インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「これはいったい、なんの騒ぎだ!?」
少し後、通路内に怒号が聴こえた。その声には通路にいる者達全員が肩を震わす。
声を上げた者は野次馬を掻き分けるように前に出ると、セシリアや真耶を見ていぶかしい目で見る。
その者は千冬であった。彼女は一年の学生寮の寮長であり、この騒ぎを聞き、駆けつけてきたのだ。
勿論、千冬に連絡したのは、真耶であった。彼女はセシリアを宥めつつ、携帯で千冬に連絡したからだ。
「これはどうした? 山田先生にオルコット?」
その者、千冬は二人を見てそう訊ねた。が、セシリアは泣きながら言葉を詰まらせていた。
思い出すだけでも嫌なのだろう。一方、真耶は答えた。
「じ、実は、オルコットさんの、目の前の部屋に大きな音とオルコットさんの叫び声が……」
「なんだと?」
真耶の言葉に千冬は眉間に皺を寄せると、扉の方を見た。千冬は驚いた。
部屋の奥に楯無と……近くには一夏がいた。しかし、彼女が驚いているのは、一夏がいた事であった。
「一……織斑!?」
千冬は一夏と言いそうになったが生徒として彼がいる事に驚きを隠せない。
が、一夏は千冬を見るが目を逸らし、楯無の方を見た。
楯無は一夏を見て下唇を噛むと俯く。彼は何も言うな、そう教えられているようにも感じられた。
しかし、千冬は駆け足で部屋の中に入るや否や、一夏の肩を掴む。
「織斑、何をしている!? それに……」
千冬は視線をベランダ付近にあり、ガラスの破片が散乱している床を見た。
彼女は少し驚いていた。が、誰かが部屋の中に、ベランダから侵入してきた事にも気づいた。
セシリアが泣いているのは、彼女が部屋に居得て、その侵入者を見た身体と言う事にも気づいた。
侵入者は何者なのかはセシリアに訊かない限り、判断できない。
が、それ以上に一夏がここにいる事にも驚きを隠せないでいた。
「……更識姉、何が遭ったのだ? それに一夏はなぜここに?」
千冬は窓ガラスの破片を見ながら楯無に訊ねた。
「いえ……私にも判りません……」
楯無は不意に一夏の方を見る。一夏は未だ自分を見ている。
一夏は無表情であるが何を考えているのかは解らない。
一夏を見て下唇を噛むが首を左右に振る。
「……そうか……それよりも一夏、貴様はなぜここにいる?」
千冬は一夏に対して質問した。この部屋にいる事だろう。本来ならば教師や、生徒会長である楯無しか入れない。
一夏はそのどちらでもなく、部外者でもあるのだ。千冬は教師として、生徒である一夏に訊ねた。
が、一夏は千冬を見る。眉間に皺を寄せていた。答える義理はないと自ら判断していた。
姉とは話しをしたくない、と言う理由でもあったが、ジェイソンの存在を知られたくない、という気持ちが勝っていた。
一夏は千冬にしていて舌打ちすると、こう呟いた。
「教えるか……」
刹那、千冬は目を見開いた。弟からの拒絶ともとれるような言葉に悲しい気持ちが込み上げてくるのを感じた。
更には、さっきの会話よりも重々しく、自分を軽蔑しているようにも感じたのだ。
千冬は一夏の言葉に、心臓が一旦止まる感覚に陥る。千冬は言葉を失う。彼の答えに何も言えなかったからだ
そんな千冬に一夏は気にもせずに、楯無の方を見て口を開いた。
「行くぞ……」
「……どこへ?」
一夏の言葉に楯無は眉をひそめながら聞き返した。
「……あんたの妹が心配だからだ」
「……えっ?」
一夏の言葉に楯無は瞠目した。が、彼が簪を心配していることに驚きを隠せないからであった。
しかし、彼は従者であり、自分や簪を守る側近でもあるからだ。
彼ならば簪を守ることもできるが彼の口からそんなことを聞けたのは予想外であった。
今までもそうであるが、この件はジェイソンが引き起こしたことである。
同時に彼が、ジェイソンを学園へと呼んだのがことの発端だ。現に目撃者もいるため、彼が学園内を探ることはできず、隠れることもできない。
楯無はジェイソンの行動を疑問視しつつも、一夏の言葉に不信感を募らせていく。
