インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「ここね……」
同時刻。IS学園の中にある事務所。そこには教師ではないが職員がいた。全員、女性であるが書類を纏めたりしている。仕事をしているが二、三人しかいない。
早番の者達であった。が、そんな事務所前には一人の少女がいた。手提げかばんを肩に掛けているがIS学園の制服を着ている。が、制服は軽装であった。
茶色い長い髪を両側で束ねている。翡翠色の瞳に八重歯が特徴的だが小柄であった。それが一番特徴的であろうが彼女は事務所の窓口へと向かうと、声を掛ける。
「すみません」
少女の言葉に近くにいた女性が反応すると、対応した。
「どちら様ですか?」
「あっ、はい、この春、入学式へと来るつもりでした鳳 鈴音です」
少女は名前を言った。が、その名前は東南アジアの物らしい。日系アメリカ人かもしれなかったが少女は、鈴は言葉を続ける。
「中国から来ました」
「中国……少しお待ちください」
事務所の女性は何かを思い出したのか、近くにあるパソコンを操作し始める。入学者名簿を調べていた。どのクラスで、彼女の名があるのかを調べている。
そんな事務所の女性の言葉を聞いた鈴は少し待つ。なぜなら彼女は、この学園へと入学してきたのだ。しかし、本当は昨日入学するつもりだったのだが上層部から呼び出しを喰らい、一日遅れで学園へと来たのだ。
が、彼女には淡い機体があった。それは、ある男性操縦者の存在であった。その男性操縦者は織斑一夏である。彼女は彼と逢いたかったのだ。
スパイ目的ではない。純粋な願いでもあった。彼とは、幼馴染みであったのだ。自分は中国人と言う理由で苛められていた。が、そんな自分を助けてくれたのは一夏であった。
それだけではない、彼は自分を友達として受け入れてくれた。そこから他の友達も紹介してくれた。彼等とは馬鹿をしながらも喧嘩をしながらも楽しい思い出ができた。
しかし、そんな思い出も、中国へと帰る意味で無くなってしまった。鈴は泣きたかった。友達と別れることになるのはつらかった。それでも、そんな彼女に一夏達は待っている、再会できるまで、待っている、と。
鈴は嬉しかった。同時に一夏には想いを寄せていた。そして彼とは、ある約束をしたからだ。
「……でも」
刹那、鈴の表情は暗くなる。彼女はあることを思い出してしまう。それは三年前……いや、それ以上は思い出したくはなかった。それは一夏から聞こう、そう決意すると共に表情を微かに明るくする。
だってこれから、彼に逢えるのだ。そう思うとクヨクヨしていたら彼が哀しむ。そう思ったからだ。
「鈴さん、鳳鈴音さん」
すると、事務所の女性が彼女に声を掛ける。鈴はその言葉に反応すると、訊ねた。
「どうかしましたか?」
「ありましたよ。貴女は一年ニ組です」
「一年ニ組……判りました」
鈴は頷くと、あることを訊ねる。
「……あの」
「なんでしょうか?」
「男性操縦者のことは、ご存じないですか?」
「男性操縦者……ああ、織斑一夏君のことですか?」
女性の言葉に鈴は反応すると、詰め寄ろうとした。
「それです! その一夏……じゃなくて、織斑一夏君はなん組ですか!?」
鈴はそのことを訊ねていた。女性は微かに驚くが直ぐに気を取り直すと、答えた。
「彼は隣の一年一組よ。それがどうしたのかしら?」
「あっ……いえ、それだけでもいいです」
鈴はそれを聞いて喜びを隠せない。同じクラスではないのは残念であるが隣ならいつでも逢える。鈴はそう思うと嬉しくてたまらなかった。
彼女は照れ隠ししているが頬はどこもなく赤い。彼に対しての、ある感情を抱いているようにも思えた。女性には気づかれなかったが女性は鈴を見て何も言わずに微笑む。
「まあいいわ、それよりも一日遅れだけど、ようこそIS学園へ、鳳鈴音さん」
「あっ……は、はい」
女性の言葉に鈴は我に返ると、軽く言いながら頷いた。本来ならば入学式の日でやる筈だった。しかし、呼び出しを喰らったのならば仕方ない。
鈴はそう思いながらもこれからの学園での生活と、一夏との再会を楽しみにしていた。何から話そう……そう考えていた。しかし、彼が変わったことを彼女は知らない。
それも、あの優しかった頃とは違い、冷酷かつ、大半には無慈悲な青年へと変わったことを……。
「そんな……!」
「ふぇぇ〜〜」
「あ、ああ……!」
その頃、学生寮にある一夏の部屋。そこには楯無と簪の更識姉妹に虚と本音の布仏姉妹、そして織斑一夏がいた。一夏はイスに腰掛けながら腕を組んでいた。
