インフィニット・デスゲーム 作:ホラー
「ジャック・ザ・リッパー……縁起悪い名前ね」
ここは学生寮の一夏と楯無の部屋。その部屋には一夏と楯無がいた。一夏はベッドに腰を下ろしていたが楯無はそう呟きながらも、その後は何も言わなかった。
しかし、楯無は不安を隠しきず、同時に不信感を抱いていた。当主としてに楯無になっていた。理由は一夏に専用機を与えると言ったイギリス政府にだ。
政府がセシリアの件で謝罪と言う意味で一夏に専用機を与えるのはおかしい。貴重な男性操縦者であることもそうであるが。ジャック・ザ・リッパーという名前の専用機は聞いたこともない。
それ以前に専用機の名が不吉としか言いようがない。ジャック・ザ・リッパー、それは百年近く前にイギリスで起きた連続殺人事件を引き起こした殺人鬼の名前。
犯人はまだ捕まっておらず、イギリス中を戦慄させた殺人鬼。被害者は全員、娼婦であるが動機は愚か、共通点がありながらも無差別にも近い。
楯無はイギリス政府が昔起こした殺人鬼の名を使ったISを造るとは有り得なかった。造るのには何かしらの理由があるがイギリス政府の考えをは読めない。
更には一夏が使うとなれば、イギリス政府は歓喜するだろう。イギリスの生産や経済が発展させることにもなるからだ。男性操縦者が使うのならば有名にもなるからだ。
楯無はイギリス政府に裏があると警戒するのと同時に、一夏の方を見る。一夏は腕を組みながら俯いている。彼が専用機を使う理由が判らない。なんのために使うのかを警戒していた。
「織斑君、貴方はどう思うの?」
楯無は訊ねる。彼女の言葉に一夏は顔を上げると、彼女を見据える。
「……別に」
「別にじゃ判らないわ。それに……っ」
楯無は、あることを思い出す。倉持技研の件だ。あれはまだ解決していない。それだけではない、警察から、ある証言を迫られていた。
更識の従者を殺した奴と同じ手口ではないかと、警察は睨んでいるのだ。全くの別人であるが殺し方が同じならばそう思えざるをえないのだ。
楯無は更識の従者の大半を失った。代わりに一夏とジェイソンを得た。どちらも主力しても申し分ない。が、楯無は一夏の行動に怒りを隠せないでいた。
箒や鈴の件、倉持技研の件、更には専用機の件だ。ジャック・ザ・リッパーなど、縁起の悪い名前を使ったイギリス政府にも不信感が沸いてくる。
しかし、その国までには干渉できない。捜査の手を伸ばすことはできないのだ。楯無はイギリス政府のことを感じつつも一夏を見据える。
彼からは返事はないが見ている。何を考えているかまでは判らない。しかし、楯無は嫌な予感がするのを、感じた。
何かまでは判らないが楯無は一夏を見ている。一夏も楯無も見ているが一夏は口を開く。
「ところで……簪様は?」
一夏の言葉に楯無は目を見開く。彼は簪のことを考えている。彼女はそう思ってしまったのだ。しかし、それは違った。
「簪様はどうした? 彼女は今、何をしている?」
「えっ……い、いえ。それは判らないわ」
楯無はよそよそしく目を逸らす。今はギクシャクしているため、彼女の行動は判らないのだ。知ったとしても自分が横槍を入れる訳にもいかなかった。
彼女は虚や本音。目の前にいる、一夏にしか心を開かない。この学園にいる限り彼女は自分とは話をしないだろう。楯無はそう自分を責めているが一夏は何かに気づく。
「どうした? 判らないのか?」
「……ええ」
楯無は少し遅くに返事をした。一夏は彼女の言葉を聞いて眉をひそめると、溜息を漏らす。馬鹿馬鹿しい、そう感じたからだ。
一夏の溜め息に楯無は眉をひそめる。
「何よ、その溜め息は?」
「……別に……」
「別にじゃないわ。何が言いたいの?」
楯無は一夏の溜め息に不信感を抱く。彼が簪に何をしたいのかを気にしていた。本音の報告では彼は彼女を守っていのだ。姉としても嫉妬しているが感謝もしている。
彼がいる限り、簪の身の安全は保証できる。ジェイソンはどこにいるのかは判らないが彼も簪を守れる盾にもなれる……利用する意味でもあるが楯無は簪のことを思っていたからだ。
姉としてでもあるが一夏のやり方にも怒っていた。楯無は一夏に対して不信感を抱く中、一夏は目を閉じると、ベッドから立ち上がる。
「どうしたのよ?」
楯無はお一夏の行動に驚きはしないが一夏は自分の机の方へと向かった。
「織斑君?」