が、一夏は楯無を舌打ちすると、彼女を置いていくように部屋を出ようとして歩き出す。
彼が一番気にしているのは簪であった。利用するためでもあるが彼女はジェイソンを目撃しており、恐怖を抱いている。
彼女はジェイソンを見て悲鳴を上げることもあるが、勝手に部屋に入ったことを咎められた日以来、邂逅してはいない。
逆にジェイソンもなぜか、簪に対して何かの感情を抱いているのだ。彼が何の為に簪に接触するのかは判らない。
もし邂逅すれば、更にややこしくなり、青年や女子高生の自殺した件を調べることができないのだ。
一夏はデスゲームを制するのと、調べることを白紙に戻されることを危惧しつつも部屋を出る。
「…………」
不意に彼はセシリアを見た。彼女は泣き続けていたが一夏の視線に気づくと、キッと睨んできた。
一夏に対して嫌いと言う感情を意味していた。一夏はセシリアを見て何も言わず、人ごみの中へと歩く。
聞いただけでもムダであると彼は悟ったのだ。そんな一夏に周りは退くように道を広げる。
いや、彼の行動が道を通してくれと言うことを意味していた。それを理解したのか、自然とそのような行動をしたのだ。
一夏は周りの行動に驚きはしなかったが無表情であった。感謝をも忘れていた。
いや、感謝自体はするが今の彼は怒っているからであった。
セシリアがジェイソンを目撃したこと、ジェイソンが彼女の前に現れたことを知っているからであった。
なぜなら、彼がジェイソンに対し、セシリアを軽く怖がらせろ……と命令したからであった。
しかし、セシリアは怖がっているのはいいとして、彼女は自分への憎悪は消えていない。
一夏はそう思うと、一週間後にあるクラス代表決定戦で完膚なきに叩き込もう……そう決意したのだ。
同時に、今は簪の身の安全を最優先にしつつ、彼女がいる部屋へと向かった……。
その頃、ここは東京の某所。高層ビルが幾つも建ち並ぶが真下にいる人々は胡麻のように小さく、車も小さい。
今の時間帯は夜であるが人々や車は絶えない。しかし、そんな高層ビルも灯りが点いていた。
全てとは限らないが人がいることを意味していた。何をしているのかは誰にも判らない。判るのはその者達自身だろう。
「…………」
そんな中、ここは立ち並ぶ高層ビルの中にある一つのビルの屋上。そこには、誰かがいた。
一人しかいなかった。全身が黒ずくめの人物であった。男性か女性かは判らない。
が、赤と緑のチェックの柄のシャツを着ている。帽子は深々と被っており、顔は窺えない。
その者は下を見下ろしてはいない。彼はその場を動かない。
何をしているのかや、なんのためにそこにいるのかは、その者にしか判らない。
「…………」
刹那、その者は何を思ったのか懐から探る。すると、彼はある物を取り出した。
一冊の赤い本であった。表紙は人の骨を模しており、中央には蛾が描かれていた。
その者は本を見ていた。ページを開いている訳ではない。表紙を見ていた。
どんな表情を浮かべているのかは判らない。しかし、その者はジッと見据え続けていた。
刹那、その者は再び懐を探り始める。そして、ある物を取り出した。
一枚の写真であった。そこには……ある青年が移っていた。
隠し撮りしたようにも思えるが遠くから写したようにも思えた。
表情は険しく、優しいと言うイメージはない。そして、その写真に写っているのは、一夏であった。
しかし、その者はなぜ、一夏の写真を持っているのだろうか? その者だけにしか判らないが彼は写真と本を交互に見る。
そして、その者は何を思ったのか写真を本の間に挟む。栞のつもりでもあるがその者は再び表紙を眺める。
表紙は相変わらず、不気味にも思えた。が、その本の著者は外人であった。
その者は本の著者を見ていた。ファンではない、彼はある目的があった。
それは、この著者と、栞代わりに挟んだ写真に写っている一夏と接触させるためでもあった。
そして、その本の題名は沈黙……著者の名は……ハンニバル・レクター。
明日はハロウィンですが次回はブギーマンことマイケルと青年の話しとその出逢いです(話し自体は繋がっています