目を閉じているが何かを考えている。一方で虚、本音、簪は楯無から、ある話をされていた。その話とは彼女等も知っている倉持技研の大量無差別殺人事件。
それは簪のISに関わり、織斑一夏と織斑千冬の姉弟にも関係する話でもあった。が、それ以上に驚いているのは、楯無がその事件の犯人を知っており、その犯人を彼女等の教えていた。
目撃者ではない、楯無はその犯人は彼しかいないと思っているのだった。
「恐らく犯人は、ジェイソン……あの大男よ」
楯無は釣らそうかつ怒りが孕んだように言葉を続ける。刹那、楯無は一夏を見る。一夏は未だ俯いているが思考を走らせていた。他のプレイヤー達がどう動くのかを考えていた。
しかし、楯無は一夏を見て下唇を噛む。彼は独断でジェイソンに命令した。そう気付いたのだ。彼を問いつめるのは愚か、その理由さえもない。
日記の件もあるがあれは今、一夏の懐にある。あの日記には倉持技研の政府との金のやり取りを記録した日記でもあるのだ。簪のISのことも書かれているが簪には見せたくはなかった。
見せれば彼女は泣く、それだけは避けたかった。姉としての守りたい気持ちでもあった。楯無は簪を見る。簪は楯無の視線に気づくとつらそうに目を逸らす。
「……っ」
楯無は簪の様子に気づく。彼女は顔を引き攣らす。拗れたままであった。が、今はそんなことを言ってる場合ではない。
楯無はそう思うと虚と本音を見る。二人の姉妹は困惑していた。ジェイソンが倉持技研の彼等を殺したことに驚きを隠せないでいる。
それでも、楯無は二人にあることを言った。
「虚、本音、悪いけど、このことを……」
「一夏! 一夏!!」
楯無が何かを言い終える前に扉の方から一夏の呼ぶ声と叩く音が聴こえた。彼女等は扉の方を見やるが、一夏は瞼を開くと眉をひそめながら肩越しで扉の方を見る。
扉の方からは未だ叩く音と自分の名を呼ぶ声が続く。聞いているだけでも胸糞悪く感じた。が、一夏は下唇を噛んでいた。その声の主には気づいている。
あの女しかいない。そう思ったのだ。
「…………」
そんな一夏に楯無は何かに気づいた。彼女もまた、声の主には気づいていた。虚達も気づいているのかもしれないが楯無は彼女達を見る。
三人共、声の主に気づきながらも戸惑っている。彼女達だけじゃない、扉の向こう側、通路にも人がいるのかもしれない。彼女達は声の主に気づいているが目撃者達でもある。
が、いつまでもそのままでは悪い。楯無はそう思うと扉の方へと近づく。一夏は何も言わずに更に眉をひそめる。虚達は楯無を見て驚くが楯無は扉の方へと歩く。
「いま、開けます」
楯無はそう言いながら扉を開ける。中から開けることしかできないのだ。理由は防犯と言う意味でもあるがカードキーなのもそれが理由だ。
刹那、楯無が扉を開けると誰かが部屋へとなだれ込む。楯無は驚く前に肩をぶつけるが横に退かれる。しかし、その人物は部屋に入ると、ある人物を見て驚く。
「い、一夏……!」
その人物が一夏と簪、本音の受け持つクラスの担任でもあり、一夏の姉でもある千冬であった。千冬はテレビで報道されている倉持技研の事件を観て、一夏の安否を気にしていたのだ。
千冬は一夏を見て安堵した。千冬は一夏があの大男に襲われたのではないかと思ったのだ。しかし、倉持技研の犯人は誰かまでは判断できていない。
同一人物であるが同一人物かどうかまでは判断できなかったのだ。千冬は一夏を見て泣きそうになった。彼女は一夏に近づこうとした。
「来るな……!」
刹那、一夏は静かに怒る。それを聞いた千冬は肩を震わす。彼女だけではない、簪達も肩を震わす。楯無は一夏の言葉を聞いて一瞬だけ肩を震わすがつらそうに顔を逸らす。
なぜなら楯無は気づいていた。一夏が怒っている理由はあれしかないからだ。それを自分が言う前に一夏が言うのだ。これには楯無は邪魔できないと判断した。
これは姉弟の確執でもあり、それを邪魔できないだけなのだ。そして、千冬は困惑する中、一夏はそれを言う。
「貴様……俺は貴様なんかに心配されたくない……!」
その言葉を聞いた千冬は瞠目した。が、一夏は怒りながら立ち上がると、腕を組みながら彼女と向かい合う。それは、あることを言うためでもあった……。
そんな一夏に簪達は何も言えず震え、楯無は顔を逸らし続ける。通路には何事かと少数の少女達が扉の外から見ていた。が、誰も口を開かない。
それは、一夏と千冬の間には重苦しい空気が流れていることに気づいたらであった……。そして同時に、ある少女が学生寮に近づいてくることを一夏は知らない。
が、それは彼女にとって、最悪な出逢いでもあった……。
入れ忘れてしまいましたが水曜日の投稿はお休み致します。次回は木曜日からの投稿になります。