楯無は一夏を呼ぶが、彼は無言で机の方へと向かうと、引き出しを開ける。そこには書類が入っていたが一冊の日記があった。
それは、ジェイソンが持って帰ってきた日記でもあった。
「……」
彼は日記を睨む。これは簪のISが見送りになったことや政府が多額の金を渡したことや、研究員達の黒い噂が記されている。
彼は日記を使おうとしていた。それは……倉持技研や日本政府を破滅に追い込むために利用しょうとしていた。そして、彼は日記を手に取った……。
「……武器は、ナイフ、弓矢、ランス」
その頃、学生寮の学長室では、千冬がイスに腰掛けながら、ある書類に目を通していた。その書類はイギリス政府から送られてきたジャック・ザ・リッパーのことに関しての書類であった。
その書類にはジャック・ザ・リッパーの武器や機動力等が記されている。しかし、その書類は情報にしか過ぎない。が、それ以上に画像も送られてきたのだ。
その画像には一機のISが写っている。そのISは全身が黒いが赤黒い、と言い替えればいいだろう。しかし、真っ赤な血が滴り落ちたような模様が幾つもあった。
見ているだけでも吐き気がするのと、悪趣味としか言えない。背中にはコートらしき物が装備されていた。
まるで、百年くらい前にイギリスで起きた連続殺人事件のジャック・ザ・リッパーを似せるように造られたとしか思えなかった。千冬はそう思いながらも奥歯を噛み締める。
できることなら一夏には白式を使ってほしい。こんな悪趣味としか言えないISなんか使ってほしくない、と。これは黒を基準としているが白式は白を基準としている。
まるで正反対のISとしか言いようがなかった。白と黒、光と闇、昼と夜、太陽と月。そう思えざるをえなかった。
「しかし……この件は、オルコットにも問題があるのと、一夏の意見も尊重しなければならない、か……」
千冬は頭を抱える。イギリス政府がISの話をしてきたのはセシリアが日本を侮辱したのと、一夏を馬鹿にしたことが問題だ。イギリス政府から見れば日本政府とは友好関係に支障をきたすような物だ。
日英同盟にも大きな亀裂を起こしかねないのだ。が、イギリス政府が一夏にISを提供してきたことは想定外であった。それだけではない、彼等がなぜ、一夏がISを、専用機を持っていないと知ったのか?
学園の誰かがイギリス政府に密告した? いや、ある人物がイギリス政府に苦情を入れたのだ。その人物は真耶であった。彼女はセシリアの言動と、簪と一夏を侮辱したことに怒りを隠せなかったのだ。
同時にセシリアのことを思って、イギリス政府に連絡させたのだ。十蔵に。十蔵がイギリス政府に話をされたのも、ISの件も聞かれたのも真耶が原因であった。
真耶が悪い訳ではないが彼女はセシリアが自分の言葉がどれほど重いものなのかを教えたかったからだ。彼女は教師としては間違ってはいない。
しかし、イギリス政府からISを渡しにくることだけは、考えなかった。一夏の意見も尊重するが千冬は強要したくはなかったのだ。
自分が悪いのには気づいていた。それだけでもあるが千冬はどうすればいいのかを、考えていた。今はもう、後の祭りであるが今頃は、イギリス政府は大忙しだろう。
一夏が専用機を使いと言ったのだ。それだけでも向こうには嬉しいとしか言いようがないだろう。逆にまた、日本政府は困惑しているに違いない。
彼等は倉持技研に依頼したのにも関わらず、使わないと言ったのだ。これには向こうも困るかもしれないが自業自得である。一夏を見捨てた報いが、今ここで晴らされているのだ。
理由は一つ、一夏はジェイソンに頼んで、いや、ジェイソンが有利になると思い、持って帰ってきた日記を使おうとしているからだ。これで倉持技研は愚か、日本政府は終わりになるだろう。
彼等が悪いのだ。彼等は名誉を選ぶがために一夏を捨てた。が、今度は日本全体から見捨てられる。因果応報のときは、近い……。
「どうすればいいのだ……どうすれば……」
千冬は泣きそうになっていた。これでは一夏は可哀想であると思っていた。彼はイギリス政府と日本政府の二つの大きな組織に翻弄されている。
操り人形のようにもされている。そう思っていたからだ。千冬は一夏の名前を言い続ける。姉としての哀しみであった。一夏を想う姉としては立派であるが時既におそし……が、何れ和解できる日が来ることを、千冬は望んでいた。
室内に千冬の嗚咽が木霊する。が、誰も千冬を慰める者は、いなかった……。