目しながら腕を組んでいる。

 誰かを待っているようにも感じられた。いや、居残りされたのだ。彼が問題を起こしたのも原因である。

 が、それとは別であった。彼に居残るように言ったのは、他でもなく、ある人物であった。

 彼は待機している中、暇つぶしと言う意味で外から聴こえる同級生や先輩方の声に耳を傾けていた。

 静かな教室に女子生徒達の声が聴こえるがBGM的な役割を果たしているようにも思えた。

 そんな中、教室の黒板側の扉が開く。彼は瞼を開くや否や視線を扉の方へと向けた。

 

「……一夏」

 

 そこにいたのは千冬だった。彼女は一夏の姉でもあるが今はギクシャクしている。

 彼女の表情はどこかか哀しく、不安そうな瞳を彼に向けている。

 教師ではなく、今は姉として弟を心配しているようにも思えた。

 しかし、彼女の心配とは他所に一夏は顔を引き攣らせていた。

 彼は弟に戻るつもりはない。そう裏付けていた。千冬は一夏の表情を見るや否や、下唇を噛んだ。

 歓迎されていない事に気づいた。仕方ないとは言え、自分にも非はあるため、何も言えなかった。

 それでも千冬は教卓近くにまで来ると、彼を見下ろす。

 一方、一夏は彼女から目を逸らす。視線を合わせたくないからでもあった。

 千冬は下唇を噛むが、会話はなかった。重苦しい空気が流れはじめた。

 

「一夏……その、すまなかったな」

 

 しかし、そんな重苦しい空気に耐えきれないのか千冬は口を開いた

 それとも弟の二人っきりで緊張しているのか彼女自身にしか判らない。

 千冬は一夏に対して口を開くと共に、謝罪のような言葉を口にした。

 一夏は千冬の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。

 

「……その、お前を疎かにして、それにお前の事を見てやれなかった……」

 

 千冬は二度目の謝罪をした。更識家の時と同じでもあるが、彼女は一夏に謝る。

 

「……それだけではない、私の身に何が遭ったのかを話そう」

 

 千冬は懇願した。そして、自身に起きた事を話しはじめた。

 あれは三年前、千冬が一夏の誘拐を知ったのは優勝後であった

 それは千冬にとって衝撃的かつ、後悔さえもした。それらを全て知った時には時既に遅しであった。

 どうしてそうなったのかは、政府が名誉を選ぶがために黙っていたからであった。

 千冬は怒りを露にするのと同時に代表を降りた。理由はISに関わりたくなくなったからであった。

 しかし、彼の捜索を協力してくれたドイツ政府からは一年間のドイツにいるIS部隊をしごいてほしいのと、教えてほしいと言ってきたのだ。

 千冬は拒んだがドイツには一夏の探索に協力してくれた恩があり、更にはドイツ政府はそれを理由に迫ってきたからであった。

 千冬がドイツで教えるとなれば、その部隊は最強になれるのと、名声を得る事ができると考えたからであった。

 結果、千冬は恩を返す意味でも教える事になった。一年間とは言え、一夏がいないのはつらく、さみしかった。

 そして一年後、今度は政府からIS学園の教師をしてくれないかと頼まれたのだ。

 

「私はこの学園で教師になったのは、政府の言いつけであった……」

 

 千冬はつらそうに言葉を続ける。帰国した後、政府からIS学園の教師にならないかと推された。

 理由は次世代のIS操縦者か研究者を育てるためでもあった。千冬から見ればISには関わりたくはなかった。

 一夏を政府と共に殺したからである。それ以上に一夏を見捨てた政府に力を貸すのは嫌であった。

 それだけでなく、IS委員会からも推されていた。千冬は疲れていたのにも関わらず、一夏の事をどうって事もないようにしていたのだ。

 これには千冬は怒った。同時に一夏を喪った哀しみに暮れた。自分達は利用されたのか、そう思い、酒に溺れる日々を送った。

 が、そんな彼女を救ったのは、十蔵達であった。

 彼等は政府やIS委員会から千冬を学園の教師にするよう説得されたのだ。が、彼等は違った。

 

「学園長は私の事を気遣ってくれた……学園長だけではない、奥方も私の事を気遣ってくれた。二人は私のために説得してくれた……」

 

 千冬はそう言うと、不意に涙を浮かべる。

 

「学園長夫婦は私のために『政府のためではなく、教師として生徒達を教えるのならば問題ない。貴女がISを嫌っていても構わない、だがISの怖さを良く知っている貴女には彼女達にISの間違った使い方や怖さを教える義務がある。一夏君の分まで生きる資格がある。一夏君のためにも、貴女はやるべき事をしなければならない』と……」

 

 千冬は泣きながら言葉を続けた。しかし、彼女を変えたのは十蔵達であった。

 一夏を喪ったからではない。彼等は千冬を心配しているからであった。

 政府やIS委員会のためではなく、千冬個人を心配しているからであった。

 これには千冬も泣いたのだ。自分個人を見てくれる存在に心が洗われたようにも感じたのだ。

 千冬は二人の説得よりも気遣いに泣きながらも了承した。二人は千冬をサポートしてくれた。

 そして千冬は、この学園の教師になった。彼女を変えたのは十蔵達であり、彼女は二人のために教師の仕事を頑張った。

 一夏の分まで生きると……しかし、一夏が生きていた事に驚いていたのだ。

 

「私は学園長達には感謝している……が、同時にお前とも和解したい……」

 

 千冬は誰よりも望んでいた。一夏との和解は彼女なりの願いでもあった。

 今までの事もあるが、更識家に預けている間、彼女は考えていたのだ。

 これまでして来なかった事を、今と言う形で償いをしたい、と。

 

「私を許してくれ……ダメでも構わない……だが、少しずつでもいいから私のお願いを聞いてくれ……頼む!」

 

 千冬は泣きながら頭を下げた。泣き落としではない……彼女なりの本当の気持ちであり、本音でもあった。

 一夏との和解を願うからこそ、姉としての願いであった。

 そんな千冬を一夏は無言で見ていたが舌打ちすると、こう言った。

 

「知るか……貴様の話等、信用しない……!」

 

 一夏はそう吐き捨てた。これには千冬は泣きながら目を見開くと、顔を上げ、一夏を見た。

 一夏は千冬を見ながら歯を食い縛っていた。それは、千冬の話を信用しないのと、姉に対しての憎悪の炎が消えていない事を意味していた……。

 

 

 

「全くあの男は馬鹿ですわ!!」

 

 その頃、ここは学園近くに建てられている学生寮。

 そこはとても大きく、学園中にいる在校生が寝泊まりできる部屋は備えられている。

 逆に部屋自体が多いのは、これから転入してくる生徒達のためにも用意されているからであった。

 そんな中、ここは一年生の寮にあり、部屋番号が『1015』の部屋。

 部屋自体は悪くはなく、一流ホテルのように設備が整えられていた。

 部屋には大型の液晶テレビや二つのジングルベッド、キッチンや浴室、洗濯機等も設けられていた。

 更にはベランダもあるが洗濯をするためにも設けられていた。

 そして、その部屋には、この部屋の住人でもあり、生徒であるセシリアがいた。

 セシリアは怒っていた。理由は今朝起きた出来事である。

 クラス代表で周りは唯一の男性操縦者である一夏を推していた。彼を怖がっての理由でもあるがセシリアは気に入らなかったのだ。

 それだけではない、簪が自分に対し、一夏に謝罪を求めてきたのだ。勿論、セシリアは謝罪はせず、更には責めた。

 しかし、そんな簪を一夏は守り、自分を睨んだのだ。あれはまるで大切な人を守る恋人であり、敵を見るような目にしか見えなかったのだ。

 セシリアは彼に対して怒りを露にしていた。あの男だけは許さない、専用機を与えられたにも関わらず、拒んだのだ。

 あれでは完膚なきに叩きのめす事はできない。専用機を与えられながらも無様に負けていくのを想像していた。

 それなのにあの男はそれを、自分の考えた計画を全て水泡に化せさせたのだ。

 

「悔しいですわ……! あれでは私がしたい事をできません……!」

 

 セシリアは険しい表情を浮かべながら歯軋りした。怒っている事を裏付けている。

 どうすれば一夏を懲らしめる事ができるのか? どうすれば一夏の弱みを握る出来事がないかを考えていた。

 しかし、考えれば考える程、判らなくなっていた。セシリアは怒りながら思考を走らせる中、窓に背を向けた。

 

「っ……考えても何も思い……ん?」

 

 刹那、セシリアは考えていたが不意に人影に気づく。自分よりも大きく、体格も全然違う。

 部屋には自分しかいない。誰かの悪戯か? 隣の部屋の生徒がベランダへと移動したのか?

 セシリアそう思うと不機嫌そうに振り返った。

 

「……ひっ!?」

 

 刹那、セシリアは声を上げた。それはとても覚えている事を意味していた。同時に彼女は身体を震わせていた。

 冷や汗も止まらなかった。彼女が見た物は、いや、彼女が見た者は自分よりも体格の大きい。

 ベランダにいるが窓で遮断されていながらも佇んでいた。そして、その大男はジェイソンであった。

 

「ひ、ひっ……!」

 

 セシリアは声を上げながら後退る。一方、ジェイソンは無言でセシリアを見ていたが、窓目掛けて足蹴りした。

 刹那、窓ガラスは大きな音を立てながら破られた。強化ガラスにも関わらず、皿のように簡単に割れたのだ。

 

「き、キャァァァァッ〜〜!!」

 

 刹那、セシリアは悲鳴を上げた。




 次回の同様日の投稿はお休み致します。次回は日曜日からです。
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